216 / 1,298
【216 家具屋】
しおりを挟む
しとしとと雪が降る。
二月の寒さは、日本も異世界も変わらず、体の芯にまで響くようだ。
この日の午後、孤児院の仕事を終えてから、私はジャニスさんと私達のお店、リサイクルショップ・レイジェスに来た。
モニカさんの紹介してくれた家具屋さんに、お店の中を見てもらうためだ。
午後3時丁度くらいに着くと、店の前に男性が一人立っているのが見えた。
「あ、もしかして、シンジョウ・ヤヨイさんでしょうか?」
私達に気がつくと、男性は小走りで近づいてきた。
三十代くらいだろうか。私より少し高いくらいの背丈で、平均的な男性の体格だ。
ただ、身なりはとても清潔感があり、暖かそうな紺色のウールのコートに、赤と黒のチェックのマーフラーを巻いている。
サッパリ短めに切りそろえられた髪と、人当たりの良さそうな笑顔は、初対面でもつい警戒を解いてしまいそうな柔らかさだった。
「あ、はい。そうです。モニカさんが紹介してくださった家具屋さんですか?」
すぐにピンと来てたずねると、男性はニコリと笑顔を見せて、自己紹介を始めた。
「はい。モロニー家具の、フリオ・モロニーです。モニカさんが急用で来れなくなってしまいましたので、私一人で来ました。長い黒髪の女性と聞いてましたので、すぐに分かりました。今日はよろしくお願いいたします」
「そうでしたか。私はシンジョウ・ヤヨイと申します。こちらこそ、よろしくお願いいたします。あの・・・ちょっと関係の無い事ではあるのですが、この街はモロニーというお店が沢山あるようですが、全部同じ系列なのですか?」
パトリックさんと行った喫茶モロニー、レオネラちゃんが拠点にしているモロニーハウス、そしてモロニー家具ときたので気になった。
フリオさんは、あぁ、と笑い、慣れた感じで答えてくれた。よく聞かれるのかもしれない。
「僕の兄弟がやってます。うちの家系の特徴ですかね。みんな商売が合ってるようでして、よく兄弟で一緒にやらないのか?とは聞かれるんですが、これがみんな我が強くて、同じ店を一緒にやろうとすると喧嘩になるんです。だから、それぞれで好きなようにやってるんです」
「そうだったんですか。謎が一つ解けました。喫茶店は二回行った事があるんです。ミートグラタン美味しかったですよ」
フリオさんは嬉しそうに顔をほころばせた。
「兄の店ですね。ミートグラタンは兄の自慢の料理なんです。気に入ってもらえたなら嬉しいです。そのうち、クインズベリーや、ロンズデールにも出店しようか考えてるみたいなんです。味を広めたいなんて言ってました」
「夢が合って良いですね。本当に美味しかったので、きっとファンも増えますよ。あ、立ち話しもなんですから、さっそくお店にどうぞ」
店内に入ったフリオさんは、観察するようにくまなく見て回った。
私とジャニスさんがお店のイメージを伝えながら、ここにはこういう物が欲しい。あそこにも何か物を置ける台が欲しいなど、色々細かい注文もしたけど、フリオさんは全部分かりました。とメモを取りながら話しを聞いてくれた。
「・・・あの、だいたいこんなところなんですが、大丈夫でしょうか?ちょっと、注文が多かったかなとも思って」
「ええ、大丈夫ですよ。まずはご依頼主の意見をちゃんと聞いて、できる限りご意向に沿うようにするのが仕事ですからね。まぁ、どうしてもできそうにない事は、ご相談させていただきますが、帰ったらうちの商品でどれだけ対応できるか確認してみますね」
「へぇ~、さすがモニカさんの紹介。フリオさんとこなら安心して任せられるね」
ジャニスさんは、フリオさんの仕事に対する姿勢に感心している。
私も同意見だ。できない事はできないと断るのは普通だと思う。
でも、まず考えてみる気持ちがある人は信頼できる。
「ははは、そう言ってもらえると嬉しいですね。ジャニスさんの希望した、角に取り付ける棚はなんとかしますね」
「本当ですか!?やった!」
店内のイメージや希望を伝えている時、ジャニスさんは店内の四隅の角に、棚を取り付けられないかと聞いていたのだ。
この物件は50坪程あるけれど、1/3は事務所兼倉庫だ。単純に計算すれば、33坪程しか商品を置けるスペースが無い。しかし、通路やレジカウンターのスペースを考えれば、実際に商品を陳列できるスペースはだいぶ少ない。
だから、限られたスペースをできるだけ余す事なく使いたいという事なのだ。
「はい。テーブルも、引き出しとか、収納が沢山ついた物をご用意します。多分、いざ商品を並べたら、少しでも多くの場所が必要になるでしょうからね。こう言っては何ですが、もっと広いところをお考えにはならなかったんですか?」
フリオさんには、奥の倉庫に保管してある古着をや家具を見せた。
