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【209 契約】

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翌日 12月30日

この日も午後3時頃には孤児院の仕事が落ち着いた。
ジャニスさんが、後はキャロルちゃんとトロワ君の三人で見ているから、物件を見に行っていいよと言ってくれた。

そう遅くはならないと思ったので、私とブレンダン様、ウィッカーさんとメアリーちゃんの四人で、約束した待ち合わせ場所に向かう事にした。


物件の場所を告げると、ブレンダン様は、あそこか~、と思い出したように手を打ち合わせた。

元は魔道具店で、店主が高齢のため店を引き払ったそうですと伝えると、ブレンダン様は少し寂しそうに、確かにのう、と一言口にした。

ブレンダン様が、まだ闘技場で戦っていた頃はよく足を運んでいたそうで、色々と思い出があるそうだ。
懐かしむように当時はどんなお店だったかを話すブレンダン様は、寂しそうだけど、楽しい事も沢山あった。そんな風に見えた。




「あぁ、ヤヨイちゃん!こんにちは。おや?そちらの方々がお仕事仲間かな?」

待ち合わせ場所の物件に着くと、レオネラちゃんはすでに待っていた。やはり寒がりなのか、手をこすり合わせていた。

私が待たせた事を謝ると、レオネラちゃんは、自分が早く着ただけだからと言って笑ってくれた。


「アラルコン商会の、レオネラ・アラルコンです。今日はよろしくお願いします」

私と簡単に挨拶を済ませた後、レオネラちゃんはブレンダン様達にあらためて自己紹介をした。

「ブレンダン・ランデルですじゃ。街外れで孤児院をやっとります。こっちは弟子のウィッカーと、同じく孤児院で働いてくれとるメアリーじゃ」

ブレンダン様に促されると、ウィッカーさんとメアリーちゃんが一歩前に出て、よろしくと言って、レオネラちゃんと挨拶を交わした。


「いやぁ~、ちょっと驚いたよ。昨日、カエストゥスの孤児院に住んでるって聞いたから、もしかしてって思ったけど・・・本当にブレンダン様が来るなんて」

「あ、やっぱりブレンダン様って、ロンズデールでも有名なの?」

「そうだねぇ~、やっぱり大陸一の魔法使いだからね。知らない人はいないと思うよ。今は、この国の王子様が最強って聞くけど、それでも長年の功績を考えれば、ブレンダン様が絶対と思ってる人も沢山いるしね・・・よし、じゃあ入ろうか」

カギを開けて中へ入るレオネラちゃんに続いて、私達も室内へ足を入れる。

レオネラちゃんが建物の説明をして、合間に私がイメージを説明する。
ブレンダン様も、ウィッカーさんもメアリーちゃんも、みんな賛成してくれるように頷きながら聞いてくれた。



「えっと、だいたいこんなとこかなぁ~、なにか質問あればどうぞ」

建物や契約金に関して説明を終えると、レオネラちゃんが私達に手を向けて、質問を促す。

「そうじゃな・・・建物は築年数を考えると、補修もしっかりされとるようだし、問題なさそうじゃ。購入で考えとるが、2,000万イエンなら打倒なとこじゃろ。ワシは店に立つ事はないじゃろうから、後はお主達の気持ちじゃな、みんなここでいいのかな?」

今日あらためて室内に入り、私の気持ちは固まった。
ウィッカーさんも、メアリーちゃんも賛成してくれたので、ブレンダン様はそのまま契約をすると答えてくれた。


「ありがとうございます!では、これが正式な契約書ですので、内容に目を通していただいて、問題なければサインをお願いします。2,000万は一括でよろしいのですか?」

「あぁ、構わんよ。そのくらいの蓄えはあるからのう。魔戦トーナメント10連覇の賞金も、孤児院を建てた時に使ったくらいでまだまだある。じゃから問題ないぞ」

「さすがブレンダン様だぁ~、ぜひお近づきになりたいですねぇ~」

「ほっほっほ、分かりやすいアピールは嫌いじゃないぞ」

レオネラちゃんは、ブレンダン様に書類を渡して契約についての細部を説明している。

待っている間、これからの事を話し合っていると、メアリーちゃんが思いついたように声を出した。



「あ!ヤヨイさん、私ポーさんのために綿が沢山必要なんです。この街で仕入れてもいいのですが、レオネラさんのところでも扱っているかもしれません。聞いてきてもよろしいですか?」

「あ、そうね。もし、レオネラちゃんのところで、この街より安く仕入れられるなら、その方がいいと思うわ。ロンズデールで一番の商会みたいだし」

私聞いてきます!張りきった声を出して、メアリーちゃんはレオネラちゃんのところに駆けて行った。


「白クマのポーさんって、ニホンではすごい人気なんですね?俺もヤヨイさんが描いた絵を見せてもらいましたけど、クマをあんな風に可愛くアレンジするなんてすごいですよ。こっちには無いデザインです。ジャニスもキャロルも、子供達もみんな褒めてましたから、あったら絶対売れると思いますよ」

メアリーちゃんが行ってしまうと、ウィッカーさんがポーさんに付いて、孤児院の子供達の間でも評判が良かったと教えてくれた。

この世界には、人形はあったけれど、子供達が好きそうなキャラクター系のぬいぐるみは無かった。

犬や猫をイメージしたようなぬいぐるみを見た事はあったけれど、なんと言うか面白味が全く無いのだ。その犬や猫で人気キャラクターを作ろうという意識が感じられなかった。
ただ、犬か猫か分かるだけの工夫が無いぬいぐるみだった。

アニメや漫画が無いわけだし、デフォルメという発想が無いのかもしれない。


「ふふ、メアリーちゃんが一番気に入ったようね。あんなにハリきってるんだもの。もうポーさん担当ね」

「ははっ、本当にそうですね。あんなに楽しそうで、俺も見てて嬉しいです」

ウィッカーさんが顔を向けると、メアリーちゃんは早くも打ち解けた様子で、レオネラちゃんと話しをしていた。



そしてブレンダン様の契約の話しも終わり、代金は後日、レオネラちゃんが孤児院に取りに来る事になった。
メアリーちゃんの欲しがっている綿も、アラルコン商会で扱っていると言うので、孤児院に代金を取りに来る時に、綿も一緒に持って来るという事で話しがまとまったようだ。


「いやぁ~、長いお付き合いになりそうで嬉しいねぇ~。綿もあるけど、ここで古着や生活用品を売るんでしょ?それなら、孤児院に行く時には色々持って行くからさ、見るだけ見てよ」

「ふふ、そうね。不要品を買い取って売るお店だけど、新品も扱うから、合いそうな物があったら仕入れさせてもらうわ。楽しみにしてるね」

レオネラちゃんは明日と明後日は都合が悪いと言うので、年明け1月2日に孤児院に来る事で予定を付けた。

無事に物件も決まり、仕入れに関しても、アラルコン商会一本でまとまりそうな感触があった。
一年の最後に、オープンに向けて大きく前進する事ができて、私は思わず頬が緩んだ。



孤児院に帰ってからは、みんなに物件を決めた事を報告して、アラルコン商会から色々仕入れるかもしれないと伝えた。
キャロルちゃんもトロワ君も、子供達もみんな楽しみにしているようで、早くお店やりたいね!と話している。

まだ小さい子供達には、お店屋さんごっこみたいなイメージもあるのかもしれない。
私も小さい頃、ごっこ遊びをした事があるから分かるけど、自分が店員さんの役をやると、大人になった感じがして楽しいのだ。

レオネラちゃんから鍵をもらったら、時間を見つけて、子供達も連れて行ってあげたいと思った。

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