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【216 家具屋】

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しとしとと雪が降る。
二月の寒さは、日本も異世界も変わらず、体の芯にまで響くようだ。

この日の午後、孤児院の仕事を終えてから、私はジャニスさんと私達のお店、リサイクルショップ・レイジェスに来た。

モニカさんの紹介してくれた家具屋さんに、お店の中を見てもらうためだ。
午後3時丁度くらいに着くと、店の前に男性が一人立っているのが見えた。


「あ、もしかして、シンジョウ・ヤヨイさんでしょうか?」

私達に気がつくと、男性は小走りで近づいてきた。
三十代くらいだろうか。私より少し高いくらいの背丈で、平均的な男性の体格だ。

ただ、身なりはとても清潔感があり、暖かそうな紺色のウールのコートに、赤と黒のチェックのマーフラーを巻いている。

サッパリ短めに切りそろえられた髪と、人当たりの良さそうな笑顔は、初対面でもつい警戒を解いてしまいそうな柔らかさだった。


「あ、はい。そうです。モニカさんが紹介してくださった家具屋さんですか?」

すぐにピンと来てたずねると、男性はニコリと笑顔を見せて、自己紹介を始めた。

「はい。モロニー家具の、フリオ・モロニーです。モニカさんが急用で来れなくなってしまいましたので、私一人で来ました。長い黒髪の女性と聞いてましたので、すぐに分かりました。今日はよろしくお願いいたします」

「そうでしたか。私はシンジョウ・ヤヨイと申します。こちらこそ、よろしくお願いいたします。あの・・・ちょっと関係の無い事ではあるのですが、この街はモロニーというお店が沢山あるようですが、全部同じ系列なのですか?」

パトリックさんと行った喫茶モロニー、レオネラちゃんが拠点にしているモロニーハウス、そしてモロニー家具ときたので気になった。

フリオさんは、あぁ、と笑い、慣れた感じで答えてくれた。よく聞かれるのかもしれない。


「僕の兄弟がやってます。うちの家系の特徴ですかね。みんな商売が合ってるようでして、よく兄弟で一緒にやらないのか?とは聞かれるんですが、これがみんな我が強くて、同じ店を一緒にやろうとすると喧嘩になるんです。だから、それぞれで好きなようにやってるんです」

「そうだったんですか。謎が一つ解けました。喫茶店は二回行った事があるんです。ミートグラタン美味しかったですよ」

フリオさんは嬉しそうに顔をほころばせた。

「兄の店ですね。ミートグラタンは兄の自慢の料理なんです。気に入ってもらえたなら嬉しいです。そのうち、クインズベリーや、ロンズデールにも出店しようか考えてるみたいなんです。味を広めたいなんて言ってました」

「夢が合って良いですね。本当に美味しかったので、きっとファンも増えますよ。あ、立ち話しもなんですから、さっそくお店にどうぞ」



店内に入ったフリオさんは、観察するようにくまなく見て回った。

私とジャニスさんがお店のイメージを伝えながら、ここにはこういう物が欲しい。あそこにも何か物を置ける台が欲しいなど、色々細かい注文もしたけど、フリオさんは全部分かりました。とメモを取りながら話しを聞いてくれた。

「・・・あの、だいたいこんなところなんですが、大丈夫でしょうか?ちょっと、注文が多かったかなとも思って」

「ええ、大丈夫ですよ。まずはご依頼主の意見をちゃんと聞いて、できる限りご意向に沿うようにするのが仕事ですからね。まぁ、どうしてもできそうにない事は、ご相談させていただきますが、帰ったらうちの商品でどれだけ対応できるか確認してみますね」

「へぇ~、さすがモニカさんの紹介。フリオさんとこなら安心して任せられるね」

ジャニスさんは、フリオさんの仕事に対する姿勢に感心している。

私も同意見だ。できない事はできないと断るのは普通だと思う。
でも、まず考えてみる気持ちがある人は信頼できる。

「ははは、そう言ってもらえると嬉しいですね。ジャニスさんの希望した、角に取り付ける棚はなんとかしますね」

「本当ですか!?やった!」

店内のイメージや希望を伝えている時、ジャニスさんは店内の四隅の角に、棚を取り付けられないかと聞いていたのだ。

この物件は50坪程あるけれど、1/3は事務所兼倉庫だ。単純に計算すれば、33坪程しか商品を置けるスペースが無い。しかし、通路やレジカウンターのスペースを考えれば、実際に商品を陳列できるスペースはだいぶ少ない。

だから、限られたスペースをできるだけ余す事なく使いたいという事なのだ。


「はい。テーブルも、引き出しとか、収納が沢山ついた物をご用意します。多分、いざ商品を並べたら、少しでも多くの場所が必要になるでしょうからね。こう言っては何ですが、もっと広いところをお考えにはならなかったんですか?」


フリオさんには、奥の倉庫に保管してある古着をや家具を見せた。
すでに出張買取でかなりの量が集まっている。すぐにでも店に並べたいくらいだ。


「・・・はい。確かに全く考えなかったわけではありません。広ければ広い程商品を並べられるし、沢山のお客さんがいらっしゃいます。でも、やっぱり孤児院を最優先に考えた時、自分に見れる規模はこのくらいの広さなんです。それにあんまり広いと目が届かない場所もでて、結局商品を埋もれさせちゃうと思うんです。それでは、本来の目的に合わないですし」

リサイクルショップをやろうとした理由は、不用品を買い取り、欲しい人へ。という目的があったからだ。物を大切にするこの世界の人達にこそ、リサイクルショップが必要なはずだから。


「そうでしたか。分かりました。では、このスペースで最大限に活用できる什器を用意して見せます」
まかせてください!と、フリオさんは胸を張る。


モニカさんの言う通り、フリオさんは信頼できる家具屋さんだと感じた私は、店の看板もフリオさんにお願いする事にした。



後日、フリオさんが用意してくれた什器類は私達の希望に沿う物が多かった。
一部難しい注文もあったけれど、元々あった什器を加工して代用できるようにしてあったりと、とても親切丁寧に感じた。



着々と準備は進み、三月。

ついにリサイクルショップ・レイジェスは完成した。
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