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【169 一つになる気持ち】
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ジャニスの宣言に、ジョルジュも師匠もロビンさんも目を丸くしていた。
王子は変わらず頬杖を付いたまま、顔を壁に逸らしている。どこまで話しを聞いているのか分からない。
「どう?いい考えでしょ?私は白魔法使いだから、もしあんたや、あんたのご両親が怪我をしても治せるわ。骨折だって2~3分あれば十分。役に立つわよ。ウィッカーはあれで、黒魔法使いとしてなら王子の次に強い。そして、あんたは史上最強と言われる弓使い。私達三人で返り討ちにしてやろうよ!」
ジャニスは腕を組んで、自分のアイディアの素晴らしさを堪能するように、何度もうんうんと頷いている。
ジョルジュは珍しく迷っているようだ。顎に手を当て、ジャニスの申し出を受けるかどうか考えているように見える。
俺はどうすべきか考えた。
孤児院を離れ、ジョルジュの家に泊まり込む事に、不安が胸をよぎった。
この状況で、俺が孤児院を空けて大丈夫だろうか?
殺し屋はジョルジュを狙うと言うけど、ジョルジュが孤児院に来たのは今日で二回目だ。
殺し屋がすでに俺達とジョルジュの関係に気付いているとすれば、孤児院が絶対に安全とは言い切れない。
メアリー・・・今朝の気持ちを伝えたからだろうか。
ヤヨイさんも、キャロルもトロワも子供達も、もちろんみんな大切だ。誰一人失いたくない。
だけど、その中でもメアリーが心配な気持ちが強くなった。
メアリーは俺の中で特別になっていた。
でも・・・ジョルジュも大切な友達だ。
知り合ったばかりだけど、友達になったばかりだけど、殺し屋に命を狙われるから、一人になろうとしているジョルジュを、このまま放っておいていいわけがない。
「ジョルジュ・・・ごめん」
俺が席を立ち、頭を下げると、ジャニスが俺の両肩を掴み強く揺すった。
「はぁ!?あんた何言ってんの!?ジョルジュは私達の事を考えて一人になろうとしてんのよ!あんた何謝ってんのよ!ジョルジュを見捨てる気!?」
俺はジャニスの目を真っ直ぐに見た。
「ウィッカー!あんたそれでいいの!?本当にそれ・・・・・」
ジャニスはまだ怒り止まない様子だっただけ、俺の目を見て言葉を止めた。
長い付き合いだから、俺が何か言いたい事を察してくれたのだと思う。
「ジャニス、俺はさっき・・・ジャニスみたく、ジョルジュを追いかける事ができなかった。孤児院のみんなの顔が頭に浮かんで、子供達の事だけを考えてしまったんだ。
俺は、一度ジョルジュを見捨てたんだ・・・・・だから、謝りたかった。でも、ジャニスの言葉を聞いて自分が恥ずかしくなった。俺達は友達なんだ。見捨てるなんてできない。だから俺も一緒に戦うよ。戦わせて欲しい・・・・・
ジョルジュ、情けない俺を許してくれ。俺も一緒に戦いたい・・・・・」
メアリー・・・・・ごめんな。
しばらく孤児院を空けるけど、俺、やっぱりジョルジュを一人にできないよ。
それに、友達を見捨てるような男は、きっとメアリーは嫌いだろ?
だから、カッコつけさせてくれ。
「・・・許すも許さないもない。ウィッカー、お前は孤児院を優先すべきなんだ。俺は戦う力があるし身軽だ。だが孤児院はそうではない。護らなければならない子供が大勢いるんだ。お前は来るな・・・・・そう言いたいところだが、その顔・・・決心は固いようだな」
ジョルジュは俺の後ろに顔を向けると、座って成り行きを見ている師匠に言葉を投げた。
「ブレンダン、あなたに黒髪の針を撃った男だが、アイツは正面から戦っていれば、相当な使い手だった。少なくとも、あなたがあそこで戦ったベン・フィングよりずいぶん上だ。俺はヤツの動揺したところを間髪入れずに狙ったから、簡単に倒せたように見えただろうがな。どうだ?アレと同レベルかそれ以上の使い手が、二人で孤児院を襲ってきた場合、ウィッカーとジャニス無しで、一人も犠牲者を出さずに防げるか?」
ジョルジュの質問に、師匠はすぐには答えなかった。視線を天井に向け、考えるように顎を掻いている。
「・・・うむ、そうだな。ワシもディーロ兄弟の名を知ってはおる。ヤツらが戦っているところを見た事はないから、これまで聞いた事のある話しに想像を加えてになるが・・・・・結界を張り、防御に徹すれば、命を守る事だけは可能じゃ。ただ、ヤツらが光源爆裂弾でも使おうものなら、長時間防ぐ事は難しいな。だから、ワシの魔力が尽きる前にヤツらを追い払う役が欲しい。王子、頼めますかな?」
師匠が隣に座る王子に顔を向け声をかけた。
王子は変わらず、頬杖を付き壁に顔を向けている。この話しが始まってから、いやロビンさんが話していた最初からずっと同じ姿勢だ。
「・・・・・分かった。その時は俺がやる・・・」
しばらくの沈黙の後、壁に顔を向けたまま、誰に言うでもないように、王子はただそれだけを答えた。
師匠は少し口元を緩め、笑っているように見える。
王子が協力してくれる事に安心したというより、しょうがないな、とでも言いたそうに見える。
「ほっほっほ・・・王子、助かります。ジョルジュ、王子の力があれば何も心配いらん。孤児院の事は気にせんでよい。ウィッカー、ジャニス、お前たちはジョルジュの力になってやりなさい」
師匠が防御に徹し、その間に王子が襲撃者を叩くのであれば、最強の組み合わせだろう。
俺もジャニスも、孤児院の護りの問題が無さそうなので、安堵の息をもらした。
「ブレンダン様、私もお力になりたいのですが、ディーロ兄弟はブロートン帝国の手の者であり、そして大臣と通じていると見ております。これからの大臣への取り調べは、より厳しいものになるでしょう。我が国とブロートンとの間にも、高い緊張感が漂ってきました。そんな時に、魔法兵団団長の私が城を離れるわけにはまいりません」
ロビンさんは師匠に頭を下げた。
無理もない、いや当然の事だろう。ロビンさんはこの国の魔法兵団団長なのだ。
証拠はないがブロートン帝国と大臣がつながっていて、この国に刺客を入れたのだ。
戦争にすらなりかねない大事態と言っても過言ではないだろう。
しばらくは城に泊まり込みで、情報収集や防衛の準備などにかかりきりだろう。
「いや、ロビンよ、その気持ちだけで十分じゃ。お主は魔法兵団の団長。この国の防衛を最優先に考えるべきじゃ。必ずやベンの悪事を暴いてくれ」
師匠も俺と同じ考えのようだ。
ロビンさんの立場であれば、この状況で城を開ける事はできない。
「申し訳ありません。代わりというのも何ですが、パトリックとエロールを行かせます。パトリックはブレンダン様に次ぐ青魔法使い、エロールはまだ子供ですが、将来有望な白魔法使い、きっとお役に立つでしょう」
「それはありがたいが、魔法兵団はよいのか?」
「ご安心を、私と副団長がおりますし、パトリックとエロール程ではありませんが、ブレンダン様に鍛えられた優秀な魔法使いが大勢おりますから。孤児院には沢山の子供達がおります。どうか、お力にならせてください」
ロビンさんの申し出を、師匠は感謝の言葉を伝え受けとった。
師匠とパトリックさんが組めば、正に鉄壁の防御だろう。
そして、ロビンさんが送ってくれるもう一人の援軍。
白魔法使い エロール・タドゥラン。
ジャニスが何度か指導していたが、飲み込みが早く、まだ12歳と若いが、確かな将来性を感じる逸材だった。
「エロールか、彼なら治癒能力高いから安心だね。ただ、ちょっと生意気だから、トロワと喧嘩にならないといいけど。でも、ロビンさん、思わぬ形でヤヨイさんとパトリックさんが会う事になりますね?」
ジャニスは少し笑いながらロビンさんに言葉を向けた。
ヤヨイさんもパトリックさんも、お互いに会う事は了承しているが、場所や日程はこれから決めていくところだった。
それが、期間を定めず突然孤児院に泊まりこみになるのだ。
これは予想もできなかった。
「うむ、俺もこうなるとは思わなかったが、しかたあるまい。ブレンダン様と王子がいれば問題ないかもしれんが、相手は殺し屋だ。二人だけで来るとは限らん。仲間がいるか分からんが、大勢引き連れてくる可能性もあるし、どんな卑劣な手を使ってくるかも分からん。戦力は多い方がいいだろう?
