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【232 ジョルジュに代わって】

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なぜ私が護衛に選ばれたのか。

私は王宮仕えも断ったし、ドミニクさんは弥生が戦っているところを直接見たわけではない。
いくら周りが弥生の実力を高く評価したとしても、不安はないのだろうか?

私はそう告げたけれど、ドミニクさんは全く疑うそぶりを見せず、私に頭を下げた。


「・・・シンジョウ・ヤヨイさん。あなたは強い。体力型は相手と正面から向き合えば、だいたいの強さは感じとれるんです。あなたは、うまく言えませんが、なにかを秘めているように感じます。それがあなたの力の正体だと思います。そしてあなたは・・・男としては悔しいですが、多分私より強い。あなたが争いを好まない事は分かってます。ただ、話しは聞いておいてほしいんです」

その真っすぐな視線を受けて、私は悩んだ。
私自身は戦う力は全くない。ドミニクさんの推察は当たっているけれど、それは全てもう一人の弥生の力だ。だから、弥生の気持ちも確認しないで、弥生まかせの護衛なんて受けていいのだろうか。

でも、事の重大さは理解できた。
以前聞いた時よりも、両国間の関係は悪化しているし、ブロートンの侵略もだんだんあからさまになってきているように思う。

この話し合いがどれほど大きい事か分かる。

「・・・ヤヨイ、受けよう。何を悩んでるのか分かるよ。大丈夫・・・気持ちは一緒のはずだよ」

「・・・リンさん・・・・・うん。そうね」

私の考えを察したリンダさん。

そうだよね。話した事はないけれど、私の中には弥生がいつも一緒にいる。
きっと、弥生なら迷わず受けていると思う。

弥生、もしもの時はあなたに頼る事になるけれど、私もできる事はするから力を貸してね。


「ドミニクさん、分かりました。護衛のお話しお受けします。ただ、最優先は孤児院です。私を含め、孤児院から大人が五人も出るとなると、誰か代わりの方に子供達のお世話をお願いしなければなりません。都合がつかなければ、その時はやっぱりお断りする事になるかもしれませんが、よろしいでしょうか?」

「ありがとうございます。えぇ、おっしゃる通り、子供達は一番に考えなければなりません。その時はお断りいただいて結構です」

私達が留守にすると、孤児院で子供達を見れるのは、キャロルちゃんとトロワ君とメアリーちゃんの三人、ニコラさんは、半分孤児院に住んでいるようなものなので、お願いすれば大丈夫だろう。そうすると、ニコラさんを入れて4人。
大丈夫かもしれないけれど、トロワ君とキャロルちゃんも子供には違いないので、できればもう1~2人は人手が欲しい。

王子は万一強盗などが入った場合には対処してくれるだろうから、防犯の面では心配がないけれど、それ以外はあまり協力は見込めないし、やはり王子である事に変わりはないのだから、あてにしてもいけない。

申し訳ないけれど、モニカさんにお願いしてみよう。
ナタリーさんは片道1時間の距離だから、なかなか頼みにくいけれど、今回はやっぱり応援をお願いするべきかもしれない。


「・・・あの、ジョルジュさんはいいんですか?史上最強の弓使いとまで言われているのですから、護衛としてこれ以上ない人材なのでは?」

ナタリーさんの事を考えて、ふと気になった事を口に出した。
孤児院から五人出すより、ジョルジュさんを入れた方がいいのではないだろうか?

「あぁ、ジョルジュ・ワーリントンですね。確かに考えました。頼めば引き受けてくれるかもしれませんが、彼は少々立ち位置が難しいんです。今でこそ、王宮の弓兵の指導を引き受けてもらえてますが、少し前までは、王宮仕えの話しも全く聞き耳を持ってもらえませんでしたし、大臣からの呼び出しにも応じず、とにかく国に関わろうとしなかったのです。あれだけの戦闘力を持ってますので、無視しておく事もできず、対応に苦労していたんですよ」

「そうだったんですか・・・すみません。なんだか、信じられないです。
私の知っているジョルジュさんは、確かにちょっと独特な感性を持った方ですけれど、ちゃんとお話しのできる方なので・・・」

私の戸惑いに、ドミニクさんは頬を緩ませた。


「・・・あなた方が変えたんですよ。あの闘技場での一件以来、ジョルジュは孤児院に出入りする事が多くなったようですね。ジョルジュにとって、あなた方との出会いは、とても良い影響をもたらせたようです。孤高の男だったジュルジュが、まさか城の弓兵の指導を引き受けてくれるとは思いませんでした。これからは、私達も信頼してもらえるよう、接していくつもりです。ただ・・・護衛というのは、まだ時期尚早かと思いまして。もっと国とジョルジュとの信頼関係を築いていけたら、次の機会には話したいと思います」

そう言えば、リンダさんも初めてこの店でジョルジュさんを見た時、驚いていたっけ。
王宮仕えだったリンダさんのあの反応は、ジョルジュさんが私と、人と親し気に話している事がそれだけ信じられない事だったのだ。

確かに、ジョルジュさんと話していると、人付き合いに対して感心したように言われる事がある。

これまでずっと森の中で暮らしていて、他人と関わる機会も無ければ、関わる必要の無かったジョルジュさんは、私達との付き合いの中で、森の外での人間関係というものを学んでいるのかもしれない。

「ジョルジュさんが今、お城で新しい人間関係を築いていて、お城の方達もジョルジュさんとの関係を大事にしようと考えてくださっている事は、私も嬉しく思います。そういうご事情でしたら、私はジョルジュさんに代わって、ぜひお受けしたいと思います。その・・・孤児院の都合は変わりませんが、できるだけなんとかしてみます」

さっきより前向きな私の言葉に、ドミニクさんは笑顔で頷いてくれた。


ウィッカーさんとジャニスさんは、今日は午後からお城で魔法の指導が入ったので、午前中で店を出た事を話すと、ドミニクさんは行き違いになったかと呟き、城へ戻れば会えるだろうから、このまま城へ戻ると口にした。

ブレンダン様も一緒のはずなので、城へ行けば三人には会えるはずと伝えて、ドミニクさんを出口まで見送った。


「じゃあな、リンダ・・・巻き込んで悪いとは思うが、お前の剣の腕は錆びついてないようだし・・・まぁ、俺は・・・お前が一番信用できるから」

「え?・・・隊長、それって愛の告白ですよね?」

別れ際、ドミニクさんは一歩だけ前に足を踏み出すと立ち止まり、振り向いてリンダさんにチラリと視線を送り、少したどたどしく言葉を口にする。

リンダさんも、まんざらでもないのか、ドミニクさんの周りをぐるぐる回りながら、愛の告白ですよね~?と言葉責めにしている。

私は二人の雰囲気を見て、邪魔をしないように店に一人で戻った。

ウィッカーさんとメアリーちゃんも結婚するし、私もパトリックさんの婚約者という立場になった。次はリンダさんかな?

リンダさんと結婚したら賑やかになりそう。
私はちょっとだけ口元を緩めて、仕事に戻った。
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