237 / 1,253
【236 ドミニクの申し出】
しおりを挟む
「えっと、手合わせですか?私と?」
戸惑う私に、ドミニクさんは、はい、と強く頷いた。
なんで急に私と?そう疑問に思った事がそのまま顔に出てしまったのか、ドミニクさんは、すみません、と頭を下げた後、言葉を続けた。
「いきなりこのような話しで申し訳ありません。ですが、俺は剣士として、あなたの実力を直接見たくなったのです。あの、セシリア・シールズに興味を持たれたあなたの本当の力を・・・・・模擬戦として、刃を潰した稽古用の剣で一戦お相手いただけないでしょうか?」
「でも・・・」
返事に窮すると、私の頭の中に声が聞こえた。
それが私と弥生の、初めての会話だった。
【アタシはいいよ。ヤヨイ、受けてやりな】
「え!?ちょっと、弥生・・・なの?」
思わず言葉が口から出ると、ドミニクさんも、ロペスさんも、事情を知らない二人は怪訝な顔を私に向ける。
「あ・・・そのですね、実は・・・」
ハッとして、私は、私の中のもう一人の弥生について説明をした。
「・・・なるほど、お話しは分かりました。にわかに信じがたい話しではありますが、やはりこうして向かい合ってみると・・・なるほどと頷けるところがあります。それに、リンダもブレンダン様も、みんなが証言してくれている。信じない理由がありません」
ドミニクさんは、みんなに目を向けた後、私に顔を向け頷いてくれた。
「・・・興味深い話しだな。自分の中にもう一人、か・・・普段穏やかな人が急に狂暴になる、などの似たような話しは聞いた事はあるが、ヤヨイさん程ではないな。ヤヨイさんは、身体能力まで完全に別物で、さらに少なからずそのもう一人と意思の疎通もとれていると・・・・・一人の肉体に、二人の精神が入っているという事か・・・・・」
ロペスさんは、顎を撫でながらしげしげと私を見やる。
信じ切れてはいないようだけど、疑ってもいないようだ。
「それで、どうするかね?ドミニクとの試合を受けるかい?」
ロペスさんは、二度三度軽く頷いた後、先ほどのドミニクさんの申し出の確認をしてきた。
ドミニクさんも、確かな意思をもった真っすぐな目で私を見て返事を待っている。
「その・・・弥生、あ、もう一人の私は、受けてもいいと・・・」
遠慮がちに答えると、ドミニクさんの目に力が入ったように見えた。
「そう、ですか・・・受けていただけると・・・」
「ドミニクさん・・・?」
「あぁ、失礼・・・いえ、この前お話ししたでしょう?ヤヨイさんは、おそらく私より強いと・・・・・あの時から、ずっと興味はあったのです。一体、どれほどの実力者なのだろうと・・・・・一剣士として、やはり強者との試合は、高ぶるものがありましてね」
少し緊張しているように見えたけれど、武者震いというものかもしれない。
私は、試合を了承した旨を、心の中で弥生に呼びかけたけれど、今度は何も反応が無かった。
返事をしないのか、できないのか、そういつでもお話しができるわけではないようだ。
でも、弥生が出て来る時、いつも私は眠ってしまうらしく、今回は初めて起きている時に、弥生の声を聞くことができた。会話らしい会話とは言えないと思うけれど、それでもほんの少しでも、触れ合う事ができた事を嬉しく思う。
「さて、一度中へ戻ろうか。すっかり暗くなってしまった。相手もなかなかのやり手だったな。これほど長引くとは思わなかった。ブレンダン様、部屋を用意するので、今日は泊まっていってください。皆さんもよろしいですか?」
話しの区切りがついたところで、ロペスさんが右手で左の肩を揉みながら、少し疲れた様子を見せる。
みんな、そう言えば疲れたな、と口々に話している。
言われてみれば、私ももうクタクタだ。これは気疲れだ。
それに、セシリア・シールズから受けた攻撃の影響もまだ残っているのだろう。
あれは、おそらく瞳を合わせる事で効果を発揮するのだと思う。
落ち着いて考えてみると、私はセシリアと話しをしている最中、肌が熱いとか、そういう外的な要素は何も感じなかった。
話し終え、セシリアが離れた後、急に汗がどっとでて、動悸が早くなり、眩暈を覚えたんだ。
そう、まるで体の内側から一気に体温を上げられたかのように。
