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【185 トロワとキャロルの決意】
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一階、子供達の大部屋で寝ていたタジーム・ハメイドは、外から聞こえる微かな音に目を覚ました。
音の正体は分からなかった。だが、直感で、悪い事が起きている、それだけは察し、ベッドから降りると窓へと向かい、おもむろにカーテンを引き開けた。
目に映ったものは、庭の草木を焼く赤い炎だった。
タジームが聞いた音の正体は、葉が焦げ、枝が焼け落ちる音だった。
タジームは言葉を発しなかった・・・・・だが、その目には怒りの色が映り、感情の高まりに全身から魔力が漏れ出していた。
「・・・王子?どうされました?」
ふいに背中に声をかけられ振り返ると、メアリーがベットから降りるところだった。
タジームは答える代わりに、顎で窓の外を指した。
メアリーはベットから降りると、怪訝な表情をしながらも、促されるままタジームの背中越しに窓の外へ目を向け、悲鳴を上げた。
「みんな起きて!火事よ!」
メアリーは声を上げながら、寝ている子供達を揺すり起こす。
最初にキャロルとトロワが目を覚ました。
二人は火事という言葉を聞いて、すぐに状況を理解した。
今日まで、この孤児院が狙われているかもしれない。という事を聞いていたので、ショックはあったが、取り乱す事はせずに行動に移れた。
キャロルは、メアリーに落ち着くように話し、トロワはまだ寝ぼけ眼の、自分より更に幼い子供達を起こしていく。
「おい、全員目を覚ましたか?起きたら俺の近くにいろ。離れると危険だぞ」
子供達が起き出したところで、タジームが窓の外へ顔を向けたまま誰に言うでもなく言葉を発した。
「よし、みんな!前から話してた通り、とうとう俺達の家が悪い連中に襲われた!王子兄ちゃんにくっついてれば安全だから、みんな王子兄ちゃんから離れないように!」
トロワが子供達に指示を出すと、それぞれしっかりと返事を返し、タジームの周りに駆け寄って行く。
10歳未満のまだ小さな子供達だが、これまで言い聞かせられていた事で、ここまではスムーズに行動に移す事ができた。
だが、やはり庭を焼く炎の恐怖に、一人、また一人、泣き声を上げ始める。
「お、おい!お前達泣くな!だ、大丈夫!大丈夫だから!」
普段子供達をまとめ上げ、子供達の絶対的なリーダーのトロワは、恐怖が伝染し、泣き出した子供達を何とか落ち着かせようと声をかけるが、そのトロワも声は上ずり、足の震えは隠しきれていない。
トロワとてまだ10歳、命の危機は初めてである。
怖くないと自分に言い聞かせる事で、恐怖心から目を背け、精神をギリギリの状態で保っている。
炎は確実に庭を焼き、煙は窓の隙間から侵入してきている。
「・・・トロワ君、みんな・・・大丈夫ですよ。私が、メアリーが絶対にみんなを護りますからね」
メアリーはトロワの背中にそっと手を当て声をかける。
「メ、メアリーちゃん・・・」
不安そうな顔を向けるトロワに、メアリーは優しく微笑むと、タジームの足や腰にしがみつく子供達を両手を広げて抱きしめた。
「みんな、大丈夫ですよ。絶対にメアリーが護ります。だから、泣かないでください」
メアリーは微笑んだ。
その表情は、迫る来る炎、死への恐怖は全く見えず、子供達を優しく温かく包み込む慈愛に満ちた笑顔だった。
「メアリーちゃん、大丈夫?」
キャロルがメアリーの隣に膝をつく。
先程、慌てながら子供達を起こしていた姿を見て、キャロルもメアリーを心配していたからだ。
「はい。私はもう大丈夫です。さっきは心配をかけてごめんなさい。でも、この子達が泣いているのを見たら、私が恐がっていられないって思ったんです。子供達は私が絶対に護ります」
その目には恐怖を越えた強い光が見え、使命感が宿っていた。
メアリーの決意にキャロルも立ち上がった。
「トロワ!私達も戦うよ!」
メアリーとヤヨイが来るまでは、ジャニスの次に年長者だったのは10歳のキャロルとトロワだった。
トロワも手伝いはしていたが、スージーやチコリのミルク、まだ一人で食事や用足しができない小さな子達の面倒は、ジャニスとキャロルがほとんど世話をしてきた。
私も頑張らないと!
ジャニスも持っている強い責任感は、キャロルも同様に持っていた。
これまでは家事に生かすために学んだ黒魔法だった。
だが、今は違う。
大切な家族を護るために使う。
足元から巻き起こった風は、キャロルの全身を包み込むように上へと昇り、キャロルの栗色の髪が逆立った。
「キャロル・・・本気なんだな?よぉし!俺だって!」
キャロルの姿に奮起させられたトロワは、自分のベッドの下から、50cm程の木の棒を二本取り出した。
子供が片手で持てるくらいの細さで、一本の棒の半分には、赤く細い布がぐるぐると何周も巻かれていて、もう一本の棒の半分には、青く細い布が同じようにぐるぐると巻かれていた。
トロワは布が巻かれていない側を、一本づつ両手に握っている。
「この、赤布の棒と、青布の棒でやってやらぁ!」
音の正体は分からなかった。だが、直感で、悪い事が起きている、それだけは察し、ベッドから降りると窓へと向かい、おもむろにカーテンを引き開けた。
目に映ったものは、庭の草木を焼く赤い炎だった。
タジームが聞いた音の正体は、葉が焦げ、枝が焼け落ちる音だった。
タジームは言葉を発しなかった・・・・・だが、その目には怒りの色が映り、感情の高まりに全身から魔力が漏れ出していた。
「・・・王子?どうされました?」
ふいに背中に声をかけられ振り返ると、メアリーがベットから降りるところだった。
タジームは答える代わりに、顎で窓の外を指した。
メアリーはベットから降りると、怪訝な表情をしながらも、促されるままタジームの背中越しに窓の外へ目を向け、悲鳴を上げた。
「みんな起きて!火事よ!」
メアリーは声を上げながら、寝ている子供達を揺すり起こす。
最初にキャロルとトロワが目を覚ました。
二人は火事という言葉を聞いて、すぐに状況を理解した。
今日まで、この孤児院が狙われているかもしれない。という事を聞いていたので、ショックはあったが、取り乱す事はせずに行動に移れた。
キャロルは、メアリーに落ち着くように話し、トロワはまだ寝ぼけ眼の、自分より更に幼い子供達を起こしていく。
「おい、全員目を覚ましたか?起きたら俺の近くにいろ。離れると危険だぞ」
子供達が起き出したところで、タジームが窓の外へ顔を向けたまま誰に言うでもなく言葉を発した。
「よし、みんな!前から話してた通り、とうとう俺達の家が悪い連中に襲われた!王子兄ちゃんにくっついてれば安全だから、みんな王子兄ちゃんから離れないように!」
トロワが子供達に指示を出すと、それぞれしっかりと返事を返し、タジームの周りに駆け寄って行く。
10歳未満のまだ小さな子供達だが、これまで言い聞かせられていた事で、ここまではスムーズに行動に移す事ができた。
だが、やはり庭を焼く炎の恐怖に、一人、また一人、泣き声を上げ始める。
「お、おい!お前達泣くな!だ、大丈夫!大丈夫だから!」
普段子供達をまとめ上げ、子供達の絶対的なリーダーのトロワは、恐怖が伝染し、泣き出した子供達を何とか落ち着かせようと声をかけるが、そのトロワも声は上ずり、足の震えは隠しきれていない。
トロワとてまだ10歳、命の危機は初めてである。
怖くないと自分に言い聞かせる事で、恐怖心から目を背け、精神をギリギリの状態で保っている。
炎は確実に庭を焼き、煙は窓の隙間から侵入してきている。
「・・・トロワ君、みんな・・・大丈夫ですよ。私が、メアリーが絶対にみんなを護りますからね」
メアリーはトロワの背中にそっと手を当て声をかける。
「メ、メアリーちゃん・・・」
不安そうな顔を向けるトロワに、メアリーは優しく微笑むと、タジームの足や腰にしがみつく子供達を両手を広げて抱きしめた。
「みんな、大丈夫ですよ。絶対にメアリーが護ります。だから、泣かないでください」
メアリーは微笑んだ。
その表情は、迫る来る炎、死への恐怖は全く見えず、子供達を優しく温かく包み込む慈愛に満ちた笑顔だった。
「メアリーちゃん、大丈夫?」
キャロルがメアリーの隣に膝をつく。
先程、慌てながら子供達を起こしていた姿を見て、キャロルもメアリーを心配していたからだ。
「はい。私はもう大丈夫です。さっきは心配をかけてごめんなさい。でも、この子達が泣いているのを見たら、私が恐がっていられないって思ったんです。子供達は私が絶対に護ります」
その目には恐怖を越えた強い光が見え、使命感が宿っていた。
メアリーの決意にキャロルも立ち上がった。
「トロワ!私達も戦うよ!」
メアリーとヤヨイが来るまでは、ジャニスの次に年長者だったのは10歳のキャロルとトロワだった。
トロワも手伝いはしていたが、スージーやチコリのミルク、まだ一人で食事や用足しができない小さな子達の面倒は、ジャニスとキャロルがほとんど世話をしてきた。
私も頑張らないと!
ジャニスも持っている強い責任感は、キャロルも同様に持っていた。
これまでは家事に生かすために学んだ黒魔法だった。
だが、今は違う。
大切な家族を護るために使う。
足元から巻き起こった風は、キャロルの全身を包み込むように上へと昇り、キャロルの栗色の髪が逆立った。
「キャロル・・・本気なんだな?よぉし!俺だって!」
キャロルの姿に奮起させられたトロワは、自分のベッドの下から、50cm程の木の棒を二本取り出した。
子供が片手で持てるくらいの細さで、一本の棒の半分には、赤く細い布がぐるぐると何周も巻かれていて、もう一本の棒の半分には、青く細い布が同じようにぐるぐると巻かれていた。
トロワは布が巻かれていない側を、一本づつ両手に握っている。
「この、赤布の棒と、青布の棒でやってやらぁ!」
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