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251 エリザベートの本音

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『トレバーは人間性に些か問題があります。自己顕示欲が強く、自分が世界の中心と考えるところがあります。そして、ちょっと、いえ、かなり好色ですね・・・・・ただでさえ公爵家であり、騎士団長なので、かなりの発言力がありますのに、エリザベートと結婚してしまえば、今以上に強い権力を手にしてしまいます。ハッキリ申しまして、トレバーがこれ以上力を持つ事は国にとって不利益です。そして・・・私は母としてあの者に娘を任せるつもりはありません!』

感情を隠そうとせず話す王妃。
エリザベートは対照的に俯き、顔を上げようとはしなかった。


「アンリエール様、エリザ様が・・・」

見かねたリーザ・アコスタが王妃に諭すように声をかける。

『あ、つい・・・感情的になってしまいました。エリザ、ごめんなさい』

王妃の言葉に、エリザベートは、大丈夫です、と小さく顔を振った。


「・・・ふ~ん、いいんじゃない?エリザ様もトレバーとの婚約は本意じゃないんでしょ?」

黙って話を聞いていたケイト・サランディが、腕を組み王妃の言葉に同意し口を開いた。


「え、あ・・・はい。でも、私は王女ですから・・・現状を考えると、偽国王の言葉という事を抜きにしても、トレバーとの婚約はしかたのない事なのです・・・」

「なんで?母である王妃様が、任せられないって言って味方になってくれてるんですよ?最高じゃないですか?それに、アタシは好きでもない男と婚約なんて我慢できませんね。エリザ様、もっとわがままになっていいんですよ。そりゃ、立場を考えればアレは嫌だ、コレも嫌だなんて言えませんよ?でもね、結婚ですよ?一生を共にするんですよ?好きでもない相手と一生を共にして笑えますか?それって何のための人生です?
エリザ様、嫌いな相手との婚約を断るくらいのわがままは、言っていいんですよ。アタシは許します」


「・・・ケイト・・・・・あなた・・・」

ケイトの言葉はエリザベートの心を動かした。


「エリザ様、アタシは自分の国の王女様が、こんなに責任感が強くて嬉しく思ってますよ。尊敬もしてます。でも、同じ女として、好きな男と一緒になって欲しいですわ」

そう言ってケイトはイスに深く腰をかけると、黒い帽子の鍔を指で弾き、顔半分をジーンに向け、
歯を見せて笑った。

「ケイト・・・全く、キミはすごいな」

ジーンは参ったと言うように、頭に手を当て、フッと笑みをこぼした。


「・・・こういう時はやっぱりケイトね。気持ちに素直で思いやりがあるわ」

シルヴィアは微笑ましい表情で、ケイトとエリザベートに目を向けている。

「エリザ様、私もケイトさんの言う通りだと思いますよ」

カチュアはアラタに寄り添いながら、エリザベートに優しく顔を向ける。

「皆さん・・・ありがとうございます。はい、正直に申し上げます。私、今回のトレバー様とのご婚約はお断りしたいです」



エリザベートの正直な気持ちを聞き、母である王妃のアンリエールも安堵の表情を浮かべた。

『やっと、素直な気持ちを話してくれたわね。これで、私も動きやすくなるわ。公爵家との結びつきを強くする事は、確かにこの国には有益だけれど・・・あのトレバーに大切な娘を輿入れさせる事は、親として許せないわ。皆さん、王妃がこんな個人的感情を優先して・・・ごめんなさい。急がなければならない理由は、こんな親の身勝手なものなのです」

申し訳なさそうに気持ちを話す王妃に、ミゼルが遠慮がちに声をかけた。


「いや、王妃様、俺が口を出す事ではないかもしれませんが・・・正解だと思いますよ。そりゃ、トレバーのベナビデス公爵家は豊潤な資産がありますし、人脈もあります。でも、それはトレバーの父の話しです。代替わりをした時、今の素行不良なトレバーがそれらを維持できるかと考えると・・・けっこう疑問なんですよね。
王妃様のおっしゃる通り、トレバーは好色家だから、酒場で飲んでるとけっこうあっちこっちから批判も耳にするんです。騎士団長として階級もゴールドですが、実際はシルバー相当の実力しかないし・・・・・長い目で見れば、大丈夫かな?って印象ですよ」


「あ~、そういやそうだよな。こないだミゼルと飲んでた時も、隣のテーブルの連中、結構騎士団の事言ってたよな?ほとんどトレバーの悪口だったけど。トレバーと婚約しても、エリザ様の幸せな生活が見えないよな?割とマジで」

ミゼルの話しを聞いたジャレットが、思い出したように言葉を添える。


「あ・・・あははは・・・私、けっこう危ない婚約を結ばされそうだったのですね・・・確かに、気の許せる侍女からも、心配されておりました。でも、王族の婚約は国を強くするためのものですから、あまり気にしないように、見ないようにしていたのです・・・・・お母様、トレバー様とのご婚約は、お断りしてもよろしいのですか?」

エリザベートは、王妃をお母様と呼んだ。
王女としてではなく、娘として本音で母親に訴えかけたのだ。

『エリザ、もちろんです。ミゼルが話した通り、ベナビデス家はまだ5~10年は安泰でしょう。ですが、トレバーの代になった時どうなるか?先々の事分かりません。誰にでも当てはまる事です。ですが、不安要素の方がはるかに強ければ大臣を始め、他の幹部を説得できる材料になります。母としても、王妃としてもトレバーとの婚約は撤回させてみせます。後はこの母にまかせなさい』

王妃の頼もしい言葉に、エリザベートはほっと安堵し、表情を緩めた。
国のために気を張り、望まぬ婚約をさせられそうになっていたが、内心は逃げ出したいものがあったのであろう。


「・・・王妃様、くれぐれもお気をつけください。大臣や他の幹部を説得できても、偽国王次第かと思います。できるだけ人が多い時にお話しされて、刺激し過ぎないように、細心の注意をお払いください」

レイチェルが王妃の身を案じると、王妃もレイチェルに向き直り、その目をしっかりと見て頷いた。

『えぇ、レイチェル。トレバーとの婚約を撤回させ、その正体を暴く、とても難しい事です。ですが、やらねばなりません。これまでも、偽国王には政策のいくつかを撤回させた事があります。偽国王もまだ正体がばれていないと思っている間は、あまり強固にでる事が得策ではないと思っているのかもしれません。そこをうまくついてみます』


それから、お互いに無事を願う言葉をかけあい。
写しの鏡を使った連絡を終えた。
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