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【164 王子の解放を求めて】
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「ウィッカー、すまんかった」
街で馬車を拾い、俺、師匠、ジャニス、ジョルジュの四人で乗り込むなり、師匠が俺に頭を下げてきた。
「・・・メアリーの事ですね?」
俺はすぐに察しが付いた。朝食の時にメアリーをけしかけてきた事だろう。
師匠はゆっくり顔を上げると、頭を掻きながらすまなそうな目をして、俺に顔を向けてきた。
「うむ・・・ジャニス達の話しが聞こえて、ついイタズラ心がでてしまったんじゃ。いや、ワシもな、最近お前がメアリーを意識しとるなと思っておったんじゃ。だから、ちょっと強引だが、遊びに誘うくらいの事は言うじゃろと思ってな。きっかけ作りのつもりだったんじゃ。それが、まさか・・・・・のう?」
困ったように、歯切れの悪い言い方で、師匠は隣に座るジャニスに同意を求めた。
「はい。全く師匠の言う通りです。私もあれは驚きました。でも、結果的に良かったと思います。メアリーは泣いて喜んでたし、ウィッカーもあそこで告白するくらいなんだから、メアリーの事本気なんでしょ?」
ふいにジャニスが俺に顔を向けた。
口調は軽い感じだが、目は本気だ。
「もちろん本気だ。俺は中途半端な気持ちで告白はしないぞ。ただ、みんなでこう・・・プレッシャーかけるのは止めてほしい。静かに見守ってくれないか?特にジャニスは」
「えー!だって、ウィッカーは女心分からなすぎるし、いまいち愛情表現足りないんだもん!さっきも、あそこで抱き締めなくて、いつ抱き締めんのよ!?メアリーは特にスキンシップ欲しい子なんだから、しっかりしなさいよ!私が心配するわよ!」
「なんでジャニスが心配すんだよ!あんなに周りに人いて、そう簡単に抱き締められねぇよ!」
「みんなの前で告白しといて、なんで今更照れんのよ!わけわかんない!」
「あの時は、その、勢いって言うか、体が勝手に動いて・・・そのまま思った事を言ってしまったと言うか・・・」
言葉に詰まる俺を見て、隣に座るジョルジュが俺の肩に手を乗せてきた。
「なぁ、さっきから聞いていて疑問なんだが、なぜお前達は言い合いをしてるんだ?」
ジョルジュは俺とジャニスを交互に見ると、そのまま言葉を続けた。
「ウィッカー、お前はメアリーが好きなんだろ?」
ジョルジュに真正面から目を見られる。
ジョルジュのアイスブルーの瞳は、心の奥底まで見透かすような、とても澄んだ色をしていた。
俺が、そうだよ、と返事をすると、ジョルジュは少しだけ笑顔を見せ、ジャニスに向きなおった。
「ジャニス、それでいいじゃないか。二人の仲がうまくいくよう俺達は静かに見守るだけだ。それが二人のためだ。お前とウィッカーが言い合う必要はない」
「・・・う~ん、ジョルジュ、あんた大人過ぎるって言うか、物分かり良すぎるって言うか、分かったわよ。もう!」
ジャニスは、大きく息を付くと、諦めたように両手の平を肩の上まで上げた。
「ほほぅ、ジョルジュがおると、話しがあっさりまとまるのう」
師匠は、あっさりとジャニスを言い負かしたジョルジュに、感心したように声を出した。
ジョルジュは物事をシンプルに考える性格のようだ。
俺とメアリーの事も、今話した通り当人同士の好きにさせて、もし求められたら相談に乗るくらいだろう。俺もそうしてもらえるとありがたい。
「ウィッカー、そういう事だ。朝、ずいぶん急な告白だったようだが、大事なのはこれからだ。お前がメアリーを幸せにすればいい。それが全てだと思うぞ。その一つだけを考えて行動しろ」
それだけ話すと、ジョルジュは窓に顔を向け、黙って景色を目に映していた。
俺もジャニスも、これ以上この会話を続ける理由が無くなり、なんとなく口をつぐむと、師匠がタイミングを見ていたように口を開いた。
「あらためて話しておくが、今回は王子の解放が目的じゃ。ベン・フィングが今どういう状況に置かれているかも気になるが、あれだけの凶行にでたんじゃ、いかに国王陛下がかばおうにも、おとがめ無しでは示しがつかん。それなりに厳しい処分になるはずじゃ。だから玉座の間にはおらんじゃろう。したがって国王陛下への直訴になるかもしれん」
「・・・王子は、無事に帰って来れるでしょうか?」
ジャニスが視線を落としながら、ひとり言のように呟いた。
「・・・ワシは、可能性は高いと思っておる。ベンが失脚したとすれば、国王も王子に対しての恐怖心を抑えられんのではなかろうか?国王の王子に対する怯え方は、ちと大袈裟な気もするが、血のつながった親子だからこそというものもあるやもしれん。黒渦の使用を禁じ、ワシらが責任を持って王子を見ると話せば、通ると思う」
師匠は可能性として話しているが、その言葉には自信を持った強さがあり、半ば確信しているようにも感じられた。
今の国王陛下は、ベン・フィングの言いなりのようなものだ。
これまでは実質的にベン・フィングが指揮をとってきたが、そのベン・フィングが失脚したとなれば、ご自分の判断で政治を行わなければならない。
王子の解放についても、国王陛下の判断になる。
どうなるだろうかと思っていたが、師匠の考えを聞くと、なんとかなりそうな気がしてきた。
俺は少しだけ心が楽になったように感じて、イスに腰を深くかけ直し、窓の外の景色に目を向けた。
カエストゥス国 エンスウィル城が見えて来た。
街で馬車を拾い、俺、師匠、ジャニス、ジョルジュの四人で乗り込むなり、師匠が俺に頭を下げてきた。
「・・・メアリーの事ですね?」
俺はすぐに察しが付いた。朝食の時にメアリーをけしかけてきた事だろう。
師匠はゆっくり顔を上げると、頭を掻きながらすまなそうな目をして、俺に顔を向けてきた。
「うむ・・・ジャニス達の話しが聞こえて、ついイタズラ心がでてしまったんじゃ。いや、ワシもな、最近お前がメアリーを意識しとるなと思っておったんじゃ。だから、ちょっと強引だが、遊びに誘うくらいの事は言うじゃろと思ってな。きっかけ作りのつもりだったんじゃ。それが、まさか・・・・・のう?」
困ったように、歯切れの悪い言い方で、師匠は隣に座るジャニスに同意を求めた。
「はい。全く師匠の言う通りです。私もあれは驚きました。でも、結果的に良かったと思います。メアリーは泣いて喜んでたし、ウィッカーもあそこで告白するくらいなんだから、メアリーの事本気なんでしょ?」
ふいにジャニスが俺に顔を向けた。
口調は軽い感じだが、目は本気だ。
「もちろん本気だ。俺は中途半端な気持ちで告白はしないぞ。ただ、みんなでこう・・・プレッシャーかけるのは止めてほしい。静かに見守ってくれないか?特にジャニスは」
「えー!だって、ウィッカーは女心分からなすぎるし、いまいち愛情表現足りないんだもん!さっきも、あそこで抱き締めなくて、いつ抱き締めんのよ!?メアリーは特にスキンシップ欲しい子なんだから、しっかりしなさいよ!私が心配するわよ!」
「なんでジャニスが心配すんだよ!あんなに周りに人いて、そう簡単に抱き締められねぇよ!」
「みんなの前で告白しといて、なんで今更照れんのよ!わけわかんない!」
「あの時は、その、勢いって言うか、体が勝手に動いて・・・そのまま思った事を言ってしまったと言うか・・・」
言葉に詰まる俺を見て、隣に座るジョルジュが俺の肩に手を乗せてきた。
「なぁ、さっきから聞いていて疑問なんだが、なぜお前達は言い合いをしてるんだ?」
ジョルジュは俺とジャニスを交互に見ると、そのまま言葉を続けた。
「ウィッカー、お前はメアリーが好きなんだろ?」
ジョルジュに真正面から目を見られる。
ジョルジュのアイスブルーの瞳は、心の奥底まで見透かすような、とても澄んだ色をしていた。
俺が、そうだよ、と返事をすると、ジョルジュは少しだけ笑顔を見せ、ジャニスに向きなおった。
「ジャニス、それでいいじゃないか。二人の仲がうまくいくよう俺達は静かに見守るだけだ。それが二人のためだ。お前とウィッカーが言い合う必要はない」
「・・・う~ん、ジョルジュ、あんた大人過ぎるって言うか、物分かり良すぎるって言うか、分かったわよ。もう!」
ジャニスは、大きく息を付くと、諦めたように両手の平を肩の上まで上げた。
「ほほぅ、ジョルジュがおると、話しがあっさりまとまるのう」
師匠は、あっさりとジャニスを言い負かしたジョルジュに、感心したように声を出した。
ジョルジュは物事をシンプルに考える性格のようだ。
俺とメアリーの事も、今話した通り当人同士の好きにさせて、もし求められたら相談に乗るくらいだろう。俺もそうしてもらえるとありがたい。
「ウィッカー、そういう事だ。朝、ずいぶん急な告白だったようだが、大事なのはこれからだ。お前がメアリーを幸せにすればいい。それが全てだと思うぞ。その一つだけを考えて行動しろ」
それだけ話すと、ジョルジュは窓に顔を向け、黙って景色を目に映していた。
俺もジャニスも、これ以上この会話を続ける理由が無くなり、なんとなく口をつぐむと、師匠がタイミングを見ていたように口を開いた。
「あらためて話しておくが、今回は王子の解放が目的じゃ。ベン・フィングが今どういう状況に置かれているかも気になるが、あれだけの凶行にでたんじゃ、いかに国王陛下がかばおうにも、おとがめ無しでは示しがつかん。それなりに厳しい処分になるはずじゃ。だから玉座の間にはおらんじゃろう。したがって国王陛下への直訴になるかもしれん」
「・・・王子は、無事に帰って来れるでしょうか?」
ジャニスが視線を落としながら、ひとり言のように呟いた。
「・・・ワシは、可能性は高いと思っておる。ベンが失脚したとすれば、国王も王子に対しての恐怖心を抑えられんのではなかろうか?国王の王子に対する怯え方は、ちと大袈裟な気もするが、血のつながった親子だからこそというものもあるやもしれん。黒渦の使用を禁じ、ワシらが責任を持って王子を見ると話せば、通ると思う」
師匠は可能性として話しているが、その言葉には自信を持った強さがあり、半ば確信しているようにも感じられた。
今の国王陛下は、ベン・フィングの言いなりのようなものだ。
これまでは実質的にベン・フィングが指揮をとってきたが、そのベン・フィングが失脚したとなれば、ご自分の判断で政治を行わなければならない。
王子の解放についても、国王陛下の判断になる。
どうなるだろうかと思っていたが、師匠の考えを聞くと、なんとかなりそうな気がしてきた。
俺は少しだけ心が楽になったように感じて、イスに腰を深くかけ直し、窓の外の景色に目を向けた。
カエストゥス国 エンスウィル城が見えて来た。
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