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【180 孤児院での一週間】
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「ヤヨイさん、すみません。これテーブルまでお願いできますか?」
キッチンで料理を作るメアリーちゃんに呼び止められ、私はスープが入った平たい丸皿を受け取った。
もうすぐ夕食の時間なので、私は子供達をテーブルに着かせたり、食器の準備をしていた。
「わぁ、良い匂い。メアリーちゃんは本当にお料理が上手ね」
「ありがとうございます。ウィッカー様に美味しい物を召し上がっていただきたくて、お料理は頑張ったんです」
刻んだ野菜とベーコンの入ったスープの、食欲を誘う香り。
私が褒めると、メアリーちゃんは嬉しそうに顔をほころばせた。
ウィッカーさんのため、好きな人に喜んで欲しくて、お料理を頑張ったというメアリーちゃんに私も心が温かくなる。
二人がくっついて良かった。
私はあの日、ウィッカーさんがメアリーちゃんに告白をした時、嬉しさのあまり涙が出てしまった。
だって、メアリーちゃんがどんなにウィッカーさんを好きでいるか、いつも聞いていたから。
メアリーちゃんは初めて会った時から、いつも私を気にかけてくれている。
私はメアリーちゃんにいつも助けてもらっている。
優しくて頑張り屋さんで、本当に良い子だ。
だから、絶対に幸せになって欲しい。そう思っている。
「あ、あの、ヤ、ヤヨイさん、俺も、手伝います」
スープを乗せたお皿をトレーに乗せて運ぼうとすると、パトリックさんが声をかけてくれた。
まだ少し緊張しているようで、言葉がつっかえ気味だけど、この一週間で自分から声をかけてくれる事が増えてきた。
最初の三日間は挨拶くらいしかできなかった事を思い出して、私はつい笑ってしまいそうになる。
「ヤヨイさん?」
そんな私を見て、パトリックさんが、どうしたの?と言うように私の名前を口にする。
「あ、ごめんなさい。何でもないんです。じゃあ、このスープをテーブルまでお願いしてもいいですか?」
そう返事をして、スープを乗せたトレーを手渡す。
「パトリックさん、お手伝いありがとうございます」
「い、いえいえ、こ、このくらい当然です」
パトリックさんがキッチンを離れるのと入れ違いで、キャロルちゃんが入って来る。
「パトリックさん、ちょっと慣れてきたみたいですね?」
トレーを運ぶパトリックさんの背中を目で追いながら、キャロルちゃんが話しを振ってきた。
「そうね、ここ2、3日は、パトリックさんから声をかけてくれる事も増えたわ。今も手伝いますって、自分から言ってくれたの。少しづつだけど、慣れてくれてるのが分かって嬉しいわ」
「う~ん、ヤヨイさんって大人。最初の三日間は全く話しができなかったじゃないですか?でも、時間かけてお互いを知っていきましょうって、そう話したんですよね?」
キッチンカウンターに肘を着いて、キャロルちゃんが私をじっと見つめてくる。
「えぇ、そうよ。最初に聞いていたから、パトリックさんが女性と話しができないって。それなら、時間をかけてお付き合いをしていく事は当然だと思うわ」
「やっぱり、大人だなぁ。ヤヨイさんっていつも落ち着いてて、そういう考え方もカッコイイ。私もヤヨイさんみたいな大人になりたい」
じっと見つめられながら、そういう事を言われると、私も少し恥ずかしくなってしまう。
「うふふ、キャロルちゃんは、ヤヨイさんがお好きなんですね」
「うん!ヤヨイさんカッコイイから好き!メアリーちゃんも好きだよ。優しいし、お料理上手だし!」
笑顔いっぱいに好意をむけてくれるキャロルちゃんに、私もメアリーちゃんも笑顔で答えた。
「私もキャロルちゃん大好きよ」
「私もです。キャロルちゃん大好き」
昔の記憶が少し戻り、以前の私にも居場所があり、お友達がいた事は思い出した。
でも、今もこんなに素敵なお友達ができて、私は本当に幸せだと思った。