パトリックは、あの試合の後、俺に謝ってきた。ヤヨイさんにぜひ合わせて欲しいと言ってな。本当は静かなところで時間を気にせず二人きりで合わせたかったが、まぁ・・・あとはアイツ次第だ」
「みんな、俺のためにすまない。ロビン、孤児院に貴重な戦力を派遣してくれる事に感謝する」
話しを聞いていたジョルジュが口を開き、俺達に頭を下げた。
「ちょっと、なにあらたまってんのよ!あんただって師匠の命を助けてくれたじゃない?お互い様よ。今度は私達があんたを助ける番!今日からよろしく頼むわよ?」
ジャニスはからかうような口調で話しかけながら、ジョルジュの肩を軽く叩いた。
ジョルジュの表情が少し和らぐ。
やっぱり、ジャニスのこういうところは真似できない。
「ジョルジュ、気にする事はないぞ。あの時お前がブレンダン様の命を護った行いを考えれば、このくらいは当然の事だ。ディーロ兄弟との決着がいつになるか分からんが、魔法兵団が孤児院を全面的にバックアップする。だから、お前もウィッカーとジャニスを遠慮なく使い倒せばいい」
「ちょっと、ロビンさん、その言い方なんか嫌だな?私は消耗品じゃないですよ?」
ジャニスが眉をひそめ、ロビンさんに不満の言葉を投げる。
私達、ではなく、私は、という区切りに俺は疑問を感じた。
「え、ジャニス、俺は?」
「ウィッカーはしょうがない」
「なんでだよ!?」
俺が抗議の声を上げると、それにつられてみんなが笑い出した。
王子は相変わらず壁に顔を向けているから、表情は分からないけど、あまり表情の変わらないジョルジュでさえ、少しだけど声をだして笑っている。
俺は、つい声を上げてしまった事にはずかしくなり、頭を掻くと、隣に立つジャニスが肘で俺の腹を押してきた。
なんだ?と思いジャニスに顔を向けると、ジャニスはいつものいたずらっ子のような笑顔を俺に見せた。
・・・・・全く、お前はいつもそうだよな
分かったよ・・・
お前が場を和ませるから、みんなの気持ちが楽になる
団結、結束、絆、色んな呼び方があるけど、ジャニスがいるからそういう気持ちが一つになるんだよな
本当にすごいよ。俺には真似できない
だから、お前がみんなをまとめるのに必要なら、このくらいからかわれるのは我慢してやるよ
俺は軽く息をついて、ジャニスに笑い返した
頑張ろうな。ジャニス
王子は変わらず頬杖を付いたまま、顔を壁に逸らしている。どこまで話しを聞いているのか分からない。
「どう?いい考えでしょ?私は白魔法使いだから、もしあんたや、あんたのご両親が怪我をしても治せるわ。骨折だって2~3分あれば十分。役に立つわよ。ウィッカーはあれで、黒魔法使いとしてなら王子の次に強い。そして、あんたは史上最強と言われる弓使い。私達三人で返り討ちにしてやろうよ!」
ジャニスは腕を組んで、自分のアイディアの素晴らしさを堪能するように、何度もうんうんと頷いている。
ジョルジュは珍しく迷っているようだ。顎に手を当て、ジャニスの申し出を受けるかどうか考えているように見える。
俺はどうすべきか考えた。
孤児院を離れ、ジョルジュの家に泊まり込む事に、不安が胸をよぎった。
この状況で、俺が孤児院を空けて大丈夫だろうか?
殺し屋はジョルジュを狙うと言うけど、ジョルジュが孤児院に来たのは今日で二回目だ。
殺し屋がすでに俺達とジョルジュの関係に気付いているとすれば、孤児院が絶対に安全とは言い切れない。
メアリー・・・今朝の気持ちを伝えたからだろうか。
ヤヨイさんも、キャロルもトロワも子供達も、もちろんみんな大切だ。誰一人失いたくない。
だけど、その中でもメアリーが心配な気持ちが強くなった。
メアリーは俺の中で特別になっていた。
でも・・・ジョルジュも大切な友達だ。
知り合ったばかりだけど、友達になったばかりだけど、殺し屋に命を狙われるから、一人になろうとしているジョルジュを、このまま放っておいていいわけがない。
「ジョルジュ・・・ごめん」
俺が席を立ち、頭を下げると、ジャニスが俺の両肩を掴み強く揺すった。
「はぁ!?あんた何言ってんの!?ジョルジュは私達の事を考えて一人になろうとしてんのよ!あんた何謝ってんのよ!ジョルジュを見捨てる気!?」
俺はジャニスの目を真っ直ぐに見た。
「ウィッカー!あんたそれでいいの!?本当にそれ・・・・・」
ジャニスはまだ怒り止まない様子だっただけ、俺の目を見て言葉を止めた。
長い付き合いだから、俺が何か言いたい事を察してくれたのだと思う。
「ジャニス、俺はさっき・・・ジャニスみたく、ジョルジュを追いかける事ができなかった。孤児院のみんなの顔が頭に浮かんで、子供達の事だけを考えてしまったんだ。
俺は、一度ジョルジュを見捨てたんだ・・・・・だから、謝りたかった。でも、ジャニスの言葉を聞いて自分が恥ずかしくなった。俺達は友達なんだ。見捨てるなんてできない。だから俺も一緒に戦うよ。戦わせて欲しい・・・・・
ジョルジュ、情けない俺を許してくれ。俺も一緒に戦いたい・・・・・」
メアリー・・・・・ごめんな。
しばらく孤児院を空けるけど、俺、やっぱりジョルジュを一人にできないよ。
それに、友達を見捨てるような男は、きっとメアリーは嫌いだろ?
