異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
上 下
129 / 1,370

【129 秘めた想い】

しおりを挟む
「なぁ、ジャニス・・・メアリーの事、なんとかならないか?」

「いいじゃん、料理上手だし、掃除洗濯なんでもできる。女の私から見ても可愛いし、このままお嫁にもらっちゃいなよ?むしろ何が不満なの?」

昼食を終えた後、孤児院の外にある大きな木の下で、日差しを避けながらジャニスにメアリーの事を相談してみた。

「自分でご飯が食べたい。自分で髪の毛梳きたい。夜、一人でトイレに行きたい」

「ボタン留められるのは断れたんでしょ?」

「さすがにな・・・人にボタン留めてもらうのって、なんかムズムズしてさ。シャツの袖は絶対に私が通します!ってそこだけは譲らなかったけどさ」

「じゃあいいじゃん。あんたにそんなに尽くす子、もう二度と現れないよ?贅沢な文句言わないの!」

ジャニスにおでこを指で弾かれる。

メアリーは一人暮らしだ。
王宮へは通いで仕えているが、今回のバッタの件で、今後の王宮仕えをどうするか悩んでいるらしい。
今は休職扱いにしてもらってるそうで、毎日朝早くから孤児院に通って来ている。

師匠はメアリーを可愛がっている。
メアリーが正式に王宮仕えを辞めるなら、孤児院で雇ってもいいと言っている。

今は正式に雇用していないので、あくまでメアリーが善意で、孤児院の仕事を手伝っているという状況だが、ただ働きはさせられないという事で、多くはないが日当と、食事は全て孤児院で持ち、寝泊りしたい時は、空き部屋を自由に使っていいという事で、話しはまとまっている。




あの日一緒に戦った魔法使い達の半数は王宮仕えを辞め、田舎へ帰る者や、知人を頼り新たな道を歩む者もいた。

カエストゥスの魔法兵団も、事情を知っているので、無理に引き留める事もせず、実にあっさりと辞職を受理していた。



「メアリー悩んでたよ。ウィッカーがお嫁にもらえば解決なんだから、さっさと結婚しちゃいなさいよ。確かに、ちょっと思い込みっていうか、すごいとこあるけど、あの子良い子だよ。ウィッカーはメアリーの事嫌いなの?」

ジャニスは大木に背中を預け、腕を組み、隣に立つウィッカーの気持ちを探るように、顔を覗き込んできた。

「いや、嫌いなわけじゃないけど・・・その、メアリーが俺を想う程の気持ちを、俺がメアリーには持てないからさ。そんなんで結婚て言われても・・・」

ジャニスは、ふーん、とだけ呟くと、大木から背を離し、一歩前に出てウィッカーに背を向けた。

「まぁ、ウィッカーの気持ちも理解はできるよ。知り合ってほんの7日程度だもんね。いきなり結婚は私も急ぎ過ぎな事言ったかな。でもさ、メアリーの事は私も好きだし、師匠も可愛がってるよ。子供たちも、みんな懐いてる。だからさ、ウィッカーにはちょっと大変なのかもしれないけど、悪い方にばかり考えないで、良い方に見てあげてほしいな。一度、2人で出かけてみたら?ゆっくり話してみなよ、メアリーも話して分からない子じゃないと思うよ」

