134 / 1,370
【134 髪】
しおりを挟む
翌日、朝食を済ませると、俺とジャニス、師匠の3人は、一階の広間で、膝丈まである深い緑色のマントを羽織り、城へ向かうための準備を行った。
このマントは、風のマントと呼ばれており、風の精霊の加護を受けている。
僅かだが魔力が増幅するので、カエストゥス国の魔法使いは全員これを着用している。
「ウィッカー、ちょっと髪が引っかかったみたい、見てくれない?」
ジャニスは、明るい栗色の髪を一本結びにして肩へ流している。
マントを羽織った際に、首元でなにかに引っかかったらしい。
「あぁ、どれ・・・・あ、これか?一度留め具外すぞ」
首元のマントの留め具に、髪が引っかかっているように見えたので、俺は一度首元の留め具を外して、引っかかった髪を取り、再度留め具を戻した。
「ほら、どうだ?」
「ん・・・大丈夫だね。ありがと、ウィッカー」
首の後ろを撫でながら、ジャニスはニコリと笑った。
「ウィッカーさまぁ~・・・・・」
背中から恨めしい声で名前を呼ばれ、振り返ると、メアリーが悲し気に眉尻を下げ、俺を見つめて立っていた。
「メ、メアリー・・・ど、どうした?」
「ウィッカー様、酷いです・・・私の髪は撫でてくれませんのに、ジャニス様の髪は撫でるのですか?」
「え?いや、だってこれは、ジャニスの髪が引っかかったから・・・」
「私の髪は・・・撫でてくれませんのに・・・」
メアリーの表情はどんどん曇り、ついに目に涙が浮かんで来た。
「あーっ!ウィッカー兄ちゃんがぁー!またメアリーちゃんをいじめてるー!みんな集まれー!」
子供達用の大部屋で遊んでいたトロワが、タイミング悪く部屋から出て来ると、俺の前で俯いているメアリーを目にし、大部屋に残っている子供達に向かって声を張り上げた。
「お、おい!トロワ、誤解だ!ちょっと待てって!」
俺の声をかき消すように、地鳴り様な足音を響かせ、子供達が一斉に集まって来ると、トロワが代表するように中心に立ち、俺に指を突き付ける。
「ウィッカー兄ちゃん!なんでいっつもメアリーちゃんをいじめんだよ!本当にいいかげんにしろよ!許さねぇぞ!」
「だから!誤解だって!」
「みんな、いいんです。私がわがままを言ってしまったのが悪いんです・・・」
メアリーが両手いっぱいに子供達を抱きしめると、子供達の俺への怒りが頂点に達し、謝れコールが響き渡った。
「ウィッカー兄ちゃん謝れー!」
「女の子泣かせちゃ駄目!」
「もう遊んであげないから!」
「ごめんなさいでしょ!」
子供達の叫び声に、師匠とジャニスも耳を塞ぎながら、俺に非難の目を向けて来る。
「おい、ウィッカー!早くメアリーに謝らんか!」
「ウィッカー、あんたが髪を撫でればすむ事でしょ!早くしなさいよ!」
「分かった!俺が悪かった!ごめん!だからちょっと黙って!」
俺が声を上げ謝ると、トロワが両手を左右に伸ばし、子供達に制止の合図を送る。
その瞬間、子供達は一斉に口をつぐむのだから驚きだ。本当にこの統率力はなんだ?
