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106 楽しい食卓
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「急でごめんな」
「うぅん、大丈夫だよ。材料はいっぱい買っておいたから」
突然人数が増えた事を謝ると、カチュアは全く気にしてないようで、笑顔で、大丈夫だよ、と答えてくれた。
仕事が終わり、俺の家にカチュアとリカルド、そしてなんと、ユーリも来たのだ。
俺が白魔法コーナーに行って、今日リカルドも来る事になったとカチュアに話すと、カチュアの隣にいたユーリが、アタシも行く、と突然宣言したのだ。
リカルドは以前一度来た事があるが、ユーリは俺がここに住むようになってからは初めてである。
どうやら、俺が住んで、家の中がどう変わっているか気になっていたようなのだ。
ダイニングで、遠慮なくきょろきょろと周りを見回している。
「アラタ、これは何?」
「ん?あぁ、これは、砂を詰めた手袋。俺の手造りだから不格好だけど、1キロくらいはあるんだ。これを手にはめて、こうしてトレーニングするんだ」
革の手袋で指の部分は穴あきだ。甲の部分に感覚でだが、1キロ位の砂を詰めた別の革袋を、縫い付けて重りにしている。
砂を詰めた革の手袋をはめ、シャドーボクシングをして見せると、ユーリはとても興味が無さそうに、大きなあくびを感想としてくれた。
「アラタ、もういい。アタシが悪かった」
「おい!なんで謝るんだよ!?」
俺のつっこみを無視して、ユーリはまたあちこち物色している。
「兄ちゃん、ユーリはマイペースだから、食い下がると疲れるだけだぞ」
リカルドはテーブルのイスに腰かけて、頬杖を突きながら、調理を始めたカチュアを見ている。
何を作っているか気になっているのだろう。リカルドは大食いで食べる事が大好きなのだ。
「カチュア、何か手伝おうか?」
俺がキッチンに近づくと、カチュアは軽く首を横に振った。
「大丈夫だよ。アラタ君、今日は疲れたでしょ?座って休んでて」
聞いてはみたが、カチュアの手慣れた感じで調理しているところを見ると、半端に手伝えば返って時間がかかりそうだ。
俺は素直に甘えて、リカルドの向かいのイスに腰を下ろした。
「なぁ兄ちゃん」
「ん、なんだ?」
「カチュアは兄ちゃんが一人占めしていいけど、カチュアの料理はみんなのものだからな」
「何言ってんだお前?」
リカルドが真面目な顔で話し出したので、なにかと思い身構えたが、言っている意味がよく分からなかった。
俺とリカルドの会話が聞こえたようで、カチュアは少し笑っている。
「リカルド君、ご飯ならいつでも作ってあげるから、また食べに来なよ」
フライパンで野菜と肉を炒めているようだ。食欲を誘う匂いが届いてくる。
「さすがカチュア!聞いたか兄ちゃん?そういう事だからな?」
リカルドは席を立ち、俺に向かって指を突き出すと、まるで勝利宣言でもするように言葉を発した。
「お前ってヤツは・・・分かったから座れ。カチュアがいいって言うなら、また時間合う時に食べに来ればいいよ」
俺が了解すると、リカルドは歯を見せて笑い、イスに腰を下ろしふんぞり返った。
「いやぁ、助かるぜ!俺料理できないし、昼は外食で、夜は弁当ばっかだからさ、まともなもん食えるのは嬉しいんだ」
「リカルド、夜は弁当なのか?一人暮らしだったよな?いつも買って帰ってんのか?」
「そうだよ。昼休憩で外行った時に、夜の分も買っておくんだ。夜は寄り道する時間あんま無いからな」
