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123 目覚め
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『ここに来るために、親父の髪の毛を付けた薬をのませたが、帰る時には、親父の髪の毛を付けた、帰るための薬を地面に垂らせばいいだけだ』
そう説明すると、ジェロムは硬そうな小瓶を取り出し、中の液体を歪んだ石畳に一滴垂らした。
『これで、同じ薬を飲んだ人は、全員この世界から出る事ができる』
ジェロムの説明を聞いたカチュアとケイトが、苦笑いをしながら顔を合わせた。
やはり、人の髪の毛を付けた薬を飲まされたのは、引きつるものがあっただろう。
『体が・・・』
カチュアの体が淡く光出し、足元から消えていく。
それに続くように、ジーンもケイトも、同様に足元から消え始めた。
『ア、アラタ君!』
カチュアが不安そうに眉を下げ、手を伸ばしてくるので、その手を握ると、安心したように微笑んだ。
『・・・次は現実世界で会おう・・・』
数歩離れて、前に立つジェロムが俺に顔を向けた。
俺は黙って頷いた。
すぐに俺の身体も足元から消え始め、腰から胸、首と姿を消していく。
そして眠りに落ちるように意識が消えた・・・・・・
目が覚めると、俺は昨日寝た時と同じTシャツにデニムパンツ姿で、ベッドに仰向けになっていた。
閉じられたカーテンの隙間から、明るい陽が差し込み、少し眩しさを感じる。どうやらもう夜は明けているようだ。
胸に重みを感じて視線を向けると、オレンジ色の髪が目に入る。
だんだんと意識がハッキリしてきて、記憶がよみがえる。
そうだ。昨日、ベッドに腰を掛けると、カチュアが頭をもたれさせて、そのまま二人で眠ってしまったんだ。
そして夢の世界での事もすぐに思い出せた。
夢にしては、ハッキリし過ぎていて、今いる自分と、夢の中の自分、どっちが本当の自分かと一瞬悩む程だった。
「・・・まぁ、無事に帰って来れたってことか・・・」
ほっと一息付いて、まだ起きる気配の無いカチュアのオレンジ色の髪を撫でてみた。
「・・・髪細いな・・・うん・・・」
独り言を言いながらしばらく髪を撫でていると、俺のお腹に乗っているカチュアの手に、少し力が入るのを感じた。
「・・・ア、アラタくん・・・その・・・もう、起きてるよ・・・」
そう言って顔を上げ、俺に目を向けるカチュアの頬は、赤くなっていた。
「あ・・・えっと、つい・・・おはよう・・・」
「・・・おはよう」
息がかかるくらいの距離で見つめ合ってしまい、俺も顔が赤くなる。
右手はまだカチュアの頭から離れていない。
「えっと・・・」
なにか話さなければと思った時、勢いよくドアを叩く音が部屋中に響き、俺もカチュアも反射的にベッドから飛び上がった。
「アラター!カチュアー!戻ってきてるー!?」
あまりの眠気に、カギをかける事も忘れていたので、ドアが勢いよく開かれ、ケイトが大きな声を出して入って来た。
「お、おうケイト、この通りだ」
「お、おはようケイトさん!帰ってるよ」
「ん?あんたらどうかした?」
「いや!何もないよ、それよりジーンも起きたか?」
ジーンの姿が見えない事を気にすると、ケイトは顔の前で人差し指を軽く振った。
「アタシがジーンの確認をしないと思う?もう起きて一階に行ってるよ。アラタ達はアタシが見て来るから、ジーンはジェロムを見に行くってなったの」
「そうか、じゃあ俺達も早く行こ・・・」
ジェロムの父親の魂が、闇から解き放たれたのは感じたが、やはり自分の目で確認をしないと俺も落ち着かない。
立ち上がろうと、ベッドから腰を上げた瞬間、膝の力が抜け俺は床に腰から崩れ落ちた。