トロワは腕を組んだまま、吊り上がった目で俺を睨みつけている。
もたもたしていると、また騒ぎ出すので、俺はすぐにメアリーに近寄り声をかけた。
「メアリー、悪かった。頼むから泣かないでくれ。どうしたらいい?」
「・・・・・・私も髪を撫でてほしいです」
俺に背を向け、しゃがんで俯いているメアリーの肩に手を置くと、メアリーは俯いたまま小さな声で返事を返してきた。
ジャニスの事も、ただ引っかかった髪を解いただけなのだが、どうやらその言い訳では納得してくれそうもない。
子供達は小声で、メアリーちゃん可哀想、ウィッカー兄ちゃんは酷い、など好き勝手に言っている。
師匠は普段から、弱い者いじめはしてはならない。
男の子は女の子より力が強いのだから、守ってあげる事。と、とても良い教えをしてきた事が、ここで最大限に発揮されているようだ。
特に俺はもう大人だから、子供達も過剰なくらいの反応を見せている。
師匠も自分でそう教えてきたにしても、まさかここまで騒ぐとは思っていなかっただろう。
本当に驚いた顔をしている。
ジャニスに目を向けると、さっさと撫でなさいと、手を振って俺を急かして来る。
「分かった。じゃあ、メアリー撫でさせてもらうよ」
「はい!お願いします!」
俺が言うなりメアリーは驚きの変わり身の早さで振り返り、そのまま俺の胸に飛び込んで、両手を背中に回し力いっぱいに抱き着いて来た。
「え!?ちょっ、メアリー!?」
「ウィッカー様、どうぞお気のすむまで」
予想外の出来事に顔が赤くなる。俺が慌てていると、ヤヨイさんとキャロルが、スージーとチコリと抱っこして散歩から帰って来た。
「ただいまーって・・・あ、ごめんウィッカー兄さん、おじゃまだったかな?」
メアリーが俺に抱き着いているところを見て、キャロルが目をパチパチと瞬かせながら、真顔で謝ってきた。
「ウィッカーさん、私達、もうちょっとお散歩してきますね」
ヤヨイさんは俺に会釈をすると、腕の中で上機嫌に笑っているスージーに、もう少しお外歩きましょうね~、と言葉をかけ、あやしながらキャロルと2度目の散歩に行ってしまった。
「ウィッカー様、どうぞご遠慮なさらずに」
メアリーは全く周りを気にせずに、より腕に力を入れて来る。
ジャニスは早く撫でろと、身振り手振りで急かしてくる。
師匠は、なにやら微笑ましいものを見る目を向けて来る。
その後、俺はメアリーの気がすむまで髪を撫でる事になった。
このマントは、風のマントと呼ばれており、風の精霊の加護を受けている。
僅かだが魔力が増幅するので、カエストゥス国の魔法使いは全員これを着用している。
「ウィッカー、ちょっと髪が引っかかったみたい、見てくれない?」
ジャニスは、明るい栗色の髪を一本結びにして肩へ流している。
マントを羽織った際に、首元でなにかに引っかかったらしい。
「あぁ、どれ・・・・あ、これか?一度留め具外すぞ」
首元のマントの留め具に、髪が引っかかっているように見えたので、俺は一度首元の留め具を外して、引っかかった髪を取り、再度留め具を戻した。
「ほら、どうだ?」
「ん・・・大丈夫だね。ありがと、ウィッカー」
首の後ろを撫でながら、ジャニスはニコリと笑った。
「ウィッカーさまぁ~・・・・・」
背中から恨めしい声で名前を呼ばれ、振り返ると、メアリーが悲し気に眉尻を下げ、俺を見つめて立っていた。
「メ、メアリー・・・ど、どうした?」
「ウィッカー様、酷いです・・・私の髪は撫でてくれませんのに、ジャニス様の髪は撫でるのですか?」
「え?いや、だってこれは、ジャニスの髪が引っかかったから・・・」
「私の髪は・・・撫でてくれませんのに・・・」
メアリーの表情はどんどん曇り、ついに目に涙が浮かんで来た。
「あーっ!ウィッカー兄ちゃんがぁー!またメアリーちゃんをいじめてるー!みんな集まれー!」
