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117 濁った空と歪んだ石畳 ③
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ジェロムはウインドカッターで火の玉を切り裂き防いでいるが、俺は躱し続けるしかない。
『ハッ!』
掛け声と共に、ジェロムが左右のウインドカッターを、空中のブルゲとオーグ目掛け、腕を振り払うようにして放った。
変化を加えず、真正面から向かってくるだけのウインドカッターを、ブルゲとオーグは少し身をひるがえすだけで難なく躱すが、魔法に目が行き、俺達から目を離した隙に、ジェロムが素早く風魔法で足場を作った。
足場を作るための陽動の攻撃だったようだ。
空中の二人までの高さは、目算で3~4メートル。足場は俺の腰の辺りに一つ、頭の辺りにもう一つ、そして、更に1メートル程上にもう一つあった。
意識して見ないと分からないが、仕掛けられた三か所は、空気を圧縮しているようだ。そこだけ密度が濃く、ぼんやりと空気の固まりのようなものが見える。
頭上から火の玉を投げ付け、止まる事なく移動しているヤツらには、おそらく見えていないだろう。
俺は降り注ぐ火の玉をかいくぐりチャンスを待った。
今の俺なら、この三か所の足場で十分ヤツらに届く。だが、常に飛んでいるヤツら相手に、空振りしてしまえば、より高く逃げられ、二度と攻撃の機会は巡ってこないだろう。
慎重にタイミングを見極めなければならない。
『ブルゲ!食らえこのクソ野郎!』
降り注ぐ火の玉を躱しながら、ジェロムは反撃の声を張り上げた。
両手を握り、頭上に振り上げる。握り合わせた両手には風が渦巻き、それはまるで小さな竜巻のようだ。
『トルネードバースト!』
ジェロムは大きく両足を広げ、重心を低く構えると、振り上げた両手を、空中のブルゲに向かって振り下ろした。
ジェロムの両手から放たれた小さな竜巻は、周囲の風を吸い込み大きさを増していく。渦巻く風は全てを飲み込むような大口を開けて、ブルゲに襲い掛かった。
『な!?ジェロム!テメェッツ!こんな魔法!?』
『ブルゲ!』
予想外の魔法に回避の動作が遅れたブルゲは、ジェロムのトルネードバーストに真正面から飲まれそうになった。
『爆裂空破断!』
オーグの右手に高密度のエネルギーが集まると、オーグはそれを、今まさにブルゲを飲み込まんとするトルネードバーストの横っ腹に撃ち込んだ。
耳をつんざく爆発音。
オーグの放った爆裂空破断は、トルネードバーストを殺しきれなかったが、軌道をずらす事はできた。
だが、それでもブルゲの体半分をかすめ、その衝撃に弾き飛ばされたブルゲは、地面に向かい落下した。
『今だ!』
『あぁ!』
ジェロムの合図と同時に、俺は右足で空気の足場を一段蹴り上げると、次に自分の頭上の高さにあった空気の足場を左足で捉え、蹴り上げた。
そのまま1メートル程上空に固定された、三段目の空気の足場を右足で踏みしっかりと力を溜めると、数メートル程前方に落下してくるブルゲに向かって飛び、拳の狙いを定めた。
『あ、ぐぅ・・・あの野郎・・!?』
ジェロムの放ったトルネードバーストは、軌道をずらされたが、ブルゲの左半身をかすめていた。
そして、その威力はブルゲのローブを引き裂き、ブルゲを弾き飛ばす程に強力なものだった。
左肩を特に強く打たれ、ブルゲは落下しながら、傷めた左肩を右手で押さえていた。
『クソッ!許さねぇ!ブッ殺して・・・』
ブルゲは全身に風を纏わせ、落下のスピードを緩めた。再び足元に風を集め上空に上がろうとしたが、それより先に、アラタの右フックがブルゲの顎を撃ち抜いていた。
骨を砕いた確かな手ごたえが、拳から伝わって来る。
殺さないように手加減はしたが、それでも意識を飛ばし、戦闘不能に追い込まねばならない。
力加減が難しかったが、アラタの狙い通り、顎を砕かれ地面に叩き付けられたブルゲは、完全に気を失っているようで、起き上がる気配はまるでなかった。
アラタは右手を地面に当て、腰と膝を曲げ低い姿勢で着地した。
顔を前に向けると、地面に叩きつけられたブルゲは指先一つ動かず、倒れたままだった。
意識は完全に失っており、起き上がって来る様子は全く見えない。
仮に起き上がってきたとしても、顎を砕かれ、全身を強く石畳に打ち付けられ、多大なダメージを受けた状態で、なにかできるはずもない。
ブルゲはこの戦闘に復帰する事はないだろう。
アラタがブルゲを仕留めた事を確認すると、ジェロムは空中にいるもう一人の敵、オーグを見上げ、睨み付けた。
その眼光には強い怒り、いや、殺意と言っていいだろう。
父親を死の寸前まで追い込んだ相手への、憎しみと殺意の色が見えた。
『こ、こんな馬鹿な、ブルゲがこんなにあっさり、それにジェロムのあの魔法、あんな強い魔法が使えるなんて聞いてないぞ・・・』
空中でアラタ達を見下ろすオーグは、ブルゲの敗北に焦りを隠せずにいた。
元々、二人で空中から攻撃魔法を打ち続ける。策と呼べるかも怪しいが、前回、前々回と、ジェロムがこの夢の世界に来た時は、それだけで退けてきたのだ。
だが、それは二対一という数の差があったから、なりたっただけだった。
同じ人数になった事で、攻撃が分散し、これまで防戦一方だったジェロムに、反撃の機会を与え、予想だにしなかった強力な魔法を使われてしまった。
その結果、ブルゲはアラタから、戦闘不能になるほどの、強烈な一撃をもらう事になる。
このまま戦いを続けても、敗北は目に見えていた。
『く・・・くっそぉぉぉ!』
オーグは叫び声を上げると、両手を真上にあげると魔力を集中させた。
集中された高密度の魔力は大きな光を放ち、地上のアラタやジェロームにも、空気の震えが伝わってくる。
『もう命令なんて知ったことか!くたばれ!爆裂空破弾!』
それはオーグの全力で放つ爆裂魔法だった。
爆裂空破弾は中級の爆裂魔法だが、使用者の魔力でその威力は変わってくる。
そして、オーグの全力で放ったこの爆裂空破弾は、中級の域を越えていた。
拳の倍以上のエネルギーの塊は、通常の爆裂空破弾よりはるかに大きい。
『あの威力、まずいぞ!』
ジェロムが迎撃態勢に入ったが、相殺できる程の強い魔力を練る時間は無く、打つ手を欠いていた。
『ジェロム!何でもいいから撃て!直撃を防げればそれでいい!』
相殺できない事を察したアラタは、両腕を体の前で盾にし、重心を低く、腰を落とし守りの体制に入った。
『二人とも!衝撃波が来るから気を付けて!』
爆裂空破弾が目の前まで迫った時、アラタとジェロムの目の前に、青く輝く半透明の壁が現れた。
次の瞬間、強烈な光を放つエネルギーの塊、オーグの爆裂空破弾が、アラタとジェロムの目の前で、青く輝く半透明の壁に衝突し、耳をつんざく破裂音と共に爆発した。
爆発の衝撃は空気を震わせ、アラタとジェロムの体にも響いてくる。足元から響いてくる衝撃に、転びそうになるが、腰を落とし耐える。
そして、爆発にともない巨大な煙が立ち込め辺りを覆った。
『これは・・・結界か?』
『この青い結界は、見たことがある・・・』
振り返ると、青い髪を風になびかせたジーンが右手を前に、青い結界へ魔力を送り込んでいた。
『ハッ!』
掛け声と共に、ジェロムが左右のウインドカッターを、空中のブルゲとオーグ目掛け、腕を振り払うようにして放った。
変化を加えず、真正面から向かってくるだけのウインドカッターを、ブルゲとオーグは少し身をひるがえすだけで難なく躱すが、魔法に目が行き、俺達から目を離した隙に、ジェロムが素早く風魔法で足場を作った。
足場を作るための陽動の攻撃だったようだ。
空中の二人までの高さは、目算で3~4メートル。足場は俺の腰の辺りに一つ、頭の辺りにもう一つ、そして、更に1メートル程上にもう一つあった。
意識して見ないと分からないが、仕掛けられた三か所は、空気を圧縮しているようだ。そこだけ密度が濃く、ぼんやりと空気の固まりのようなものが見える。
頭上から火の玉を投げ付け、止まる事なく移動しているヤツらには、おそらく見えていないだろう。
俺は降り注ぐ火の玉をかいくぐりチャンスを待った。
今の俺なら、この三か所の足場で十分ヤツらに届く。だが、常に飛んでいるヤツら相手に、空振りしてしまえば、より高く逃げられ、二度と攻撃の機会は巡ってこないだろう。
慎重にタイミングを見極めなければならない。
『ブルゲ!食らえこのクソ野郎!』
降り注ぐ火の玉を躱しながら、ジェロムは反撃の声を張り上げた。
両手を握り、頭上に振り上げる。握り合わせた両手には風が渦巻き、それはまるで小さな竜巻のようだ。
『トルネードバースト!』
ジェロムは大きく両足を広げ、重心を低く構えると、振り上げた両手を、空中のブルゲに向かって振り下ろした。
ジェロムの両手から放たれた小さな竜巻は、周囲の風を吸い込み大きさを増していく。渦巻く風は全てを飲み込むような大口を開けて、ブルゲに襲い掛かった。
『な!?ジェロム!テメェッツ!こんな魔法!?』
『ブルゲ!』
予想外の魔法に回避の動作が遅れたブルゲは、ジェロムのトルネードバーストに真正面から飲まれそうになった。
『爆裂空破断!』
オーグの右手に高密度のエネルギーが集まると、オーグはそれを、今まさにブルゲを飲み込まんとするトルネードバーストの横っ腹に撃ち込んだ。
耳をつんざく爆発音。
オーグの放った爆裂空破断は、トルネードバーストを殺しきれなかったが、軌道をずらす事はできた。