「シルヴィアさんのパン食べればいいのに。せっかく毎日持って来てくれるんだからさ」
カチュアがキッチンから言葉をかけると、リカルドは席を立ち、拳を握り力いっぱいの抗議の声を上げた。
「だから!何度も言ってんだろ!俺だってパン食うよ!シルヴィアのパンは美味いよ!認めるよ!でもよ、毎日食ってりゃ飽きんだろ!?ここんとこ一日三食分持ってくんだぞ!?頭おかしいんじゃねぇのか!?そんなに俺にパン食わせて、俺をどうしたいんだよ!?あれか?小麦か?俺を小麦にしたいのか!?いい加減にッグハァッツ!」
大声を出し続けるリカルドの腹に、ユーリの右の拳が突き刺さっている。
ボクサーの俺から見ても、腰の入った良いボディブローだった。
「うるさい」
「ユ、ユーリ・・・てめぇ、ゲホッ、うぐ・・・」
膝を付き、腹を押さえるリカルドを、ユーリは冷たい目で見降ろしている。
「怖ぇ~・・・」
「リカルド君・・・痛そう・・・」
ユーリは身長もカチュアより低くて、150cm位の小柄なのに、けっこう重いパンチを持ってそうだ。
そして魔法使いなのに、体力型のリカルドをKOしている事がおかしい。
本人には言った事は無いが、ユーリは童顔で見た目は中学生くらいだ。
多分本人に言えば、俺も腹にパンチを食らう事になりそうな気がするので、一生言わないようにしようと心に決めた。
俺は毎日鍛えているが、なんかユーリのパンチは怖いから、食らいたくない。
「できたよー、みんな、ちゃんと座ってね」
リカルドが落ち着いたところで、カチュアがトレーに大皿を乗せてキッチンから出て来た。
「あ、カチュア、運ぶのは俺がやるよ」
「いいの。アラタ君は疲れてるんだから、座って待ってて」
「アタシが運ぶ。料理できないから、運ぶのと片づけはやる」
「ありがとう。じゃあユーリ、一緒にやろ」
そう言うと、ユーリはカチュアと並んでキッチンに入り、揚げ物の乗った大皿や、スープを運んできた。
四人掛けのテーブルには、所狭しと料理が並べられていく。野菜炒め、エビフライ、サラダ、卵焼き、オニオンスープ、大食いのリカルドを入れての四人分なので、どれも量が多い。
「アラタ、ご飯はどのくらい?」
ユーリが茶碗を持って聞いてくるので、俺は普通でいいよと伝えた。
すると、リカルドが、はぁ!?と、声を上げ、ユーリに待ったをかける。
「兄ちゃん、何言ってんだよ?前にも言ったじゃねぇか?男は黙って大盛りだって!忘れんなよ。ユーリ、俺と兄ちゃんは大盛りな!ドカンと盛ってこいよ!ドカンと!」
思い出した。確かに最初にリカルドとカチュアがここに来た日、同じようにリカルドに大盛りに変更されたのだ。
よく覚えているなと感心しつつ、全くこの大食いはブレないなと、ちょっと笑えてしまう。
「はい」
ユーリは淡々とした感じで、俺の前に大盛りご飯を乗せた茶碗を置いた。
少し山が大きいくらいの、常識的な感覚の大盛りに見える。
「はい」
俺の次にリカルドの前に置かれた大盛りは、そもそも器の大きさが違った。
俺は普通のご飯茶碗だが、リカルドのは丼だ。丼に山盛りご飯が乗っている。
丼ご飯を前に黙っているリカルドを見て、ユーリは冷たい声で囁いた。
「ドカンと盛ってきたよ。食べれるんだよね?」
「お前分かってるじゃねぇか!」
「・・・え?」
リカルドはユーリに顔を向けると、これでいいんだよ!これで!と言って、機嫌良くユーリに笑いかけている。
珍しくユーリが戸惑っているところを見ると、どうやら、ユーリは意地悪で食べれないであろう量を盛ったらしいが、リカルドの胃袋には適量だったようだ。
「ユーリ、リカルド君とご飯食べた事なかったのかも。いつもあれくらいは食べるからね」
カチュアが自分のご飯茶碗を持って、俺の隣のイスに腰をかける。
「多分そうだな。前回、俺の倍以上は軽く食べてたからな。知ってたら、あれくらい食べるって分かるよ」
リカルドに褒められて、調子を狂わせたのか、ユーリは、もういい!と言って、リカルドの隣に座った。
食事を始めると、やはり、リカルドの食べる早さはすごかった。
箸を止めずに、一人でどんどん食べていく様は、テレビの大食い選手権にでも出れそうに感じるくらいだ。
「おいおいリカルド、俺達の分も残しておいてくれよ」
「いいじゃねぇか、どうせ兄ちゃんは毎日カチュアの飯食ってんだろ?たまには俺に譲れよ」
「アラタ君、足りなかったらもっと作るから言ってね」
今日は食料品店のモロニー・マーケットが特売日だったようで、カチュアは三日分くらい買い込んできたそうだ。おかげで、冷蔵庫いっぱいに食品が詰まっている。
ちなみにこの世界の冷蔵庫は、日本に昔あった氷冷蔵庫と似た仕組みだ。
上段の冷凍室に、魔道具の冷気を出す玉が入っていて、それで庫内全部を冷やす仕組みだ。
「ありがとう。でも、大丈夫だよ。リカルドに取られないように、自分の分は皿に取って置いた」
「あ、その方がいいかも。放っておくと、リカルド君、全部食べそうな勢いだよね」
俺がエビフライや卵焼き乗せた皿を見せると、カチュアも無くなる前にと、食べれる量を皿に取り始めた。
「あ!ユーリ!そのでっかいエビは俺が寝かせておいたんだぞ!」
「リカルド、一人で何本食べた?これはアタシがもらう。尻尾でも食べてたら?」
「はぁ!?尻尾は食うのは当たり前だろ?何言ってんだ?」
「・・・え?」
リカルドは、ユーリの目の前で、食べかけのエビフライを尻尾ごと食べて見せる。
「あ~、そういやリカルドって、食べれない物は無いって言ってたよな」
「うん。でも、エビフライの尻尾食べるとは思わなかった」
見ていた俺とカチュアも、ちょっと驚いた。
俺も食べてみた事はあるけど、口の中に刺さるような感じが駄目で、好き好んで食べたりはしない。
当然のようにバリバリ食べてるとこを見ると、リカルドにとっては、スナック菓子の感覚なのかもしれない。
「なんで尻尾食べてんのよ!」
「え?食べ物だから食べただけだけど・・・」
「そうだけど!違うでしょ!」
「え?意味わかんね」
ユーリは立ち上がり、テーブルに両手を付いて大きな声を出すが、リカルドは目をパチパチさせている。
リカルドからすれば、食べれる物を食べただけなのだ。
ユーリがなぜ声を上げたのか、まるで理解できていない。
尻尾食べただけで、大声出す事もないと思ったが、尻尾食べればと挑発して、サラリと食べらたのが悔しかったのだろう。いつも淡々としてるのに、珍しく大きな声を出している。
「あはははは!もーやめてよ二人とも!おかしー!」
カチュアは二人のやりとりがツボに入ったようで、お腹を抱えて笑っている。
つられて俺も笑ってしまうと、ユーリは少し顔を赤くして、もういい!と言って腰を下ろし、黙々とご飯を食べ始めた。
リカルドは今だに状況を把握してないようで、首を傾げてユーリを見ていたが、まぁいっか!と、一人言(ひとりご)ちると、またガツガツとご飯を食べ始めた。
隣に座るカチュアに顔を向けると、丁度目が合った。
まだ笑いの余韻が残っているようで、油断すると吹き出しそうにも見える。
「今日は楽しいな」
「うん、ほんとにね」
