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【139 ブレンダンの考え】
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「師匠、なんであんな事をしたんですか?」
応接室を出ると、師匠は後ろを歩き付いて行く俺達にも振り返る事なく、ただ足を進めて行く。
痺れを切らしたジャニスが後ろから声をかけた。
すると、意外にも師匠は足を止め、ゆっくりと振り返った。
その表情は、まだ少しの険しさはあったが、応接室にいた時よりは、ずいぶん硬さも取れているようには見えた。
「師匠、いきなりあんな殺気出して、ビックリしましたよ!しかも何ですかあれ?なんであんな試合を申し込んだんです?あんな不利な条件で・・・王子が大切なのは私も一緒です!でも、あんな売り言葉に買い言葉で命を賭けるなんて駄目です!」
ジャニスは師匠に詰め寄ると、その目をしっかりと見ながら、強い口調で言葉を続けた。
「師匠が何の勝算も無しに、あんな事を言い出すなんて思いませんが、私とウィッカーにもきちんと説明してください。私達が納得できなければ、絶対に試合はさせませんからね!」
後ろで見ていた俺にも、ジャニスが本気で怒っている事が伝わって来る。
それだけ、師匠を心配しているのだ。
師匠は、周りに誰もいないか確かめるように首を回すと、今度こそ俺達をちゃんと見て口を開いた。
「ジャニス、ウィッカー・・・心配かけてすまんかった。じゃが、王子を取り戻すために必要な事だったのじゃ。ワシは王子が軟禁されてからも、ずっとここで解放のために、国王陛下へも直訴したし、ベンとも話したが、何を言っても無駄と言うのはよう分かった。乱暴な手段だが、ベンの自尊心を煽り、ああいう形にでも持って行かなければ、他に手段が無いと思うてな」
そういう事だったのか。
俺は師匠の考えが分かり、おおむね納得できた。だが、それならそうと事前に話しをして欲しい気持ちもあった。
「・・・そうでしたか。そう言えば、師匠は何日も城に泊まって、話したと言ってましたもんね。私も、さっきの大臣の気の短さや、馬鹿にした態度を見てると、まともな話しはできそうにないと思いました。でも、それならそうと、最初に言っておいて欲しかったです。急にあんなんじゃ、びっくりしますよ?」
ジャニスは俺の心を代弁するかのように、言いたかった事を言ってくれる。
師匠が相手でも、王子が相手でも、いつも遠慮なくものを言える。
そんなジャニスを見ていると、俺は駄目だな。と思う時がある。
王子はもちろん、師匠にも、身分や立場を考えてしまい、つい言いそびれてしまう事が多いのだ。
後から、言って置けばよかったかな?と、時間が立ってから悩んだ事もある。
ジャニスはそんな俺を見ると、いつも、しっかりしなさい、と言葉をかけ、時には背中を押してくれる。
俺の方が2つ年上だが、まるで俺が年下の弟みたいな感じだ。
「ベンを誘導するためには、お主達にも話さん方がいいと思ったのじゃ。ワシがベンを挑発すると事前に話しておけば、お主達の表情にゆるみがでるかもしれん。あやつはアレでなかなか鋭くてな。ワシが殺気を向けた事も、試合を申し込んだ事も、思惑があっての事というのは勘づいているはずじゃ。だが、お主達がワシの変わりように本当の驚きを見せて、戸惑ったからこそ受けたというのもあるはずなんじゃ。ベンの暴言に怒った、ワシの突発的な行動と思うてな。あそこで、お主達にそういった驚きや戸惑いがなければ、前もって全員で計画した周到な罠と思われたやもしれん。そうなれば、ベンは乗ってこなかったやもしれん」
師匠は自分の計画を思い返すように、顎を撫でている。
俺とジャニスは顔を見合わせ、納得したように頷いた。なるほど、確かに、事前に師匠の行動が分かっていれば、あれほど驚く事はなかっただろう。
ベン・フィングも、師匠の話しに乗って来るまでに、色々と思案していた様子はあった。
師匠が、ベン・フィングを甘く見て、思いつきで口にしたと判断できたからこそ、この試合を受けたのだろう。
「なるほど、師匠、分かりました。そういう事情でしたら、ここまでは俺も納得です」
「私も、ここまでは了解しました。でも、問題は試合です。どうやって勝つつもりですか?魔道具は駄目。魔法は結界しか使わないんですよね?」
今回の話しの肝の部分なので、ジャニスも辺りに目を向けて、誰もいない事を確認して、なお声を潜めて尋ねた。
「むろん、それはお主達に話すつもりじゃったが、さすがにここではのう・・・孤児院に帰ってから、実践して見せようと思うておる。気になるだろうが帰るまで待ってくれ」
そう口にすると、師匠はやっと笑って、俺とジャニスの肩に手を置いた。
「しかし、慣れない事はするもんじゃないのう・・・あんな風に殺気を向けたり、芝居とはいえ頭を下げ続けたり、心にも無い事を口にし続けるのは本当にくたびれる」
苦笑いをしながら、俺とジャニスに交互に顔を向ける師匠に、俺とジャニスの口から、思わず笑いがもれた。
「ハハッ、師匠、そりゃそうですよ。あんな怖いの師匠じゃないですって!」
「アハハッ、私もそう思いますよ!師匠に挑発や、お芝居は似合いません!」
俺とジャニスの笑い顔を見て、師匠も表情をほころばせる。
「・・・帰るとするか」
その師匠の一言に、俺とジャニスも、はい、と答え頷いた。
師匠を挟み、通路を3人で並んで歩く
ふいに、俺は王子がいない事の寂しさを感じた
そう、どこかに行くときは、いつもジャニスが王子を引っ張って来て、
みんなで並んで歩いていたのだ
王子・・・王子も一緒に、またみんなで並んで歩きましょうね
孤児院のみんなも待ってます
新しい家族も増えたんですよ
王子・・・・・・絶対に助けますからね
応接室を出ると、師匠は後ろを歩き付いて行く俺達にも振り返る事なく、ただ足を進めて行く。
痺れを切らしたジャニスが後ろから声をかけた。
すると、意外にも師匠は足を止め、ゆっくりと振り返った。
その表情は、まだ少しの険しさはあったが、応接室にいた時よりは、ずいぶん硬さも取れているようには見えた。
「師匠、いきなりあんな殺気出して、ビックリしましたよ!しかも何ですかあれ?なんであんな試合を申し込んだんです?あんな不利な条件で・・・王子が大切なのは私も一緒です!でも、あんな売り言葉に買い言葉で命を賭けるなんて駄目です!」
ジャニスは師匠に詰め寄ると、その目をしっかりと見ながら、強い口調で言葉を続けた。
「師匠が何の勝算も無しに、あんな事を言い出すなんて思いませんが、私とウィッカーにもきちんと説明してください。私達が納得できなければ、絶対に試合はさせませんからね!」
後ろで見ていた俺にも、ジャニスが本気で怒っている事が伝わって来る。
それだけ、師匠を心配しているのだ。
師匠は、周りに誰もいないか確かめるように首を回すと、今度こそ俺達をちゃんと見て口を開いた。
「ジャニス、ウィッカー・・・心配かけてすまんかった。じゃが、王子を取り戻すために必要な事だったのじゃ。ワシは王子が軟禁されてからも、ずっとここで解放のために、国王陛下へも直訴したし、ベンとも話したが、何を言っても無駄と言うのはよう分かった。乱暴な手段だが、ベンの自尊心を煽り、ああいう形にでも持って行かなければ、他に手段が無いと思うてな」
そういう事だったのか。
俺は師匠の考えが分かり、おおむね納得できた。だが、それならそうと事前に話しをして欲しい気持ちもあった。