「アラタ君!」
「アラタ!?」
カチュアとケイトが声を上げて駆け寄って来る。
俺はベッドに右肘を掛け、震える足に力を入れて、なんとか体を起こした。
額に汗の粒が浮き、息が切れる・・・・・・
「アラタ君!やっぱりあの力を使ったから・・・」
「カチュア、それってアラタの光の力?ジーンから聞いてるけど、こんなに消耗するの?」
カチュアとケイトが、俺の体に手を回し、俺がベッドに座るのを補助する。
「うん・・・協会で初めて使った時は、一歩も動けなくなるくらいだった・・・だから、アラタ君のこの力は、本当はもう使わないってレイチェルと約束してたの・・・でも、アラタ君優しいから・・・」
そうケイトに説明するカチュアの目には、涙が浮かんでいた。
俺は、またカチュアを泣かせてしまった負い目を感じ、カチュアの目を正面から見れずに逸らすと、ケイトに頭を軽く叩かれた。
「アラタ、今、カチュアから目を逸らすのは駄目じゃん?彼氏ってか、もう旦那みたいなもんでしょ?なら、ちゃんと抱きしめてやんなよ。あと、アタシはあんたに感謝してる。だって、アラタがいなかったら、アタシら多分帰って来れなかったから。アラタ、ありがとう」
ケイトは歯を見せて笑う。強くてしっかりしてるなと思った。
俺はこの世界に来てから、人との向き合い方を、周りから沢山教えてもらっているなと思った。
「カチュア・・・」
「うん・・・」
あらためてカチュアに向き直る。
やっぱり目に涙が浮かんで、今にも零れ落ちそうになっている。
こんな姿を見せてしまったんだ・・・本当に心配をかけてしまった。
俺はカチュアの肩に手をかけ、そのまま抱き寄せた。
「心配かけてごめん・・・」
「・・・アラタ君が無事で良かったよ・・・でも、もっと自分の事も大事にしてね」
「うん。気を付けるよ」
俺の背中に回ったカチュアの両手に、少し強く力が入る。
「・・・アラタ君、一つだけ約束して」
「うん、なに?」
私を置いてどこか遠くにいかないでね
約束する。どこにもいかないよ
そう説明すると、ジェロムは硬そうな小瓶を取り出し、中の液体を歪んだ石畳に一滴垂らした。
『これで、同じ薬を飲んだ人は、全員この世界から出る事ができる』
ジェロムの説明を聞いたカチュアとケイトが、苦笑いをしながら顔を合わせた。
やはり、人の髪の毛を付けた薬を飲まされたのは、引きつるものがあっただろう。
『体が・・・』
カチュアの体が淡く光出し、足元から消えていく。
それに続くように、ジーンもケイトも、同様に足元から消え始めた。
『ア、アラタ君!』
カチュアが不安そうに眉を下げ、手を伸ばしてくるので、その手を握ると、安心したように微笑んだ。
『・・・次は現実世界で会おう・・・』
数歩離れて、前に立つジェロムが俺に顔を向けた。
俺は黙って頷いた。
すぐに俺の身体も足元から消え始め、腰から胸、首と姿を消していく。
そして眠りに落ちるように意識が消えた・・・・・・
目が覚めると、俺は昨日寝た時と同じTシャツにデニムパンツ姿で、ベッドに仰向けになっていた。
閉じられたカーテンの隙間から、明るい陽が差し込み、少し眩しさを感じる。どうやらもう夜は明けているようだ。
胸に重みを感じて視線を向けると、オレンジ色の髪が目に入る。
だんだんと意識がハッキリしてきて、記憶がよみがえる。
そうだ。昨日、ベッドに腰を掛けると、カチュアが頭をもたれさせて、そのまま二人で眠ってしまったんだ。
そして夢の世界での事もすぐに思い出せた。
夢にしては、ハッキリし過ぎていて、今いる自分と、夢の中の自分、どっちが本当の自分かと一瞬悩む程だった。
「・・・まぁ、無事に帰って来れたってことか・・・」