子供達用の大部屋で遊んでいたトロワが、タイミング悪く部屋から出て来ると、俺の前で俯いているメアリーを目にし、大部屋に残っている子供達に向かって声を張り上げた。
「お、おい!トロワ、誤解だ!ちょっと待てって!」
俺の声をかき消すように、地鳴り様な足音を響かせ、子供達が一斉に集まって来ると、トロワが代表するように中心に立ち、俺に指を突き付ける。
「ウィッカー兄ちゃん!なんでいっつもメアリーちゃんをいじめんだよ!本当にいいかげんにしろよ!許さねぇぞ!」
「だから!誤解だって!」
「みんな、いいんです。私がわがままを言ってしまったのが悪いんです・・・」
メアリーが両手いっぱいに子供達を抱きしめると、子供達の俺への怒りが頂点に達し、謝れコールが響き渡った。
「ウィッカー兄ちゃん謝れー!」
「女の子泣かせちゃ駄目!」
「もう遊んであげないから!」
「ごめんなさいでしょ!」
子供達の叫び声に、師匠とジャニスも耳を塞ぎながら、俺に非難の目を向けて来る。
「おい、ウィッカー!早くメアリーに謝らんか!」
「ウィッカー、あんたが髪を撫でればすむ事でしょ!早くしなさいよ!」
「分かった!俺が悪かった!ごめん!だからちょっと黙って!」
俺が声を上げ謝ると、トロワが両手を左右に伸ばし、子供達に制止の合図を送る。
その瞬間、子供達は一斉に口をつぐむのだから驚きだ。本当にこの統率力はなんだ?
トロワは腕を組んだまま、吊り上がった目で俺を睨みつけている。
もたもたしていると、また騒ぎ出すので、俺はすぐにメアリーに近寄り声をかけた。
「メアリー、悪かった。頼むから泣かないでくれ。どうしたらいい?」
「・・・・・・私も髪を撫でてほしいです」
俺に背を向け、しゃがんで俯いているメアリーの肩に手を置くと、メアリーは俯いたまま小さな声で返事を返してきた。
ジャニスの事も、ただ引っかかった髪を解いただけなのだが、どうやらその言い訳では納得してくれそうもない。
子供達は小声で、メアリーちゃん可哀想、ウィッカー兄ちゃんは酷い、など好き勝手に言っている。
師匠は普段から、弱い者いじめはしてはならない。
男の子は女の子より力が強いのだから、守ってあげる事。と、とても良い教えをしてきた事が、ここで最大限に発揮されているようだ。
特に俺はもう大人だから、子供達も過剰なくらいの反応を見せている。
師匠も自分でそう教えてきたにしても、まさかここまで騒ぐとは思っていなかっただろう。
本当に驚いた顔をしている。
ジャニスに目を向けると、さっさと撫でなさいと、手を振って俺を急かして来る。
「分かった。じゃあ、メアリー撫でさせてもらうよ」
「はい!お願いします!」
俺が言うなりメアリーは驚きの変わり身の早さで振り返り、そのまま俺の胸に飛び込んで、両手を背中に回し力いっぱいに抱き着いて来た。
「え!?ちょっ、メアリー!?」
「ウィッカー様、どうぞお気のすむまで」
予想外の出来事に顔が赤くなる。俺が慌てていると、ヤヨイさんとキャロルが、スージーとチコリと抱っこして散歩から帰って来た。
「ただいまーって・・・あ、ごめんウィッカー兄さん、おじゃまだったかな?」
メアリーが俺に抱き着いているところを見て、キャロルが目をパチパチと瞬かせながら、真顔で謝ってきた。
「ウィッカーさん、私達、もうちょっとお散歩してきますね」
ヤヨイさんは俺に会釈をすると、腕の中で上機嫌に笑っているスージーに、もう少しお外歩きましょうね~、と言葉をかけ、あやしながらキャロルと2度目の散歩に行ってしまった。
「ウィッカー様、どうぞご遠慮なさらずに」
メアリーは全く周りを気にせずに、より腕に力を入れて来る。
ジャニスは早く撫でろと、身振り手振りで急かしてくる。
師匠は、なにやら微笑ましいものを見る目を向けて来る。
その後、俺はメアリーの気がすむまで髪を撫でる事になった。
0
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる