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【165 扉を開く声】
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ベン・フィングとの試合の後、謁見は数日の内にと、おおよその日程の話しも通してあり、
また昨日の内に、師匠が今日の謁見の申し込みをしておいたようで、城門で俺達の姿を目にとめた番兵は、すぐに取り次ぎをし、俺達はスムーズに入城する事もできた。
結論から言えば、王子はあっさりと解放された。
玉座の間で、師匠が国王陛下へ直訴をすると、国王陛下は拍子抜けするくらいあっさりと了承されたのだ。
ただ一言、アレはもう我が子とは思えん、それだけを口にした。
俺は師匠の斜め後ろで膝を付き、頭を垂れていたけれど、師匠の体からほんの少し魔力が発せられた事が分かった。
一瞬、ほんの一瞬だけど、国王陛下に怒りを露わにしたのだ。
ベン・フィングはその場にいなかったけれど、護衛の魔法使いや兵士は、俺達がひざまずくレッドカーペットを挟むようにして待機していたから、気付いた者は気付いたと思う。
でも、誰もその事を指摘しなかった。
師匠の人徳だと思う。
王宮仕えを辞めても、請われれば魔法の指導に城に来て、教育に力を注いでいるので、この場のほとんどの魔法使いが、直接の弟子ではなくても、一度は師匠の教えを受けているのだ。
そして、師匠が孤児院を経営し、街に多大な貢献をしている事も知れ渡っている。
この城にいる兵士や侍女にも、孤児院の出身者がいるのだ。
国王陛下へ怒りをぶつけるなど、本来許される事ではないが、その場いる者全てが目を瞑ったのだ。
そして、国王自身が気付かなかった事も幸いした。
おそらく、王子の話しで少なからず心が不安定になっていたのだと思われる。
師匠が言っていた通り、国王の王子への恐怖心は大袈裟、いや異常と言ってもいいのかもしれない。
おそらくベン・フィングに長年に渡り刷り込まれた事もあるのだろうが、今回の黒渦が駄目押しになったのだろう。
最初はバッタの殲滅に成功した事で、国王も黒渦の危険性は頭から離れていた。
だけど、ベン・フィングが過剰なまでに黒渦の危険性を煽ったのだ。
そして、蓄積された王子への恐怖心と相まって、もはや国王には、軟禁しているとは言っても、王子と同じ城にいる事すら恐怖でしかないのかもしれない。
師匠が責任を持って、王子は今後孤児院で見ていくという申し出は、国王にとっては、ただただ助かるだけの話しだったのだろう。
王子に関する話しが終わり、ベン・フィングの処遇について聞こうとしたところで、国王は話しを遮った。
疲れたから今日はもう下がれ。
そう一言だけ口にすると、これ以上の会話を続ける事は許されない空気になった。
師匠もそれを感じ取り、承知しました、と答えると俺達に目配せして、一礼をして玉座の間を後にする事になった。
「これからどうします?」
玉座の間を出るなり、ジャニスが師匠に問いかける。
「・・・王子を迎えに行こう。ベンの事や、他の事はその後じゃ。ジョルジュ、お主も色々気になっていると思うが、それでもよいか?」
師匠が後ろに立つジョルジュに顔を向けると、ジョルジュは、かまわん、と言って頷いた。
元々ジョルジュは自分が闘技場で殺した、殺し屋の事が気になっていたから城へ来たのだ。
王子と直接付き合いの無いジョルジュには、王子の解放は全く無関係なのだが、それでも玉座の間にまで付いて来た事は驚きだった。
「俺の事よりも、やっと許可が下りたのだろう?早く王子を迎えに行くべきだ」
ジョルジュに促され、俺達は王子が軟禁されている部屋へと足を急がせた。
その部屋は王宮の一角にあった。
軟禁と言っても、部屋の扉も王宮の他の部屋と同じ扉であり、この部屋だけが特別な仕様にはなっていない。
誰もが分かっているのだ。
王子がその気になれば、どんな堅牢な部屋であっても紙くず同然だと。
入る事も出て行く事も、全て王子の気持ち一つなのだ。
今回は師匠の孤児院を、孤児院のみんなを護るために、自分からあえて軟禁されているだけなのだ。
だからどんな部屋でもよかった。王子はどんな部屋でも自ら出る事はないのだから。
「王子・・・ワシじゃ・・・ブレンダンじゃ、開けてくれんか?」
師匠が扉を叩き、優しく声をかける。
返事は無い。
「王子、私よ、ジャニス。迎えに来たんだよ、帰ろうよ」
ジャニスが扉を叩く。
声をかけるが返事は無い。
「王子、俺です!ウィッカーです!開けてください!一緒に帰りましょう!」
俺も扉を叩き、大きめの声で呼びかけるが、返事は無い。
ジョルジュは何もしなかった。
この部屋の中の王子にかけれる言葉は、自分には無いと口して。
しばらくの間、代わる代わるで声をかけ続けるが、部屋の扉が開く事はなかった。
軟禁されてから、王子は一歩も部屋を出ていないと聞いている。
だから、この部屋にいる事は間違いない。
では、どうして出てこないのだろうか。
王子が軟禁されて10日以上過ぎている。
この軟禁された日々の中で、王子の心は俺達にも閉ざされてしまったのだろうか?
いや・・・そんな事はない。
王子はなぜ、この部屋に閉じこもって出て来ないんだ?
それはここにいれば、孤児院が安全だからだ。
だから出てこないんだ。
俺達の声も聞こえなくなるほどに・・・・・
王子はたった一人でこの部屋の中で心を殺して耐えているんだ。
王子・・・・・
目頭が熱くなった
俺は壊れても構わないというくらいに、全力で扉を叩いた。
「王子!早く出てきてくださいよ!帰りますよ!出てこないとここぶっ壊しますよ!みんな待ってるんですよ!新しい家族もできたんです!でも、王子が来ないと全員揃わないんですよ!だから・・・・・早く一緒に帰りましょうよ!」
力いっぱいに扉を叩いた。
何度も何度も叩いた。
声の限り呼びかけた。
何度も何度も呼びかけた。
やがて、微かな軋み音が聞こえ、ゆっくりと扉が開かれた。
なんの飾り気も無い黒い長袖シャツ一枚に、生地の薄そうな茶色の無地のパンツを穿いている。
相変わらず、平民と変わらない姿だった。
王子なのに、宝石の付いた華やかな衣装や装飾には全く興味を示さず、俺達と変わらない服装を好む。
王子なのに、気品というものがまるで無い。
軟禁前は、髪を坊主に近い程短く刈り込んでいたが、しばらく会わない内に髪だけは少し伸びて、ツンツンと上に立っていた。
ドアを開けた王子は、いつもと変わらず感情を映さない目を俺達に向ける。
「・・・孤児院はどうなった?」
開口一番に出てきた言葉がそれだった。
「・・・王子、孤児院は無事ですよ。王子のおかげです」
「そうか・・・・・」
それだけ言うと王子は、俺、ジャニス、師匠の顔を順に見て、ジョルジュで目を止めた。
「お前は?」
「ジョルジュ・ワーリントン。ウィッカー達の友達だ。ジョルジュでいい」
ジョルジュの返事に、王子はさして興味の無さそうに、そうか、とだけ口にすると、師匠に顔を向けた。
「師匠、確認だ。ウィッカーがうるさいから開けたが、俺は出ていいんだな?」
「あぁ、大丈夫じゃ。もう・・・ここには来なくていい。王子の家はあの孤児院じゃ・・・」
師匠の言葉に、王子は少しだけ目を開いた。そしてそのまま、少しの間、言葉を発せずにたたずんでいたが、やがてぽつりと・・・そうか・・・、とだけ口にし部屋を出た。
王子は何も聞いてこなかった。
きっと、師匠の言葉で察したんだ。
自分と父である国王の関係が完全に切れた事を・・・・・
部屋から出た王子を、ジャニスは抱きしめた。
王子は眉をひそめ、ジャニスを振りほどこうとしたが、なにかに気付いて力を抜き、黙ってジャニスに抱きしめられた。
表情を見る事はできなかったけど、ジャニスの体は震えていた。
なにも言わず、ただ黙って王子を抱き締めるジャニスの背中からは、深い悲しみが見えたけど、
それ以上に王子に対する愛情が感じられた。
また昨日の内に、師匠が今日の謁見の申し込みをしておいたようで、城門で俺達の姿を目にとめた番兵は、すぐに取り次ぎをし、俺達はスムーズに入城する事もできた。
結論から言えば、王子はあっさりと解放された。
玉座の間で、師匠が国王陛下へ直訴をすると、国王陛下は拍子抜けするくらいあっさりと了承されたのだ。
ただ一言、アレはもう我が子とは思えん、それだけを口にした。
俺は師匠の斜め後ろで膝を付き、頭を垂れていたけれど、師匠の体からほんの少し魔力が発せられた事が分かった。
一瞬、ほんの一瞬だけど、国王陛下に怒りを露わにしたのだ。
ベン・フィングはその場にいなかったけれど、護衛の魔法使いや兵士は、俺達がひざまずくレッドカーペットを挟むようにして待機していたから、気付いた者は気付いたと思う。
でも、誰もその事を指摘しなかった。
師匠の人徳だと思う。
王宮仕えを辞めても、請われれば魔法の指導に城に来て、教育に力を注いでいるので、この場のほとんどの魔法使いが、直接の弟子ではなくても、一度は師匠の教えを受けているのだ。
