上 下
171 / 1,263

【171 ジョルジュの両親】

しおりを挟む
俺とジャニスはジョルジュと共に、城から歩いて北の森へと向かった。

「う~ん・・・気になる」

「ジャニス・・・師匠達なら大丈夫だよ。王子もいるし、パトリックさんにエロールだっている」

森の入り口まで来た時、ジャニスが腕を組み、首を捻りながら低い声を出したので、孤児院の心配をしているのかと思い、俺は心配しなくても大丈夫だと伝えるため、軽い調子で言葉をかけた。

「いや、そうじゃなくて・・・ヤヨイさんとパトリックさんよ。初対面どうなると思う?」

「・・・え?」

ずいぶんと思い悩んでいたように見えたと思ったら、予想もしない言葉に俺は何て返していいか分からずに顔を引きつらせてしまった。


「心配する事もないだろう。ヤヨイは相手の事を考えて行動するタイプだ、前もってパトリックの性格も伝えてあるんだろ?それならばヤヨイは寄り添ってくれるはずだ。きっとうまくいく」

先頭に立って森に入って歩くジョルジュが、顔半分後ろに向け、俺の代わりにジャニスに言葉をかけた。
ヤヨイさんとはまだ会って日も浅いのに、よく見ていると思った。

ジョルジュは会話をしなくても、その人がまとう風で、その人の内面もだいたい分かるらしい。ヤヨイさんの風をとても褒めていたし、知り合ってからの日が短くても、すでに人間性を信頼しているのだろう。


「う~ん、そうだよね。私もヤヨイさんなら大丈夫だと思うんだ。きっと、うまくいくと思うの。ただね・・・見たかったなぁ、二人の初対面・・・」

ジャニスは残念そうに首を横に振り、両手を伸ばし頭の上で組ませて背伸びをする。

「何を言うかと思えば、見たかったって・・・ジャニスってそういうとこあるよな?ヤジ馬って言うか、特に恋愛になると首つっこむよな?」

少し呆れた感じで話し、隣を歩くジャニスに顔を向けると、ジャニスは少し口を尖らせて俺を睨んできた。

「だって、見たいんだもん・・・しょうがないじゃん!」

すねた感じでそう言うと、ジャニスは、プイっと俺から顔をそむけてしまった。


エロールを叱った時なんかは、さすがジャニスだと感心したものだが、たまにこういう子供っぽいところがある。
俺はおかしくなって声を出して笑ってしまい、ますますジャニスにすねられてしまった。

ジョルジュは振り返らないで、一定のペースで前を歩いている。
でも、なんとなくだけど、前を向いているその顔は笑っているように感じた。



二日続けてこの森に来る事になるとは思わなかった。
やっぱり空気が澄んでいるし、緑のにおいが溢れ、心が洗われる感じもする。


「・・・・・ついたぞ。さぁ、上がってくれ」

木々を抜け、少しだけひらけた場所に出る。
昨日も見た、大きな樹木の上のツリーハウスを指し、ジョルジュが振り向いた。

螺旋状に囲むような木造りの階段の上には、沢山の緑の葉が屋根に被さり、大きなログハウスを覆っている。


「昨日もすごいと思ったけど、やっぱ目を引くよな、ツリーハウスって」

「そうだね、それと、この森の中だからかな・・・なんか神秘的に見える」

ジョルジュに促されるまま、螺旋階段を上がり家の中に入ると、ジョルジュと同じアイスブルーの髪をした、少し年配の男性と女性が出迎えてくれた。

男性は、ジョルジュと同じ位の身長で、少しゆったりとした若草色の長袖の上からでも分かるくらい、引き締まった体付きをしている。
髪はオールバックにまとめていて、細い目は一見睨まれていると感じてしまうかもしれないが、空気と言うか雰囲気はとても穏やかなもので、外見とは裏腹に温かみを感じる人だ。


女性は肩の下まである髪を、一本の三つ編みに結っていた。
ジョルジュを女性にしたらこんな感じかな、と思えるような顔立ちで、
優しそうなクリっとした丸目と、小さめで形の良い唇が、実年齢より若く見える。

薄手で茶色の、ボタン留めのニットを羽織っている。

ジョルジュの両親だ。



「父さん、母さん、紹介するよ。ウィッカーとジャニス、俺の友達だ。今日からしばらくここに住んでもらう事になった」

玄関口でジョルジュが俺とジャニスを紹介して、簡単に経緯を説明すると、ジョルジュの両親はあまり驚いた様子はなく、俺とジャニスがしばらく滞在する事にも、好意的に受け入れてくれた。

立ち話しもなんだからと、上がるように促され、昨日と同じく、丸太を切って作った大きなテーブルを囲むように、みんなで座り顔を合わせた。
丸太のイスは4つしかなかったので、ジョルジュは両親に座るように話し、自分は壁に背を預け、腕を組んで話しに加わった。


「・・・なるほど、事情はよく分かりました。息子のためにありがとうございます。孤児院や魔法兵団にも大変ご面倒と、ご尽力をいただきましたようで、なんとお礼を言ってよいか・・・・・実を言いますと、闘技場で息子が人を殺めた事は聞いておりました。ただ、国からお咎めが無かったし、風の精霊も変わらず息子に付いてましたので、つまり、息子が殺したのはそういう人だったんだなと理解していたんです。ですから、今回の件を聞いても、可能性として私も妻も考えていた事ですので、驚く程ではありません。むしろ、息子が友達を連れて来た方が驚いたくらいですよ」


今回の件を詳しく説明し終えると、ジョルジュの父親は、まず俺達に感謝の言葉を口にしたあと、テーブルの上で両手を組み、理解したというように深く頷き、言葉を発した。

「私も、ジョルジュがお友達を連れてくるなんて驚いたわ。ずっと、森で暮らしていたから、親の責任でもあるんだけど・・・・・ウィッカーさんとジャニスさん、ジョルジュとこれからも仲良くしてくださいね。そして、こんな危険な事に巻き込んでしまって、ごめんなさい」

ジョルジュの母親にも頭を下げられ、さすがに俺とジャニスも恐縮してしまい、自分達の方がジョルジュに助けてもらっていると言って、なんとか頭を上げてもらった。

実際、師匠の命を助けてもらった事は何度お礼を言っても足りないものだ。
ヤヨイさんに風の精霊を紹介してくれた事で、ヤヨイさんも精霊とのつながりができたし、過去の記憶も少し戻ってきた。
ジョルジュには、助けてもらってばかりだ。今回、俺達が力になる事で、少しでも恩を返せればと思う。


それから俺達は今後の対策を話し合った。

ジョルジュの両親の弓の腕前は、空を高く飛ぶ鳥を落とし、木々の間を縫って遠く離れた獲物を撃ち抜く程のもので、俺もジャニスも感嘆の声をもらした。

戦闘になった場合、俺とジャニス、ジョルジュの三人を中心に考えていたが、考えをあらためさせられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

処理中です...