いつもカチュアと二人でご飯を食べているけど、みんなで食べるのもいいなと思った。
「うぅん、大丈夫だよ。材料はいっぱい買っておいたから」
突然人数が増えた事を謝ると、カチュアは全く気にしてないようで、笑顔で、大丈夫だよ、と答えてくれた。
仕事が終わり、俺の家にカチュアとリカルド、そしてなんと、ユーリも来たのだ。
俺が白魔法コーナーに行って、今日リカルドも来る事になったとカチュアに話すと、カチュアの隣にいたユーリが、アタシも行く、と突然宣言したのだ。
リカルドは以前一度来た事があるが、ユーリは俺がここに住むようになってからは初めてである。
どうやら、俺が住んで、家の中がどう変わっているか気になっていたようなのだ。
ダイニングで、遠慮なくきょろきょろと周りを見回している。
「アラタ、これは何?」
「ん?あぁ、これは、砂を詰めた手袋。俺の手造りだから不格好だけど、1キロくらいはあるんだ。これを手にはめて、こうしてトレーニングするんだ」
革の手袋で指の部分は穴あきだ。甲の部分に感覚でだが、1キロ位の砂を詰めた別の革袋を、縫い付けて重りにしている。
砂を詰めた革の手袋をはめ、シャドーボクシングをして見せると、ユーリはとても興味が無さそうに、大きなあくびを感想としてくれた。
「アラタ、もういい。アタシが悪かった」
「おい!なんで謝るんだよ!?」
俺のつっこみを無視して、ユーリはまたあちこち物色している。
「兄ちゃん、ユーリはマイペースだから、食い下がると疲れるだけだぞ」
リカルドはテーブルのイスに腰かけて、頬杖を突きながら、調理を始めたカチュアを見ている。
何を作っているか気になっているのだろう。リカルドは大食いで食べる事が大好きなのだ。
「カチュア、何か手伝おうか?」
俺がキッチンに近づくと、カチュアは軽く首を横に振った。
「大丈夫だよ。アラタ君、今日は疲れたでしょ?座って休んでて」
聞いてはみたが、カチュアの手慣れた感じで調理しているところを見ると、半端に手伝えば返って時間がかかりそうだ。
俺は素直に甘えて、リカルドの向かいのイスに腰を下ろした。
「なぁ兄ちゃん」
「ん、なんだ?」
「カチュアは兄ちゃんが一人占めしていいけど、カチュアの料理はみんなのものだからな」
「何言ってんだお前?」
リカルドが真面目な顔で話し出したので、なにかと思い身構えたが、言っている意味がよく分からなかった。
俺とリカルドの会話が聞こえたようで、カチュアは少し笑っている。
「リカルド君、ご飯ならいつでも作ってあげるから、また食べに来なよ」
フライパンで野菜と肉を炒めているようだ。食欲を誘う匂いが届いてくる。
「さすがカチュア!聞いたか兄ちゃん?そういう事だからな?」
リカルドは席を立ち、俺に向かって指を突き出すと、まるで勝利宣言でもするように言葉を発した。
「お前ってヤツは・・・分かったから座れ。カチュアがいいって言うなら、また時間合う時に食べに来ればいいよ」
俺が了解すると、リカルドは歯を見せて笑い、イスに腰を下ろしふんぞり返った。
「いやぁ、助かるぜ!俺料理できないし、昼は外食で、夜は弁当ばっかだからさ、まともなもん食えるのは嬉しいんだ」
「リカルド、夜は弁当なのか?一人暮らしだったよな?いつも買って帰ってんのか?」
「そうだよ。昼休憩で外行った時に、夜の分も買っておくんだ。夜は寄り道する時間あんま無いからな」
「シルヴィアさんのパン食べればいいのに。せっかく毎日持って来てくれるんだからさ」
カチュアがキッチンから言葉をかけると、リカルドは席を立ち、拳を握り力いっぱいの抗議の声を上げた。
「だから!何度も言ってんだろ!俺だってパン食うよ!シルヴィアのパンは美味いよ!認めるよ!でもよ、毎日食ってりゃ飽きんだろ!?ここんとこ一日三食分持ってくんだぞ!?頭おかしいんじゃねぇのか!?そんなに俺にパン食わせて、俺をどうしたいんだよ!?あれか?小麦か?俺を小麦にしたいのか!?いい加減にッグハァッツ!」
大声を出し続けるリカルドの腹に、ユーリの右の拳が突き刺さっている。
ボクサーの俺から見ても、腰の入った良いボディブローだった。
「うるさい」
「ユ、ユーリ・・・てめぇ、ゲホッ、うぐ・・・」
膝を付き、腹を押さえるリカルドを、ユーリは冷たい目で見降ろしている。
「怖ぇ~・・・」
「リカルド君・・・痛そう・・・」
ユーリは身長もカチュアより低くて、150cm位の小柄なのに、けっこう重いパンチを持ってそうだ。
そして魔法使いなのに、体力型のリカルドをKOしている事がおかしい。
本人には言った事は無いが、ユーリは童顔で見た目は中学生くらいだ。
多分本人に言えば、俺も腹にパンチを食らう事になりそうな気がするので、一生言わないようにしようと心に決めた。
俺は毎日鍛えているが、なんかユーリのパンチは怖いから、食らいたくない。
「できたよー、みんな、ちゃんと座ってね」
リカルドが落ち着いたところで、カチュアがトレーに大皿を乗せてキッチンから出て来た。
「あ、カチュア、運ぶのは俺がやるよ」
「いいの。アラタ君は疲れてるんだから、座って待ってて」
「アタシが運ぶ。料理できないから、運ぶのと片づけはやる」
「ありがとう。じゃあユーリ、一緒にやろ」
そう言うと、ユーリはカチュアと並んでキッチンに入り、揚げ物の乗った大皿や、スープを運んできた。
四人掛けのテーブルには、所狭しと料理が並べられていく。野菜炒め、エビフライ、サラダ、卵焼き、オニオンスープ、大食いのリカルドを入れての四人分なので、どれも量が多い。
「アラタ、ご飯はどのくらい?」
ユーリが茶碗を持って聞いてくるので、俺は普通でいいよと伝えた。
すると、リカルドが、はぁ!?と、声を上げ、ユーリに待ったをかける。
「兄ちゃん、何言ってんだよ?前にも言ったじゃねぇか?男は黙って大盛りだって!忘れんなよ。ユーリ、俺と兄ちゃんは大盛りな!ドカンと盛ってこいよ!ドカンと!」
思い出した。確かに最初にリカルドとカチュアがここに来た日、同じようにリカルドに大盛りに変更されたのだ。
よく覚えているなと感心しつつ、全くこの大食いはブレないなと、ちょっと笑えてしまう。
「はい」
ユーリは淡々とした感じで、俺の前に大盛りご飯を乗せた茶碗を置いた。
少し山が大きいくらいの、常識的な感覚の大盛りに見える。
「はい」
俺の次にリカルドの前に置かれた大盛りは、そもそも器の大きさが違った。
俺は普通のご飯茶碗だが、リカルドのは丼だ。丼に山盛りご飯が乗っている。
丼ご飯を前に黙っているリカルドを見て、ユーリは冷たい声で囁いた。
「ドカンと盛ってきたよ。食べれるんだよね?」
「お前分かってるじゃねぇか!」
「・・・え?」
リカルドはユーリに顔を向けると、これでいいんだよ!これで!と言って、機嫌良くユーリに笑いかけている。
珍しくユーリが戸惑っているところを見ると、どうやら、ユーリは意地悪で食べれないであろう量を盛ったらしいが、リカルドの胃袋には適量だったようだ。
「ユーリ、リカルド君とご飯食べた事なかったのかも。いつもあれくらいは食べるからね」
カチュアが自分のご飯茶碗を持って、俺の隣のイスに腰をかける。
「多分そうだな。前回、俺の倍以上は軽く食べてたからな。知ってたら、あれくらい食べるって分かるよ」
リカルドに褒められて、調子を狂わせたのか、ユーリは、もういい!と言って、リカルドの隣に座った。
食事を始めると、やはり、リカルドの食べる早さはすごかった。
箸を止めずに、一人でどんどん食べていく様は、テレビの大食い選手権にでも出れそうに感じるくらいだ。
「おいおいリカルド、俺達の分も残しておいてくれよ」
「いいじゃねぇか、どうせ兄ちゃんは毎日カチュアの飯食ってんだろ?たまには俺に譲れよ」
「アラタ君、足りなかったらもっと作るから言ってね」
今日は食料品店のモロニー・マーケットが特売日だったようで、カチュアは三日分くらい買い込んできたそうだ。おかげで、冷蔵庫いっぱいに食品が詰まっている。
ちなみにこの世界の冷蔵庫は、日本に昔あった氷冷蔵庫と似た仕組みだ。
上段の冷凍室に、魔道具の冷気を出す玉が入っていて、それで庫内全部を冷やす仕組みだ。
「ありがとう。でも、大丈夫だよ。リカルドに取られないように、自分の分は皿に取って置いた」
「あ、その方がいいかも。放っておくと、リカルド君、全部食べそうな勢いだよね」
俺がエビフライや卵焼き乗せた皿を見せると、カチュアも無くなる前にと、食べれる量を皿に取り始めた。
「あ!ユーリ!そのでっかいエビは俺が寝かせておいたんだぞ!」
「リカルド、一人で何本食べた?これはアタシがもらう。尻尾でも食べてたら?」
「はぁ!?尻尾は食うのは当たり前だろ?何言ってんだ?」
「・・・え?」
リカルドは、ユーリの目の前で、食べかけのエビフライを尻尾ごと食べて見せる。
「あ~、そういやリカルドって、食べれない物は無いって言ってたよな」
「うん。でも、エビフライの尻尾食べるとは思わなかった」
見ていた俺とカチュアも、ちょっと驚いた。
俺も食べてみた事はあるけど、口の中に刺さるような感じが駄目で、好き好んで食べたりはしない。
当然のようにバリバリ食べてるとこを見ると、リカルドにとっては、スナック菓子の感覚なのかもしれない。
「なんで尻尾食べてんのよ!」
「え?食べ物だから食べただけだけど・・・」
「そうだけど!違うでしょ!」
「え?意味わかんね」
ユーリは立ち上がり、テーブルに両手を付いて大きな声を出すが、リカルドは目をパチパチさせている。
リカルドからすれば、食べれる物を食べただけなのだ。
ユーリがなぜ声を上げたのか、まるで理解できていない。
尻尾食べただけで、大声出す事もないと思ったが、尻尾食べればと挑発して、サラリと食べらたのが悔しかったのだろう。いつも淡々としてるのに、珍しく大きな声を出している。
「あはははは!もーやめてよ二人とも!おかしー!」
カチュアは二人のやりとりがツボに入ったようで、お腹を抱えて笑っている。
つられて俺も笑ってしまうと、ユーリは少し顔を赤くして、もういい!と言って腰を下ろし、黙々とご飯を食べ始めた。
リカルドは今だに状況を把握してないようで、首を傾げてユーリを見ていたが、まぁいっか!と、一人言(ひとりご)ちると、またガツガツとご飯を食べ始めた。
隣に座るカチュアに顔を向けると、丁度目が合った。
まだ笑いの余韻が残っているようで、油断すると吹き出しそうにも見える。
「今日は楽しいな」
「うん、ほんとにね」
いつもカチュアと二人でご飯を食べているけど、みんなで食べるのもいいなと思った。
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