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【175 魔封塵】
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狩りに出かけた父エディ・ワーリントンとジャニス、二人に危険が迫っている事を察知したジョルジュの声で、ジョルジュ、ウィッカー、そしてジョルジュの母ナタリーの三人は、森の湖を目指して走り続けた。
体力型であれば、全力で走って三分もあればたどり着く距離だが、魔法使いの三人はどんなに急いでも5分はかかる。
ジョルジュの弓は、父と母に鍛えられたものであり、その実力はまだまだ衰え知らずである。
ジョルジュも父親の実力は十分に理解している。そして今回はジャニスが付いている。
白魔法使いとして、この国一番、いや大陸一と言っても過言ではない。そのジャニスが付いているのだ。
例え相手が、裏世界で名をはせるディーロ兄弟であったとしても、そうそう遅れをとるものではない。
自分達が駆け付けるまで、きっと二人は持ちこたえる。そう信じて走り続ける三人だったが、突如、湖のある方角ですさまじい爆発音とともに、樹々よりも更に高く上がる土煙が巻き起こった。
「今のは!?」
「音がたて続けに何発も聞こえた!おそらく爆裂弾の連射だ!」
ジョルジュの問いに、ウィッカーが走りながら言葉を返した。
「すでに戦っているのね・・・待ってて今行くわ!」
体力型でない三人は、すでに息も上がってきているが、それでも一秒でも早く助けに入るため、力の限り足を動かし続けた。
ジャーゴル・ディーロは、たった今、目の前で起こった出来事に我が目を疑った。
目の前に立つ白魔法使いが投げた皮袋、それは空中に立っていたジャーゴル達、三人の黒魔法使いの前で、中身の白い粉のような物が飛び出し、空中に拡散した。
得体のしれないものにジャーゴル達は警戒し、粉が舞っている範囲から距離をとろうと、足に纏わせている風を後方に動かそうとすると・・・・・突如、風が消えた
自分の意思とは関係なく、空を飛ぶために足に纏わせていた風魔法が突然消え、ジャーゴル達三人は数メートル下の地面に落下し、強く体を打ちつける事になった。
魔法使いであるジャーゴル達は、満足に受け身を取る事ができなかった。
すぐに起き上がる事もできずに、全身を襲う痛みに耐えていると、鉄の矢が三本、頭上から放たれた。
黒魔法使いの一人は仰向けのまま額を打ち抜かれ、もう一人の黒魔法使いは、起き上がろうと地面に片肘を付き上半身を上げたところを、後頭部から射抜かれ絶命した。
そしてジャーゴル・ディーロの頭上にも矢が迫った時、鉄の矢は突然燃え上がり、ジャーゴルの頭に刺さる寸前で燃え尽きた。
ジャーゴルの頭上から数メートル上、木の枝を足場に身を潜めていたエディは、眼下の光景に細い目を見開き驚きをあらわにした。
今、ジャーゴルの体を包むようにして、炎が赤く揺らめいている。
鉄の矢を一瞬で溶かす程の業火だ。
揺らめいていた業火は竜を形作り、炎の竜は1体、2体、3体と数を増やしていくと、ジャーゴル・ディーロの身体に巻き付き、前方のジャニス、頭上のエディに炎の口を大きく開け、今にも飛び掛からんと威嚇(いかく)を響かせていた。
上級火魔法 灼炎竜
幼少の頃、親の虐待により顔に大きな火傷を負ったジャーゴル・ディーロは、炎に対して拭いきれない恐怖心を持っていた。
そのため相反する、水と氷の魔法を中心にした黒魔法を使う戦闘スタイルを確立したが、感情が制御できない程に高ぶった時、怒りでその身を焼き尽くしそうな程、憎悪に身を焦がした時、ジャーゴルはその黒い感情を吐き出すかのように、あえて炎の魔法を使用する。
「あれは・・・くっ、まずい!」
鉄の矢が通用しないのであれば、エディにはもはや打つ手は無い。
ジャーゴル・ディーロは、今はまだ、落下の痛みですぐに動く事ができない。
体に纏った炎の竜は、防御のためであろうが、自分とジャニスに向けられている事から、これ以上の追撃は無駄だと威嚇し警告を発しているのだろう。
左腕は痛みが強いので、右肘だけを立て上半身を起こし、震える膝を曲げて腰を起こす。
痛みに耐え、歯を食いしばりながらジャーゴルはゆっくりと起き上がった。
「ジャニスさん!作戦は失敗だ!逃げろ!」
木の上からエディは大声でジャニスに向かい叫んだ。
一見すれば、ジャーゴルのダメージは大きい。無傷のジャニスとエディに分があるように見える。
だが、ジャーゴルに勝つための攻撃手段が無かった。
ジャニスの魔道具、魔封塵は、その塵に触れた魔法を強制的に無効化する魔道具である。
極めて強力無比な魔道具で、ジャニスが自分で作り上げた魔道具だが、制限も多い。
まず塵が対象に触れなくては効果が無い事から、対象に近い距離での使用が条件になる。
そしてジャニスの魔力に反応して効果を発揮するため、ジャニスが魔力を込め、魔力を解放する。
この二つの手順が必要になる。
仮にエディがジャニスの代わりに魔封塵を撒いたとしても、それにジャニスの魔力が込められてなくては何の効果もない。
ジャニスが魔力を込めた魔封塵を、エディが撒き、ジャニスが魔力を解放する。
他者が魔封塵を使用するとすれば、この三つの手順が必要になるので、使い勝手が良いとは言えない。
そして射程が短く、有効時間も短い。風に撒き散らされる可能性があるなど、不安要素も多かった。
射程は塵が舞っている空間だけであり、また塵が地面に落ちるか、障害物に当たり止まればそれでお終いである。そして、風が強い日には塵は対象に当てるどころではないので、とても使える代物ではなかった。
魔法の強制無効化という、非常に強力な魔道具ではあるが、反面使い辛い要素も大きかった。
エディの策は、ジャニスから魔封塵の説明を聞き、空を飛んで追いかけて来る三人を視認して、急遽立てたものだった。
ジャニスが地上から三人に向かって魔封塵を投げ、空中の三人の足元の風を消し、地上に落下したところを、エディが弓で仕留めるという手順である。
ジャーゴル以外の二人は仕留める事ができた。
だが、肝心のジャーゴルは、地面に落とされ体を強打した直後にも関わらず、瞬時に火魔法で全身を覆い防御に転じて見せた。
生存本能。
裏世界にその身を置き、常に死と隣合わせだったジャーゴルだからこそ、予想外の事態に、まずその身を護り命の確保に頭が働いた。
風魔法がどうやってに消されたかは、後から考えればいい。
最優先は自分の命を護る事だ。
ジャーゴルは一つ一つ、体の感覚を確かめながら、立ち上がった。
両足は体を支えられる。
右腕は肘も曲げれるし、拳も作れる。
左腕はとても動かせなかった。少し握ろうとしただけで強い痛みが走り、肘も曲げる事ができない。
落下し地面にぶつかる瞬間、左手を前に出しかばったため、おそらく骨が折れている。
落ちた時に切ったのだろう、頭部から流れる赤い血は、ジャーゴルの両目に入り、視界を赤く染める。
背中も腰も強く痛み、本来であれば動いていい状態ではなかった。
だが、不意をついて黒髪の針まで使用したにも関わらず、返り討ちで仲間を4人殺され、更に自分も大きなダメージを受けた。
ここまでやられて引き下がるという選択は、殺し屋ジャーゴル・ディーロにはなかった。
動く右手を目の間のジャニスに向け、ジャーゴルは口を動かした。
「おんなぁ~・・・てめぇなにをした?」
血で赤く染まった形相、恨みと憎しみの籠った底冷えするような殺意が向けられ、ジャニスにも怯みが無かったわけではない。
「はぁ?教えるわけないでしょ?なんで自分の手の内明かさないといけないのよ。それより、あの高さから落ちて大怪我してんだから、動けるならさっさと帰れば?今なら見逃してあげるわよ」
怯みが無かったわけではないが、それでもジャニスは僅かでも気後れを見せる事はしなかった。
これは命のやりとり。
気持ちの上で、僅かでも弱さを見せればそこから崩されてしまうだろう。
ジャニスは魔封塵をあと三つ持っている。
あと三回はジャーゴルの魔法を防ぐ事ができる。
灼炎竜を撃たれても、魔封塵をぶつければ無効化する事はできる。
だが、あと三回だけである。
ジャニスとエディが生還するには、あと三回の魔封塵で、ジャーゴルが身に纏う灼炎竜を無効化し、エディの弓で仕留めるしかない。
木の上から、エディが何度も逃げろと声を上げるが、ジャニスにも逃げるという選択はなかった。
ここでジャーゴルから逃げるという事、それは手負いの獣を生かして帰すという事だ。
それは必ず戻って来る。強い恨みと憎しみを携え、より凶悪になって帰って来る。
自分達が安心した生活をするためには、今日、この時この場で仕留めるしかない。
ジャニスはむしろ、ジャーゴルが逃げるという選択をしなかった事に安堵すらしていた。
ジャニスは何も答えず、一度だけエディに目を向ける。
木の上から、何度もジャニスに声をかけ続けたエディは、僅かな時間だがジャニスと目を合わせた事で、
その目に宿る覚悟が読み取れた。
そうか・・・ジャニスさん・・・ここでやるしかないんですね?
確かにここで我々が逃げ切れたとしても、それは同時にこの男に体勢を立て直す時間を与える事にもなる。
森で生き、狩りを生業としているエディにはよく分かった。
手負いの獣ほど恐ろしいものはない。
そしてこの男は人間であり、殺し屋だ。
今、生かして帰せば、きっと後悔する時が来るだろう。
エディ・ワーリントンも覚悟を決めた。
息子が連れてきた初めての友人・・・勝算が見えない今、その命だけは何としても護りたかった。
だが、その友人は用意した策が失敗に終わっても、敵に背を見せず戦おうとしている。
ジャニスの気迫はエディに再び弓を構えさせた。
・・・ジャニスさん、分かりました。
なにか勝算があるんですね?
私にできる事は矢を射る事だけです。
あなたを信じ、その時を待ちましょう。
体力型であれば、全力で走って三分もあればたどり着く距離だが、魔法使いの三人はどんなに急いでも5分はかかる。
ジョルジュの弓は、父と母に鍛えられたものであり、その実力はまだまだ衰え知らずである。
ジョルジュも父親の実力は十分に理解している。そして今回はジャニスが付いている。
白魔法使いとして、この国一番、いや大陸一と言っても過言ではない。そのジャニスが付いているのだ。
例え相手が、裏世界で名をはせるディーロ兄弟であったとしても、そうそう遅れをとるものではない。
自分達が駆け付けるまで、きっと二人は持ちこたえる。そう信じて走り続ける三人だったが、突如、湖のある方角ですさまじい爆発音とともに、樹々よりも更に高く上がる土煙が巻き起こった。
「今のは!?」
「音がたて続けに何発も聞こえた!おそらく爆裂弾の連射だ!」
ジョルジュの問いに、ウィッカーが走りながら言葉を返した。
「すでに戦っているのね・・・待ってて今行くわ!」
体力型でない三人は、すでに息も上がってきているが、それでも一秒でも早く助けに入るため、力の限り足を動かし続けた。
ジャーゴル・ディーロは、たった今、目の前で起こった出来事に我が目を疑った。
目の前に立つ白魔法使いが投げた皮袋、それは空中に立っていたジャーゴル達、三人の黒魔法使いの前で、中身の白い粉のような物が飛び出し、空中に拡散した。
得体のしれないものにジャーゴル達は警戒し、粉が舞っている範囲から距離をとろうと、足に纏わせている風を後方に動かそうとすると・・・・・突如、風が消えた
自分の意思とは関係なく、空を飛ぶために足に纏わせていた風魔法が突然消え、ジャーゴル達三人は数メートル下の地面に落下し、強く体を打ちつける事になった。
魔法使いであるジャーゴル達は、満足に受け身を取る事ができなかった。
すぐに起き上がる事もできずに、全身を襲う痛みに耐えていると、鉄の矢が三本、頭上から放たれた。
黒魔法使いの一人は仰向けのまま額を打ち抜かれ、もう一人の黒魔法使いは、起き上がろうと地面に片肘を付き上半身を上げたところを、後頭部から射抜かれ絶命した。
そしてジャーゴル・ディーロの頭上にも矢が迫った時、鉄の矢は突然燃え上がり、ジャーゴルの頭に刺さる寸前で燃え尽きた。
ジャーゴルの頭上から数メートル上、木の枝を足場に身を潜めていたエディは、眼下の光景に細い目を見開き驚きをあらわにした。
今、ジャーゴルの体を包むようにして、炎が赤く揺らめいている。
鉄の矢を一瞬で溶かす程の業火だ。
揺らめいていた業火は竜を形作り、炎の竜は1体、2体、3体と数を増やしていくと、ジャーゴル・ディーロの身体に巻き付き、前方のジャニス、頭上のエディに炎の口を大きく開け、今にも飛び掛からんと威嚇(いかく)を響かせていた。
上級火魔法 灼炎竜
幼少の頃、親の虐待により顔に大きな火傷を負ったジャーゴル・ディーロは、炎に対して拭いきれない恐怖心を持っていた。
そのため相反する、水と氷の魔法を中心にした黒魔法を使う戦闘スタイルを確立したが、感情が制御できない程に高ぶった時、怒りでその身を焼き尽くしそうな程、憎悪に身を焦がした時、ジャーゴルはその黒い感情を吐き出すかのように、あえて炎の魔法を使用する。
「あれは・・・くっ、まずい!」
鉄の矢が通用しないのであれば、エディにはもはや打つ手は無い。
ジャーゴル・ディーロは、今はまだ、落下の痛みですぐに動く事ができない。
体に纏った炎の竜は、防御のためであろうが、自分とジャニスに向けられている事から、これ以上の追撃は無駄だと威嚇し警告を発しているのだろう。
左腕は痛みが強いので、右肘だけを立て上半身を起こし、震える膝を曲げて腰を起こす。
痛みに耐え、歯を食いしばりながらジャーゴルはゆっくりと起き上がった。
「ジャニスさん!作戦は失敗だ!逃げろ!」
木の上からエディは大声でジャニスに向かい叫んだ。
一見すれば、ジャーゴルのダメージは大きい。無傷のジャニスとエディに分があるように見える。
だが、ジャーゴルに勝つための攻撃手段が無かった。
ジャニスの魔道具、魔封塵は、その塵に触れた魔法を強制的に無効化する魔道具である。
極めて強力無比な魔道具で、ジャニスが自分で作り上げた魔道具だが、制限も多い。
まず塵が対象に触れなくては効果が無い事から、対象に近い距離での使用が条件になる。
そしてジャニスの魔力に反応して効果を発揮するため、ジャニスが魔力を込め、魔力を解放する。
この二つの手順が必要になる。
仮にエディがジャニスの代わりに魔封塵を撒いたとしても、それにジャニスの魔力が込められてなくては何の効果もない。
ジャニスが魔力を込めた魔封塵を、エディが撒き、ジャニスが魔力を解放する。
他者が魔封塵を使用するとすれば、この三つの手順が必要になるので、使い勝手が良いとは言えない。
そして射程が短く、有効時間も短い。風に撒き散らされる可能性があるなど、不安要素も多かった。
射程は塵が舞っている空間だけであり、また塵が地面に落ちるか、障害物に当たり止まればそれでお終いである。そして、風が強い日には塵は対象に当てるどころではないので、とても使える代物ではなかった。
魔法の強制無効化という、非常に強力な魔道具ではあるが、反面使い辛い要素も大きかった。
エディの策は、ジャニスから魔封塵の説明を聞き、空を飛んで追いかけて来る三人を視認して、急遽立てたものだった。
ジャニスが地上から三人に向かって魔封塵を投げ、空中の三人の足元の風を消し、地上に落下したところを、エディが弓で仕留めるという手順である。
ジャーゴル以外の二人は仕留める事ができた。
だが、肝心のジャーゴルは、地面に落とされ体を強打した直後にも関わらず、瞬時に火魔法で全身を覆い防御に転じて見せた。
