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【145 パトリックとの対話】
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10時の時点ですでに満席に近かったが、試合時刻が近づくにつれ、闘技場内は人で溢れかえり、3階層では席に座れない人が通路で立ち見をしたり、席と席の間の、ゴツゴツとした石造り階段に腰を下ろしたりする人まで出て来る程だった。
この闘技場は、身分で見れる場所が決まっている。
1階層は貴族達、2階層は富裕層、3階層が一般市民。そして、これとは別に王族は1階に特別席が用意されている。
俺とジャニスは、師匠の弟子という立場でもあるので、1階層で見る事が許されている。
「ウィッカー、私も初めて見るけど・・・なんか、すごいね・・・」
1階層で席に通された俺達は、試合前から盛り上がりを見せている観客達の熱気に驚かされていた。
貴族達は大声を出したりせず、静かに試合開始を待っているが、2階層と、とくに3階層は、師匠の名前を叫ぶ人達や、早く始めろというヤジやら、とにかく大きな声が飛び交い、主役のいない試合場を盛り上げていた。
「あぁ・・・噂には聞いてたけど、思ってたよりずっとすごいな。師匠はこんなところで10年も勝ち続けていたのか」
「お、いたいた。ウィッカー、ジャニス」
俺とジャニスが2階、3階の盛り上がりに目を奪われていると、ふいに後ろから声をかけられた。
振り返ると、ロビンさんが右手を軽く上げ、俺とジャニスに笑いかけながら、俺の隣に腰を下ろした。
「ロビンさん、こんにちは。応援に来てくれたんですね」
俺が挨拶をすると、ロビンさんは、当たり前だ、と笑って答えてくれた。
「ブレンダン様には、私も本当にお世話になったからな。お前達のように、直接の弟子ではないが、沢山の事を教わってここまでこれた。応援するのは当たり前じゃないか」
「そんな事言って、本当はヤヨイさんもいるかと思って来たんじゃないんですか~?」
ジャニスがからかうような目を向けると、ロビンさんは少し慌てたように、言葉をつっかえながら否定した。
「い、いや、ジャニス、そんな事はないぞ!私は純粋にブレンダン様を応援する気持ちで来た・・・・・・で、ヤヨイさんはいらっしゃるのか?」
「いません」
ジャニスは間髪入れずに否定の言葉を口にした。
「ロ、ロビンさん、そんな肩落とさないでって・・・あれ、パトリックさんも来てたんですね?」
分かりやすいくらい、肩を落としてうな垂れるロビンさんに声をかけていると、ロビンさんの息子のパトリックさんの姿が視界に入った。
「おう、ウィッカー、ジャニス、ここ座らせてもらうぜ」
父親のロビンさんに比べると少し背は低いが、177~8cmくらいはある。ロビンさんは、魔法使いには珍しいくらいの筋肉質だが、パトリックさんが平均的な普通の魔法使いの体系だ。
父親似の彫りの深い顔立ちだが、どこか愛嬌のある目鼻が柔らかい印象を与えている。
肩まで伸びた長い、母親譲りのシルバーグレーの髪は首の後ろで結び留めていた。
「親父、なにへこんでんだよ?」
ジャニスの隣に腰を下ろしたパトリックさんは、肩を落としているロビンさんを見て、首を傾げた。
今日はヤヨイさんがいなくて、ロビンさんが残念がっていたと説明をすると、話しの流れから、パトリックさんがこの縁談に対しての、自分の考えを口にし始めた。
「・・・あぁ、その話しな。ここんとこ毎日聞かされてるよ。孤児院のヤヨイさんって人に会えって、もう耳が痛くなるくらいだ。でもよ、お前らも知っての通り、俺は、まぁ・・・無理だろ?
