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【221 国内情勢と魔法兵団副団長】

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「・・・みんな、急で悪いが大人だけで話せないか?」

夕食を終えると、ジョルジュさんが席を立つ皆を呼び止める。

「それと、トロワ、お前とキャロルはあの日、孤児院が襲撃された日にディーロ兄弟と戦ったと言ってたな?」

突然の言葉に、トロワ君は、え?と驚いた声を上げたけれど、ジョルジュさんにもう一度確認されると、うん、と頷いた。

「では、トロワ、お前とキャロルも残れ。もう大人だ」

突然あらたまって何の話しだろう?とみんなの表情に浮かんでいるけど、真面目な話しという事は空気で分かった。
ブレンダン様が、分かった、と言葉を返したので、まず小さい子供達を寝かしつけてから、一階広間のテーブルに集まる流れになった。





「今日、俺がここに来たのは、ブレンダンに聞きたい事があったからだ」

9時、子供達を寝かしつけた後、私達は広間のテーブル席に集まった。何かを話し合う時はいつもここに集まっている。
ジョルジュさんは、テーブルの上で両手を組み、みんなを一瞥した後、ブレンダン様に顔を向けた。

「夕食の席でも少し話したが、俺は最近王宮の兵に弓を指導している。その中で彼らの会話の中から得た情報だが・・・・・戦争が近いのか?」


戦争


その言葉に私は凍り付いた。
会話に口を挟めず、ブレンダン様に目を向けると、ブレンダン様は目を伏せ口を閉ざしている。
ジョルジュさんは、ブレンダン様から目を離さず、ブレンダン様が答えるまで待つようだ。



やがて、心の準備ができたように一つ息をつくと、ブレンダン様はゆっくりと口を開いた。

「・・・・・まだまだ不確定な要素が大きくてな、余計な心配をかけないよう黙っておったが、ブロートン帝国との緊張状態が高まってはきておる。だが、現状を見れば、すぐに開戦とはならんじゃろう。備えで軍事力の強化を始めた事は事実じゃ。ウィッカーとジャニスはワシと城へ行っておったから知っている事じゃが、ワシが口止めをしておいた」

名前を出され、ウィッカーさんとジャニスさんは、少し気まずそうにテーブルに目を落とす。


「ウィッカー様、ジャニス様、どうして下を向いてるんですか?」


ウィッカーさんの隣に座るメアリーちゃんが、気まずそうにしている二人に、いつもと変わらない調子で声をかける。

「え?いや、だって俺達こんな大事な話しを黙ってたし・・・」

「ウィッカー様、私はウィッカー様の事ならなんでも知ってますよ。ブレンダン様もおっしゃってましたけど、私達に心配をかけたくないからですよね?それでよろしいではありませんか?それに、私もヤヨイさんも、みんな何となく察してはおりました。去年からです。孤児院の事件が会ってから、皆さんお城へ行かれた時は、難しいお顔をされている事が多かったので・・・・・何もお話しにはなられませんでしたが、私は信じておりましたよ。きっと私達の事をお考えになられて黙っていらっしゃるんだと」


「・・・メアリー・・・ありがとう」

全てを包み込むような優しい声色だった。
メアリーちゃんはニコリと微笑むと、ジャニスさんにも言葉をかけた。

「ジャニス様、私達は大丈夫ですので、お気になさらないでください。誰かを大切に思うあまり、なかなか言い出せない気持ちって、私も分かります。ふふ、俯いているジャニス様って新鮮ですね」

メアリーちゃんが少しからかうような言葉を口にすると、ジャニスさんはメアリーちゃんに顔を向け、小さく笑った。


「メアリー、あんたって・・・・・すごいわ。ありがとうね」

「良かった。いつものジャニス様ですね」

三人並んで笑顔になると、ニコラさんがメアリーちゃんに感嘆の言葉をもらした。


「70個のぬいぐるみを1日で全部売りさばいたり、気落ちした二人を一瞬で元気にするとか・・・・・メアリーちゃんってすごいんですね」

どうやらニコラさんは、メアリーちゃんに一目置くようになったようだ。
特にポーさんぬいぐるみの事は、自分では売れないだろうと思っていただけに、ものすごい衝撃だったみたい。


「それで、ブレンダン。その緊張状態が高まった理由はなんだ?そしてベン・フィングはどうなった?」

場の空気が少し和んだところで、ジョルジュさんが話しを戻した。
ベン・フィングの名前に、ウィッカーさんとジャニスさんが反応を示した。

私は会った事はないけれど、ブレンダン様と闘技場で戦った、この国の元大臣ベン・フィング。
勝利のために手段を選ばず、殺し屋まで雇い、自分の身体すら傷つけ国民に大変なショックを与えたという。そして大臣の職を解かれ、今は加担した息子共々、城の牢獄の中らしい。


「理由か・・・まず、バッタじゃな。毒を持つバッタをワシらで殲滅させたが、なんせ数百億じゃ、群れからはぐれ、国境沿いのセインソルボ山、そしてブロートン領内に入り込んだヤツもいたんじゃ。しばらく沈黙しておったが、やはり国に抗議文が届いてな。カエストゥス領内で発生したバッタが原因で被害を受けたから、それについての賠償せよ。こういう内容じゃった」


