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【208 物件のイメージ】

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「いやぁ、レオネラさんてすごいんだね!カエストゥスの行商をまかされてるんだ?」

私とジャニスさんとレオネラさんは、三人で喫茶店に入りお茶をしている。

喫茶モロニーという初めて入ったお店だったけれど、丸太を縦半分に切ったテーブルや、窓辺に置かれた花など、木の温もりが感じられるし、落ち着いた雰囲気の素敵なお店だった。

紅茶とケーキのセットを人数分頼み、食べながらお話しをしていたのだけど、レオネラさんのお仕事の話しになると、私もジャニスさんもとても刺激を受けた。


「そうだねぇ~、ロンズデール国内はまだ父が回しているけど、もう年だからね。遠出できる体力が無いんだよね。だから、国外は私がまかされてるんだよ。と言っても私は主にカエストゥスで、クインズベリーとか、ブロートンには任せられる部下を行かせてるけどねぇ~」

「レオネラさん、私と同じ23歳なのに、大陸中で行商をされてるなんて・・・尊敬します。それだけ大きな商会だから、他国で物件の取り扱いもできるようになったんですね」


レオネラさんは紅茶を口に含むと、ゆっくり味わうように喉に流し、ホっと息をついて軽く手を振った。

「尊敬なんてやめてよぉ~、同い歳でしょ?ジャニスちゃんみたく、気安い感じでいいから。ヤヨイちゃん、アタシね、10歳になってからはずっと父の仕事を手伝ってきたの。楽しかったわ。
元々商売は好きだったのね・・・大陸中を回って、色んな職人さんとも出会って・・・充実してた。でも・・・お友達はできなかった。みんなアタシを、アラルコン商会の娘としか見てくれなかった。だから、こんな風に喫茶店で女の子とケーキ食べるのなんて、実は初めてなんだよねぇ~・・・・・」


正面に座るレオネラさんは、笑顔だけどほんの少し寂しそうに見える。

私はつい、レオネラさんの手を取っていた。

「私とお友達になりま・・・・・お友達になろう?レオネラさ・・・ちゃん」

「・・・ヤヨイちゃん」

「あ~ヤヨイさん、レオネラさん、私も入れてよ」

隣のジャニスさんが、私とレオネラちゃんの手に、手を重ねた。
私とジャニスさんは顔を合わせて笑顔を笑い合うと、レオネラちゃんにも笑顔を向けた。

「ね?私達とお友達になろう?レオネラちゃん」

「・・・うん!嬉しいよ!よろしくねヤヨイちゃん、ジャニスちゃん」

そう言って微笑むレオネラちゃんの表情は、さっきまでのどこか一歩引いた感じではなく、気を許した友達に見せる本当の笑顔に見えた。

それから私達は、孤児院の事やリサイクルショップの計画の事、お互いの事を沢山話した。

考えてみると、この世界で同い歳のお友達は初めてだ。
なんだかすごく嬉しかった。



ちなみに、最初に声をかけてきたあの男は、アラルコン商会の名前を聞くと、そそくさと逃げ出して行った。
あの男が、いわゆる詐欺かどうかはハッキリしなかったけど、良い印象はなかったからレオネラちゃんの助けに感謝だ。

レオネラちゃんが言うには、見せかけだけ取り繕って、欠陥のある物件を契約させようとする悪い業者もいるから、物件を選ぶ時は、慎重に信用できる人から買うようにと念を押された。

じゃあ、少なくとも今回は大丈夫だね。レオネラちゃんを見てそう返事をすると、一瞬だけ目を丸くして、責任重大だぁ~と言って笑ってくれた。




喫茶店を出た後、レオネラちゃんが案内してくれた物件は、私のイメージに大分近い建物だった。

首都バンテージのカラフルな建物とは違い、横に長いだけの石作りで、50坪あるかないかくらいだ。

中もシンプルで、休憩室に使えそうな部屋が一室あり、あとは1/3くらいのスペースが、倉庫や事務所用として区分されていたくらいだ。

前の持ち主は魔道具屋を営んでいたそうだけど、高齢になり隠居したためここを売ったそうだ。

「あ~、そう言えば確かにここ、元は魔道具屋だったかも。閉店したの五年くらい前じゃないかな?忘れてた」

建物に入り、中を見ているとジャニスさんが一人言のように呟いた。
懐かしそうに目を細め、壁や、残されたテーブルに触れている。

「ここどうかな?50坪で、買うなら切りよく2,000万イエン。もちろん分割もできるよ。借りるんなら月15万イエン」

値段を聞いて少し考えてみた。
日本で東京なら、とてもそんな値段では買えない。二倍、いやそれ以上かかるかもしれない。

ここはカエストゥスの首都バンテージだけど、土地、建物の相場は、日本で言う地方くらいの感覚で考えていいのかもしれない。

「私はよく分かんないや。ヤヨイさん、どう?イメージに合う?」

「・・・うん。いいと思う。立地も良いし、私の考えてる規模にも合うわ。お値段も妥当ね。あとはブレンダン様にも一度見ていただいて、了承が得られたら契約ね。レオネラちゃん、明日も予定大丈夫かな?他にも見て欲しい人がいるの」

「いいよぉ~、じゃあとりあえず押さえておくね。明日もここで待ち合わせにする?」


私達は明日の同じ時間にここで待ち合わせをする事にして、この日はお別れをした。

帰り道はすっかり暗くなっていた。冬は夜が長い。

ジャニスさんと並んで歩き、物件の感想を話しあった。お店のレイアウトについて、私のイメージを話すと、ジャニスさんも、良いねと賛同してくれた。

この世界は車が無いから駐車場がまず必要ない。
馬車はあるけど、リサイクルショップに馬車で来て、馬車で帰るというのも考え辛いので、馬車のスペースを気にする必要はないと思った。

だから建物の内装だけ気にすればいい。
おおまかだけど、基本的には入口を入ったらすぐ横に買い取りカウンター。
買い取りカウンターの隣には会計レジ。
あとはハンガーやワゴン、平台なんかをジャンル毎に分類して配置すればいい。
奥には休憩室と倉庫もあったので、実に使い安い物件だと思った。


ジャニスさんは、自分は商売経験ないからまかせるよ。と言ってくれたけど、一緒にやるのだから、できるだけ話し合って決めたい。

明日はブレンダン様だけじゃなく、できればウィッカーさんとメアリーちゃんも連れて行きたい。


「ヤヨイさん、なんか楽しそうな顔してるね?」

「え?そうかな?」

「うん。やりたい事が見つかったからだよね?なんか、前より生き生きしてるって感じかな」

自覚は無かったけど、そうなのかもしれない。
ブレンダン様に許可をいただいてから、私は毎日リサイクルショップの事で頭がいっぱいだ。

日本のウイニングで働いていた時間は、私にとって本当に大切なものだったんだなと改めて実感した。

「・・・そうね。私、本当に楽しみなんだ。早くお店オープンさせたいな」

前を向いたまま、自分の気持ちを確認するように口にすると、ジャニスさんは、そっか、と言って私の手を取った。

「ヤヨイさん、冷え性だったよね。私はあったかいよ」


ジャニスさんと手を繋いで帰ったこの日は、外の風もいつもより暖かく感じた。
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