「いや、申し出はありがたいのじゃが、今日は友人に孤児院を頼んで出てきたんじゃ、面倒をかけとるから帰らねばならん。すまんが、馬車の手配を頼めんか」
今日はレイジェスは休みにした。
孤児院は、モニカさんとナタリーさん、そしてジョルジュさんが応援に来てくれている。
お城から孤児院まで、馬車で1時間近くかかるけれど、用事が終わったのならば、できるだけ早く帰らなければならない。
事情を説明すると、ロペスさんは、残念ですがしかたありませんね。と言って、城門に待機していた兵士に馬車を用意するよう指示を出した。
ロペスさんは、魔法使いとしても一流で、魔法兵団団長のロビンさんと遜色ない実力者だ。
残念そうな声色に、ロペスさんはブレンダン様と、魔法についてお話ししたい事もあったのかもしれないと感じた。
「・・・それじゃあ、私も一緒に帰るか。隊長ごめんね。私、今はほとんど孤児院で寝泊まりしててさ。ニコラも寂しがってるだろうし、今日は帰るよ」
リンダさんは、泊まっていくつもりだったようだけれど、私達が帰るので、合わせるようだ。
「・・・そうか、久しぶりにお前と酒でも飲みかわしたいところだったが、しかたない。またの機会にしよう」
少し未練を残すドミニクさんの言葉を聞いて、ジャニスさんがリンダさんに近づいた。
「リン姉さん、私達4人が帰れば孤児院は人数的には大丈夫だよ。ニコラさんには言っておくから、たまにはドミニクさんの相手してあげたら?明日ゆっくり帰ってきなよ」
「え、いいの?なんか、いっつも孤児院に入り浸ってるのに、私だけ残るのもさ・・・」
「あ、入り浸ってるって自覚はあったんだ?」
ジャニスさんが意地悪そうな目を向けると、リンダさんは両手を胸の前で振って、たじたじと言い訳を始める。
「い、いやぁ~、だって居心地いいんだもん!私もね、そりゃ家に帰らなきゃって思うけど、ほら、仕事終わる頃って丁度お腹すくじゃん?でも自分で作るの面倒じゃん?メアリーちゃんの料理最高じゃん?そうすると・・・ね?」
リンダさんの言い訳に、ジャニスさんも、横で聞いてたブレンダン様も、ウィッカーさんも大きく溜息をついた。
「リン姉・・・」
「リンダ、お前は全く・・・」
「あは、あはははは!・・・ごめんなさい」
笑ってごまかそうとしたが、諦めて素直に謝るリンダさんを見て、ドミニクさんがかばうように口をはさんだ。
「ま、まぁまぁ、リンダも言ってるように、それだけ孤児院が良いところって事じゃないか?ウィッカーもジャニスも、リンダがいると楽しいだろ?一緒の店で働いてるんだし、大目に見てやってくれよ」
ちょっと作った感のある笑顔でフォローに回るドミニクさんを見て、ウィッカーさんも、ジャニスさんも、ほぅ、と言わんばかりにドミニクさんに意味深な目を向ける。
「あの~、隊長」
「ん、どうした?」
隣に立つドミニクさんを見上げるように、顔を向けていたリンダさんが、胸の位置で手を挙げて口を開いた。
「もう、隊長アレですよね?私の事好きですよね?」
「な!?お、お前、お前なぁ!それはストレート過ぎないか!?」
あからさまにうろたえるドミニクさんに対し、リンダさんは、私の事好きですよね?認めたらどうなんスか?と言いながら、ドミニクさんの周りをぐるぐる回り言葉責めにする。
「・・・そう言えば、リンダが隊を抜けた時、ドミニクのヤツ目に見えて落ち込んでたな」
「・・・全く、城門でこいつらは何をやっているんだ?」
黙って成り行きを見ていたロビンさんとロペスさんは、呆れ顔で二人を見ている。
結局、私とブレンダン様、ウィッカーさん、ジャニスさんの四人は馬車で孤児院へ帰り、リンダさんは城へ一拍していく事になった。
別れ際、私はロペスさんへ、セシリアの瞳の力は、目を合わせる事で体の内部にダメージを与えるという仮説を伝えた。目を合わせなければ大丈夫という保証はできないけれど、今回のケースは何度考えてもそうとしか思えなかった。
外れているかもしれないけれど、可能性として話しておいた方がいいと判断した。
ロペスさんは、真面目に聞いてくれて、その可能性は高いと答えてくれた。
私の症状と照らし合わせると、ロペスさんも体の内部にダメージを与えると言う点は同じ考えだったようだ。