すでに出張買取でかなりの量が集まっている。すぐにでも店に並べたいくらいだ。
「・・・はい。確かに全く考えなかったわけではありません。広ければ広い程商品を並べられるし、沢山のお客さんがいらっしゃいます。でも、やっぱり孤児院を最優先に考えた時、自分に見れる規模はこのくらいの広さなんです。それにあんまり広いと目が届かない場所もでて、結局商品を埋もれさせちゃうと思うんです。それでは、本来の目的に合わないですし」
リサイクルショップをやろうとした理由は、不用品を買い取り、欲しい人へ。という目的があったからだ。物を大切にするこの世界の人達にこそ、リサイクルショップが必要なはずだから。
「そうでしたか。分かりました。では、このスペースで最大限に活用できる什器を用意して見せます」
まかせてください!と、フリオさんは胸を張る。
モニカさんの言う通り、フリオさんは信頼できる家具屋さんだと感じた私は、店の看板もフリオさんにお願いする事にした。
後日、フリオさんが用意してくれた什器類は私達の希望に沿う物が多かった。
一部難しい注文もあったけれど、元々あった什器を加工して代用できるようにしてあったりと、とても親切丁寧に感じた。
着々と準備は進み、三月。
ついにリサイクルショップ・レイジェスは完成した。
二月の寒さは、日本も異世界も変わらず、体の芯にまで響くようだ。
この日の午後、孤児院の仕事を終えてから、私はジャニスさんと私達のお店、リサイクルショップ・レイジェスに来た。
モニカさんの紹介してくれた家具屋さんに、お店の中を見てもらうためだ。
午後3時丁度くらいに着くと、店の前に男性が一人立っているのが見えた。
「あ、もしかして、シンジョウ・ヤヨイさんでしょうか?」
私達に気がつくと、男性は小走りで近づいてきた。
三十代くらいだろうか。私より少し高いくらいの背丈で、平均的な男性の体格だ。
ただ、身なりはとても清潔感があり、暖かそうな紺色のウールのコートに、赤と黒のチェックのマーフラーを巻いている。
サッパリ短めに切りそろえられた髪と、人当たりの良さそうな笑顔は、初対面でもつい警戒を解いてしまいそうな柔らかさだった。
「あ、はい。そうです。モニカさんが紹介してくださった家具屋さんですか?」
すぐにピンと来てたずねると、男性はニコリと笑顔を見せて、自己紹介を始めた。
「はい。モロニー家具の、フリオ・モロニーです。モニカさんが急用で来れなくなってしまいましたので、私一人で来ました。長い黒髪の女性と聞いてましたので、すぐに分かりました。今日はよろしくお願いいたします」
「そうでしたか。私はシンジョウ・ヤヨイと申します。こちらこそ、よろしくお願いいたします。あの・・・ちょっと関係の無い事ではあるのですが、この街はモロニーというお店が沢山あるようですが、全部同じ系列なのですか?」
パトリックさんと行った喫茶モロニー、レオネラちゃんが拠点にしているモロニーハウス、そしてモロニー家具ときたので気になった。
フリオさんは、あぁ、と笑い、慣れた感じで答えてくれた。よく聞かれるのかもしれない。
「僕の兄弟がやってます。うちの家系の特徴ですかね。みんな商売が合ってるようでして、よく兄弟で一緒にやらないのか?とは聞かれるんですが、これがみんな我が強くて、同じ店を一緒にやろうとすると喧嘩になるんです。だから、それぞれで好きなようにやってるんです」
「そうだったんですか。謎が一つ解けました。喫茶店は二回行った事があるんです。ミートグラタン美味しかったですよ」
フリオさんは嬉しそうに顔をほころばせた。
「兄の店ですね。ミートグラタンは兄の自慢の料理なんです。気に入ってもらえたなら嬉しいです。そのうち、クインズベリーや、ロンズデールにも出店しようか考えてるみたいなんです。味を広めたいなんて言ってました」
「夢が合って良いですね。本当に美味しかったので、きっとファンも増えますよ。あ、立ち話しもなんですから、さっそくお店にどうぞ」
店内に入ったフリオさんは、観察するようにくまなく見て回った。
私とジャニスさんがお店のイメージを伝えながら、ここにはこういう物が欲しい。あそこにも何か物を置ける台が欲しいなど、色々細かい注文もしたけど、フリオさんは全部分かりました。とメモを取りながら話しを聞いてくれた。
「・・・あの、だいたいこんなところなんですが、大丈夫でしょうか?ちょっと、注文が多かったかなとも思って」
「ええ、大丈夫ですよ。まずはご依頼主の意見をちゃんと聞いて、できる限りご意向に沿うようにするのが仕事ですからね。まぁ、どうしてもできそうにない事は、ご相談させていただきますが、帰ったらうちの商品でどれだけ対応できるか確認してみますね」
「へぇ~、さすがモニカさんの紹介。フリオさんとこなら安心して任せられるね」