だが、それでもブルゲの体半分をかすめ、その衝撃に弾き飛ばされたブルゲは、地面に向かい落下した。
『今だ!』
『あぁ!』
ジェロムの合図と同時に、俺は右足で空気の足場を一段蹴り上げると、次に自分の頭上の高さにあった空気の足場を左足で捉え、蹴り上げた。
そのまま1メートル程上空に固定された、三段目の空気の足場を右足で踏みしっかりと力を溜めると、数メートル程前方に落下してくるブルゲに向かって飛び、拳の狙いを定めた。
『あ、ぐぅ・・・あの野郎・・!?』
ジェロムの放ったトルネードバーストは、軌道をずらされたが、ブルゲの左半身をかすめていた。
そして、その威力はブルゲのローブを引き裂き、ブルゲを弾き飛ばす程に強力なものだった。
左肩を特に強く打たれ、ブルゲは落下しながら、傷めた左肩を右手で押さえていた。
『クソッ!許さねぇ!ブッ殺して・・・』
ブルゲは全身に風を纏わせ、落下のスピードを緩めた。再び足元に風を集め上空に上がろうとしたが、それより先に、アラタの右フックがブルゲの顎を撃ち抜いていた。
骨を砕いた確かな手ごたえが、拳から伝わって来る。
殺さないように手加減はしたが、それでも意識を飛ばし、戦闘不能に追い込まねばならない。
力加減が難しかったが、アラタの狙い通り、顎を砕かれ地面に叩き付けられたブルゲは、完全に気を失っているようで、起き上がる気配はまるでなかった。
アラタは右手を地面に当て、腰と膝を曲げ低い姿勢で着地した。
顔を前に向けると、地面に叩きつけられたブルゲは指先一つ動かず、倒れたままだった。
意識は完全に失っており、起き上がって来る様子は全く見えない。
仮に起き上がってきたとしても、顎を砕かれ、全身を強く石畳に打ち付けられ、多大なダメージを受けた状態で、なにかできるはずもない。
ブルゲはこの戦闘に復帰する事はないだろう。
アラタがブルゲを仕留めた事を確認すると、ジェロムは空中にいるもう一人の敵、オーグを見上げ、睨み付けた。
その眼光には強い怒り、いや、殺意と言っていいだろう。
父親を死の寸前まで追い込んだ相手への、憎しみと殺意の色が見えた。
『こ、こんな馬鹿な、ブルゲがこんなにあっさり、それにジェロムのあの魔法、あんな強い魔法が使えるなんて聞いてないぞ・・・』
空中でアラタ達を見下ろすオーグは、ブルゲの敗北に焦りを隠せずにいた。
元々、二人で空中から攻撃魔法を打ち続ける。策と呼べるかも怪しいが、前回、前々回と、ジェロムがこの夢の世界に来た時は、それだけで退けてきたのだ。
だが、それは二対一という数の差があったから、なりたっただけだった。
同じ人数になった事で、攻撃が分散し、これまで防戦一方だったジェロムに、反撃の機会を与え、予想だにしなかった強力な魔法を使われてしまった。
その結果、ブルゲはアラタから、戦闘不能になるほどの、強烈な一撃をもらう事になる。
このまま戦いを続けても、敗北は目に見えていた。
『く・・・くっそぉぉぉ!』
オーグは叫び声を上げると、両手を真上にあげると魔力を集中させた。
集中された高密度の魔力は大きな光を放ち、地上のアラタやジェロームにも、空気の震えが伝わってくる。
『もう命令なんて知ったことか!くたばれ!爆裂空破弾!』
それはオーグの全力で放つ爆裂魔法だった。
爆裂空破弾は中級の爆裂魔法だが、使用者の魔力でその威力は変わってくる。
そして、オーグの全力で放ったこの爆裂空破弾は、中級の域を越えていた。
拳の倍以上のエネルギーの塊は、通常の爆裂空破弾よりはるかに大きい。
『あの威力、まずいぞ!』
ジェロムが迎撃態勢に入ったが、相殺できる程の強い魔力を練る時間は無く、打つ手を欠いていた。
『ジェロム!何でもいいから撃て!直撃を防げればそれでいい!』
相殺できない事を察したアラタは、両腕を体の前で盾にし、重心を低く、腰を落とし守りの体制に入った。
『二人とも!衝撃波が来るから気を付けて!』
爆裂空破弾が目の前まで迫った時、アラタとジェロムの目の前に、青く輝く半透明の壁が現れた。
次の瞬間、強烈な光を放つエネルギーの塊、オーグの爆裂空破弾が、アラタとジェロムの目の前で、青く輝く半透明の壁に衝突し、耳をつんざく破裂音と共に爆発した。
爆発の衝撃は空気を震わせ、アラタとジェロムの体にも響いてくる。足元から響いてくる衝撃に、転びそうになるが、腰を落とし耐える。
そして、爆発にともない巨大な煙が立ち込め辺りを覆った。
『これは・・・結界か?』
『この青い結界は、見たことがある・・・』
振り返ると、青い髪を風になびかせたジーンが右手を前に、青い結界へ魔力を送り込んでいた。
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