ブレンダン様は少し眉間にシワを寄せているが、言葉のニュアンスはブロートンを非難した感じではなく、しかたないという含みがった。

調査の結果、カエストゥス東部で発生した群れというのは確定的なようで、確かにカエストゥス領内で発生したバッタが原因であるのなら、それによって他国が被った被害は賠償しなければならないだろう。これに関してはブロートンの要求は真っ当なものだ。

「もう一つ、問題はこっちじゃ。襲撃をかけてきたディーロ兄弟じゃが、国の調査の結果、やはりベン・フィングと通じておった。そして接触を図ってきたのはディーロ兄弟じゃ。おそらく、ベン・フィングの野心に漬け込み、そこから国力を落とそうとしたんじゃろう。国として一連の経緯をブロートンに抗議したんじゃが、ここで言い分が真っ向から対立してな・・・」


「・・・そうだな。認める訳はないだろう。ディーロ兄弟は全員死んでいるし、生きていたとしても、どちらから接触したなんて水掛け論だ。それに、誘いに乗ったベン・フィングも責めを負うべきだしな。それで、国王はこの事態をどうするつもりだ?」

ジョルジュさんの問いかけに、ブレンダン様は力なく首を横に振った。


「・・・厳しいのう。ベンへの依存がずいぶんと影響しておる。すっかり覇気が無くなった。じゃが、ベンの失脚により、今は魔法兵団副団長のロペスが、参謀役として補佐についておる。あやつは元は内政じゃったし、国王であっても物怖じせずに物を言える度胸、そして情を挟まず厳しい決断も下せる。ロペスが参謀として外交にも当たれば、決して国内情勢がおろそかにはならん」

「ずいぶん能力の高い方なんですね?それほどの人がどうして魔法兵団へ入ったのですか?」

ブレンダン様程の方が、手放しで高く評価するロペスという人に、私は純粋に興味がわいて、つい横から口を挟んでしまった。
大事なお話しの途中で邪魔をしてしまったかと思ったけど、ブレンダン様は親切に答えてくれた。


「魔法兵団副団長のエマヌエル・ロペスは、元々は内政を担っておった男でな、いずれは大臣と言わせる程に優秀な男じゃった。だが、今話したとおり、情を挟まず厳しい決断を下す事ができる。つまり容赦ない男でもあるのじゃ。それが原因で対立が起き、ロペスは内政を外れる事になったのじゃ」


「ロペスさんは、団長のロビンさんと肩を並べる程に強い黒魔法使いです。内政は外れる事になっても、その能力を遊ばせておく事は大きな損失です。だから国王は、魔法使いとしての能力を生かせるよう、魔法兵団へ配属させたんです。大らかでちょっと緩いロビンさん。厳格なロペスさん。今の魔法兵団は、うまくバランスが取れてるんですよ」

ブレンダン様の言葉の続きを引き取るように、ウィッカーさんが会話に加わり補足した。


「そうそう、ヤヨイさんは会った事なかったっけ?ベン・フィングの息子のジョン・フィングってのがいるんだけど、アイツは闘技場で師匠に黒髪の針を撃った一件で、取り調べを受けたんだけど、取り調べの相手がロペスさんって分かった瞬間に降伏したらしいからね。ロペスさん、本当に容赦ないの。
相手が誰であっても。敵に回すと本当に怖いよ。味方ならこの上なく頼もしいけどね」

ジャニスさんも話しに入り、副団長のロペスさんについて語り始める。
話しを聞くと、ちょっと怖そうな人というイメージがあるけれど、きっと自分にも他人にも厳しい人なのだろう。


「・・・そうか。どうやら、国王はもうあてにならんようだが、そのロペスという人物については分かった。そこまで言う程の者だ。そいつが大臣の代わりを務めている間は、戦争は回避できると考えていいのか?」

「うむ。大した男じゃよ。ロペスが睨みを聞かせている間は、ブロートンもそう容易くは仕掛けて来れんじゃろう。それに、ブロートンも王子の力は知っておる。あの黒渦はもう使う事はないと思うが、牽制になっておるじゃろうな。だから、緊張感は高まっておるし、備えの動きは出ておるが、そうそう戦争にはならんと思う」

ブレンダン様はそこまで話すと、区切りをつけるように紅茶を口に含んだ。
ブレンダン様の見立てでは、まだ深刻な状況にはなっていないように思えるけど、やっぱり少し暗い気持ちにはなってしまった。

レイジェスはオープンしたばかりだし、五月にはウィッカーさんの結婚式もある。
楽しいこと、おめでたい事が沢山あるのに、戦争という言葉はその一言で全てを吹き飛ばしてしまう。


どうして人と人が命をかける程に争わなければならないのだろう?

戦争なんて無ければいいのに・・・・・
日本でも異世界でも、人と人とは争いの歴史を辿るのだろうか・・・

私は悲しい気持ちになる。


「なるほど、分かった。だが、緊張感が高まったという事は決して油断はできない状態だ。俺もブロートンへの警戒は怠らぬよう心がけよう。ヤヨイ、お互いに何かあればすぐに連絡をくれ。俺もそうする」

ジュルジュさんと私は風の精霊を通して遠く離れていても連絡をとる事ができる。
電話の無いこの世界で、即時の連絡手段がある事は非常に大きい。私達はこまめな連絡を約束した。
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