ジャニスさんは、フリオさんの仕事に対する姿勢に感心している。
私も同意見だ。できない事はできないと断るのは普通だと思う。
でも、まず考えてみる気持ちがある人は信頼できる。
「ははは、そう言ってもらえると嬉しいですね。ジャニスさんの希望した、角に取り付ける棚はなんとかしますね」
「本当ですか!?やった!」
店内のイメージや希望を伝えている時、ジャニスさんは店内の四隅の角に、棚を取り付けられないかと聞いていたのだ。
この物件は50坪程あるけれど、1/3は事務所兼倉庫だ。単純に計算すれば、33坪程しか商品を置けるスペースが無い。しかし、通路やレジカウンターのスペースを考えれば、実際に商品を陳列できるスペースはだいぶ少ない。
だから、限られたスペースをできるだけ余す事なく使いたいという事なのだ。
「はい。テーブルも、引き出しとか、収納が沢山ついた物をご用意します。多分、いざ商品を並べたら、少しでも多くの場所が必要になるでしょうからね。こう言っては何ですが、もっと広いところをお考えにはならなかったんですか?」
フリオさんには、奥の倉庫に保管してある古着をや家具を見せた。
すでに出張買取でかなりの量が集まっている。すぐにでも店に並べたいくらいだ。
「・・・はい。確かに全く考えなかったわけではありません。広ければ広い程商品を並べられるし、沢山のお客さんがいらっしゃいます。でも、やっぱり孤児院を最優先に考えた時、自分に見れる規模はこのくらいの広さなんです。それにあんまり広いと目が届かない場所もでて、結局商品を埋もれさせちゃうと思うんです。それでは、本来の目的に合わないですし」
リサイクルショップをやろうとした理由は、不用品を買い取り、欲しい人へ。という目的があったからだ。物を大切にするこの世界の人達にこそ、リサイクルショップが必要なはずだから。
「そうでしたか。分かりました。では、このスペースで最大限に活用できる什器を用意して見せます」
まかせてください!と、フリオさんは胸を張る。
モニカさんの言う通り、フリオさんは信頼できる家具屋さんだと感じた私は、店の看板もフリオさんにお願いする事にした。
後日、フリオさんが用意してくれた什器類は私達の希望に沿う物が多かった。
一部難しい注文もあったけれど、元々あった什器を加工して代用できるようにしてあったりと、とても親切丁寧に感じた。
着々と準備は進み、三月。
ついにリサイクルショップ・レイジェスは完成した。
0
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~
月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。
「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。
そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。
『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。
その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。
スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。
※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。)
※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~
白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。
日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。
ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。
目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ!
大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ!
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。
【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】
異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる