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【148 結界技】

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ベン・フィングの心には、苛立ちが広がりつつあった。
双炎砲も、地氷走りも、全く通用せず、難なく防がれてしまった。

どちらも中級魔法であり、現役時代のベン・フィングであれば、この二発での消耗など微々たるものだった。
だが、現役を離れ、修練をする事も無くなり、戦いを離れて幾数十年。
すっかり、体力も精神力も衰えを見せると、中級魔法二発でも、汗が頬を伝う程に消耗を感じていた。

「ほっほっほ、どうされましたベン殿?もっともっと撃ってくだされ。ご遠慮なさらずに?ワシに本物の魔法を見せてくだされ」

ブレンダンの口調は、まるで大人が子供と力比べをする時に、全力で向かって来いと言っているような、そんな余裕を含ませたものだった。

何十年にも渡り抱えて来た劣等感、大臣になっても自分の前に影を落とす男、そして再三に渡る挑発めいたブレンダンの態度に、ベン・フィングは・・・・・・キレた


「馬鹿にするなァッ!ブレンダンーッツ!」

叫び声と共に、あの日応接室で見た、ベン・フィングの黒い腹の内を表しているかのような、どす黒いエネルギーの塊が、ベン・フィングの周囲に何十と出現した。

エネルギーの塊の正体は爆発魔法の基本、爆裂弾である。だがこの技は、上級魔法に分類されてもおかしくない爆裂弾の応用業である。

爆裂弾を空中に留め置き、標的に向け一斉に放つ、もちろん一度に放出できる爆裂弾が多ければ、多い程効果的である。

今回、ベン・フィングが放出した爆裂弾は、その数実に58を数える。これは引退して幾数十年の魔法使いが出せる数としては驚異的な数字だった。

ベン・フィングの放出した爆裂弾は、空中で細かい破裂音を響かせながら、ブレンダンの周りを威嚇するように回り出す。


「ほっほっほ、先日も城で見せてもらいましたな。うむ、50~60発くらいはありそうですな。引退された身でこれだけ出せるとは、お見事です」

「ブレンダン・・・これだけの数を貴様の結界で防げるか、試してみやがれ!」

ベン・フィングが両手を交差させるように振るうと、ブレンダンを囲んでいたエネルギーの塊が、一斉にブレンダンに襲い掛かかる。

頭上、正面、背後、全方向から爆裂弾がぶつかり爆ぜる。爆ぜる度に濛々と煙が上がり、煙はブレンダンの姿を覆い隠していく。


10・・・20・・・30・・・次々と爆裂弾が衝突し、その衝撃波で巻き起こる砂埃は10メートル以上離れた観客席まで届く程だった。

戦いに見入った観客からは大きな声が次々と上がり、場内の熱気を一層盛り上げていく。


ベン・フィングはこれでブレンダンが終わるとは思っていなかった。
この国一の使い手と呼ばれていた男である。ベン・フィングの放った、二発の中級魔法をあっさり防いだ事からも、これで仕留められるとは思っていなかった。

だが、ダメージを与える事はできているはずである。
この魔法を全てぶつけたとしても、おそらくブレンダンは結界を維持しているはずだ。
だがそれは58の爆裂弾により、大きくダメージを受けているはずである。


ダメージを受け脆くなった結界であれば・・・この爆裂空破弾で突破は可能。


40・・・50・・・55・・・

ベン・フィングの右手は、己の拳の倍以上ある大きなどす黒いエネルギーを纏い、それは周囲の空気を震わせていた。

ベン・フィングは、この試合が長期戦になれば不利と考えていた。
魔力の総量は、ブレンダンの方が自分よりはるかに上である。そして、自分は引退して幾十年、衰えは自覚している。

単発であれば、まだ魔法兵団の若い者より強い威力を出せるが、それもせいぜい数発が限界であった。

だから、中級の攻撃魔法が防がれた時点で、全方位爆裂弾からの、全魔力を込めた爆裂空破弾で決着をつける事を狙っていた。

これがベン・フィングの用意した、試合での作戦だった。

・・・58



・・・・・・煙が消え、姿を現したブレンダンの結界は・・・・・・跡形もなく消えていた


そこには片膝を付き、苦しそうに息を切らせている、ブレンダンの姿があるだけだった。


老いたな、ブレンダン・・・・・


予想外の光景に、ベン・フィングは一瞬、違和感を感じたが、すぐに不敵な笑みを浮かべると、右手を大きく振りかぶり、全魔力を込めた、爆裂空破弾をブレンダンに向かって撃ち放った。


「買いかぶりだったようだな!ブレンダン!これで最後だ!」


ベン・フィングがもし、劣等感を引きずっていなければ、違和感に目を向ければ気が付けたかもしれない。

だが、長い年月引きずってきたブレンダンへの劣等感は、眼前に勝利が見えた事で疑いを排除してしまった。

ベン・フィングの渾身の爆裂空破弾がブレンダンに激突する・・・その瞬間、ベン・フィングは確かに見た。

それは、死に際に見せる恐怖に引きつった顔ではなく・・・・・相手を罠にはめた時のしたり顔だった


「それを待っておったんじゃ!」

これまで右の片膝を付き、息を切らせていたはずの満身創痍の老人は、左足に力を入れ地面を踏みしめると、右膝から足首で地面を蹴り上げ、腰を左に回しながら起き上がり、その勢いのまま、右手の平に上半身が隠れる程の大きさの結界を発動させると、迫りくる爆裂空破弾を・・・結界で弾き返した。

「なにぃッツ!?」

ベン・フィングは目の前の光景が信じられず、金縛りにあったようにその場を一歩も動くことができなかった。

ブレンダンに放った爆裂空破弾は、ブレンダンの元で爆発しなければならなかった。爆発するはずであったのだ。

だが、その爆裂空破弾は、そのまま自分自身に向かい跳ね返ってきたのだ。


「ほっほっほ、ワシの編み出した結界技、返し、じゃ」

「ブレンダンーッツ!」


ベン・フィングは叫んだ。
怒り、憎しみ、心の底から、体中の負の感情を全て込めて、ブレンダンの名を叫んだ。

それは、ブレンダンに聞こえたかは分からない。
同時にベン・フィングの元で自身の放った爆裂空破弾が轟音を上げたからだ。



「あ、ワシとした事が・・・・・本物の魔法を見せてもらうの忘れとった」

正面から来る爆風に煽られ、乱れた白い髪を搔き上げながら、ブレンダンは軽く息を付き呟いた。
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