そして、目を合わせて効果を発揮するという点では、瞳の力は一つとは限らない。
だから、目を合わせなければ大丈夫とは思わない事だ。と指摘を受けた。
今回の力は、目を合わせて体の内部にダメージを与えるという考えは合っていたとしても、それ以外の攻撃方法があるかもしれない。
なるほど、と考えをあらためさせられた。ロペスさんに話して良かった。
もし、自分一人の考えで完結していたら、私はきっと目を合わさなければ大丈夫と思い込んでいただろう。
「必要以上の警戒は、自分の動きも鈍くしてしまうが、こうすれば大丈夫という思い込みも危険だ。目を合わせる事で体の内部を攻撃できるなら、外からの攻撃もあるかもしれない。そのくらいの想定はしておいた方がいい」
ジャニスさんは馬車へ乗るとき、ドミニクさんに向かって、もう36歳でいい年なんだから、ハッキリしときなさいよ!と発破をかけていた。
リンダさんはニヤニヤとドミニクさんを見ながら、肘で脇腹をつついている。
ドミニクさんは、もうすっかり意識してしまったようで、やめろよ!とちょっぴり強く言っているけど、リンダさんの肘をよけるだけで精一杯の抵抗になっていた。
仕事の時や私と話す時なんかはビシっとしているけど、なんだか、年齢より子供っぽい人なのかもしれない。
私とドミニクさんは、1週間後に城の訓練場で手合わせをする事で約束をした。
セシリア・シールズが興味を持ったと言う弥生の力、共有している記憶で、私は弥生がどれほど薙刀に打ち込んできたのかはよく分かっている。
だけど、男女の筋力にはどうしても差が出る。
だから、レイジェスに襲撃をかけてきた元剣士隊副隊長のゲーリーを圧倒した事や、一国の剣士を束ねる剣士隊の隊長のドミニクさんにさえ、自分より強いと言わせるとは、私には少し疑問だった。
これも風の精霊さんの力なのだろうか?
それとも、この魔法が存在する世界で新たな命をもらった事で、私が気付いていないだけで、
なにか秘められた力でもあるのだろうか?
帰りの馬車に揺られながらそんな事を考えていると、やはり疲れは大きかったようだ。
いつの間にか私は眠りに落ちていた。
戸惑う私に、ドミニクさんは、はい、と強く頷いた。
なんで急に私と?そう疑問に思った事がそのまま顔に出てしまったのか、ドミニクさんは、すみません、と頭を下げた後、言葉を続けた。
「いきなりこのような話しで申し訳ありません。ですが、俺は剣士として、あなたの実力を直接見たくなったのです。あの、セシリア・シールズに興味を持たれたあなたの本当の力を・・・・・模擬戦として、刃を潰した稽古用の剣で一戦お相手いただけないでしょうか?」
「でも・・・」
返事に窮すると、私の頭の中に声が聞こえた。
それが私と弥生の、初めての会話だった。
【アタシはいいよ。ヤヨイ、受けてやりな】
「え!?ちょっと、弥生・・・なの?」
思わず言葉が口から出ると、ドミニクさんも、ロペスさんも、事情を知らない二人は怪訝な顔を私に向ける。
「あ・・・そのですね、実は・・・」
ハッとして、私は、私の中のもう一人の弥生について説明をした。
「・・・なるほど、お話しは分かりました。にわかに信じがたい話しではありますが、やはりこうして向かい合ってみると・・・なるほどと頷けるところがあります。それに、リンダもブレンダン様も、みんなが証言してくれている。信じない理由がありません」
ドミニクさんは、みんなに目を向けた後、私に顔を向け頷いてくれた。
「・・・興味深い話しだな。自分の中にもう一人、か・・・普段穏やかな人が急に狂暴になる、などの似たような話しは聞いた事はあるが、ヤヨイさん程ではないな。ヤヨイさんは、身体能力まで完全に別物で、さらに少なからずそのもう一人と意思の疎通もとれていると・・・・・一人の肉体に、二人の精神が入っているという事か・・・・・」
ロペスさんは、顎を撫でながらしげしげと私を見やる。
信じ切れてはいないようだけど、疑ってもいないようだ。
「それで、どうするかね?ドミニクとの試合を受けるかい?」
ロペスさんは、二度三度軽く頷いた後、先ほどのドミニクさんの申し出の確認をしてきた。
ドミニクさんも、確かな意思をもった真っすぐな目で私を見て返事を待っている。
「その・・・弥生、あ、もう一人の私は、受けてもいいと・・・」