そして、師匠が孤児院を経営し、街に多大な貢献をしている事も知れ渡っている。
この城にいる兵士や侍女にも、孤児院の出身者がいるのだ。
国王陛下へ怒りをぶつけるなど、本来許される事ではないが、その場いる者全てが目を瞑ったのだ。
そして、国王自身が気付かなかった事も幸いした。
おそらく、王子の話しで少なからず心が不安定になっていたのだと思われる。
師匠が言っていた通り、国王の王子への恐怖心は大袈裟、いや異常と言ってもいいのかもしれない。
おそらくベン・フィングに長年に渡り刷り込まれた事もあるのだろうが、今回の黒渦が駄目押しになったのだろう。
最初はバッタの殲滅に成功した事で、国王も黒渦の危険性は頭から離れていた。
だけど、ベン・フィングが過剰なまでに黒渦の危険性を煽ったのだ。
そして、蓄積された王子への恐怖心と相まって、もはや国王には、軟禁しているとは言っても、王子と同じ城にいる事すら恐怖でしかないのかもしれない。
師匠が責任を持って、王子は今後孤児院で見ていくという申し出は、国王にとっては、ただただ助かるだけの話しだったのだろう。
王子に関する話しが終わり、ベン・フィングの処遇について聞こうとしたところで、国王は話しを遮った。
疲れたから今日はもう下がれ。
そう一言だけ口にすると、これ以上の会話を続ける事は許されない空気になった。
師匠もそれを感じ取り、承知しました、と答えると俺達に目配せして、一礼をして玉座の間を後にする事になった。
「これからどうします?」
玉座の間を出るなり、ジャニスが師匠に問いかける。
「・・・王子を迎えに行こう。ベンの事や、他の事はその後じゃ。ジョルジュ、お主も色々気になっていると思うが、それでもよいか?」
師匠が後ろに立つジョルジュに顔を向けると、ジョルジュは、かまわん、と言って頷いた。
元々ジョルジュは自分が闘技場で殺した、殺し屋の事が気になっていたから城へ来たのだ。
王子と直接付き合いの無いジョルジュには、王子の解放は全く無関係なのだが、それでも玉座の間にまで付いて来た事は驚きだった。
「俺の事よりも、やっと許可が下りたのだろう?早く王子を迎えに行くべきだ」
ジョルジュに促され、俺達は王子が軟禁されている部屋へと足を急がせた。
その部屋は王宮の一角にあった。
軟禁と言っても、部屋の扉も王宮の他の部屋と同じ扉であり、この部屋だけが特別な仕様にはなっていない。
誰もが分かっているのだ。
王子がその気になれば、どんな堅牢な部屋であっても紙くず同然だと。
入る事も出て行く事も、全て王子の気持ち一つなのだ。
今回は師匠の孤児院を、孤児院のみんなを護るために、自分からあえて軟禁されているだけなのだ。
だからどんな部屋でもよかった。王子はどんな部屋でも自ら出る事はないのだから。
「王子・・・ワシじゃ・・・ブレンダンじゃ、開けてくれんか?」
師匠が扉を叩き、優しく声をかける。
返事は無い。
「王子、私よ、ジャニス。迎えに来たんだよ、帰ろうよ」
ジャニスが扉を叩く。
声をかけるが返事は無い。
「王子、俺です!ウィッカーです!開けてください!一緒に帰りましょう!」
俺も扉を叩き、大きめの声で呼びかけるが、返事は無い。
ジョルジュは何もしなかった。
この部屋の中の王子にかけれる言葉は、自分には無いと口して。
しばらくの間、代わる代わるで声をかけ続けるが、部屋の扉が開く事はなかった。
軟禁されてから、王子は一歩も部屋を出ていないと聞いている。
だから、この部屋にいる事は間違いない。
では、どうして出てこないのだろうか。
王子が軟禁されて10日以上過ぎている。
この軟禁された日々の中で、王子の心は俺達にも閉ざされてしまったのだろうか?
いや・・・そんな事はない。
王子はなぜ、この部屋に閉じこもって出て来ないんだ?
それはここにいれば、孤児院が安全だからだ。
だから出てこないんだ。
俺達の声も聞こえなくなるほどに・・・・・
王子はたった一人でこの部屋の中で心を殺して耐えているんだ。
王子・・・・・
目頭が熱くなった
俺は壊れても構わないというくらいに、全力で扉を叩いた。
「王子!早く出てきてくださいよ!帰りますよ!出てこないとここぶっ壊しますよ!みんな待ってるんですよ!新しい家族もできたんです!でも、王子が来ないと全員揃わないんですよ!だから・・・・・早く一緒に帰りましょうよ!」
力いっぱいに扉を叩いた。
何度も何度も叩いた。
声の限り呼びかけた。
何度も何度も呼びかけた。
やがて、微かな軋み音が聞こえ、ゆっくりと扉が開かれた。
なんの飾り気も無い黒い長袖シャツ一枚に、生地の薄そうな茶色の無地のパンツを穿いている。
相変わらず、平民と変わらない姿だった。
王子なのに、宝石の付いた華やかな衣装や装飾には全く興味を示さず、俺達と変わらない服装を好む。
王子なのに、気品というものがまるで無い。
軟禁前は、髪を坊主に近い程短く刈り込んでいたが、しばらく会わない内に髪だけは少し伸びて、ツンツンと上に立っていた。
ドアを開けた王子は、いつもと変わらず感情を映さない目を俺達に向ける。
「・・・孤児院はどうなった?」
開口一番に出てきた言葉がそれだった。
「・・・王子、孤児院は無事ですよ。王子のおかげです」
「そうか・・・・・」
それだけ言うと王子は、俺、ジャニス、師匠の顔を順に見て、ジョルジュで目を止めた。
「お前は?」
「ジョルジュ・ワーリントン。ウィッカー達の友達だ。ジョルジュでいい」
ジョルジュの返事に、王子はさして興味の無さそうに、そうか、とだけ口にすると、師匠に顔を向けた。
「師匠、確認だ。ウィッカーがうるさいから開けたが、俺は出ていいんだな?」
「あぁ、大丈夫じゃ。もう・・・ここには来なくていい。王子の家はあの孤児院じゃ・・・」
師匠の言葉に、王子は少しだけ目を開いた。そしてそのまま、少しの間、言葉を発せずにたたずんでいたが、やがてぽつりと・・・そうか・・・、とだけ口にし部屋を出た。
王子は何も聞いてこなかった。
きっと、師匠の言葉で察したんだ。
自分と父である国王の関係が完全に切れた事を・・・・・
部屋から出た王子を、ジャニスは抱きしめた。
王子は眉をひそめ、ジャニスを振りほどこうとしたが、なにかに気付いて力を抜き、黙ってジャニスに抱きしめられた。
表情を見る事はできなかったけど、ジャニスの体は震えていた。
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