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【166 選んだ道】

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ベン・フィングと殺し屋、この二人について話しが聞きたかった俺達は、ロビンさんを探して、魔法兵団の宿舎を訪れた。

あの闘技場での試合の後、負傷した師匠を見て、ロビンさんと息子のパトリックさんが、代わりにベン・フィングの事を調べておくと話してくれたのだ。

国王陛下からは、何も聞けずに玉座の間から閉め出されたが、ロビンさんが何かしら調べていてくれる期待感はあったので、肩を落とす事はなかった。

城を出て、城壁に沿って少し歩くと石造りの大きな建物が見えてくる。

五階建てで、現在500人程が住んでいる。
遠方に住んでいて、王宮使えになるために出てきたけど、住む場所を用意できない人が優先して入居できる。

ここには会議室や、団長、副団長の部屋が別に用意されている。
責任ある立場なので、ロビンさんは自宅と団長室を行き来する生活をしている。

出入口は塀で囲まれていて、来客があった際の受付係として、主に新米の魔法兵が交代で出入口前に立っている。


「こんにちは。団長のロビンさんはいるかな?」

14~15歳くらいだろうか。背は俺より10~15cm程は低く見える。
赤茶色の髪で、まだ幼さの残る少年が宿舎出入口に立っていた。

「こんにちは。あ、ウィッカー様!ブレンダン様にジャニス様も!え?・・・そちらの方は、ジョルジュ・ワーリントンさん!?・・・・・・えぇ!?ま、まさか、タ、タタ・・・タジーム王子!?」

俺達を、いや俺達にも少し驚いたようだけど、やっぱり一匹狼のイメージがあるジョルジュと、軟禁されているはずの王子を目にし、とにかく慌てる少年を見て、ジャニスが少し笑いながら一歩前に出た。

「そんなに慌てなくていいから、ゆっくり話して・・・あれ?キミ、どこかで見た事あるような・・・」

俺とジャニスも、師匠が魔法の指導で城へ入る時、付いて行くことが多いので、顔見知り程度でも知っている魔法使いは多い。
腕を組み、確認するように少年を見るジャニスに、指導した事があるんじゃないか?と声をかけると、ジャニスは首を横に振った。


「う~ん、指導した事もあるかもしれないけど、最近どこかで会った気がするの。どこだったかなぁ?」

「あの、すいません。ジャニス様の言う通りです。僕、バッタの時に、あの場にいました。見覚えがあるのは、僕がジャニス様に魔力を送るため、隣に立ったからだと思います」

少年の言葉に、ジャニスは思い出したように目を開き、両手を打ち合わせて声を上げた。

「あー!そうそう!思い出した!うん、そう言えばぼんやりとだけど、私より若そうな子いるなって、ちょっとだけ思ったんだ。そっかぁー、キミ、あの時はありがとね。助かったよ。そうだ、名前は?」


「あ、はい!名乗るのが遅くなりました。名前は、ヨハン・ブラント。歳は15で、白魔法使いです」


ジャニスは、白魔法使い同士よろしくね、と言って右手を出し、ヨハンと握手を交わした。

ヨハンも、よろしくお願いします。と返事をすると、ロビンさんを呼びに建物内に入って行った。


「・・・今の、ヨハン君・・・彼は、残って仕事を続けるんだ・・・・・」

建物内に入って行ったヨハンの背を見送り、ジャニスがポツリと呟いた。

バッタの殲滅に集めたられた王宮仕えの魔法兵は、自分達が数集めの捨て駒だったという事実にショックを受け、およそ半数が王宮仕えの職を辞した。

メアリーもその一人だ。

メアリーは縁があって孤児院での仕事をする事になり、だいぶ悩んでいたが、王宮仕えを辞める決心を付けた。
今のメアリーを見ていると、孤児院での仕事はとても楽しそうに見える。
元々、料理や洗濯、子供達の面倒を見る事など、家事が好きなのだろう。

メアリーは黒魔法使いだけど、これまで王宮で学んだ魔法も、普段の生活の中で生かされている。
辞めたとしても、やってきた事はきちんと生きているのだ。

今、ジャニスと話したヨハンという少年も、あの場にいたのであれば、きっと今後について悩んだと思う。人生の分岐点の一つといっていいだろう。

でも、彼は残り仕事を続ける道を選んだという事だ。
それは、単純にこの仕事が好きというだけかもしれないし、辛くても成しえたい目標があるのかもしれない。
あの時、あの場で経験した事も、きっと彼の中で特別な経験として生きていると思う。


「そうじゃな・・・それが彼の選んだ道じゃ。ジャニス、なにが正解か不正解か、それは本人が後になって気付くものじゃ・・・」

「・・・そうですね。それが、良かったと思える道であってほしいです・・・・・」


背中越しにかけられる師匠の言葉に、ジャニスは前を向いたまま小さく答えた。

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