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「それで、さっきの話しなんだけど、ジェロム、お前ベン・フィングの事、何か知ってるのか?」
「あぁ、夢の世界で話したが、俺の祖先、ヨハン・ブラントはカエストゥスの魔法使いだった。
親父は祖先の事を熱心に調べてたから、俺も色々聞かされて育った。ベン・フィングは裏切り者だ。
カエストゥスと、ブロートンの戦争は、ベン・フィングの裏切りが無ければ、カエストゥスが勝っていたと聞いている・・・」
ジェロムはそう話しながら席を立つと、少し待ってろ、と言って、厨房に歩いて行った。
待っている間、俺はみんなに、カエストゥス国や、タジーム・ハメイドの事を、どこまで知っているか聞いてみた。
でも、みんな俺がジャレットさんから聞いた以上の話しは知らないようだった。
俺がジャレットさんから、タジーム・ハメイドの話しを聞いたのは、八月の終わり、俺が協会に連れて行かれた日だ。あれから一か月以上経つ。
あの日、ジャレットさんは、続きはまた今度、と言っていた。
もしかしたらジャレットさんは、話しの結末まで知っているのではないか?
最初はトバリの事を知りたくて、聞いた話しだったが今は違う。
なぜ、パウロさんの夢の中に闇があったのか?そしてあの闇の中で聞いた、ベン・フィングを呪う声。
ジェロムは、あの闇をカエストゥスの闇と同じと言っていた。
そして、ベンフィングは裏切り者だと。
カエストゥス国の戦争の結末を、俺達は知らなければならないと思う。
ジェロムは、厨房から出てくると、銀色に光る、金属製のワゴンを押してきた。
俺達の座るテーブルの前にワゴンを止めると、サンドイッチを乗せた皿を人数分テーブルに置き、取ってくれ、と口にした。
「いいのか?」
「七時を過ぎている。腹も減ったろ?簡単な物で悪いが食べてくれ」
遠慮する俺に、ジェロムは軽く手を振ると水の入ったガラスのコップもテーブルに置いていく。
「アタシは遠慮なくもらうよ。ジェロム、ありがと」
そう言ってケイトはサンドイッチの皿とコップを手に取り、ジーンの前に置いた。
「はい、まずジーンの分ね」
「ん?あぁ、ありがと。じゃあ、ジェロム、僕もいただくよ。ありがとう」
突然目の前にサンドイッチの皿を置かれ、ジーンは一瞬驚いたように見えたが、すぐにジェロムを見てお礼を言うところを見ると、ケイトのこういう行動は、そう珍しくもないようだ。
「じゃあ、俺ももらうよ。ありがとうジェロム。はい、カチュアも」
俺がカチュアの分の皿も取り手渡す。
「アラタ君、ありがとう。ジェロムさん、いただきます」
全員にサンドイッチが行き渡ると、ジェロムもワゴンから、自分の分のサンドイッチと水を入れたコップを取り、イスに腰を下ろした。
「食べながらでいい。さっきの話し、先に断っておくが、俺も詳しいわけじゃない。親父が話す事を、話半分に聞いていただけだからな。分かる事は答えるから、聞きたい事を聞いてくれ」
それぞれがサンドイッチに手を付けるのを見て、ジェロムが話しだした。
「じゃあ、ベン・フィングと、カエストゥスの戦争について知っている事を教えてくれ」
口に入れていたサンドイッチを飲み込み、俺はジェロムに質問を振った。
「あぁ、ベン・フィングはさっき言った通り裏切り者だ。カエストゥス国の大臣だが、狡猾で支配欲が強かったらしい。国王、ラシーン・ハメイドを言葉巧みに操り、息子のタジームを遠ざけていた。そのせいで、タジームは長男だったが、王位は第二王子の弟が継ぐことになった。タジームは、大陸一の黒魔法使いで、その魔力は計り知れないものだったらしい。ベン・フィングとしては、弟が王位を継承した方が、操りやすかったんだろうな。バッタの話しは知ってるか?」
俺達が頷くと、ジェロムが水を一口飲む。俺達は黙って続きを待った。
「バッタの危機を乗り切った後にカエストゥスと、ブロートンの戦争が始まるんだが、魔法大国のカエストゥスに、さすがのブロートン帝国も苦戦を強いられた。苦戦の原因は、タジーム・ハメイド、ブレンダン、ジャニス、ウィッカーの魔法使い4人。そして史上最強の弓使い、ジョルジュ・ワーリントンと、風姫。最初はブロートンが押していたらしいが、この6人が前線にでてからは、一気に戦局が変わったらしい」
「風姫?それは初めて聞く名前だな」
ジョルジュ・ワーリントンという名前は、最近リカルドから聞いたが、風姫という名前は初めてだ。
名前というか、通り名のようだが。