「エロール君、肘を着いて食べるのはお行儀が悪いよ」
私が注意をすると、エロール君は返事はしないけれど、すぐに肘を戻して食事を続けた。
少し気難しい子とは聞いていたけれど、そういう年頃なのかもしれない。
12歳、多感な時期だと思う。
少年から青年へ、子供から大人へ変わっていく時だ。
私もそういう時があったのかもしれない。
そう考えると、少し可愛らしくも思えて来る。
エロール君にそのまま言うと怒りそうだから言わないけれど、話しは聞いてくれるので、本当は素直な子なのだと思う。
「王子、お水のおかわり入れますね」
私の隣の席に座るタジーム王子のコップを取ると、王子はよく見ないと分からないくらい小さく頷いた。
私はテーブルの中央にある、大きめの水差しを取って王子のコップに水を入れる。
どうぞ、と言って、音を立てないように置くと、王子は少しだけこちらに目を向けてまた小さく頷いた。
それを見て、私も微笑みを返す。
最初は無口で少し怖い印象があったけれど、この一週間で私は王子の事が少し分かってきた。
王子という身分でも、タジーム王子は私達と何一つ変わらない。
私達と同じ作りの部屋に住み、私達と同じ食事を取り、私達と同じ服を着る。
無口なだけで、私には普通の13歳の男の子にしか見えなかった。
だから、私もあまり王子という身分は意識せずに、普通に接するようにした。
挨拶をすれば返してくれるし、最低限の言葉しか返ってこないけれど、話しかければ答えてくれる。
気を使って接するより、できるだけ普通にしていた方がいいと思った。
ブレンダン様も、私の王子への接し方を見ても特に注意をする事もなく、それどころから目を細めてどことなく嬉しそうにしているようにも見えたので、普通にする事が一番だと思う。
「パトリックさん、スープのおかわりいかがですか?」
空になっているお皿を見て、私は正面に座るパトリックさんに声をかける。
すると少し慌てた様子で、お皿を落としそうになりながら、遠慮がちに私にお皿を手渡してくる。
「お、お願いしていいですか?」
「はい。もちろんです。美味しいですよね。メアリーちゃんが作ったんですよ」
話しを向けると、メアリーちゃんは照れたように笑った顔を向けてくれる。
「そ、そうですか。メアリー、美味しいよ。ありがとう」
「ありがとうございます。ふふ・・・パトリックさん、ヤヨイさんともだいぶお話しができるようになりましたね」
メアリーちゃんの言葉に、パトリックさんは顔を赤くして口ごもってしまう。
そんなパトリックさんを見ると、私は微笑ましい気持ちになる。
私は、パトリックさんの照れ屋な性格を好ましく感じている。
ジャニスさんや、メアリーちゃんから聞いた話しだけれど、パトリックさんは友達としてなら普通に女性とも会話ができるらしい。
でも、お付き合いを考えてとなると、ものすごく意識してしまい、普通に接する事ができなくなってしまうみたい。
パトリックさんは誠実だと思う。
異性とのお付き合いをそれだけ真剣に考えているから、極端な程に緊張するのではないかと思う。
遊び半分だったり、本気でなければ、そう緊張する事はないと思うから。
だから、パトリックさんは女性と付き合う事を、本当に本気で考えられる人なんだと思う。
「パトリックさん、はい、スープです」
まだ顔を赤くして、下を向いているパトリックさんの前に、スープのおかわりを置くと、パトリックさんは小さな声で、ありがとうございます、と返事をくれた。
「パトリックさん」
「は、はい!な、なんでしょう?」
少し上ずった声で返事をくれたパトリックさんに、私はできるだけ優しい声で言葉をかけた。
「私、まだこの街の事をよく知らないんです。落ち着いたら、案内してもらえないでしょうか?」
パトリックさんは驚いたように顔を上げる。
私と目が合うと、また赤くなって、焦ってうまく話せないみたい。
私はパトリックさんに、ゆっくりでいいですよ、と声をかける。
パトリックさんは、私の言葉を聞いて深呼吸をする。
やっと落ち着くと、意外にも私の顔を正面から真っ直ぐに見て口を開いた。
「はい。俺に案内させてください」
初めてハッキリとした言葉を聞いて、今度は私が驚いた。
キッチンで料理を作るメアリーちゃんに呼び止められ、私はスープが入った平たい丸皿を受け取った。
もうすぐ夕食の時間なので、私は子供達をテーブルに着かせたり、食器の準備をしていた。
「わぁ、良い匂い。メアリーちゃんは本当にお料理が上手ね」
「ありがとうございます。ウィッカー様に美味しい物を召し上がっていただきたくて、お料理は頑張ったんです」
刻んだ野菜とベーコンの入ったスープの、食欲を誘う香り。
私が褒めると、メアリーちゃんは嬉しそうに顔をほころばせた。
ウィッカーさんのため、好きな人に喜んで欲しくて、お料理を頑張ったというメアリーちゃんに私も心が温かくなる。
二人がくっついて良かった。
私はあの日、ウィッカーさんがメアリーちゃんに告白をした時、嬉しさのあまり涙が出てしまった。
だって、メアリーちゃんがどんなにウィッカーさんを好きでいるか、いつも聞いていたから。
メアリーちゃんは初めて会った時から、いつも私を気にかけてくれている。
私はメアリーちゃんにいつも助けてもらっている。
優しくて頑張り屋さんで、本当に良い子だ。
だから、絶対に幸せになって欲しい。そう思っている。
「あ、あの、ヤ、ヤヨイさん、俺も、手伝います」
スープを乗せたお皿をトレーに乗せて運ぼうとすると、パトリックさんが声をかけてくれた。
まだ少し緊張しているようで、言葉がつっかえ気味だけど、この一週間で自分から声をかけてくれる事が増えてきた。
最初の三日間は挨拶くらいしかできなかった事を思い出して、私はつい笑ってしまいそうになる。
「ヤヨイさん?」
そんな私を見て、パトリックさんが、どうしたの?と言うように私の名前を口にする。
「あ、ごめんなさい。何でもないんです。じゃあ、このスープをテーブルまでお願いしてもいいですか?」
そう返事をして、スープを乗せたトレーを手渡す。
「パトリックさん、お手伝いありがとうございます」
「い、いえいえ、こ、このくらい当然です」
パトリックさんがキッチンを離れるのと入れ違いで、キャロルちゃんが入って来る。
「パトリックさん、ちょっと慣れてきたみたいですね?」
トレーを運ぶパトリックさんの背中を目で追いながら、キャロルちゃんが話しを振ってきた。
「そうね、ここ2、3日は、パトリックさんから声をかけてくれる事も増えたわ。今も手伝いますって、自分から言ってくれたの。少しづつだけど、慣れてくれてるのが分かって嬉しいわ」
「う~ん、ヤヨイさんって大人。最初の三日間は全く話しができなかったじゃないですか?でも、時間かけてお互いを知っていきましょうって、そう話したんですよね?」
キッチンカウンターに肘を着いて、キャロルちゃんが私をじっと見つめてくる。
「えぇ、そうよ。最初に聞いていたから、パトリックさんが女性と話しができないって。それなら、時間をかけてお付き合いをしていく事は当然だと思うわ」
「やっぱり、大人だなぁ。ヤヨイさんっていつも落ち着いてて、そういう考え方もカッコイイ。私もヤヨイさんみたいな大人になりたい」
じっと見つめられながら、そういう事を言われると、私も少し恥ずかしくなってしまう。
「うふふ、キャロルちゃんは、ヤヨイさんがお好きなんですね」
「うん!ヤヨイさんカッコイイから好き!メアリーちゃんも好きだよ。優しいし、お料理上手だし!」
笑顔いっぱいに好意をむけてくれるキャロルちゃんに、私もメアリーちゃんも笑顔で答えた。
「私もキャロルちゃん大好きよ」
「私もです。キャロルちゃん大好き」
昔の記憶が少し戻り、以前の私にも居場所があり、お友達がいた事は思い出した。
でも、今もこんなに素敵なお友達ができて、私は本当に幸せだと思った。
「エロール君、肘を着いて食べるのはお行儀が悪いよ」
私が注意をすると、エロール君は返事はしないけれど、すぐに肘を戻して食事を続けた。
少し気難しい子とは聞いていたけれど、そういう年頃なのかもしれない。
12歳、多感な時期だと思う。
少年から青年へ、子供から大人へ変わっていく時だ。
私もそういう時があったのかもしれない。
そう考えると、少し可愛らしくも思えて来る。
エロール君にそのまま言うと怒りそうだから言わないけれど、話しは聞いてくれるので、本当は素直な子なのだと思う。
「王子、お水のおかわり入れますね」
私の隣の席に座るタジーム王子のコップを取ると、王子はよく見ないと分からないくらい小さく頷いた。
私はテーブルの中央にある、大きめの水差しを取って王子のコップに水を入れる。
どうぞ、と言って、音を立てないように置くと、王子は少しだけこちらに目を向けてまた小さく頷いた。
それを見て、私も微笑みを返す。
最初は無口で少し怖い印象があったけれど、この一週間で私は王子の事が少し分かってきた。
王子という身分でも、タジーム王子は私達と何一つ変わらない。
私達と同じ作りの部屋に住み、私達と同じ食事を取り、私達と同じ服を着る。
無口なだけで、私には普通の13歳の男の子にしか見えなかった。
だから、私もあまり王子という身分は意識せずに、普通に接するようにした。
挨拶をすれば返してくれるし、最低限の言葉しか返ってこないけれど、話しかければ答えてくれる。
気を使って接するより、できるだけ普通にしていた方がいいと思った。
ブレンダン様も、私の王子への接し方を見ても特に注意をする事もなく、それどころから目を細めてどことなく嬉しそうにしているようにも見えたので、普通にする事が一番だと思う。
「パトリックさん、スープのおかわりいかがですか?」
空になっているお皿を見て、私は正面に座るパトリックさんに声をかける。
すると少し慌てた様子で、お皿を落としそうになりながら、遠慮がちに私にお皿を手渡してくる。
「お、お願いしていいですか?」
「はい。もちろんです。美味しいですよね。メアリーちゃんが作ったんですよ」
話しを向けると、メアリーちゃんは照れたように笑った顔を向けてくれる。
「そ、そうですか。メアリー、美味しいよ。ありがとう」
「ありがとうございます。ふふ・・・パトリックさん、ヤヨイさんともだいぶお話しができるようになりましたね」
メアリーちゃんの言葉に、パトリックさんは顔を赤くして口ごもってしまう。
そんなパトリックさんを見ると、私は微笑ましい気持ちになる。
私は、パトリックさんの照れ屋な性格を好ましく感じている。
ジャニスさんや、メアリーちゃんから聞いた話しだけれど、パトリックさんは友達としてなら普通に女性とも会話ができるらしい。
でも、お付き合いを考えてとなると、ものすごく意識してしまい、普通に接する事ができなくなってしまうみたい。
パトリックさんは誠実だと思う。
異性とのお付き合いをそれだけ真剣に考えているから、極端な程に緊張するのではないかと思う。
遊び半分だったり、本気でなければ、そう緊張する事はないと思うから。
だから、パトリックさんは女性と付き合う事を、本当に本気で考えられる人なんだと思う。
「パトリックさん、はい、スープです」
まだ顔を赤くして、下を向いているパトリックさんの前に、スープのおかわりを置くと、パトリックさんは小さな声で、ありがとうございます、と返事をくれた。
「パトリックさん」
「は、はい!な、なんでしょう?」
少し上ずった声で返事をくれたパトリックさんに、私はできるだけ優しい声で言葉をかけた。
「私、まだこの街の事をよく知らないんです。落ち着いたら、案内してもらえないでしょうか?」
パトリックさんは驚いたように顔を上げる。
私と目が合うと、また赤くなって、焦ってうまく話せないみたい。
私はパトリックさんに、ゆっくりでいいですよ、と声をかける。
パトリックさんは、私の言葉を聞いて深呼吸をする。
やっと落ち着くと、意外にも私の顔を正面から真っ直ぐに見て口を開いた。
「はい。俺に案内させてください」
初めてハッキリとした言葉を聞いて、今度は私が驚いた。
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