生存本能。
裏世界にその身を置き、常に死と隣合わせだったジャーゴルだからこそ、予想外の事態に、まずその身を護り命の確保に頭が働いた。
風魔法がどうやってに消されたかは、後から考えればいい。
最優先は自分の命を護る事だ。
ジャーゴルは一つ一つ、体の感覚を確かめながら、立ち上がった。
両足は体を支えられる。
右腕は肘も曲げれるし、拳も作れる。
左腕はとても動かせなかった。少し握ろうとしただけで強い痛みが走り、肘も曲げる事ができない。
落下し地面にぶつかる瞬間、左手を前に出しかばったため、おそらく骨が折れている。
落ちた時に切ったのだろう、頭部から流れる赤い血は、ジャーゴルの両目に入り、視界を赤く染める。
背中も腰も強く痛み、本来であれば動いていい状態ではなかった。
だが、不意をついて黒髪の針まで使用したにも関わらず、返り討ちで仲間を4人殺され、更に自分も大きなダメージを受けた。
ここまでやられて引き下がるという選択は、殺し屋ジャーゴル・ディーロにはなかった。
動く右手を目の間のジャニスに向け、ジャーゴルは口を動かした。
「おんなぁ~・・・てめぇなにをした?」
血で赤く染まった形相、恨みと憎しみの籠った底冷えするような殺意が向けられ、ジャニスにも怯みが無かったわけではない。
「はぁ?教えるわけないでしょ?なんで自分の手の内明かさないといけないのよ。それより、あの高さから落ちて大怪我してんだから、動けるならさっさと帰れば?今なら見逃してあげるわよ」
怯みが無かったわけではないが、それでもジャニスは僅かでも気後れを見せる事はしなかった。
これは命のやりとり。
気持ちの上で、僅かでも弱さを見せればそこから崩されてしまうだろう。
ジャニスは魔封塵をあと三つ持っている。
あと三回はジャーゴルの魔法を防ぐ事ができる。
灼炎竜を撃たれても、魔封塵をぶつければ無効化する事はできる。
だが、あと三回だけである。
ジャニスとエディが生還するには、あと三回の魔封塵で、ジャーゴルが身に纏う灼炎竜を無効化し、エディの弓で仕留めるしかない。
木の上から、エディが何度も逃げろと声を上げるが、ジャニスにも逃げるという選択はなかった。
ここでジャーゴルから逃げるという事、それは手負いの獣を生かして帰すという事だ。
それは必ず戻って来る。強い恨みと憎しみを携え、より凶悪になって帰って来る。
自分達が安心した生活をするためには、今日、この時この場で仕留めるしかない。
ジャニスはむしろ、ジャーゴルが逃げるという選択をしなかった事に安堵すらしていた。
ジャニスは何も答えず、一度だけエディに目を向ける。
木の上から、何度もジャニスに声をかけ続けたエディは、僅かな時間だがジャニスと目を合わせた事で、
その目に宿る覚悟が読み取れた。
そうか・・・ジャニスさん・・・ここでやるしかないんですね?
確かにここで我々が逃げ切れたとしても、それは同時にこの男に体勢を立て直す時間を与える事にもなる。
森で生き、狩りを生業としているエディにはよく分かった。
手負いの獣ほど恐ろしいものはない。
そしてこの男は人間であり、殺し屋だ。
今、生かして帰せば、きっと後悔する時が来るだろう。
エディ・ワーリントンも覚悟を決めた。
息子が連れてきた初めての友人・・・勝算が見えない今、その命だけは何としても護りたかった。
だが、その友人は用意した策が失敗に終わっても、敵に背を見せず戦おうとしている。
ジャニスの気迫はエディに再び弓を構えさせた。
・・・ジャニスさん、分かりました。
なにか勝算があるんですね?
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あなたを信じ、その時を待ちましょう。
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