だから、カッコつけさせてくれ。
「・・・許すも許さないもない。ウィッカー、お前は孤児院を優先すべきなんだ。俺は戦う力があるし身軽だ。だが孤児院はそうではない。護らなければならない子供が大勢いるんだ。お前は来るな・・・・・そう言いたいところだが、その顔・・・決心は固いようだな」
ジョルジュは俺の後ろに顔を向けると、座って成り行きを見ている師匠に言葉を投げた。
「ブレンダン、あなたに黒髪の針を撃った男だが、アイツは正面から戦っていれば、相当な使い手だった。少なくとも、あなたがあそこで戦ったベン・フィングよりずいぶん上だ。俺はヤツの動揺したところを間髪入れずに狙ったから、簡単に倒せたように見えただろうがな。どうだ?アレと同レベルかそれ以上の使い手が、二人で孤児院を襲ってきた場合、ウィッカーとジャニス無しで、一人も犠牲者を出さずに防げるか?」
ジョルジュの質問に、師匠はすぐには答えなかった。視線を天井に向け、考えるように顎を掻いている。
「・・・うむ、そうだな。ワシもディーロ兄弟の名を知ってはおる。ヤツらが戦っているところを見た事はないから、これまで聞いた事のある話しに想像を加えてになるが・・・・・結界を張り、防御に徹すれば、命を守る事だけは可能じゃ。ただ、ヤツらが光源爆裂弾でも使おうものなら、長時間防ぐ事は難しいな。だから、ワシの魔力が尽きる前にヤツらを追い払う役が欲しい。王子、頼めますかな?」
師匠が隣に座る王子に顔を向け声をかけた。
王子は変わらず、頬杖を付き壁に顔を向けている。この話しが始まってから、いやロビンさんが話していた最初からずっと同じ姿勢だ。
「・・・・・分かった。その時は俺がやる・・・」
しばらくの沈黙の後、壁に顔を向けたまま、誰に言うでもないように、王子はただそれだけを答えた。
師匠は少し口元を緩め、笑っているように見える。
王子が協力してくれる事に安心したというより、しょうがないな、とでも言いたそうに見える。
「ほっほっほ・・・王子、助かります。ジョルジュ、王子の力があれば何も心配いらん。孤児院の事は気にせんでよい。ウィッカー、ジャニス、お前たちはジョルジュの力になってやりなさい」
師匠が防御に徹し、その間に王子が襲撃者を叩くのであれば、最強の組み合わせだろう。
俺もジャニスも、孤児院の護りの問題が無さそうなので、安堵の息をもらした。
「ブレンダン様、私もお力になりたいのですが、ディーロ兄弟はブロートン帝国の手の者であり、そして大臣と通じていると見ております。これからの大臣への取り調べは、より厳しいものになるでしょう。我が国とブロートンとの間にも、高い緊張感が漂ってきました。そんな時に、魔法兵団団長の私が城を離れるわけにはまいりません」
ロビンさんは師匠に頭を下げた。
無理もない、いや当然の事だろう。ロビンさんはこの国の魔法兵団団長なのだ。
証拠はないがブロートン帝国と大臣がつながっていて、この国に刺客を入れたのだ。
戦争にすらなりかねない大事態と言っても過言ではないだろう。
しばらくは城に泊まり込みで、情報収集や防衛の準備などにかかりきりだろう。
「いや、ロビンよ、その気持ちだけで十分じゃ。お主は魔法兵団の団長。この国の防衛を最優先に考えるべきじゃ。必ずやベンの悪事を暴いてくれ」
師匠も俺と同じ考えのようだ。
ロビンさんの立場であれば、この状況で城を開ける事はできない。
「申し訳ありません。代わりというのも何ですが、パトリックとエロールを行かせます。パトリックはブレンダン様に次ぐ青魔法使い、エロールはまだ子供ですが、将来有望な白魔法使い、きっとお役に立つでしょう」
「それはありがたいが、魔法兵団はよいのか?」
