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【159 記憶の断片】
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「・・・ここが、俺が毎日祈りを捧げている湖だ。ヤヨイ、来てくれ」
ジョルジュの家でしばらく話した後、そろそろ行こう、というジョルジュの呼びかけで、本題の湖まで足を運んでいた。
湖は底が見える程に透き通っていた。
緑のにおいもこの場所が一番濃いようで、体全体に自然を感じている感覚になる。
微かに聞こえる鳥のさえずりは、心地良い音色のように聞こえ、壮大な自然の中で時を忘れてしまいそうになる。
水面の前に立つジョルジュに呼ばれ、ヤヨイさんが前にでると、ジョルジュは目の前に広がる大自然に手を向けた。
「ヤヨイ、さっそくだが、この景色を見てどう感じる?」
「・・・月並みな表現ですが、とても美しいです。人の手が入っていないので、自然をそのままに感じられる。ジョルジュさんがこの森で暮らしている気持ちも分かります。とても、心が安らぐ場所ですね」
ヤヨイさんの言葉に、ジョルジュは目を細めて頷いた。
「ヤヨイ、やっぱりキミの風は特別だ。とても純粋で無垢で綺麗で・・・まるで産まれたばかりの赤ん坊のような一点の曇りもない風だ」
産まれたばかりの赤ん坊という表現に、ヤヨイさんは顔を赤くしている。
言いたい事は分かるし、誉め言葉で使ったのだろうが、言われる側としては少し恥ずかしいかもしれない。
「・・・・・風の精霊が気に入るわけだ。キミは俺以上に精霊と心を通わせる事ができるだろう。
これからキミと風の精霊を繋げるが、心の準備はいいか?」
ジョルジュがはヤヨイさんに左手を差し伸べた。
ヤヨイさんは、緊張しているのだろう。なかなかその手を掴めずにいる。
「・・・ヤヨイ、脅かすような事を言ってしまったかもしれないが、何も怖がる事はない。精霊はキミの味方だ。この手を掴めば、俺がキミと精霊の橋渡しになれる。俺とヤヨイは友達だ。怖がる必要はない」
「ジョルジュさん・・・はい!私とジョルジュさんはお友達です」
ジョルジュの言葉に勇気をもらったヤヨイさんは、表情にも力が入り、差し出された手をしっかりと握った。
「よし、では始めるぞ。目を閉じて、できるだけ力を抜いて自然体になってくれ。そして、風を感じてくれればいい。キミならすぐに精霊の声が聞こえるだろう」
ヤヨイさんは、はい、と小さいが力を込めた返事をすると湖に身体を向けた。
言われ通りに目を閉じ、体から力を抜いて自然体になる。ジョルジュも同様に、目を閉じリラックスしているようだ。
ジュルジュの左手をヤヨイさんが右手で握り、二人は静かに湖に体を向けて立っている。
俺もジャニスも、声を出しては駄目だと雰囲気で察し、できるだけ音を立てないように、少し後ろで静かに見守る事にした。
数分程立った頃、水面に緑色の光球がポツポツと現れ始めた。
指先くらいの小さいものから、拳程の大きさのものまで様々だが、この光球は風の加護を受けた時に見た事がある。
この光球が風の精霊だ。
加護を受けた時は、突然光球が体に溶け込むように入ってきて、そのまま自分の体が緑色の炎に包まれたから焦ったものだ。一緒に加護を受けたジャニスも、少しは驚いていたが、俺は声を大にして驚いてしまったので、今でもジャニスに当時の事をからかわれる時がある。
次第に光球の数が増えていき、最初は水面にだけ浮かんでいた光球は、辺り一帯に広がっていった。
加護を受けた俺達でさえ、この数には圧倒される。
目に見えるところ全てが埋め尽くされる程の数だ。
少し体を動かせば、どれかしらの光球に触れるだろう。触れても問題はないだろうが、今は水際に立つ二人の心を、ほんの少しでも乱す可能性のある行動は避けたい。
隣に立つジャニスにチラリを視線を送ると、ジャニスも俺に目を向けていた。
目が合うと、お互いに口は開かず最小限に軽く頷くだけで、意思の疎通はできたようだ。
そのまま視線を前に戻した。俺達にできる事は、ヤヨイさんとジョルジュを見守るだけだ。
私の心は不思議なくらいに落ち着いていた。
目を閉じているので、見る事はできないけれど、何か温かいものが自分の回りに集まっている事は分かる。
きっと、これが風の精霊さんなのだと思う。
精霊さんの声は私の頭の中に・・・いいえ、これは全身の感覚で理解しているような気がする。
熱い物、冷たい物に触ると、目を閉じていても、それが熱いか冷たいかはわかるように、これは声というものを体で感じて意思を理解しているような感覚だと思った。
精霊さんは私のどこが気に入ったのだろう?
私には人に誇れるものは何もない。
もしかすると、以前の私には何かあったのかもしれない。
でも、今の私は何も覚えていない。
だから、なぜ私なのかは分からなかった。
でも、ジョルジュさんがかけてくれた言葉は、はずかしかったけど、少し嬉しかった。
以前の私がどんな私かは分からない。
今の私と全然違う性格なのかもしれない。
でも、私が知ってる私は、この私だけだから、今の私にできる精一杯で生きていこうと思う。
心に風が吹いた
心はどこ?それは分からないけど、喜んだり、悩んだり、時には怒ったり、人が気持ちと呼ぶ場所に、確かに風が吹いた
声が聞こえる
声は私を歓迎しているみたい
そっか、これが精霊さんの声なんだ
私とお友達になってくれるの?
ありがとう・・・・・
孤児院のお仕事があるから、毎日ここには来れないけど、孤児院でお祈りするからね。
忘れもの?
精霊さんは、私の忘れているなにかを知っているの?
また、心に風が吹いた
それは、少し寂しい風だった
何百、何千、何万もの大勢の人が足早に行き交う街には、見たことのない大きな建物が沢山建ち並んでいる
鉄の塊のような、馬車ではないなにかは、人を乗せて驚くような速さで道を進んで行く
一軒の大きくて、横に長い四角形の建物が見える
なにかのお店だろうか?
入り口の脇の金属の箱に、沢山の服が畳んで置いてある。
不思議な事に、入り口にある看板を見て、あれは文字だとすぐに理解できた。
この国とは違う文字なのに、なぜか文字が読める。
・・・・・ウイニング
一人の男性が見える
目が隠れるくらい前髪を伸ばしていて、真面目そうだけど少し暗い印象を受ける。
誰かと話しているように見える・・・・・
私だ・・・・・
顔が私に向いている。この人は私に話しかけているんだ。
私は私を見れないけど、以前の私はこの男性と仲が良かったのかもしれない。
・・・アラタ
・・・・・・坂木 新
坊主頭で、ガッチリした体格の男性が出てきた。
見た目は怖いけど、優しそうだ。
・・・シュウイチ
・・・・・・村戸 修一
私は知っている
ジョルジュの家でしばらく話した後、そろそろ行こう、というジョルジュの呼びかけで、本題の湖まで足を運んでいた。
湖は底が見える程に透き通っていた。
緑のにおいもこの場所が一番濃いようで、体全体に自然を感じている感覚になる。
微かに聞こえる鳥のさえずりは、心地良い音色のように聞こえ、壮大な自然の中で時を忘れてしまいそうになる。
水面の前に立つジョルジュに呼ばれ、ヤヨイさんが前にでると、ジョルジュは目の前に広がる大自然に手を向けた。
「ヤヨイ、さっそくだが、この景色を見てどう感じる?」
「・・・月並みな表現ですが、とても美しいです。人の手が入っていないので、自然をそのままに感じられる。ジョルジュさんがこの森で暮らしている気持ちも分かります。とても、心が安らぐ場所ですね」
ヤヨイさんの言葉に、ジョルジュは目を細めて頷いた。
「ヤヨイ、やっぱりキミの風は特別だ。とても純粋で無垢で綺麗で・・・まるで産まれたばかりの赤ん坊のような一点の曇りもない風だ」
産まれたばかりの赤ん坊という表現に、ヤヨイさんは顔を赤くしている。
言いたい事は分かるし、誉め言葉で使ったのだろうが、言われる側としては少し恥ずかしいかもしれない。
「・・・・・風の精霊が気に入るわけだ。キミは俺以上に精霊と心を通わせる事ができるだろう。
これからキミと風の精霊を繋げるが、心の準備はいいか?」
ジョルジュがはヤヨイさんに左手を差し伸べた。
ヤヨイさんは、緊張しているのだろう。なかなかその手を掴めずにいる。
「・・・ヤヨイ、脅かすような事を言ってしまったかもしれないが、何も怖がる事はない。精霊はキミの味方だ。この手を掴めば、俺がキミと精霊の橋渡しになれる。俺とヤヨイは友達だ。怖がる必要はない」
「ジョルジュさん・・・はい!私とジョルジュさんはお友達です」
ジョルジュの言葉に勇気をもらったヤヨイさんは、表情にも力が入り、差し出された手をしっかりと握った。
「よし、では始めるぞ。目を閉じて、できるだけ力を抜いて自然体になってくれ。そして、風を感じてくれればいい。キミならすぐに精霊の声が聞こえるだろう」
ヤヨイさんは、はい、と小さいが力を込めた返事をすると湖に身体を向けた。
言われ通りに目を閉じ、体から力を抜いて自然体になる。ジョルジュも同様に、目を閉じリラックスしているようだ。
ジュルジュの左手をヤヨイさんが右手で握り、二人は静かに湖に体を向けて立っている。
俺もジャニスも、声を出しては駄目だと雰囲気で察し、できるだけ音を立てないように、少し後ろで静かに見守る事にした。
数分程立った頃、水面に緑色の光球がポツポツと現れ始めた。
指先くらいの小さいものから、拳程の大きさのものまで様々だが、この光球は風の加護を受けた時に見た事がある。
この光球が風の精霊だ。
加護を受けた時は、突然光球が体に溶け込むように入ってきて、そのまま自分の体が緑色の炎に包まれたから焦ったものだ。一緒に加護を受けたジャニスも、少しは驚いていたが、俺は声を大にして驚いてしまったので、今でもジャニスに当時の事をからかわれる時がある。
次第に光球の数が増えていき、最初は水面にだけ浮かんでいた光球は、辺り一帯に広がっていった。
加護を受けた俺達でさえ、この数には圧倒される。
目に見えるところ全てが埋め尽くされる程の数だ。
少し体を動かせば、どれかしらの光球に触れるだろう。触れても問題はないだろうが、今は水際に立つ二人の心を、ほんの少しでも乱す可能性のある行動は避けたい。
隣に立つジャニスにチラリを視線を送ると、ジャニスも俺に目を向けていた。
目が合うと、お互いに口は開かず最小限に軽く頷くだけで、意思の疎通はできたようだ。
そのまま視線を前に戻した。俺達にできる事は、ヤヨイさんとジョルジュを見守るだけだ。
私の心は不思議なくらいに落ち着いていた。
目を閉じているので、見る事はできないけれど、何か温かいものが自分の回りに集まっている事は分かる。
きっと、これが風の精霊さんなのだと思う。
精霊さんの声は私の頭の中に・・・いいえ、これは全身の感覚で理解しているような気がする。
熱い物、冷たい物に触ると、目を閉じていても、それが熱いか冷たいかはわかるように、これは声というものを体で感じて意思を理解しているような感覚だと思った。
精霊さんは私のどこが気に入ったのだろう?
私には人に誇れるものは何もない。
もしかすると、以前の私には何かあったのかもしれない。
でも、今の私は何も覚えていない。
だから、なぜ私なのかは分からなかった。
でも、ジョルジュさんがかけてくれた言葉は、はずかしかったけど、少し嬉しかった。
以前の私がどんな私かは分からない。
今の私と全然違う性格なのかもしれない。
でも、私が知ってる私は、この私だけだから、今の私にできる精一杯で生きていこうと思う。
心に風が吹いた
心はどこ?それは分からないけど、喜んだり、悩んだり、時には怒ったり、人が気持ちと呼ぶ場所に、確かに風が吹いた
声が聞こえる
声は私を歓迎しているみたい
そっか、これが精霊さんの声なんだ
私とお友達になってくれるの?
ありがとう・・・・・
孤児院のお仕事があるから、毎日ここには来れないけど、孤児院でお祈りするからね。
忘れもの?
精霊さんは、私の忘れているなにかを知っているの?
また、心に風が吹いた
それは、少し寂しい風だった
何百、何千、何万もの大勢の人が足早に行き交う街には、見たことのない大きな建物が沢山建ち並んでいる
鉄の塊のような、馬車ではないなにかは、人を乗せて驚くような速さで道を進んで行く
一軒の大きくて、横に長い四角形の建物が見える
なにかのお店だろうか?
入り口の脇の金属の箱に、沢山の服が畳んで置いてある。
不思議な事に、入り口にある看板を見て、あれは文字だとすぐに理解できた。
この国とは違う文字なのに、なぜか文字が読める。
・・・・・ウイニング
一人の男性が見える
目が隠れるくらい前髪を伸ばしていて、真面目そうだけど少し暗い印象を受ける。
誰かと話しているように見える・・・・・
私だ・・・・・
顔が私に向いている。この人は私に話しかけているんだ。
私は私を見れないけど、以前の私はこの男性と仲が良かったのかもしれない。
・・・アラタ
・・・・・・坂木 新
坊主頭で、ガッチリした体格の男性が出てきた。
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