「あぁ、風姫は剣士らしいんだが、剣士というには得物が独特な形をしてたそうだ。槍のような長さだが、槍とは違い、先に付いている刃が片刃だったそうだ。ある日、突然カエストゥスに現れたらしい。詳しい事は分からないが、王宮仕えを断って、タジーム達と孤児院で暮らしていたそうだ。一太刀振るえば、まるで風の刃を飛ばしたかのように、遠く離れた物を両断した事から、風姫と呼ばれるようになったという話しだ」
ジェロムの説明する、風姫という人物が使っていた武器の説明を聞いて、俺の頭には薙刀が思い浮かんだ。
槍に似ているが、槍とは違い、片刃というと薙刀がイメージに近い。
この、中世ヨーロッパのような異世界で、そんな日本のような武器があるとは思わなかった。
「地上戦は風姫が、空中戦はジョルジュが、そして4人の魔法使い、たった6人だ。たった6人で劣勢だった戦局をひっくり返したんだ。とんでもねぇ連中だ。だが・・・カエストゥスの勝利目前というところまでいった時・・・なにかが起こった」
そこでジェロムは言葉を止めた。
眉間にシワを寄せ、額を拳で押さえ肘をついている。
「・・・親父も、何が起こったのかは分からないと言っていた。ただ、カエストゥスの敗戦には、ベン・フィングの裏切りがあったのは間違いないと親父は言っている・・・夢の中で見た闇は、カエストゥスの闇と同じだった。そして、アラタがあの闇から、ベン・フィングへの恨みを感じていたというのなら、カエストゥスの闇はベンフィングを恨む事で、今も生き続けているのかもしれないな」
「・・・ジェロム、あの闇は、なんで親父さんの夢に巣くっていたと思う?あの二人の魔法兵がどうこうできるものじゃないだろ?」
夢の世界で戦った、ブルゲとオーグという、二人の魔法兵。今回の騒動の発端になった二人だ。
とてもあの二人が夢の世界にしかけたとも思えなかったし、そもそも、あの闇は人間が制御できるものではない。
「・・・分からねぇ、分からねぇが・・・一つ、ふと思ったんだけどな、あの闇はカエストゥスの闇で、俺と親父は、カエストゥスのヨハン・ブラントの血を受け継いでいる。そしてベン・フィング・・・・・・あのな、ベン・フィングの最後は、闇に飲まれて死んだって話しなんだ。これってよ・・・どこか繋がってんのかな?」
「みんな、今回は本当に迷惑をかけた。次は本当に旨いパスタをふるわせてもらうから、また、来てほしい」
玄関口で、ジェロムが見送りに立つ。
外は陽も上がり、暖かい日射しをくれる。
「はい。また絶対来ますね。あの、これ、本当にいただいて良いんですか?」
カチュアが、両手で持っている紙袋に目を向けた。中身は食前酒で飲んだワインが入っている。
ちなみに、店のみんなにもと言われて、俺もレイジェスのみんなの分、合計6本を少し大きめの紙袋に入れて持っている。
ジェロムは、俺とカチュア、ジーンとケイトにも一人一本づつ渡そうとしていたが、
俺とカチュアは、ほぼ同棲みたいなものだし、ジーンとケイトは一緒に住んでいるから、一本だけで十分と話しをした。
「もちろんだ。それくらいしかできず、すまないな」
ジェロムは最初、料理と宿泊代もいらないと話してきた。
今回の件をよほど気にしているのだろう。
だが、俺達も許すと口にしたし、さすがにそれでは気が引けるので、色々話し合った結果、ワインのサービスで落ち着いた。
「じゃあそろそろ行くよ。またな、ジェロム」
「あぁ、またな」
再会を約束し、俺達はパスタ・ジェロムを後にした。
玄関口で見送りに立つジェロムは、俺達の姿が見えなくなるまで立っていた。
「あぁ、夢の世界で話したが、俺の祖先、ヨハン・ブラントはカエストゥスの魔法使いだった。
親父は祖先の事を熱心に調べてたから、俺も色々聞かされて育った。ベン・フィングは裏切り者だ。
カエストゥスと、ブロートンの戦争は、ベン・フィングの裏切りが無ければ、カエストゥスが勝っていたと聞いている・・・」
ジェロムはそう話しながら席を立つと、少し待ってろ、と言って、厨房に歩いて行った。
待っている間、俺はみんなに、カエストゥス国や、タジーム・ハメイドの事を、どこまで知っているか聞いてみた。
でも、みんな俺がジャレットさんから聞いた以上の話しは知らないようだった。
俺がジャレットさんから、タジーム・ハメイドの話しを聞いたのは、八月の終わり、俺が協会に連れて行かれた日だ。あれから一か月以上経つ。
あの日、ジャレットさんは、続きはまた今度、と言っていた。
もしかしたらジャレットさんは、話しの結末まで知っているのではないか?