遠慮がちに答えると、ドミニクさんの目に力が入ったように見えた。
「そう、ですか・・・受けていただけると・・・」
「ドミニクさん・・・?」
「あぁ、失礼・・・いえ、この前お話ししたでしょう?ヤヨイさんは、おそらく私より強いと・・・・・あの時から、ずっと興味はあったのです。一体、どれほどの実力者なのだろうと・・・・・一剣士として、やはり強者との試合は、高ぶるものがありましてね」
少し緊張しているように見えたけれど、武者震いというものかもしれない。
私は、試合を了承した旨を、心の中で弥生に呼びかけたけれど、今度は何も反応が無かった。
返事をしないのか、できないのか、そういつでもお話しができるわけではないようだ。
でも、弥生が出て来る時、いつも私は眠ってしまうらしく、今回は初めて起きている時に、弥生の声を聞くことができた。会話らしい会話とは言えないと思うけれど、それでもほんの少しでも、触れ合う事ができた事を嬉しく思う。
「さて、一度中へ戻ろうか。すっかり暗くなってしまった。相手もなかなかのやり手だったな。これほど長引くとは思わなかった。ブレンダン様、部屋を用意するので、今日は泊まっていってください。皆さんもよろしいですか?」
話しの区切りがついたところで、ロペスさんが右手で左の肩を揉みながら、少し疲れた様子を見せる。
みんな、そう言えば疲れたな、と口々に話している。
言われてみれば、私ももうクタクタだ。これは気疲れだ。
それに、セシリア・シールズから受けた攻撃の影響もまだ残っているのだろう。
あれは、おそらく瞳を合わせる事で効果を発揮するのだと思う。
落ち着いて考えてみると、私はセシリアと話しをしている最中、肌が熱いとか、そういう外的な要素は何も感じなかった。
話し終え、セシリアが離れた後、急に汗がどっとでて、動悸が早くなり、眩暈を覚えたんだ。
そう、まるで体の内側から一気に体温を上げられたかのように。
「いや、申し出はありがたいのじゃが、今日は友人に孤児院を頼んで出てきたんじゃ、面倒をかけとるから帰らねばならん。すまんが、馬車の手配を頼めんか」
今日はレイジェスは休みにした。
孤児院は、モニカさんとナタリーさん、そしてジョルジュさんが応援に来てくれている。
お城から孤児院まで、馬車で1時間近くかかるけれど、用事が終わったのならば、できるだけ早く帰らなければならない。
事情を説明すると、ロペスさんは、残念ですがしかたありませんね。と言って、城門に待機していた兵士に馬車を用意するよう指示を出した。
ロペスさんは、魔法使いとしても一流で、魔法兵団団長のロビンさんと遜色ない実力者だ。
残念そうな声色に、ロペスさんはブレンダン様と、魔法についてお話ししたい事もあったのかもしれないと感じた。
「・・・それじゃあ、私も一緒に帰るか。隊長ごめんね。私、今はほとんど孤児院で寝泊まりしててさ。ニコラも寂しがってるだろうし、今日は帰るよ」
リンダさんは、泊まっていくつもりだったようだけれど、私達が帰るので、合わせるようだ。
「・・・そうか、久しぶりにお前と酒でも飲みかわしたいところだったが、しかたない。またの機会にしよう」
少し未練を残すドミニクさんの言葉を聞いて、ジャニスさんがリンダさんに近づいた。
「リン姉さん、私達4人が帰れば孤児院は人数的には大丈夫だよ。ニコラさんには言っておくから、たまにはドミニクさんの相手してあげたら?明日ゆっくり帰ってきなよ」
「え、いいの?なんか、いっつも孤児院に入り浸ってるのに、私だけ残るのもさ・・・」
「あ、入り浸ってるって自覚はあったんだ?」
ジャニスさんが意地悪そうな目を向けると、リンダさんは両手を胸の前で振って、たじたじと言い訳を始める。
「い、いやぁ~、だって居心地いいんだもん!私もね、そりゃ家に帰らなきゃって思うけど、ほら、仕事終わる頃って丁度お腹すくじゃん?でも自分で作るの面倒じゃん?メアリーちゃんの料理最高じゃん?そうすると・・・ね?」
リンダさんの言い訳に、ジャニスさんも、横で聞いてたブレンダン様も、ウィッカーさんも大きく溜息をついた。
「リン姉・・・」
「リンダ、お前は全く・・・」
「あは、あはははは!・・・ごめんなさい」
