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翌日も孤児院の掃除と修理を行った。

できるところは自分達でなんとかするけど、壊れたドアや壁は自分達ではどうしようもないので、ブレンダン様が街で職人さんを雇いお願いする事になった。

ブレンダン様は顔が広い。長年孤児院で多くの子供達を育てた人望から、二つ返事で多くの職人さんが集まったようだ。

焼かれて荒れた庭は、私達女性陣と子供達で、前以上に綺麗にしようという事になった。
最初は、ブレンダン様が街で人を雇ってと考えていたけれど、メアリーちゃんが自分でやりたいと申し出たのだ。

メアリーちゃんはお花を大事に育てていたので、今の荒れた庭を見るととても悲しそうな顔をする。

だけど負けないで、前よりもっと綺麗なお花でいっぱいの庭にすると決めたみたい。
ジャニスさんも、キャロルちゃんも、もちろん私も、そんなメアリーちゃんを応援して、助けたいと思い、女性全員と子供達でやろうという話しになった。


私の記憶の事は、みんな好意的に受けとってくれた。
パトリックさんだけが、直接もう一人の弥生に会っているので、どういう人かみんなに説明をすると、みんな私を見て、想像できない。と口々に語った。

今の私とは正反対の性格で、男勝り。
それがパトリックさんが、弥生から受けた印象だった。

でも、とても繊細な人だった。
最後にパトリックさんは、少し遠くに目をやってそう一言付け加えた。

私は、ちゃんと弥生を見てくれているんだ。そう思い嬉しさを感じた。



パトリックさんとエロール君は、この日の昼食の後、お城へ戻る事になった。
パトリックさんは、昨晩目を覚ましたばかりなので、体調が心配だったけれど、これだけの事態になったので、魔法兵団へ早く報告をしなければならないそうだ。

「一段落ついたら、街案内させてください」

そう話して笑顔をみせてくれるパトリックさんに、私も笑顔で、はい、待ってます。と答えた。


ジョルジュさん達親子は二日目も孤児院の片づけを手伝って泊まっていったけど、三日目に職人さんが入り、本格的に修理作業が始まると、ここからは自分達でお手伝いできそうな事はなさそうですから、と言って森の家に帰る事になった。

キャロルちゃんは、ジョルジュさんが帰る時、寂しそうな顔をして、玄関口でまた来てください。と声をかけていた。

やっぱりジョルジュさんが好きなんだなと思って見ていると、少し離れたところでトロワ君が、なんだか難しい顔をして二人を見ていた。

どうしたの?と声をかけると、トロワ君にしてはあまり元気の無い声で、なんでもない。とだけ一言口にして、それ以上はあまり話したくなさそうに見えたので、私も、そう、とだけ返して終わりにした。

二人となにかあったのかな?と思ったけど、ジョルジュさん達が孤児院を出て、歩く背中がどんどん小さくなっていくと、玄関を飛び出し大きな声で、ジョル にぃまたなー!と呼びかけ、何度も手を振っていた。


なにかあったのかもしれない。

でも、このくらいの歳の子は難しいから、私が無理に聞かない方がいいかもしれない。
それに、ジョルジュさんに笑って手を振っているし、トラブルという訳ではなさそうだ。

トロワ君がもし私に相談してくれる事があったら、その時は一緒に考えようと思う。


パトリックさんとエロール君、そしてジョルジュさん達が帰ってしまうと、にぎやかだった家が少し広く感じてしまった。

孤児院が狙われる前の生活に戻っただけなのに、私は寂しさを覚えていた。

それは私だけでなく、みんな同じようだった。
特に、パトリックさんとエロール君は2週間もいたので、子供達もすっかり懐いていたのだ。
子供達は、口々に寂しさを訴えていたし、意外と言ったら失礼だけど、エロール君は人気があった。

エロール君は、ぶっきらぼうなのだけれど、一度子供達の遊びに付き合うと、とことんまで付き合うのだ。
やり始めたら最後までという性格なのかもしれない。

その結果、他の男性達より子供達にかまう時間が多く、最後は子供達の一番人気になっていた。

次はいつ来るのかなぁ、という子供達に、また会えるといいね。と言葉を返す。


殺し屋に狙われていた日々は、とても怖く毎日緊張していたけれど、みんなとの生活は楽しかった。

孤児院が壊されたし、命の危険もあったので、こんな事を言うのは駄目かもしれないけど、
みんなで囲んだ食卓はいつもより美味しく感じられた。

またいつか・・・・・




午後、天気も良く、洗濯物を干していると、玄関口からジャニスさんとメアリーちゃん、キャロルちゃんの三人が、興奮した面持ちで走ってきた。

ジャニスさんはスージーちゃんを、メアリーちゃんはチコリちゃんを抱っこしている。

「ちょっとヤヨイさん!見て見て!」
「ヤヨイさん!私感動しました!」
「ヤヨイさん!本当に驚くから!」

シャツのシワを伸ばす手を止めて、私はみんなの顔を見る。
みんなすごい力の入った目で私を見ている。一体どうしたのだろう?


「えっと、なにがあったの?」

勢いに押されながら私がたずねると、ジャニスさんとメアリーちゃんが、抱っこしていたスージーちゃんとチコリちゃんの両脇に手を添えながら、腰を下ろし、そっと地面に立たせた。

二人とも、物に捕まりながらのつたい歩きはできるけど、まだ補助無しで歩く事はできない。
だから、こうして両脇に手を添えながら、補助無しで立たせる練習を毎日しているのだ。


「え・・・もしかして」

なんとなく察すると、三人は私の顔を見て、ニッコリを笑い、スージーちゃんとチコリちゃんの両脇から、支えている手が抜ける。


私は驚きの声を上げた。

スージーちゃんとチコリちゃんが、支え無しで立っているのだ。
まだ足元がふらふらしているけど、初めて補助無しで立ったのだ。

「すごいでしょ!」

キャロルちゃんが、ニコニコしながら私に顔を向ける。

「ふふ、ヤヨイさん。ここからですよ」

メアリーちゃんが、意味深な笑みを浮かべるので、なにかな?と、スージーちゃんとチコリちゃんを見ていると、なんと二人とも、そのまま歩いたのだ。


「え!歩いた!?」

私が声を上げて驚くと、ジャニスさん、メアリーちゃん、キャロルちゃんの三人は、イタズラが成功したかのように、顔を見合わせて笑い、三人でハイタッチをする。

スージーちゃんとチコリちゃんは、ほんの2~3歩で、すぐに尻もちをついてしまったけれど、昨日まで伝い歩きしかできなかったのに、今日は補助無しで歩いたのだ。

びっくりしたと同時に感動して、私は少し目元が濡れてしまった。


「ね、ヤヨイさん。感動したでしょ?」

メアリーちゃんが、チコリちゃんを抱き上げて、頑張りましたね。とあやしながら頭を撫でる。

「うん。驚いたし、本当に感動した・・・確か、二人とも今月で1歳1ヶ月だったよね?」

「はい。二人とも、誕生日が近いんです。今月でどちらも1歳1ヶ月ですよ」

確か、私が日本で覚えた知識だと、1歳くらいから一人歩きができるようになるはずなので、1歳1ヶ月だと標準的な成長の速さか、少し早いくらいかもしれない。このまますくすく育って欲しい。


「・・・子供が初めて歩くのを見ると、こんなに感動するんだ・・・」

「うふふ・・・ヤヨイさん、お母さんの気持ちですね?」

目元を拭いながらそう呟くと、メアリーちゃんが私の顔を覗き見て微笑む。

「・・・うん、そうかもしれないわね。私、スージーちゃんもチコリちゃんも大好きだから。いつの間にかお母さんの気持ちになってたかも」

メアリーちゃんに抱っこされて、機嫌良く笑っているチコリちゃんの頭を撫でる。
髪がとても細くふわふわで、まるで産毛のような触り心地だ。


「ヤヨイさんなら、きっと素敵なお母さんに慣れますよ」

チコリちゃんの頭を撫でる私に、メアリーちゃんは優しく声をかけてくれる。

「ありがとう。メアリーちゃんも、きっと素敵なお母さんに慣れるわ」

同じ言葉をメアリーちゃんにもかけると、メアリーちゃんは嬉しそうに笑ってくれた。


「じゃあ、ヤヨイさん、私達先に中に戻ってますね」

ジャニスさん達が手を振って孤児院の中に戻ったので、私は洗濯物干しを再開する。


さっきまで少し寂しかった心の中は、今はとても晴れた気分で、気持ちが良かった。
子供の成長、これから先、スージーちゃんもチコリちゃんも、どんどん新しい事を見せてくれるだろう。

歩いたから、次は言葉かな。
今はまだ、あ~、う~、といった喃語なんごだけで、ハッキリとした言葉になっていないけれど、あっという間だと思う。

最初に話す言葉はなんだろう?
興味は尽きず、どんどんでてくる。


孤児院には沢山の子供達がいる。
毎日一緒に生活しているから気付きにくいけど、一人一人毎日成長しているのだ。

あの子達は、明日はどんな姿を見せてくれるだろう?

母親というのは、こういう気持ちなのかもしれない。

私もいつか、自分に子供ができたら・・・・・
想像すると胸が温かくなる。


優しい未来を思い浮かべて、私は今日も洗濯物を干した。
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