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【157 精霊の判断】
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「ジョルジュ、昨日少し聞いたけど、師匠に黒髪の針を撃った刺客の位置は、風の精霊の力で分かったというのは具体的にどういう感覚なんだ?」
闘技場の三階層で、西側にいたジョルジュが、正反対の東側にいた刺客を射殺した。
その距離は100メートル以上離れており、2万人の観客の中、見た事も無い刺客を狙ったのだ。
普通に考えれば不可能であるが、ジョルジュは風の精霊の力で刺客が分かり、矢の狙いを付けられたと言う。
「・・・具体的にか・・・身に纏う風の匂いだな。あの時俺は闘技場の風の中で、殺意、悪意、そういう負の感情の強い風を探したんだ。そして東側であの男を見つけた。明らかに悪い風だったからな、一瞬で確信が持てた。
あとはあの男まで届く風の道を見極め、そこに狙いを付け矢を射っただけだ」
大した事の無いように口にしているが、風の精霊との繋がりのあるジョルジュにしかできない方法だ。
目で見て探すというより、風で感知している感覚なのだろう。
「サラリと言うけど、それ、ジョルジュにしかできないからね?あんた、本当に体力型?魔法使いみたいな能力だよ?」
ジョルジュの説明にジャニスは溜息を付いた。
「魔法は一切使えないからな。体力型だ。だが、ジャニスの指摘も的外れではないな。自分でも風を読む事はできるが、精霊の力を借りれば的を外す事はまず無い。この精霊の力は魔法と似ているのかもしれない」
「なぁジョルジュ・・・昨日、風の精霊は悪意を持った者には心を開かない、みたいな事を言ってたけど、お前はあいつを射殺しただろ?それはいいのか?」
弓を射る際に、精霊の力を借りるという言葉で、俺はふと気になった事を聞いてみた。
ジョルジュもあの男を攻撃する時には、少なからず殺気が出ているはずだ。
それで精霊の力が使えるのだろうか?
「あぁ、なるほど、確かにそうだな。ウィッカーの言う通りだ。そこは精霊の判断になるが、問題ないようだ。
俺は私利私欲であの男を殺したわけではないからな。殺人そのものを肯定するわけではないが、あの場でアイツは疑いようのない悪だった。あのまま野放しにすれば、罪のない人が大勢殺されていただろう。俺はアイツを消すべきと考え、精霊が拒まなかったというだけだ」
「相手によると言う事か?それだと、線引きが難しいな」
「そうでもない。精霊の意に反する行動をしようとすると、警告するように風が荒れるんだ。精霊は俺の考えが分かるらしい。だから、どこまで許容されるかを見極めは難しくはない。おそらくあの男は殺し屋だ。あんな醜悪な風はめったにないぞ?これまでどれだけの罪の無い命を奪ってきたのか、考えたくない程だ。まぁ、そんなヤツが相手だったんだ。精霊も危険人物と認めたんだろう」
なるほど。
あくまで精霊の判断になるようだが、一律で戦闘行為は駄目というわけではないようだ。平和に繋がるかどうか、という事だと思っていいだろう。
ジョルジュは殺し屋と言っていたが、金で殺人を犯したり、人々の平和な暮らしを無暗に脅かすような者が相手なら、精霊も力を貸してくれそうだ。
「あの・・・私が風の精霊に気に入られた、というのは昨夜お伺いしましたが、これからお城の北の森へ行き、どのような事をするのでしょうか?」
ジョルジュの正面、向かい合う形で座るヤヨイさんが、遠慮がちに声をかける。
「森の中の湖へ行き、そこで精霊に祈りを捧げてもらう。そこからはヤヨイ次第になると思うが、おそらく精霊の声が聞こえるはずだ。その声に耳を傾けてもらいたい。キミは精霊に気に入られている。俺は三年かかったが、キミは今日にでも精霊の声が聞こえるだろう」
「精霊の声、ですか・・・・・とても大きな話しで、まだ戸惑いもありますけど、分かりました。頑張ってみます」
「危害を加えられるわけではないんだ。心配する事は何もない。気持ちを楽にしていい」
ジョルジュは淡々と、思った事をそのまま口に出しているような話し方だったが、思いやりのある言葉だった。ヤヨイさんは、はい、と返事をすると、それきり黙ってしまったが、どこか気持ちがほぐれたようで、硬さが少しとれているように見える。
風の精霊に気に入られた・・・・・
ヤヨイさんは、どこから来たんだろう。
悪い人でないのは分かる。名前からも、この国の人間でない事は想像できる。
今までは、どこか別の国の人なのだろう、くらいにしか考えていなかったが、風の精霊に気に入られるなんて、おそらくこの国で初めての事だろう。
一体、ヤヨイさんはどこで産まれ、どんな人生を送ってきたのだろうか・・・
一度考えると、色々と気になる事が出て来た。
でも、名前しか覚えていないというヤヨイさんに、あれこれ質問をしても困らせるだけだし、ただの自分勝手な行為だと思う。
それに、もしなにか思い出したら、自分から教えてくれるのではないかという気もする。
急ぐ理由もない。のんびり待とう。
いつか思い出せるといいですね。ヤヨイさん。
闘技場の三階層で、西側にいたジョルジュが、正反対の東側にいた刺客を射殺した。
その距離は100メートル以上離れており、2万人の観客の中、見た事も無い刺客を狙ったのだ。
普通に考えれば不可能であるが、ジョルジュは風の精霊の力で刺客が分かり、矢の狙いを付けられたと言う。
「・・・具体的にか・・・身に纏う風の匂いだな。あの時俺は闘技場の風の中で、殺意、悪意、そういう負の感情の強い風を探したんだ。そして東側であの男を見つけた。明らかに悪い風だったからな、一瞬で確信が持てた。
あとはあの男まで届く風の道を見極め、そこに狙いを付け矢を射っただけだ」
大した事の無いように口にしているが、風の精霊との繋がりのあるジョルジュにしかできない方法だ。
目で見て探すというより、風で感知している感覚なのだろう。
「サラリと言うけど、それ、ジョルジュにしかできないからね?あんた、本当に体力型?魔法使いみたいな能力だよ?」
ジョルジュの説明にジャニスは溜息を付いた。
「魔法は一切使えないからな。体力型だ。だが、ジャニスの指摘も的外れではないな。自分でも風を読む事はできるが、精霊の力を借りれば的を外す事はまず無い。この精霊の力は魔法と似ているのかもしれない」
「なぁジョルジュ・・・昨日、風の精霊は悪意を持った者には心を開かない、みたいな事を言ってたけど、お前はあいつを射殺しただろ?それはいいのか?」
弓を射る際に、精霊の力を借りるという言葉で、俺はふと気になった事を聞いてみた。
ジョルジュもあの男を攻撃する時には、少なからず殺気が出ているはずだ。
それで精霊の力が使えるのだろうか?
「あぁ、なるほど、確かにそうだな。ウィッカーの言う通りだ。そこは精霊の判断になるが、問題ないようだ。
俺は私利私欲であの男を殺したわけではないからな。殺人そのものを肯定するわけではないが、あの場でアイツは疑いようのない悪だった。あのまま野放しにすれば、罪のない人が大勢殺されていただろう。俺はアイツを消すべきと考え、精霊が拒まなかったというだけだ」
「相手によると言う事か?それだと、線引きが難しいな」
「そうでもない。精霊の意に反する行動をしようとすると、警告するように風が荒れるんだ。精霊は俺の考えが分かるらしい。だから、どこまで許容されるかを見極めは難しくはない。おそらくあの男は殺し屋だ。あんな醜悪な風はめったにないぞ?これまでどれだけの罪の無い命を奪ってきたのか、考えたくない程だ。まぁ、そんなヤツが相手だったんだ。精霊も危険人物と認めたんだろう」
なるほど。
あくまで精霊の判断になるようだが、一律で戦闘行為は駄目というわけではないようだ。平和に繋がるかどうか、という事だと思っていいだろう。
ジョルジュは殺し屋と言っていたが、金で殺人を犯したり、人々の平和な暮らしを無暗に脅かすような者が相手なら、精霊も力を貸してくれそうだ。
「あの・・・私が風の精霊に気に入られた、というのは昨夜お伺いしましたが、これからお城の北の森へ行き、どのような事をするのでしょうか?」
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「森の中の湖へ行き、そこで精霊に祈りを捧げてもらう。そこからはヤヨイ次第になると思うが、おそらく精霊の声が聞こえるはずだ。その声に耳を傾けてもらいたい。キミは精霊に気に入られている。俺は三年かかったが、キミは今日にでも精霊の声が聞こえるだろう」
「精霊の声、ですか・・・・・とても大きな話しで、まだ戸惑いもありますけど、分かりました。頑張ってみます」
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ジョルジュは淡々と、思った事をそのまま口に出しているような話し方だったが、思いやりのある言葉だった。ヤヨイさんは、はい、と返事をすると、それきり黙ってしまったが、どこか気持ちがほぐれたようで、硬さが少しとれているように見える。
風の精霊に気に入られた・・・・・
ヤヨイさんは、どこから来たんだろう。
悪い人でないのは分かる。名前からも、この国の人間でない事は想像できる。
今までは、どこか別の国の人なのだろう、くらいにしか考えていなかったが、風の精霊に気に入られるなんて、おそらくこの国で初めての事だろう。
一体、ヤヨイさんはどこで産まれ、どんな人生を送ってきたのだろうか・・・
一度考えると、色々と気になる事が出て来た。
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それに、もしなにか思い出したら、自分から教えてくれるのではないかという気もする。
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