笑ってごまかそうとしたが、諦めて素直に謝るリンダさんを見て、ドミニクさんがかばうように口をはさんだ。
「ま、まぁまぁ、リンダも言ってるように、それだけ孤児院が良いところって事じゃないか?ウィッカーもジャニスも、リンダがいると楽しいだろ?一緒の店で働いてるんだし、大目に見てやってくれよ」
ちょっと作った感のある笑顔でフォローに回るドミニクさんを見て、ウィッカーさんも、ジャニスさんも、ほぅ、と言わんばかりにドミニクさんに意味深な目を向ける。
「あの~、隊長」
「ん、どうした?」
隣に立つドミニクさんを見上げるように、顔を向けていたリンダさんが、胸の位置で手を挙げて口を開いた。
「もう、隊長アレですよね?私の事好きですよね?」
「な!?お、お前、お前なぁ!それはストレート過ぎないか!?」
あからさまにうろたえるドミニクさんに対し、リンダさんは、私の事好きですよね?認めたらどうなんスか?と言いながら、ドミニクさんの周りをぐるぐる回り言葉責めにする。
「・・・そう言えば、リンダが隊を抜けた時、ドミニクのヤツ目に見えて落ち込んでたな」
「・・・全く、城門でこいつらは何をやっているんだ?」
黙って成り行きを見ていたロビンさんとロペスさんは、呆れ顔で二人を見ている。
結局、私とブレンダン様、ウィッカーさん、ジャニスさんの四人は馬車で孤児院へ帰り、リンダさんは城へ一拍していく事になった。
別れ際、私はロペスさんへ、セシリアの瞳の力は、目を合わせる事で体の内部にダメージを与えるという仮説を伝えた。目を合わせなければ大丈夫という保証はできないけれど、今回のケースは何度考えてもそうとしか思えなかった。
外れているかもしれないけれど、可能性として話しておいた方がいいと判断した。
ロペスさんは、真面目に聞いてくれて、その可能性は高いと答えてくれた。
私の症状と照らし合わせると、ロペスさんも体の内部にダメージを与えると言う点は同じ考えだったようだ。
そして、目を合わせて効果を発揮するという点では、瞳の力は一つとは限らない。
だから、目を合わせなければ大丈夫とは思わない事だ。と指摘を受けた。
今回の力は、目を合わせて体の内部にダメージを与えるという考えは合っていたとしても、それ以外の攻撃方法があるかもしれない。
なるほど、と考えをあらためさせられた。ロペスさんに話して良かった。
もし、自分一人の考えで完結していたら、私はきっと目を合わさなければ大丈夫と思い込んでいただろう。
「必要以上の警戒は、自分の動きも鈍くしてしまうが、こうすれば大丈夫という思い込みも危険だ。目を合わせる事で体の内部を攻撃できるなら、外からの攻撃もあるかもしれない。そのくらいの想定はしておいた方がいい」
ジャニスさんは馬車へ乗るとき、ドミニクさんに向かって、もう36歳でいい年なんだから、ハッキリしときなさいよ!と発破をかけていた。
リンダさんはニヤニヤとドミニクさんを見ながら、肘で脇腹をつついている。
ドミニクさんは、もうすっかり意識してしまったようで、やめろよ!とちょっぴり強く言っているけど、リンダさんの肘をよけるだけで精一杯の抵抗になっていた。
仕事の時や私と話す時なんかはビシっとしているけど、なんだか、年齢より子供っぽい人なのかもしれない。
私とドミニクさんは、1週間後に城の訓練場で手合わせをする事で約束をした。
セシリア・シールズが興味を持ったと言う弥生の力、共有している記憶で、私は弥生がどれほど薙刀に打ち込んできたのかはよく分かっている。
だけど、男女の筋力にはどうしても差が出る。
だから、レイジェスに襲撃をかけてきた元剣士隊副隊長のゲーリーを圧倒した事や、一国の剣士を束ねる剣士隊の隊長のドミニクさんにさえ、自分より強いと言わせるとは、私には少し疑問だった。
これも風の精霊さんの力なのだろうか?
それとも、この魔法が存在する世界で新たな命をもらった事で、私が気付いていないだけで、
なにか秘められた力でもあるのだろうか?
帰りの馬車に揺られながらそんな事を考えていると、やはり疲れは大きかったようだ。
いつの間にか私は眠りに落ちていた。
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる