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249 光の力を
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「お話しを中断させてしまい、申し訳ありませんでした」
ほんの数分だが、エリザベートはレイチェルに抱きしめられ涙を流した。
詳しい事情を分からない。
だが、エリザベートがバリオスの境遇に、よほどの思いがあったのだという事だけは察せられた。
「いえ、いいんですよ。私も、店長には特別な事情があるのは知ってますから。踏み込むべきではありませんでした」
申し訳ありません。と口にし、レイチェルは頭を下げた。
「そんで、結局エリザ様はよ、兄ちゃんに何を頼みたいんよ?写しの鏡まで持ちだしてさ」
なかなか話が進まず飽きてきたのか、リカルドが両手を上げて背伸びをしながら、エリザベートに言葉をかけた。
「リカルド、本当に無礼。失神させた方がよさそ・・・」
「ユーリ、よいのです」
右の拳を固く握りしめるユーリを、エリザベートが落ち着ついた口調で制する。
「・・・先ほど申しました通り、現国王は偽者です。正体を暴こうにも、軍隊、騎士団は動かす事ができませんし、どこまで信用していいかも分かりません。ゆえに、信用できる少数で動くしかないのです。レイジェスの皆さん、私も王妃も、あなた方は信頼しております。国王の正体を暴き、この国を救うため、どうかお力をお貸しください」
その場で頭を下げるエリザベート、それに倣い、リーザ・アコスタも頭を下げた。
バリオスが不在の今、この場でレイジェスの代表は、副店長のレイチェルである。
自然とレイチェルに視線が集まるが、それぞれの表情は答えを分かっているからこその、柔和なものであった。
「エリザ様、頭を上げてください。実は、もうみんなで話して決めてあるんです。国王陛下が偽者では、という事もほぼ当たりを付けてました。そして、もし力を使う事になるのであれば、我々は王妃様と行動を共にすると」
レイチェルの言葉に、エリザベートが顔を上げる。
その表情には、すでにレイジェルで方針が決まっていた事に対する、驚きがあった。
「レイジェスは、エリザ様、王妃様と共に戦います」
「レイチェル・・・皆さん、本当にありがとうございます」
安堵して笑顔を見せたエリザベートだが、続いてアラタに向き直ると、言いにくそうに表情を曇らせる。
「・・・アラタ様、その・・・最初に申しました通り、アラタ様のお力もお借りしたいのです」
「・・・はい。俺もレイジェスの一員ですから、それはもちろんです。えっと・・・確かに、俺はまだ働き始めて日が浅いですけど、俺の事は分けて考えてなくていいんです。俺の力を借りたいって、俺をレイジェスと分けて考えてたって事ですか?」
「いいえ、そうではありません。アラタ様もレイジェスの一員として見ております。私は、アラタ様にしかできない事で、お力をお借りしたいのです・・・・・光の拳、そう光の力です」
エリザベートの言葉に、アラタよりも先に反応したのはカチュアだった。
「光の力って!・・・エリザ様、駄目です!あの力は、もう使っちゃ駄目なんです!アラタ君が死んじゃいます!」
席を立ち、エリザベートの顔を真っ直ぐに見つめるカチュアからは、普段の少し控えめな様子からは想像もできないような、強くハッキリとした言葉が口をついてでた。
アラタもレイチェルも、その場の全員が驚いたようにカチュアに目を向ける。
「・・・カチュア・・・はい。私も、光の力については少しですが知っております。あれは、生命力を大きく消耗します。私も、できれば光の力を使わずに済ませたい思いはあるのです。ですが、偽国王は、闇に捕らわれています。闇に打ち勝つには、光の力が必要不可欠なのです。冷酷な事を言っているのは承知しております。ですが、この国のためにお願いいたします」
エリザベートは座ったままだったが、カチュアに向き合い、目を見て言葉を返した。
「・・・でも、あんなに・・・あんなにぐったりして、一人で立つことだってできなくて・・・どうして、どうしてアラタ君が・・・・・」
「カチュア・・・・・ありがとな」
俯いて手を握り、か細い声を出すカチュアを、アラタは抱きしめた。
「・・・アラタ君・・・あの力は・・・駄目だよ」
「うん・・・・・でもさ、俺がやらなきゃ、俺にしかできない事みたいだから・・・このままほうっておけば、この国が駄目になっちゃうだろ?」
「でも・・・アラタ君が死んじゃったら・・・・・」
「約束したろ?カチュアを置いてどこにも行かないって。無理はしないよ・・・・・偽国王の闇を封じるその時にだけ使う。短い時間なら大丈夫だよ。カチュア・・・俺が無理をしないように、隣で支えてくれないかな?」
少しだけ体を離し、アラタはカチュアの目を見ながら、できるだけ優しく言葉をかけた。
自分でもよく分かっている。
元治安部隊隊長 マルコス・ゴンサレスとの戦いでは、光の拳はほんの数分、せいぜい4~5分しか維持できなかった。そしてその後は、立つことはおろか、受け身すらとれずに倒れ込む程消耗した。
国王への謁見で、1分程度だが拳に光を纏った時は、それなりに疲労感はあったが、まだ余裕はあった。
おそらく動かずにただ光を出すだけならば、もう少し長い時間光の力を維持する事は可能だ。
アラタの感覚では、戦闘で光の拳、光の力を使用する際、2分~3分、このくらいの時間であれば戦闘が終わった後でも動く事はできるだろう。そう、判断していた。
マルコス・ゴンサレスと戦った時のように、限界を超えて光の拳を振るう事はできない。
それでは、ここまで自分の身を案じているカチュアを悲しませてしまうからだ。
3分、この時間内で偽国王をなんとかすれば、戦いの後もなんとか動けるはず。
カチュアに心配をかける事はないだろう。
そして、偽国王の闇に打ち勝つ方法は、すでに当たりが付いていた。
パスタ屋のジェロム・ブラントの父を助けるため、ジェロムの父の精神世界に入った時は、カエストゥスの闇の中に全身に光を纏い飛び込んだ。
闇の中からジェロムの父を解放したが、おそらく同じ要領で対応できる。そうアラタは考えていた。
「・・・・・うん。分かったよ・・・絶対、無理しないですね。私、もうあんな辛そうなアラタ君、見たくない」
「あぁ、絶対に無理はしない・・・・・レイチェル、ごめん。そういうわけで、約束やぶる事になるけど、光の力をまた使わせてくれないかな?」
レイチェルとの約束だった。
光の力はもう使わないと。
だが、パスタ屋でも使用し、また今回も使う事になる。
アラタがレイチェルに顔を向けると、レイチェルは眉を下げ、少しだけ笑顔を見せていた。
「・・・アラタ、マルコスとの戦いから思っていたが、キミは自分を犠牲にしても行動する人間のようだ。本当はね、私も駄目だと言いたい。だけど、エリザ様の言う通り、闇をなんとかするというのであれば、光の力が必要になるのだろう。力を使う事はしかたがない。だけど、絶対に無理はするな。私はキミが無事にカチュアの元に帰れるよう、全力を尽くす・・・・・みんなもいいな?
アラタの力は協会で見た通り、使用後は動けなくなる。偽国王はアラタにまかせるしかないだろう。私達はアラタを護る事を第一に考えるんだ」
「レイチーがそう言うんなら、しかたねぇな。おう、アラやん、俺もあの力はできれば使わせたくねぇ。けど使うんなら、俺も先輩として本気で護ってやる。だから使った後の事は心配すんな」
ジャレットはレイチェルの言葉にうなずいた。
アラタへ向かい、重くならないよう軽い感じで手を振るが、その口調には真剣みがあった。
そしてジャレットの言葉に同調するように、レイジェスの全員がアラタへ、まかせろ、と声をかける。
「・・・・・カチュア、あなたの大切な人を危険にさらす事は、許される事ではありません。ですが、どうか・・・」
席を立ち、カチュアに言葉をかけるエリザベートに、カチュアは小さく頭を振った。
「エリザ様・・・私も感情的になってしまいました。アラタ君がやると決めたんです・・・私は支えるだけです。私も、頑張ります」
「カチュア・・・ありがとうございます」
エリザベートとカチュアが笑い合う姿を見て、護衛のリーザ・アコスタがアラタに向き口を開いた。
「フッ・・・あの時城で言ったように、良い関係が保てそうで安心したよ。サカキ・アラタ、あらためてよろしく頼むぞ」
「あぁ、こっちこそよろしく頼むよ。リーザでいいんだよな?」
「あぁ・・・リーザでいいぞ、アラタ」
護衛のリーザ・アコスタは、話しに聞いていたレイジェスの雰囲気が、想像した通りのものであった事に、心が温かくなる事を感じた。
かつてのレイジェスも、こんな風にそれぞれを思いやる温かいものだったのだろう。
遠い200年の昔に想いをはせた。
ほんの数分だが、エリザベートはレイチェルに抱きしめられ涙を流した。
詳しい事情を分からない。
だが、エリザベートがバリオスの境遇に、よほどの思いがあったのだという事だけは察せられた。
「いえ、いいんですよ。私も、店長には特別な事情があるのは知ってますから。踏み込むべきではありませんでした」
申し訳ありません。と口にし、レイチェルは頭を下げた。
「そんで、結局エリザ様はよ、兄ちゃんに何を頼みたいんよ?写しの鏡まで持ちだしてさ」
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「リカルド、本当に無礼。失神させた方がよさそ・・・」
「ユーリ、よいのです」
右の拳を固く握りしめるユーリを、エリザベートが落ち着ついた口調で制する。
「・・・先ほど申しました通り、現国王は偽者です。正体を暴こうにも、軍隊、騎士団は動かす事ができませんし、どこまで信用していいかも分かりません。ゆえに、信用できる少数で動くしかないのです。レイジェスの皆さん、私も王妃も、あなた方は信頼しております。国王の正体を暴き、この国を救うため、どうかお力をお貸しください」
その場で頭を下げるエリザベート、それに倣い、リーザ・アコスタも頭を下げた。
バリオスが不在の今、この場でレイジェスの代表は、副店長のレイチェルである。
自然とレイチェルに視線が集まるが、それぞれの表情は答えを分かっているからこその、柔和なものであった。
「エリザ様、頭を上げてください。実は、もうみんなで話して決めてあるんです。国王陛下が偽者では、という事もほぼ当たりを付けてました。そして、もし力を使う事になるのであれば、我々は王妃様と行動を共にすると」
レイチェルの言葉に、エリザベートが顔を上げる。
その表情には、すでにレイジェルで方針が決まっていた事に対する、驚きがあった。
「レイジェスは、エリザ様、王妃様と共に戦います」
「レイチェル・・・皆さん、本当にありがとうございます」
安堵して笑顔を見せたエリザベートだが、続いてアラタに向き直ると、言いにくそうに表情を曇らせる。
「・・・アラタ様、その・・・最初に申しました通り、アラタ様のお力もお借りしたいのです」
「・・・はい。俺もレイジェスの一員ですから、それはもちろんです。えっと・・・確かに、俺はまだ働き始めて日が浅いですけど、俺の事は分けて考えてなくていいんです。俺の力を借りたいって、俺をレイジェスと分けて考えてたって事ですか?」
「いいえ、そうではありません。アラタ様もレイジェスの一員として見ております。私は、アラタ様にしかできない事で、お力をお借りしたいのです・・・・・光の拳、そう光の力です」
エリザベートの言葉に、アラタよりも先に反応したのはカチュアだった。
「光の力って!・・・エリザ様、駄目です!あの力は、もう使っちゃ駄目なんです!アラタ君が死んじゃいます!」
席を立ち、エリザベートの顔を真っ直ぐに見つめるカチュアからは、普段の少し控えめな様子からは想像もできないような、強くハッキリとした言葉が口をついてでた。
アラタもレイチェルも、その場の全員が驚いたようにカチュアに目を向ける。
「・・・カチュア・・・はい。私も、光の力については少しですが知っております。あれは、生命力を大きく消耗します。私も、できれば光の力を使わずに済ませたい思いはあるのです。ですが、偽国王は、闇に捕らわれています。闇に打ち勝つには、光の力が必要不可欠なのです。冷酷な事を言っているのは承知しております。ですが、この国のためにお願いいたします」
エリザベートは座ったままだったが、カチュアに向き合い、目を見て言葉を返した。
「・・・でも、あんなに・・・あんなにぐったりして、一人で立つことだってできなくて・・・どうして、どうしてアラタ君が・・・・・」
「カチュア・・・・・ありがとな」
俯いて手を握り、か細い声を出すカチュアを、アラタは抱きしめた。
「・・・アラタ君・・・あの力は・・・駄目だよ」
「うん・・・・・でもさ、俺がやらなきゃ、俺にしかできない事みたいだから・・・このままほうっておけば、この国が駄目になっちゃうだろ?」
「でも・・・アラタ君が死んじゃったら・・・・・」
「約束したろ?カチュアを置いてどこにも行かないって。無理はしないよ・・・・・偽国王の闇を封じるその時にだけ使う。短い時間なら大丈夫だよ。カチュア・・・俺が無理をしないように、隣で支えてくれないかな?」
少しだけ体を離し、アラタはカチュアの目を見ながら、できるだけ優しく言葉をかけた。
自分でもよく分かっている。
元治安部隊隊長 マルコス・ゴンサレスとの戦いでは、光の拳はほんの数分、せいぜい4~5分しか維持できなかった。そしてその後は、立つことはおろか、受け身すらとれずに倒れ込む程消耗した。
国王への謁見で、1分程度だが拳に光を纏った時は、それなりに疲労感はあったが、まだ余裕はあった。
おそらく動かずにただ光を出すだけならば、もう少し長い時間光の力を維持する事は可能だ。
アラタの感覚では、戦闘で光の拳、光の力を使用する際、2分~3分、このくらいの時間であれば戦闘が終わった後でも動く事はできるだろう。そう、判断していた。
マルコス・ゴンサレスと戦った時のように、限界を超えて光の拳を振るう事はできない。
それでは、ここまで自分の身を案じているカチュアを悲しませてしまうからだ。
3分、この時間内で偽国王をなんとかすれば、戦いの後もなんとか動けるはず。
カチュアに心配をかける事はないだろう。
そして、偽国王の闇に打ち勝つ方法は、すでに当たりが付いていた。
パスタ屋のジェロム・ブラントの父を助けるため、ジェロムの父の精神世界に入った時は、カエストゥスの闇の中に全身に光を纏い飛び込んだ。
闇の中からジェロムの父を解放したが、おそらく同じ要領で対応できる。そうアラタは考えていた。
「・・・・・うん。分かったよ・・・絶対、無理しないですね。私、もうあんな辛そうなアラタ君、見たくない」
「あぁ、絶対に無理はしない・・・・・レイチェル、ごめん。そういうわけで、約束やぶる事になるけど、光の力をまた使わせてくれないかな?」
レイチェルとの約束だった。
光の力はもう使わないと。
だが、パスタ屋でも使用し、また今回も使う事になる。
アラタがレイチェルに顔を向けると、レイチェルは眉を下げ、少しだけ笑顔を見せていた。
「・・・アラタ、マルコスとの戦いから思っていたが、キミは自分を犠牲にしても行動する人間のようだ。本当はね、私も駄目だと言いたい。だけど、エリザ様の言う通り、闇をなんとかするというのであれば、光の力が必要になるのだろう。力を使う事はしかたがない。だけど、絶対に無理はするな。私はキミが無事にカチュアの元に帰れるよう、全力を尽くす・・・・・みんなもいいな?
アラタの力は協会で見た通り、使用後は動けなくなる。偽国王はアラタにまかせるしかないだろう。私達はアラタを護る事を第一に考えるんだ」
「レイチーがそう言うんなら、しかたねぇな。おう、アラやん、俺もあの力はできれば使わせたくねぇ。けど使うんなら、俺も先輩として本気で護ってやる。だから使った後の事は心配すんな」
ジャレットはレイチェルの言葉にうなずいた。
アラタへ向かい、重くならないよう軽い感じで手を振るが、その口調には真剣みがあった。
そしてジャレットの言葉に同調するように、レイジェスの全員がアラタへ、まかせろ、と声をかける。
「・・・・・カチュア、あなたの大切な人を危険にさらす事は、許される事ではありません。ですが、どうか・・・」
席を立ち、カチュアに言葉をかけるエリザベートに、カチュアは小さく頭を振った。
「エリザ様・・・私も感情的になってしまいました。アラタ君がやると決めたんです・・・私は支えるだけです。私も、頑張ります」
「カチュア・・・ありがとうございます」
エリザベートとカチュアが笑い合う姿を見て、護衛のリーザ・アコスタがアラタに向き口を開いた。
「フッ・・・あの時城で言ったように、良い関係が保てそうで安心したよ。サカキ・アラタ、あらためてよろしく頼むぞ」
「あぁ、こっちこそよろしく頼むよ。リーザでいいんだよな?」
「あぁ・・・リーザでいいぞ、アラタ」
護衛のリーザ・アコスタは、話しに聞いていたレイジェスの雰囲気が、想像した通りのものであった事に、心が温かくなる事を感じた。
かつてのレイジェスも、こんな風にそれぞれを思いやる温かいものだったのだろう。
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