じゃあね、と後ろ手に振って、ジャニスは孤児院内に戻って行った。

遠ざかっていくジャニスの背中を見送り、ウィッカーは腰を下ろすと、両手を頭の後ろで組み、そのまま背中から後ろに倒れた。

木陰の外は夏の日光にさらされ熱くなっているが、陽の光にさらされていない草場は寝転がるには丁度良い温度だった。


「・・・メアリーと二人で、か・・・」
「お呼びですか?」

「うおぉッ!?」

寝そべって一人言を漏らすと、突然メアリーの顔が目の前に現れ、驚きのあまり叫び声を上げた。

いつの間にか寝そべったウィッカーの隣に、メアリーが足を崩し座っている。
そして上からウィッカーの顔を覗き込むように見て微笑んでいた。


「メ、メアリー!?なんで!?なんでここに!?」

「ウフフ、おかしなウィッカー様。だって、私がウィッカー様のおそばにいるのは当たり前ではありませんか?」

メアリーは本当におかしそうに、両手の指先を口元に当て微笑んでいる。

「いや、あのさ、ほら、俺も驚くから、もっとこう・・・」
「ウィッカー様、私の膝をどうぞ」

ウィッカーの言葉を待たず、メアリーは体を起こしたウィッカーに、自分の膝に手の平を差し向けた。

「え、いや、そんな・・・」
「遠慮なさらずに」

そう言ってウィッカーの肩に手をかけ、後ろ向きにさせると、そのままウィッカーの背を自分に向けて倒した。丁度ウィッカーの頭がメアリーの膝の上に落ち、膝枕の完成である。


「いかがですか?」

真上からウィッカーの顔を覗き込み、メアリーは目を細める。
その青い瞳はウィッカーだけを映し、愛しい感情を隠そうとはしていなかった。


「あ、その・・・えっと・・・メアリー、俺にはよく分からない。その、キミの気持ちは分かってるつもりだけど、俺は・・・・・・」

じっと見つめられ、ウィッカーは思わず視線を逸らしてしまった。

なぜ自分がこれほどメアリーに想われているのか、ウィッカーは何度も考えた。
やはり、あの時、メアリーの前からバッタを焼き尽くした事がきっかけなのだろうとは思った。

自分を好きになってくれる子がいるのは素直に嬉しいと思う。
でも、自分は同じくらいの気持ちを返せそうにない。

ウィッカーが言葉に詰まると、メアリーの手が優しくウィッカーの前髪を撫でた。


「いいんです」


その小さな口から静かに零れた言葉に、ウィッカーは視線を戻した。


「私の気持ちなんです。私はウィッカー様をお慕いしております。ウィッカー様のお気持ちが私に無くても、私がウィッカー様を想う事は・・・・・・どうかお許しください」


「メアリー・・・・・・なんで、そこまで・・・・・・」



「・・・・・・偶然だったんです。私が8歳で王宮仕えになった時、ウィッカー様が、この教会で、タジーム様と一緒に修練を積んでおられるのを、たまたま通りかかって目にしただけなんです・・・・・・
私は、天才と謳われているウィッカー様が、どのような修練をされているのか気になって、木陰に隠れてこっそり見てました。でも・・・タジーム様の魔力は、ウィッカー様よりもはるかに大きかった。当時、4歳だったタジーム様は、10歳のウィッカー様の魔力を大きく超えられていました・・・」


あの日の光景がウィッカーの頭に思い起こされた。
初めて王子と修練をした日、王子の圧倒的魔力は自分をはるかに凌駕していた。

「・・・見てたのか?」

「はい。隠れて見てました」

ウィッカーの口から笑いが漏れた。

「アハハ!なんだ、あれ見てたのか?王子ってすげぇだろ?あんな小さい時から、俺よりずっと強かったんだぜ。あの日、もちろん悔しい気持ちもあったけど、王子ってすげぇんだなって思ってさ、俺ももっと強くならなきゃなって思ったんだ。そっか、あの日メアリーも見てたんだ?なんかすごい偶然だな」

屈託のない笑顔でタジームの事を、まるで自分の自慢話のように話すウィッカーに、メアリーは優しく微笑みウィッカーの頭をもう一度撫でた。



「そういうところです。ウィッカー様はとてもお優しい。そして、人を素直に敬い思いやれる綺麗な心をお持ちです。あの日も今と同じ笑顔で、同じお言葉をタジーム様へかけてらっしゃいましたね。あの日以来・・・私の心にはいつも、あの日見た、私より少し年上の男の子がおりました。そして先日、私は成長した少年と・・・いえ、大人になったウィッカー様と直接お会いする事ができました。私が一方的に知っているだけでしたが・・・・・やっぱりウィッカー様はあの日のまま、お優しいままのウィッカー様でした。あの時、恐怖に震える私を助けてくださったウィッカー様を、変わらない笑顔を持つウィッカー様を、私は心からお慕いしております」


そう言って微笑むメアリーは、とても美しかった


ウィッカーはその笑顔から目を離す事ができず、二人の視線はいつまでも交じり合い続けた
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

処理中です...