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【135 護れた街】
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ヤヨイさんと、キャロルが戻って来るのを待って、俺達3人は孤児院を出発した。
治安が悪いというわけではないが、ヤヨイさんとメアリー以外、子供しかいないので、戸締りはしっかりして待つようにという話しは、念入りにしておいた。
ヤヨイさんからは魔力は感じないので、おそらく体力型だと思うが、控えめで大人しい性格のようなので、とても戦闘ができるようには見えない。
ただ、先日、洗濯物を干しに外に出たヤヨイさんが、物干し竿を持ち、じっと竿を見つめていた事があった。
竿になにか不具合でもあったのかと思い、どうしたの?と、声をかけたのだが、ヤヨイさんは俺の声が聞こえていないように、じっと竿を見つめていた。
もう一度声をかけると、その時初めて俺に気が付いたように、目を瞬かせ、なぜ自分が竿をずっと見ていたのかよく分からないと言っていた。
ただ一言だけ・・・なんだか懐かしい気がして・・・・・・
そう小さく口にする姿は、どこかいつものヤヨイさんとは違い、力強さを秘めて見えた。
そして無意識だったのだろうが、あらためて竿を持ったヤヨイさんの構えは・・・
そう、あれは洗濯物を干すために竿を持った姿勢ではない。
あれは・・・武器を持った時の構えだった・・・
体は半身にし、竿を地面と平行にし、左手で竿の端を上から持ち、右手は腰の辺りで竿を下から持った。
もし竿に刃が付いていれば、おそらく右手が刃側で、振り払っての攻撃になるのではと思える構えだった。
記憶を失う前、ヤヨイさんは何かの戦闘訓練を受けていたのかもしれない。
孤児院は街外れにあり、城までの距離は馬車で30~40分はかかる。
俺は馬車のワゴン内で、振動を体に感じながら、それだけの距離を、昨夜の雨の中、師匠が歩いて帰ってきた事に、あらためて師匠の辛い心の内を考える事になった。
カエストゥス国は、緑豊かな美しい街だ。
自然と触れ合える公園がいくつもあり、いつも子供を連れた家族の笑い声が溢れている。
馬車の窓から外へ目を向けると、赤い三角屋根の家や、黄色くて四角い家、白い外壁に緑の平らな屋根の建物など、カラフルで可愛らしい街並みが見える。
カエストゥス国は、個人の家や、商業施設など、建物の色合いに個性が出ているところが多い。
街並みを明るい色で染め上げ、見て歩くだけで楽しめる街作りと、考えられての事らしい。
俺が産まれる前からこうなっていたようだから、俺にとっては当たり前の景色だけど、視線を移す度に色とりどりの景観が目に映る、毎日見ていても飽きないこの景色に、確かな愛着は持っている。
「ウィッカー、ぼんやりして、どうしたのさ?」
俺が街並みにじっと目を向けていると、正面に座るジャニスが声をかけてきた。
馬車は向かい合う形で、二人づつ座れるようになっている。俺の隣には師匠が座り、正面はジャニスが1人で腰をかけている。
「あぁ、この街はさ、俺が産まれる前から、こんな色とりどりの建物ばかりだったんだよなって・・・そう思って見てた」
「・・・ウィッカーって、そういうとこあるよね。孤児院でも木陰に座ってぼんやり空眺めてるの多いし」
ジャニスはそう口にすると、自分も窓の外へ顔を向け、流れ行く景色を目で追い始めた。
「ワシがまだ小さい子供の頃じゃった・・・ある芸術家がおってな、円錐形の黄色い家に住んでおったんじゃ。最初は好奇な目で見られておったが、一部には感性の合う人もいてな、少しづつだが真似をする人が増えていった。
さすがに、家の形を円錐する人はほとんどおらんかったが、色を緑一色にしたり、中には水玉模様の家も見た事があったのう。最初は奇抜な家だと見られておったが、住宅地の一角がそのよう色とりどりの家の集まりになると、もう好奇な目ではなく、面白そう、案外良いかも、と見る目が変わって来るものでな、数十年かけて、この街一体がこうなったわけじゃ」
師匠も窓の外へ目を向け、表情を和らげている。
当時を思い出し、懐かしんでいるのかもしれない。
「へぇ、そうだったんですね。私もずっとこの街並みだったので、そういう事があったなんて驚きました」
ジャニスは素直に驚きの言葉を口にした。
師匠はジャニスに頷いて返すと、目を伏せ、まるで自分に言い聞かせるように言葉を口にした。
「護れて良かった・・・・・・」
それきり、師匠は口をつぐんでしまい、俺もジャニスも何も話さなかった。
師匠は子供の頃から、変わっていくこの街を見て生きて来た。
きっと、今の景観しか知らない俺達より、ずっと深い思い入れがあるのだと思う。
今この目に映る全ての景色は、師匠が、俺達が護った。
そう思える事が、とても誇らしかった。
治安が悪いというわけではないが、ヤヨイさんとメアリー以外、子供しかいないので、戸締りはしっかりして待つようにという話しは、念入りにしておいた。
ヤヨイさんからは魔力は感じないので、おそらく体力型だと思うが、控えめで大人しい性格のようなので、とても戦闘ができるようには見えない。
ただ、先日、洗濯物を干しに外に出たヤヨイさんが、物干し竿を持ち、じっと竿を見つめていた事があった。
竿になにか不具合でもあったのかと思い、どうしたの?と、声をかけたのだが、ヤヨイさんは俺の声が聞こえていないように、じっと竿を見つめていた。
もう一度声をかけると、その時初めて俺に気が付いたように、目を瞬かせ、なぜ自分が竿をずっと見ていたのかよく分からないと言っていた。
ただ一言だけ・・・なんだか懐かしい気がして・・・・・・
そう小さく口にする姿は、どこかいつものヤヨイさんとは違い、力強さを秘めて見えた。
そして無意識だったのだろうが、あらためて竿を持ったヤヨイさんの構えは・・・
そう、あれは洗濯物を干すために竿を持った姿勢ではない。
あれは・・・武器を持った時の構えだった・・・
体は半身にし、竿を地面と平行にし、左手で竿の端を上から持ち、右手は腰の辺りで竿を下から持った。
もし竿に刃が付いていれば、おそらく右手が刃側で、振り払っての攻撃になるのではと思える構えだった。
記憶を失う前、ヤヨイさんは何かの戦闘訓練を受けていたのかもしれない。
孤児院は街外れにあり、城までの距離は馬車で30~40分はかかる。
俺は馬車のワゴン内で、振動を体に感じながら、それだけの距離を、昨夜の雨の中、師匠が歩いて帰ってきた事に、あらためて師匠の辛い心の内を考える事になった。
カエストゥス国は、緑豊かな美しい街だ。
自然と触れ合える公園がいくつもあり、いつも子供を連れた家族の笑い声が溢れている。
馬車の窓から外へ目を向けると、赤い三角屋根の家や、黄色くて四角い家、白い外壁に緑の平らな屋根の建物など、カラフルで可愛らしい街並みが見える。
カエストゥス国は、個人の家や、商業施設など、建物の色合いに個性が出ているところが多い。
街並みを明るい色で染め上げ、見て歩くだけで楽しめる街作りと、考えられての事らしい。
俺が産まれる前からこうなっていたようだから、俺にとっては当たり前の景色だけど、視線を移す度に色とりどりの景観が目に映る、毎日見ていても飽きないこの景色に、確かな愛着は持っている。
「ウィッカー、ぼんやりして、どうしたのさ?」
俺が街並みにじっと目を向けていると、正面に座るジャニスが声をかけてきた。
馬車は向かい合う形で、二人づつ座れるようになっている。俺の隣には師匠が座り、正面はジャニスが1人で腰をかけている。
「あぁ、この街はさ、俺が産まれる前から、こんな色とりどりの建物ばかりだったんだよなって・・・そう思って見てた」
「・・・ウィッカーって、そういうとこあるよね。孤児院でも木陰に座ってぼんやり空眺めてるの多いし」
ジャニスはそう口にすると、自分も窓の外へ顔を向け、流れ行く景色を目で追い始めた。
「ワシがまだ小さい子供の頃じゃった・・・ある芸術家がおってな、円錐形の黄色い家に住んでおったんじゃ。最初は好奇な目で見られておったが、一部には感性の合う人もいてな、少しづつだが真似をする人が増えていった。
さすがに、家の形を円錐する人はほとんどおらんかったが、色を緑一色にしたり、中には水玉模様の家も見た事があったのう。最初は奇抜な家だと見られておったが、住宅地の一角がそのよう色とりどりの家の集まりになると、もう好奇な目ではなく、面白そう、案外良いかも、と見る目が変わって来るものでな、数十年かけて、この街一体がこうなったわけじゃ」
師匠も窓の外へ目を向け、表情を和らげている。
当時を思い出し、懐かしんでいるのかもしれない。
「へぇ、そうだったんですね。私もずっとこの街並みだったので、そういう事があったなんて驚きました」
ジャニスは素直に驚きの言葉を口にした。
師匠はジャニスに頷いて返すと、目を伏せ、まるで自分に言い聞かせるように言葉を口にした。
「護れて良かった・・・・・・」
それきり、師匠は口をつぐんでしまい、俺もジャニスも何も話さなかった。
師匠は子供の頃から、変わっていくこの街を見て生きて来た。
きっと、今の景観しか知らない俺達より、ずっと深い思い入れがあるのだと思う。
今この目に映る全ての景色は、師匠が、俺達が護った。
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