女の人と、仕事や友人としてなら普通に話せるのに、それが恋愛になると、どうしても緊張して全く話せない。もうさ、あんな気まずい思いしたくないんだよ。だから、お前らから断っておいてくれないか?そのヤヨイさんて人も、俺なんかに会ってもいいって言ってくれたのに悪いけど、きっと嫌な気持ちになるだけだし、お互いのためだと・・・」
「この馬鹿息子がぁッツ!」
パトリックさんが言い終わらないうちに、ロビンさんが体を起こし、俺とジャニスを挟んで座るパトリックさんに掴みかかった。
突然父親に胸倉を掴まれ、魔法使いとは思えない腕力で足が浮くほど体を持ち上げられると、苦しそうに歯を食いしばり、自分を持ち上げる父親の腕を掴み外そうともがいている。
「お前は会いもしないうちからヤヨイさんを否定するな!お前に会って嫌な気持ちになるだと!?
そんな心の狭い人では断じてない!例えご縁が無かったとして、あの人はお前という人間を否定しない!お前の事情を知った上で、自分を紹介してくださいと言ってくださったのだぞ!何がお互いのためだ!お前は最初から諦めているだけの臆病者だ!お前なんかにヤヨイさんはもったいない!」
闘技場一体に響き渡る大声に、あれほど活気づいていた場内が静まり返っていた。
場内全ての視線が集まる中、ロビンさんはパトリックさんを投げ捨てるように離すと、苦しそうに咳き込むパトリックさんを一瞥して、失礼した私は場所を変えた方がいいな、と言い残し、その場を離れた。
「・・・・・こ、怖かった・・・」
ロビンさんの姿が見えなくなると、ジャニスがポツリと言葉を漏らした。
ジャニスが、怖い、なんて言うのは聞いた事がない。それほど衝撃だったのだろう。
「うん・・・俺もびびった・・・」
そして、俺もあんな怖いロビンさんは初めてみた。
怒り過ぎな気もするが、それほどヤヨイさんを気に入っているという事だろう。
孤児院で出会ってほんの数日だけど、息子のためあれほど熱心に口説いていたのだ。
おかしな事言い方だが、息子の妻にしたい女性としての一目惚れ。みたいな感情があるのだろう。
「ゲホッ・・・う、つぅ・・・な、なんなんだよ一体・・・」
「パトリックさん、大丈夫ですか?」
やっと少し落ち着いたパトリックさんに、ジャニスが手を差し伸べる。
「あ、あぁ、悪い」
ジャニスの手を借り、体を起こすと、パトリックさんは喉をさすりながら、辺りをに目を向けた。
どうやらロビンさんを探しているようだ。
「くそっ、どこに行った?いい笑い者じゃねぇか・・・なんだってんだ」
「やり過ぎだけど、私もロビンさんと同じ気持ちですよ。ちょっと・・・ムカっとはしたから」
ジャニスは、自分より頭一つ程背の高いパトリックさんを見上げている。その視線には、少しだが責めるような色が見えた。
「私達も付き合いは短いけど、ヤヨイさんはパトリックさんが思ってるより、純粋で優しくて、何より人の痛みが分かる人ですよ。それはもう、臆病なくらい・・・・・ロビンさんが話してた通り、パトリックさんが緊張して女の人と全く話せなくなる事も分かった上で、会ってもいい、じゃなくて、私でよければ紹介してください、こう言ったのよ?パトリックさん・・・・・考えてみて?」
ジャニスの言葉を受け、パトリックさんは視線を逸らし、口を閉ざしてしまった。
そんなパトリックさんを見て、ジャニスは溜息をつき右手を振り上げると、そのまま思い切りパトリックさんのお尻を叩いた。
「痛っ!ジャニス!?なにするんだよ!?」
「座ってください」
「はっ!?何言って・・・」
「座ってください」
ジャニスはパトリックさんには目も向けずに腰を下ろすと、自分の隣の場所を手の平で叩きながら、感情のこもらない口調で言葉を発した。
その迫力に、パトリックさんもそれ以上口答えする事ができず、黙ってジャニスの隣に腰を下ろした。
俺もうかつに口を挟めない雰囲気に、ただ黙って成り行きを見守るしかなかった。