「ご安心を、私と副団長がおりますし、パトリックとエロール程ではありませんが、ブレンダン様に鍛えられた優秀な魔法使いが大勢おりますから。孤児院には沢山の子供達がおります。どうか、お力にならせてください」
ロビンさんの申し出を、師匠は感謝の言葉を伝え受けとった。
師匠とパトリックさんが組めば、正に鉄壁の防御だろう。
そして、ロビンさんが送ってくれるもう一人の援軍。
白魔法使い エロール・タドゥラン。
ジャニスが何度か指導していたが、飲み込みが早く、まだ12歳と若いが、確かな将来性を感じる逸材だった。
「エロールか、彼なら治癒能力高いから安心だね。ただ、ちょっと生意気だから、トロワと喧嘩にならないといいけど。でも、ロビンさん、思わぬ形でヤヨイさんとパトリックさんが会う事になりますね?」
ジャニスは少し笑いながらロビンさんに言葉を向けた。
ヤヨイさんもパトリックさんも、お互いに会う事は了承しているが、場所や日程はこれから決めていくところだった。
それが、期間を定めず突然孤児院に泊まりこみになるのだ。
これは予想もできなかった。
「うむ、俺もこうなるとは思わなかったが、しかたあるまい。ブレンダン様と王子がいれば問題ないかもしれんが、相手は殺し屋だ。二人だけで来るとは限らん。仲間がいるか分からんが、大勢引き連れてくる可能性もあるし、どんな卑劣な手を使ってくるかも分からん。戦力は多い方がいいだろう?
パトリックは、あの試合の後、俺に謝ってきた。ヤヨイさんにぜひ合わせて欲しいと言ってな。本当は静かなところで時間を気にせず二人きりで合わせたかったが、まぁ・・・あとはアイツ次第だ」
「みんな、俺のためにすまない。ロビン、孤児院に貴重な戦力を派遣してくれる事に感謝する」
話しを聞いていたジョルジュが口を開き、俺達に頭を下げた。
「ちょっと、なにあらたまってんのよ!あんただって師匠の命を助けてくれたじゃない?お互い様よ。今度は私達があんたを助ける番!今日からよろしく頼むわよ?」
ジャニスはからかうような口調で話しかけながら、ジョルジュの肩を軽く叩いた。
ジョルジュの表情が少し和らぐ。
やっぱり、ジャニスのこういうところは真似できない。
「ジョルジュ、気にする事はないぞ。あの時お前がブレンダン様の命を護った行いを考えれば、このくらいは当然の事だ。ディーロ兄弟との決着がいつになるか分からんが、魔法兵団が孤児院を全面的にバックアップする。だから、お前もウィッカーとジャニスを遠慮なく使い倒せばいい」
「ちょっと、ロビンさん、その言い方なんか嫌だな?私は消耗品じゃないですよ?」
ジャニスが眉をひそめ、ロビンさんに不満の言葉を投げる。
私達、ではなく、私は、という区切りに俺は疑問を感じた。
「え、ジャニス、俺は?」
「ウィッカーはしょうがない」
「なんでだよ!?」
俺が抗議の声を上げると、それにつられてみんなが笑い出した。
王子は相変わらず壁に顔を向けているから、表情は分からないけど、あまり表情の変わらないジョルジュでさえ、少しだけど声をだして笑っている。
俺は、つい声を上げてしまった事にはずかしくなり、頭を掻くと、隣に立つジャニスが肘で俺の腹を押してきた。
なんだ?と思いジャニスに顔を向けると、ジャニスはいつものいたずらっ子のような笑顔を俺に見せた。
・・・・・全く、お前はいつもそうだよな
分かったよ・・・
お前が場を和ませるから、みんなの気持ちが楽になる
団結、結束、絆、色んな呼び方があるけど、ジャニスがいるからそういう気持ちが一つになるんだよな
本当にすごいよ。俺には真似できない
だから、お前がみんなをまとめるのに必要なら、このくらいからかわれるのは我慢してやるよ
俺は軽く息をついて、ジャニスに笑い返した
頑張ろうな。ジャニス
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