最初はトバリの事を知りたくて、聞いた話しだったが今は違う。
なぜ、パウロさんの夢の中に闇があったのか?そしてあの闇の中で聞いた、ベン・フィングを呪う声。
ジェロムは、あの闇をカエストゥスの闇と同じと言っていた。
そして、ベンフィングは裏切り者だと。
カエストゥス国の戦争の結末を、俺達は知らなければならないと思う。
ジェロムは、厨房から出てくると、銀色に光る、金属製のワゴンを押してきた。
俺達の座るテーブルの前にワゴンを止めると、サンドイッチを乗せた皿を人数分テーブルに置き、取ってくれ、と口にした。
「いいのか?」
「七時を過ぎている。腹も減ったろ?簡単な物で悪いが食べてくれ」
遠慮する俺に、ジェロムは軽く手を振ると水の入ったガラスのコップもテーブルに置いていく。
「アタシは遠慮なくもらうよ。ジェロム、ありがと」
そう言ってケイトはサンドイッチの皿とコップを手に取り、ジーンの前に置いた。
「はい、まずジーンの分ね」
「ん?あぁ、ありがと。じゃあ、ジェロム、僕もいただくよ。ありがとう」
突然目の前にサンドイッチの皿を置かれ、ジーンは一瞬驚いたように見えたが、すぐにジェロムを見てお礼を言うところを見ると、ケイトのこういう行動は、そう珍しくもないようだ。
「じゃあ、俺ももらうよ。ありがとうジェロム。はい、カチュアも」
俺がカチュアの分の皿も取り手渡す。
「アラタ君、ありがとう。ジェロムさん、いただきます」
全員にサンドイッチが行き渡ると、ジェロムもワゴンから、自分の分のサンドイッチと水を入れたコップを取り、イスに腰を下ろした。
「食べながらでいい。さっきの話し、先に断っておくが、俺も詳しいわけじゃない。親父が話す事を、話半分に聞いていただけだからな。分かる事は答えるから、聞きたい事を聞いてくれ」
それぞれがサンドイッチに手を付けるのを見て、ジェロムが話しだした。
「じゃあ、ベン・フィングと、カエストゥスの戦争について知っている事を教えてくれ」
口に入れていたサンドイッチを飲み込み、俺はジェロムに質問を振った。
「あぁ、ベン・フィングはさっき言った通り裏切り者だ。カエストゥス国の大臣だが、狡猾で支配欲が強かったらしい。国王、ラシーン・ハメイドを言葉巧みに操り、息子のタジームを遠ざけていた。そのせいで、タジームは長男だったが、王位は第二王子の弟が継ぐことになった。タジームは、大陸一の黒魔法使いで、その魔力は計り知れないものだったらしい。ベン・フィングとしては、弟が王位を継承した方が、操りやすかったんだろうな。バッタの話しは知ってるか?」
俺達が頷くと、ジェロムが水を一口飲む。俺達は黙って続きを待った。
「バッタの危機を乗り切った後にカエストゥスと、ブロートンの戦争が始まるんだが、魔法大国のカエストゥスに、さすがのブロートン帝国も苦戦を強いられた。苦戦の原因は、タジーム・ハメイド、ブレンダン、ジャニス、ウィッカーの魔法使い4人。そして史上最強の弓使い、ジョルジュ・ワーリントンと、風姫。最初はブロートンが押していたらしいが、この6人が前線にでてからは、一気に戦局が変わったらしい」
「風姫?それは初めて聞く名前だな」
ジョルジュ・ワーリントンという名前は、最近リカルドから聞いたが、風姫という名前は初めてだ。
名前というか、通り名のようだが。
「あぁ、風姫は剣士らしいんだが、剣士というには得物が独特な形をしてたそうだ。槍のような長さだが、槍とは違い、先に付いている刃が片刃だったそうだ。ある日、突然カエストゥスに現れたらしい。詳しい事は分からないが、王宮仕えを断って、タジーム達と孤児院で暮らしていたそうだ。一太刀振るえば、まるで風の刃を飛ばしたかのように、遠く離れた物を両断した事から、風姫と呼ばれるようになったという話しだ」
ジェロムの説明する、風姫という人物が使っていた武器の説明を聞いて、俺の頭には薙刀が思い浮かんだ。
槍に似ているが、槍とは違い、片刃というと薙刀がイメージに近い。
この、中世ヨーロッパのような異世界で、そんな日本のような武器があるとは思わなかった。
「地上戦は風姫が、空中戦はジョルジュが、そして4人の魔法使い、たった6人だ。たった6人で劣勢だった戦局をひっくり返したんだ。とんでもねぇ連中だ。だが・・・カエストゥスの勝利目前というところまでいった時・・・なにかが起こった」
そこでジェロムは言葉を止めた。
眉間にシワを寄せ、額を拳で押さえ肘をついている。
「・・・親父も、何が起こったのかは分からないと言っていた。ただ、カエストゥスの敗戦には、ベン・フィングの裏切りがあったのは間違いないと親父は言っている・・・夢の中で見た闇は、カエストゥスの闇と同じだった。そして、アラタがあの闇から、ベン・フィングへの恨みを感じていたというのなら、カエストゥスの闇はベンフィングを恨む事で、今も生き続けているのかもしれないな」
「・・・ジェロム、あの闇は、なんで親父さんの夢に巣くっていたと思う?あの二人の魔法兵がどうこうできるものじゃないだろ?」
夢の世界で戦った、ブルゲとオーグという、二人の魔法兵。今回の騒動の発端になった二人だ。
とてもあの二人が夢の世界にしかけたとも思えなかったし、そもそも、あの闇は人間が制御できるものではない。
「・・・分からねぇ、分からねぇが・・・一つ、ふと思ったんだけどな、あの闇はカエストゥスの闇で、俺と親父は、カエストゥスのヨハン・ブラントの血を受け継いでいる。そしてベン・フィング・・・・・・あのな、ベン・フィングの最後は、闇に飲まれて死んだって話しなんだ。これってよ・・・どこか繋がってんのかな?」
「みんな、今回は本当に迷惑をかけた。次は本当に旨いパスタをふるわせてもらうから、また、来てほしい」
玄関口で、ジェロムが見送りに立つ。
外は陽も上がり、暖かい日射しをくれる。
「はい。また絶対来ますね。あの、これ、本当にいただいて良いんですか?」
カチュアが、両手で持っている紙袋に目を向けた。中身は食前酒で飲んだワインが入っている。
ちなみに、店のみんなにもと言われて、俺もレイジェスのみんなの分、合計6本を少し大きめの紙袋に入れて持っている。
ジェロムは、俺とカチュア、ジーンとケイトにも一人一本づつ渡そうとしていたが、
俺とカチュアは、ほぼ同棲みたいなものだし、ジーンとケイトは一緒に住んでいるから、一本だけで十分と話しをした。
「もちろんだ。それくらいしかできず、すまないな」
ジェロムは最初、料理と宿泊代もいらないと話してきた。
今回の件をよほど気にしているのだろう。
だが、俺達も許すと口にしたし、さすがにそれでは気が引けるので、色々話し合った結果、ワインのサービスで落ち着いた。
「じゃあそろそろ行くよ。またな、ジェロム」
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再会を約束し、俺達はパスタ・ジェロムを後にした。
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