2分か3分か、5分程度か・・・短いような、長いような、沈黙が苦痛になりそうな時間が過ぎた頃、
軽い溜息が聞こえたと思うと、ジャニスが口を開いた。
「・・・パトリックさん。少しは気持ちの整理ができましたか?」
「・・・あぁ、悪かったな」
ジャニスもパトリックさんも、互いに視線は合わせず、前を向いたまま言葉を口にした。
パトリックさんの口調から、だいぶ気持ちが落ち着いているように感じられる。
「良かった。それじゃあ、もう一度言いますけど、ヤヨイさんとの事、本気で考えてみてください。
会った事も無い人なので、想像しにくいと思いますけど、ロビンさんがあれほど気持ちを持ってる人なんです。パトリックさんの事情は全て承知してるんです。きっと、ヤヨイさんはパトリックさんが何も話さなくても、居心地の良い時間をくれると思いますよ。だから、時間をかけた付き合いができるはずです。私は・・・ヤヨイさんにも、パトリックさんにも幸せになって欲しいです」
「・・・ジャニス・・・・・フッ、ハハ、本当にお前はすごいな」
「え?パトリックさん、急に笑って気持ち悪いですよ?」
「おい!そりゃないだろ!」
冷たく突き放すジャニスに、パトリックさんが抗議の声を上げる。
「フフ・・・冗談ですよ。ちょっとは前向きになれましたか?」
ジャニスがからかうように、片目を瞑って笑いかけると、パトリックさんは頭をかるく掻き、少しふてくされたようにも見えたが、しっかりと言葉を返してきた。
「あぁ、ありがとよ・・・こんだけ言われて、やっと分かった気がする。お前と父さんにそこまで言わせる人なんだから、興味が出て来た。ヤヨイさんに会ってみるよ・・・帰ったら、パトリックがぜひ会いたいって言ってたと伝えてくれ。日取りと場所は希望が無ければ、こっちで考えるよ」
「良かった。じゃあ、帰ったらヤヨイさんにそう伝えておきます。フフ・・・パトリックさん、あなたが思ってる以上に綺麗な人だから、期待してくださいね?このスケベ!」
そう言って、ジャニスは肘でパトリックさんの脇腹を軽くつつきだした。。
パトリックさんは、急にスケベなんて言われて、え!?なんで!?と、戸惑いながら、体を捻ってジャニスの肘を避けようとしている。
ジャニスの人柄とでも言うだろうか、人を説得したり、前向きな気持ちにさせたり、こういうところは本当にすごいと思う。
この闘技場は、身分で見れる場所が決まっている。
1階層は貴族達、2階層は富裕層、3階層が一般市民。そして、これとは別に王族は1階に特別席が用意されている。
俺とジャニスは、師匠の弟子という立場でもあるので、1階層で見る事が許されている。
「ウィッカー、私も初めて見るけど・・・なんか、すごいね・・・」
1階層で席に通された俺達は、試合前から盛り上がりを見せている観客達の熱気に驚かされていた。
貴族達は大声を出したりせず、静かに試合開始を待っているが、2階層と、とくに3階層は、師匠の名前を叫ぶ人達や、早く始めろというヤジやら、とにかく大きな声が飛び交い、主役のいない試合場を盛り上げていた。
「あぁ・・・噂には聞いてたけど、思ってたよりずっとすごいな。師匠はこんなところで10年も勝ち続けていたのか」
「お、いたいた。ウィッカー、ジャニス」
俺とジャニスが2階、3階の盛り上がりに目を奪われていると、ふいに後ろから声をかけられた。
振り返ると、ロビンさんが右手を軽く上げ、俺とジャニスに笑いかけながら、俺の隣に腰を下ろした。
「ロビンさん、こんにちは。応援に来てくれたんですね」
俺が挨拶をすると、ロビンさんは、当たり前だ、と笑って答えてくれた。
「ブレンダン様には、私も本当にお世話になったからな。お前達のように、直接の弟子ではないが、沢山の事を教わってここまでこれた。応援するのは当たり前じゃないか」
「そんな事言って、本当はヤヨイさんもいるかと思って来たんじゃないんですか~?」
ジャニスがからかうような目を向けると、ロビンさんは少し慌てたように、言葉をつっかえながら否定した。
「い、いや、ジャニス、そんな事はないぞ!私は純粋にブレンダン様を応援する気持ちで来た・・・・・・で、ヤヨイさんはいらっしゃるのか?」
「いません」
ジャニスは間髪入れずに否定の言葉を口にした。
「ロ、ロビンさん、そんな肩落とさないでって・・・あれ、パトリックさんも来てたんですね?」
分かりやすいくらい、肩を落としてうな垂れるロビンさんに声をかけていると、ロビンさんの息子のパトリックさんの姿が視界に入った。
「おう、ウィッカー、ジャニス、ここ座らせてもらうぜ」
父親のロビンさんに比べると少し背は低いが、177~8cmくらいはある。ロビンさんは、魔法使いには珍しいくらいの筋肉質だが、パトリックさんが平均的な普通の魔法使いの体系だ。
父親似の彫りの深い顔立ちだが、どこか愛嬌のある目鼻が柔らかい印象を与えている。
肩まで伸びた長い、母親譲りのシルバーグレーの髪は首の後ろで結び留めていた。
「親父、なにへこんでんだよ?」
ジャニスの隣に腰を下ろしたパトリックさんは、肩を落としているロビンさんを見て、首を傾げた。
今日はヤヨイさんがいなくて、ロビンさんが残念がっていたと説明をすると、話しの流れから、パトリックさんがこの縁談に対しての、自分の考えを口にし始めた。
「・・・あぁ、その話しな。ここんとこ毎日聞かされてるよ。孤児院のヤヨイさんって人に会えって、もう耳が痛くなるくらいだ。でもよ、お前らも知っての通り、俺は、まぁ・・・無理だろ?
女の人と、仕事や友人としてなら普通に話せるのに、それが恋愛になると、どうしても緊張して全く話せない。もうさ、あんな気まずい思いしたくないんだよ。だから、お前らから断っておいてくれないか?そのヤヨイさんて人も、俺なんかに会ってもいいって言ってくれたのに悪いけど、きっと嫌な気持ちになるだけだし、お互いのためだと・・・」
「この馬鹿息子がぁッツ!」
パトリックさんが言い終わらないうちに、ロビンさんが体を起こし、俺とジャニスを挟んで座るパトリックさんに掴みかかった。
突然父親に胸倉を掴まれ、魔法使いとは思えない腕力で足が浮くほど体を持ち上げられると、苦しそうに歯を食いしばり、自分を持ち上げる父親の腕を掴み外そうともがいている。
「お前は会いもしないうちからヤヨイさんを否定するな!お前に会って嫌な気持ちになるだと!?
そんな心の狭い人では断じてない!例えご縁が無かったとして、あの人はお前という人間を否定しない!お前の事情を知った上で、自分を紹介してくださいと言ってくださったのだぞ!何がお互いのためだ!お前は最初から諦めているだけの臆病者だ!お前なんかにヤヨイさんはもったいない!」
闘技場一体に響き渡る大声に、あれほど活気づいていた場内が静まり返っていた。
場内全ての視線が集まる中、ロビンさんはパトリックさんを投げ捨てるように離すと、苦しそうに咳き込むパトリックさんを一瞥して、失礼した私は場所を変えた方がいいな、と言い残し、その場を離れた。
「・・・・・こ、怖かった・・・」
ロビンさんの姿が見えなくなると、ジャニスがポツリと言葉を漏らした。
ジャニスが、怖い、なんて言うのは聞いた事がない。それほど衝撃だったのだろう。
「うん・・・俺もびびった・・・」
そして、俺もあんな怖いロビンさんは初めてみた。
怒り過ぎな気もするが、それほどヤヨイさんを気に入っているという事だろう。
孤児院で出会ってほんの数日だけど、息子のためあれほど熱心に口説いていたのだ。
おかしな事言い方だが、息子の妻にしたい女性としての一目惚れ。みたいな感情があるのだろう。
「ゲホッ・・・う、つぅ・・・な、なんなんだよ一体・・・」
「パトリックさん、大丈夫ですか?」
やっと少し落ち着いたパトリックさんに、ジャニスが手を差し伸べる。
「あ、あぁ、悪い」
ジャニスの手を借り、体を起こすと、パトリックさんは喉をさすりながら、辺りをに目を向けた。
どうやらロビンさんを探しているようだ。
「くそっ、どこに行った?いい笑い者じゃねぇか・・・なんだってんだ」
「やり過ぎだけど、私もロビンさんと同じ気持ちですよ。ちょっと・・・ムカっとはしたから」
ジャニスは、自分より頭一つ程背の高いパトリックさんを見上げている。その視線には、少しだが責めるような色が見えた。
「私達も付き合いは短いけど、ヤヨイさんはパトリックさんが思ってるより、純粋で優しくて、何より人の痛みが分かる人ですよ。それはもう、臆病なくらい・・・・・ロビンさんが話してた通り、パトリックさんが緊張して女の人と全く話せなくなる事も分かった上で、会ってもいい、じゃなくて、私でよければ紹介してください、こう言ったのよ?パトリックさん・・・・・考えてみて?」
ジャニスの言葉を受け、パトリックさんは視線を逸らし、口を閉ざしてしまった。
そんなパトリックさんを見て、ジャニスは溜息をつき右手を振り上げると、そのまま思い切りパトリックさんのお尻を叩いた。
「痛っ!ジャニス!?なにするんだよ!?」
「座ってください」
「はっ!?何言って・・・」
「座ってください」
ジャニスはパトリックさんには目も向けずに腰を下ろすと、自分の隣の場所を手の平で叩きながら、感情のこもらない口調で言葉を発した。
その迫力に、パトリックさんもそれ以上口答えする事ができず、黙ってジャニスの隣に腰を下ろした。
俺もうかつに口を挟めない雰囲気に、ただ黙って成り行きを見守るしかなかった。
2分か3分か、5分程度か・・・短いような、長いような、沈黙が苦痛になりそうな時間が過ぎた頃、
軽い溜息が聞こえたと思うと、ジャニスが口を開いた。
「・・・パトリックさん。少しは気持ちの整理ができましたか?」
「・・・あぁ、悪かったな」
ジャニスもパトリックさんも、互いに視線は合わせず、前を向いたまま言葉を口にした。
パトリックさんの口調から、だいぶ気持ちが落ち着いているように感じられる。
「良かった。それじゃあ、もう一度言いますけど、ヤヨイさんとの事、本気で考えてみてください。
会った事も無い人なので、想像しにくいと思いますけど、ロビンさんがあれほど気持ちを持ってる人なんです。パトリックさんの事情は全て承知してるんです。きっと、ヤヨイさんはパトリックさんが何も話さなくても、居心地の良い時間をくれると思いますよ。だから、時間をかけた付き合いができるはずです。私は・・・ヤヨイさんにも、パトリックさんにも幸せになって欲しいです」
「・・・ジャニス・・・・・フッ、ハハ、本当にお前はすごいな」
「え?パトリックさん、急に笑って気持ち悪いですよ?」
「おい!そりゃないだろ!」
冷たく突き放すジャニスに、パトリックさんが抗議の声を上げる。
「フフ・・・冗談ですよ。ちょっとは前向きになれましたか?」
ジャニスがからかうように、片目を瞑って笑いかけると、パトリックさんは頭をかるく掻き、少しふてくされたようにも見えたが、しっかりと言葉を返してきた。
「あぁ、ありがとよ・・・こんだけ言われて、やっと分かった気がする。お前と父さんにそこまで言わせる人なんだから、興味が出て来た。ヤヨイさんに会ってみるよ・・・帰ったら、パトリックがぜひ会いたいって言ってたと伝えてくれ。日取りと場所は希望が無ければ、こっちで考えるよ」
「良かった。じゃあ、帰ったらヤヨイさんにそう伝えておきます。フフ・・・パトリックさん、あなたが思ってる以上に綺麗な人だから、期待してくださいね?このスケベ!」
そう言って、ジャニスは肘でパトリックさんの脇腹を軽くつつきだした。。
パトリックさんは、急にスケベなんて言われて、え!?なんで!?と、戸惑いながら、体を捻ってジャニスの肘を避けようとしている。
ジャニスの人柄とでも言うだろうか、人を説得したり、前向きな気持ちにさせたり、こういうところは本当にすごいと思う。
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