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【182 心を通わせて】
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交代の時、パトリックさんから、遅くまで起きていて大丈夫ですか?と体調を気遣う言葉をかけてもらった。
小さな事かもしれないけれど、こういう気付かってくれる一言がとても嬉しく感じた。
深夜2時に眠ったので、やはり朝起きるのは少し遅くなってしまった。
いつもは6時には起きるようにしているけれど、この日は8時近くになってしまい、もう子供達は朝食を終えて元気に遊びまわっていた。
メアリーちゃんは、温めなおしたスープとパンを用意してくれて、遅くまでお疲れさまでした。と声をかけてくれた。
自分は夜の見張りをしなかった事を気にしてるようだけれど、メアリーちゃんが子供達と一緒に寝てくれるから、みんな安心なんだよ。と言って笑いかけると、まだ少し申し訳なさそうに眉尻が下がってはいたけれど、それでも笑顔を見せてくれた。
ブレンダン様は七時には起きていたようで、すでに朝食も済ませて王子と何か話しをしているようだった。
今回の夜の見張りに、王子は加わらなかった。
子供部屋で子供達と一緒に寝てもらって、なにか起きれば真っ先に子供達を護るように話してあるらしい。
ブレンダン様が言うには、王子は眠っていても頭の一部が常に緊張しているそうで、なにか異常が起きれば一瞬で目を覚ますそうだ。
これは、ブレンダン様が長年王子と就寝を共にして分かった事のようで、おそらく今より幼い頃に、賊と対峙したり、城では父親でさえ味方になってくれず、邪魔者扱いされて育ったため、自分の身は自分で護るという気持ちから身に付いたものではないか、という事だった。
悲しい話しで私は胸が痛んだ。
でも、確かに子供部屋には、メアリーちゃんとキャロルちゃんもいて、二人は黒魔法使いだけれど、戦闘ができるかと言われれば、おそらくできない。
そう考えると、やはり子供部屋の用心棒で王子程の適任はいないと思える。
「ヤ、ヤヨイさん、おはようございます。よく眠れましたか?」
メアリーちゃんから朝食を乗せたトレーを受け取り、テーブルに運ぶとパトリックさんが声をかけてくれた。
昨日は一度ハッキリとした話し方をされたけど、また元に戻ってしまったようだ。
まだまだ時間がかかるかもしれない。
「パトリックさん、おはようございます。こんな時間に起きてしまってすみません。パトリックさんはまだお休みにならないのですか?」
後半の見張りは朝6時までなので、もう見張りが終わって2時間も立っている。
深夜2時から起きているので、疲れも溜まっているはずだ。
エロール君の姿は見えないので、一緒に後半の見張りを務めた彼はもう寝ているのだろう。
「えっと、はい、その・・・寝る前に、もう一度だけお話しがしたかったので・・・すみません。朝食のお邪魔をしてしまいました」
顔を赤くして、私と目を合わせずに、俯きがちに話しているけれど、パトリックさんの気持ちに、私は心が温かくなった。
「・・・嬉しいです。パトリックさん、では、私が朝食を終えるまで、お付き合いいただけませんか?食べながらですので、私からはあまり話せないかもしれませんが、パトリックさんの事を聞きたいです」
「あ、は、はい!もちろんです!で、では俺はこっちに座りますね」
そう答えてパトリックさんは、私の正面に腰を下ろすと、魔法兵団でのお仕事の事や、お家でのロビンさんの事を面白おかしく話してくれた。
私が食事中という事を考えてくれたのだと思う。返事を必要としない話し方をしてくれている。
パトリックさんの事がまた少し分かった気がして、私の顔も自然とほころんだ、
それから三日が過ぎた。
朝と夕方の連絡では、ジョルジュさんのところにも変わった事はないという話しだった。
メアリーちゃんは、もう10日もウィッカーさんに会えていない事で、かなり寂しさが募っているみたいだった。
子供達の前では見せないけれど、空いた時間に一人で寂しそうに外を見ている姿をみると、私も切なくなってしまう。
キャロルちゃんと相談して、なんとかメアリーちゃんを元気づけようと思い考えたのが、
メアリーちゃんの話しをとことん聞こう。だった。
昼食を終え、お洗濯やお掃除を終えると、夕方には少し自由な時間ができるので、その時間を使って、二階の私の部屋で女子三人で集まって、色々と話すのだが、やはり恋愛の話しが中心になる。
私はパトリックさんとの事を、キャロルちゃんはジョルジュさんの事を話すけれど、主役はメアリーちゃんなので、私達は自分の話しはそこそこに、メアリーちゃんが溜め込んでいる事を気が済むまで話してもらって、それで少しでもメアリーちゃんが元気になってくれればと思い始めたのだけれど、私もキャロルちゃんも、ちょっとあまく見ていたみたい。
メアリーちゃんのウィッカーさんへの想いは私達が考えている以上だった。
私とキャロルちゃんが話しを向けると、最初は遠慮がちに話しだしたのだけれど、だんだんと口調は熱を帯び始め、止まらなくなっていったのだ。
「ウィッカー様に会えなくて、毎日胸が苦しいのです」
「きっと、ウィッカー様も私と会えなくて寂しさを募らせているはずです」
「ウィッカー様は今何をしているのでしょう?」
「夢の中でも構いませんので、ウィッカー様にお会いしたいです」
この日は夕食の準備を始めるまでの一時間、メアリーちゃんはたっぷりウィッカーさんへの熱い想いを語り、少しはスッキリできたようで、満足気な表情で私達にお礼を言って一階へ降りて行った。
「うぅ~ん、ヤヨイさん、メアリーちゃんすごいです・・・・・多分一日中だって話せますよ?」
「元気になってくれたのは良かったけど・・・ウィッカーさんには早く帰って来てほしいわね」
「ウィッカー兄さんの事、すっごい良い笑顔で話してましたね。・・・明日どうします?」
「・・・メアリーちゃんが元気になるなら、続けましょう。キャロルちゃん大丈夫?」
「ヤヨイさんなら、そう言うと思いました。私も大丈夫ですよ。でも、あんなに想われてるなんて、ウィッカー兄さん幸せ者ですね」
「そうね。幸せ者のウィッカーさんが帰って来たら、少し意地悪しちゃおっか?」
「いいですね!幸せ者の兄さんが帰ってきたら、この幸せ者!って言ってやりますよ!」
メアリーちゃんのあまりの熱量に押されて、私もキャロルちゃんも少しびっくりしてしまったけど、やっぱりメアリーちゃんが元気になってくれると嬉しい気持ちは一緒だ。
明日もいっぱい話しを聞いてあげようと、私達は顔を見合わせて笑った。
それから更に三日後、ブレンダン様が眠くてしかたないと言うので、前半の見張りをパトリックさんと私が勤める事になった。
あまり生活リズムを変えるのも良くないという話しをして、これまでは私とブレンダン様が前半、パトリックさんとエロール君が後半という形で定着していたけれど、やはりブレンダン様は高齢で、毎晩2時まで起きている事は、体に障ったのかもしれない。
時計の針は0時を回ったところだった。
もう慣れたけど、いつも子供達の笑い声で溢れている広間に、私達だけというのは、静かすぎてなんだか寂しさを感じる。
「パトリックさん、紅茶入れますね」
「あ、は、はい・・・ありがとうございます」
私はキッチンでお湯を沸かし、二人分の紅茶を作った。
以前、メアリーちゃんが持って来てくれたハーブティーだ。
私が孤児院でお世話になり始めたばかりの頃、メアリーちゃんが気持ちが落ち着くからと持ってきてくれたものだ。
私はこのハーブティーが大好きだ。
「はい、どうぞ」
私がハーブティーをパトリックさんの前に置くと、パトリックさんは、お礼を言ってハーブティーを口にした。
「・・・おや、これは美味しいですね」
パトリックさんは意外そうに少し目を開いて、ハーブティーの入ったカップを見ながら声をもらす。
「お気に入りいただけました?私も、この紅茶大好きなんです」
パトリックさんは私の言葉に、はい、と頷くと、もう一口飲んで私に笑いかけた。
「実は俺、あまり自分から紅茶を飲む事はないんです。でも、このハーブティーでしたら、毎日でも飲みたいです。ヤヨイさん、どこで買ったんですか?」
「これ、メアリーちゃんが街で買って来たみたいなんですが、お店の名前は聞いてませんでした。
明日、聞いてみましょうか?」
本当に気に入ったようなので、私がお店を聞こうと話すと、パトリックさんはいつものようにちょっと照れ臭そうに、顔を赤くした。
「はい、お店が分かったら・・・その、街案内の時に・・・ヤヨイさん、一緒に行きませんか?」
積極的なパトリックさんのお誘いに、私は嬉しさを隠さずに言葉にして伝えた。
「はい、もちろんです。一緒に行きましょう。楽しみにしてますね」
少しづつ・・・心が近づいている。
そう感じられる事がとても嬉しかった。
小さな事かもしれないけれど、こういう気付かってくれる一言がとても嬉しく感じた。
深夜2時に眠ったので、やはり朝起きるのは少し遅くなってしまった。
いつもは6時には起きるようにしているけれど、この日は8時近くになってしまい、もう子供達は朝食を終えて元気に遊びまわっていた。
メアリーちゃんは、温めなおしたスープとパンを用意してくれて、遅くまでお疲れさまでした。と声をかけてくれた。
自分は夜の見張りをしなかった事を気にしてるようだけれど、メアリーちゃんが子供達と一緒に寝てくれるから、みんな安心なんだよ。と言って笑いかけると、まだ少し申し訳なさそうに眉尻が下がってはいたけれど、それでも笑顔を見せてくれた。
ブレンダン様は七時には起きていたようで、すでに朝食も済ませて王子と何か話しをしているようだった。
今回の夜の見張りに、王子は加わらなかった。
子供部屋で子供達と一緒に寝てもらって、なにか起きれば真っ先に子供達を護るように話してあるらしい。
ブレンダン様が言うには、王子は眠っていても頭の一部が常に緊張しているそうで、なにか異常が起きれば一瞬で目を覚ますそうだ。
これは、ブレンダン様が長年王子と就寝を共にして分かった事のようで、おそらく今より幼い頃に、賊と対峙したり、城では父親でさえ味方になってくれず、邪魔者扱いされて育ったため、自分の身は自分で護るという気持ちから身に付いたものではないか、という事だった。
悲しい話しで私は胸が痛んだ。
でも、確かに子供部屋には、メアリーちゃんとキャロルちゃんもいて、二人は黒魔法使いだけれど、戦闘ができるかと言われれば、おそらくできない。
そう考えると、やはり子供部屋の用心棒で王子程の適任はいないと思える。
「ヤ、ヤヨイさん、おはようございます。よく眠れましたか?」
メアリーちゃんから朝食を乗せたトレーを受け取り、テーブルに運ぶとパトリックさんが声をかけてくれた。
昨日は一度ハッキリとした話し方をされたけど、また元に戻ってしまったようだ。
まだまだ時間がかかるかもしれない。
「パトリックさん、おはようございます。こんな時間に起きてしまってすみません。パトリックさんはまだお休みにならないのですか?」
後半の見張りは朝6時までなので、もう見張りが終わって2時間も立っている。
深夜2時から起きているので、疲れも溜まっているはずだ。
エロール君の姿は見えないので、一緒に後半の見張りを務めた彼はもう寝ているのだろう。
「えっと、はい、その・・・寝る前に、もう一度だけお話しがしたかったので・・・すみません。朝食のお邪魔をしてしまいました」
顔を赤くして、私と目を合わせずに、俯きがちに話しているけれど、パトリックさんの気持ちに、私は心が温かくなった。
「・・・嬉しいです。パトリックさん、では、私が朝食を終えるまで、お付き合いいただけませんか?食べながらですので、私からはあまり話せないかもしれませんが、パトリックさんの事を聞きたいです」
「あ、は、はい!もちろんです!で、では俺はこっちに座りますね」
そう答えてパトリックさんは、私の正面に腰を下ろすと、魔法兵団でのお仕事の事や、お家でのロビンさんの事を面白おかしく話してくれた。
私が食事中という事を考えてくれたのだと思う。返事を必要としない話し方をしてくれている。
パトリックさんの事がまた少し分かった気がして、私の顔も自然とほころんだ、
それから三日が過ぎた。
朝と夕方の連絡では、ジョルジュさんのところにも変わった事はないという話しだった。
メアリーちゃんは、もう10日もウィッカーさんに会えていない事で、かなり寂しさが募っているみたいだった。
子供達の前では見せないけれど、空いた時間に一人で寂しそうに外を見ている姿をみると、私も切なくなってしまう。
キャロルちゃんと相談して、なんとかメアリーちゃんを元気づけようと思い考えたのが、
メアリーちゃんの話しをとことん聞こう。だった。
昼食を終え、お洗濯やお掃除を終えると、夕方には少し自由な時間ができるので、その時間を使って、二階の私の部屋で女子三人で集まって、色々と話すのだが、やはり恋愛の話しが中心になる。
私はパトリックさんとの事を、キャロルちゃんはジョルジュさんの事を話すけれど、主役はメアリーちゃんなので、私達は自分の話しはそこそこに、メアリーちゃんが溜め込んでいる事を気が済むまで話してもらって、それで少しでもメアリーちゃんが元気になってくれればと思い始めたのだけれど、私もキャロルちゃんも、ちょっとあまく見ていたみたい。
メアリーちゃんのウィッカーさんへの想いは私達が考えている以上だった。
私とキャロルちゃんが話しを向けると、最初は遠慮がちに話しだしたのだけれど、だんだんと口調は熱を帯び始め、止まらなくなっていったのだ。
「ウィッカー様に会えなくて、毎日胸が苦しいのです」
「きっと、ウィッカー様も私と会えなくて寂しさを募らせているはずです」
「ウィッカー様は今何をしているのでしょう?」
「夢の中でも構いませんので、ウィッカー様にお会いしたいです」
この日は夕食の準備を始めるまでの一時間、メアリーちゃんはたっぷりウィッカーさんへの熱い想いを語り、少しはスッキリできたようで、満足気な表情で私達にお礼を言って一階へ降りて行った。
「うぅ~ん、ヤヨイさん、メアリーちゃんすごいです・・・・・多分一日中だって話せますよ?」
「元気になってくれたのは良かったけど・・・ウィッカーさんには早く帰って来てほしいわね」
「ウィッカー兄さんの事、すっごい良い笑顔で話してましたね。・・・明日どうします?」
「・・・メアリーちゃんが元気になるなら、続けましょう。キャロルちゃん大丈夫?」
「ヤヨイさんなら、そう言うと思いました。私も大丈夫ですよ。でも、あんなに想われてるなんて、ウィッカー兄さん幸せ者ですね」
「そうね。幸せ者のウィッカーさんが帰って来たら、少し意地悪しちゃおっか?」
「いいですね!幸せ者の兄さんが帰ってきたら、この幸せ者!って言ってやりますよ!」
メアリーちゃんのあまりの熱量に押されて、私もキャロルちゃんも少しびっくりしてしまったけど、やっぱりメアリーちゃんが元気になってくれると嬉しい気持ちは一緒だ。
明日もいっぱい話しを聞いてあげようと、私達は顔を見合わせて笑った。
それから更に三日後、ブレンダン様が眠くてしかたないと言うので、前半の見張りをパトリックさんと私が勤める事になった。
あまり生活リズムを変えるのも良くないという話しをして、これまでは私とブレンダン様が前半、パトリックさんとエロール君が後半という形で定着していたけれど、やはりブレンダン様は高齢で、毎晩2時まで起きている事は、体に障ったのかもしれない。
時計の針は0時を回ったところだった。
もう慣れたけど、いつも子供達の笑い声で溢れている広間に、私達だけというのは、静かすぎてなんだか寂しさを感じる。
「パトリックさん、紅茶入れますね」
「あ、は、はい・・・ありがとうございます」
私はキッチンでお湯を沸かし、二人分の紅茶を作った。
以前、メアリーちゃんが持って来てくれたハーブティーだ。
私が孤児院でお世話になり始めたばかりの頃、メアリーちゃんが気持ちが落ち着くからと持ってきてくれたものだ。
私はこのハーブティーが大好きだ。
「はい、どうぞ」
私がハーブティーをパトリックさんの前に置くと、パトリックさんは、お礼を言ってハーブティーを口にした。
「・・・おや、これは美味しいですね」
パトリックさんは意外そうに少し目を開いて、ハーブティーの入ったカップを見ながら声をもらす。
「お気に入りいただけました?私も、この紅茶大好きなんです」
パトリックさんは私の言葉に、はい、と頷くと、もう一口飲んで私に笑いかけた。
「実は俺、あまり自分から紅茶を飲む事はないんです。でも、このハーブティーでしたら、毎日でも飲みたいです。ヤヨイさん、どこで買ったんですか?」
「これ、メアリーちゃんが街で買って来たみたいなんですが、お店の名前は聞いてませんでした。
明日、聞いてみましょうか?」
本当に気に入ったようなので、私がお店を聞こうと話すと、パトリックさんはいつものようにちょっと照れ臭そうに、顔を赤くした。
「はい、お店が分かったら・・・その、街案内の時に・・・ヤヨイさん、一緒に行きませんか?」
積極的なパトリックさんのお誘いに、私は嬉しさを隠さずに言葉にして伝えた。
「はい、もちろんです。一緒に行きましょう。楽しみにしてますね」
少しづつ・・・心が近づいている。
そう感じられる事がとても嬉しかった。
応援ありがとうございます!
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