「・・・そうでしたか。そう言えば、師匠は何日も城に泊まって、話したと言ってましたもんね。私も、さっきの大臣の気の短さや、馬鹿にした態度を見てると、まともな話しはできそうにないと思いました。でも、それならそうと、最初に言っておいて欲しかったです。急にあんなんじゃ、びっくりしますよ?」
ジャニスは俺の心を代弁するかのように、言いたかった事を言ってくれる。
師匠が相手でも、王子が相手でも、いつも遠慮なくものを言える。
そんなジャニスを見ていると、俺は駄目だな。と思う時がある。
王子はもちろん、師匠にも、身分や立場を考えてしまい、つい言いそびれてしまう事が多いのだ。
後から、言って置けばよかったかな?と、時間が立ってから悩んだ事もある。
ジャニスはそんな俺を見ると、いつも、しっかりしなさい、と言葉をかけ、時には背中を押してくれる。
俺の方が2つ年上だが、まるで俺が年下の弟みたいな感じだ。
「ベンを誘導するためには、お主達にも話さん方がいいと思ったのじゃ。ワシがベンを挑発すると事前に話しておけば、お主達の表情にゆるみがでるかもしれん。あやつはアレでなかなか鋭くてな。ワシが殺気を向けた事も、試合を申し込んだ事も、思惑があっての事というのは勘づいているはずじゃ。だが、お主達がワシの変わりように本当の驚きを見せて、戸惑ったからこそ受けたというのもあるはずなんじゃ。ベンの暴言に怒った、ワシの突発的な行動と思うてな。あそこで、お主達にそういった驚きや戸惑いがなければ、前もって全員で計画した周到な罠と思われたやもしれん。そうなれば、ベンは乗ってこなかったやもしれん」
師匠は自分の計画を思い返すように、顎を撫でている。
俺とジャニスは顔を見合わせ、納得したように頷いた。なるほど、確かに、事前に師匠の行動が分かっていれば、あれほど驚く事はなかっただろう。
ベン・フィングも、師匠の話しに乗って来るまでに、色々と思案していた様子はあった。
師匠が、ベン・フィングを甘く見て、思いつきで口にしたと判断できたからこそ、この試合を受けたのだろう。
「なるほど、師匠、分かりました。そういう事情でしたら、ここまでは俺も納得です」
「私も、ここまでは了解しました。でも、問題は試合です。どうやって勝つつもりですか?魔道具は駄目。魔法は結界しか使わないんですよね?」
今回の話しの肝の部分なので、ジャニスも辺りに目を向けて、誰もいない事を確認して、なお声を潜めて尋ねた。
「むろん、それはお主達に話すつもりじゃったが、さすがにここではのう・・・孤児院に帰ってから、実践して見せようと思うておる。気になるだろうが帰るまで待ってくれ」
そう口にすると、師匠はやっと笑って、俺とジャニスの肩に手を置いた。
「しかし、慣れない事はするもんじゃないのう・・・あんな風に殺気を向けたり、芝居とはいえ頭を下げ続けたり、心にも無い事を口にし続けるのは本当にくたびれる」
苦笑いをしながら、俺とジャニスに交互に顔を向ける師匠に、俺とジャニスの口から、思わず笑いがもれた。
「ハハッ、師匠、そりゃそうですよ。あんな怖いの師匠じゃないですって!」
「アハハッ、私もそう思いますよ!師匠に挑発や、お芝居は似合いません!」
俺とジャニスの笑い顔を見て、師匠も表情をほころばせる。
「・・・帰るとするか」
その師匠の一言に、俺とジャニスも、はい、と答え頷いた。
師匠を挟み、通路を3人で並んで歩く
ふいに、俺は王子がいない事の寂しさを感じた
そう、どこかに行くときは、いつもジャニスが王子を引っ張って来て、
みんなで並んで歩いていたのだ
王子・・・王子も一緒に、またみんなで並んで歩きましょうね
孤児院のみんなも待ってます
新しい家族も増えたんですよ
王子・・・・・・絶対に助けますからね
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