ほっと一息付いて、まだ起きる気配の無いカチュアのオレンジ色の髪を撫でてみた。
「・・・髪細いな・・・うん・・・」
独り言を言いながらしばらく髪を撫でていると、俺のお腹に乗っているカチュアの手に、少し力が入るのを感じた。
「・・・ア、アラタくん・・・その・・・もう、起きてるよ・・・」
そう言って顔を上げ、俺に目を向けるカチュアの頬は、赤くなっていた。
「あ・・・えっと、つい・・・おはよう・・・」
「・・・おはよう」
息がかかるくらいの距離で見つめ合ってしまい、俺も顔が赤くなる。
右手はまだカチュアの頭から離れていない。
「えっと・・・」
なにか話さなければと思った時、勢いよくドアを叩く音が部屋中に響き、俺もカチュアも反射的にベッドから飛び上がった。
「アラター!カチュアー!戻ってきてるー!?」
あまりの眠気に、カギをかける事も忘れていたので、ドアが勢いよく開かれ、ケイトが大きな声を出して入って来た。
「お、おうケイト、この通りだ」
「お、おはようケイトさん!帰ってるよ」
「ん?あんたらどうかした?」
「いや!何もないよ、それよりジーンも起きたか?」
ジーンの姿が見えない事を気にすると、ケイトは顔の前で人差し指を軽く振った。
「アタシがジーンの確認をしないと思う?もう起きて一階に行ってるよ。アラタ達はアタシが見て来るから、ジーンはジェロムを見に行くってなったの」
「そうか、じゃあ俺達も早く行こ・・・」
ジェロムの父親の魂が、闇から解き放たれたのは感じたが、やはり自分の目で確認をしないと俺も落ち着かない。
立ち上がろうと、ベッドから腰を上げた瞬間、膝の力が抜け俺は床に腰から崩れ落ちた。
「アラタ君!」
「アラタ!?」
カチュアとケイトが声を上げて駆け寄って来る。
俺はベッドに右肘を掛け、震える足に力を入れて、なんとか体を起こした。
額に汗の粒が浮き、息が切れる・・・・・・
「アラタ君!やっぱりあの力を使ったから・・・」
「カチュア、それってアラタの光の力?ジーンから聞いてるけど、こんなに消耗するの?」
カチュアとケイトが、俺の体に手を回し、俺がベッドに座るのを補助する。
「うん・・・協会で初めて使った時は、一歩も動けなくなるくらいだった・・・だから、アラタ君のこの力は、本当はもう使わないってレイチェルと約束してたの・・・でも、アラタ君優しいから・・・」
そうケイトに説明するカチュアの目には、涙が浮かんでいた。
俺は、またカチュアを泣かせてしまった負い目を感じ、カチュアの目を正面から見れずに逸らすと、ケイトに頭を軽く叩かれた。
「アラタ、今、カチュアから目を逸らすのは駄目じゃん?彼氏ってか、もう旦那みたいなもんでしょ?なら、ちゃんと抱きしめてやんなよ。あと、アタシはあんたに感謝してる。だって、アラタがいなかったら、アタシら多分帰って来れなかったから。アラタ、ありがとう」
ケイトは歯を見せて笑う。強くてしっかりしてるなと思った。
俺はこの世界に来てから、人との向き合い方を、周りから沢山教えてもらっているなと思った。
「カチュア・・・」
「うん・・・」
あらためてカチュアに向き直る。
やっぱり目に涙が浮かんで、今にも零れ落ちそうになっている。
こんな姿を見せてしまったんだ・・・本当に心配をかけてしまった。
俺はカチュアの肩に手をかけ、そのまま抱き寄せた。
「心配かけてごめん・・・」
「・・・アラタ君が無事で良かったよ・・・でも、もっと自分の事も大事にしてね」
「うん。気を付けるよ」
俺の背中に回ったカチュアの両手に、少し強く力が入る。
「・・・アラタ君、一つだけ約束して」
「うん、なに?」
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