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99 騎士団の階級と団長

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階段を上がり、収容所を出る。
レミューの後に付いて歩いて行くと、再び豪華な装飾を張り巡らせた通路に出た。

マルゴンの話に、みんなそれぞれ思うところがあったんだと思う。誰も口を開かず、黙って通路を歩いているだけだった。

玄関口まで戻ると、レミューが振り返り口を開いた。

「皆さん、お疲れ様でした。私はここまでです。色々お聞きしたい事もありますが、これから国王陛下への謁見とお伺いしておりますので、お時間をいただく事はできませんね。またご縁がありましたら、ゆっくりお話できるといいですね」

時計を見ると、12時を回ったところだった。まだ時間はあるが、余裕を持ってもう戻っていた方がいいだろう。

「ラヴァル・レミューと言ったな。覚えておく。治安部隊も騎士団も、これまで反発してきたが、これからこの国を取り巻く環境は厳しいものになっていくだろう。有事の際には、共に力を合わせて戦える事を願う」

「ええ、もちろんです。この国の平和のために、共に戦いましょう」

ヴァンの差し出した手を、レミューはしっかりと握った。
治安部隊と騎士団、対立していた二つの組織が、一歩近づいた瞬間だった。




城へ戻った俺達は、最初に通された部屋で、ヴァンとエルウィンから、あらためて謁見時の作法を教わった。

日本にいた頃、映画で見た事があるが、許可が下りるまで顔を上げてはならないとか、国王陛下への直言は許されないから、なにかあれば大臣を通せとか、そう難しくは思わなかったが、いざその場に立てば緊張して失敗するかもと思ったので、もし話す必要があった時には、レイチェルに頼む事にした。

レイチェルは、まかせておきな、と軽い口調で引き受けてくれた。
相手が誰であっても、物怖じせず毅然とした態度で対応できるのは流石だと思う。

男の俺がしっかりしないといけないと思うが、なにせ国王陛下だ。日本で言えば天皇陛下のような立場だろう。こういう事は、毎日副店長として皆をまとめているレイチェルが適任だと思う。

 「あ、ところでさ、今更だけどちょっと気になってたんだ。騎士団のレミューだけど、階級のシルバーってなに?」

「あぁ、それか、エルウィン、お前説明できるか?」

「はい、ちゃんと勉強してますよ」

ヴァンが隣のイスに座るエルウィンを促すと、エルウィンは向かいに座る俺とレイチェルに話し始めた。

「騎士団の階級は三つあります。新人はまずブロンズから始まって、武術や賊の討伐などで功績を出し、一定の成績を治めるとシルバーにランクアップします。シルバーは小隊長として、100~300の兵を従える権限を持てるようになります。そしてシルバーの中から、更に優秀と認められるとゴールドに昇格します。ゴールドは大隊長として、小隊長を率いる事になります。現在は団長のトレバー様の他、四名しかいません」

「へぇ、ゴールドって全部で五人しかいないんだ?凄そうだね?」

俺が感心したように答えると、エルウィンはヴァンに顔を向け、なんだか答えにくそうにしている。
ヴァンはそんなエルウィンの様子を見て、代わりに口を開いた。


「確かに、本来のゴールドは凄いんだが、今はその価値を落としているな。五人の内、ゴールドに見合う実力者は俺から見て二人だ。他三人は身分で成り上がっただけだな。シルバーもだ。シルバーは100人以上いるが、半数以上はやはり実力が伴っていない。そしてブロンズだが、騎士団は貴族や、良家の子息ばかりでな。ブロンズでも入団してるってだけで、見栄が張れるもんなんだよ。騎士団って名がステイタスだからな。
だから、そもそもやる気の無いヤツは、騎士団に入団できたってだけで、それ以上の向上心が持てなくなるヤツも多いんだ」

「そう言えば、そんな話聞いた事があるな。よくそれで成り立ってるな?団長はどうなんだ?」

俺の問いかけに、ヴァンはいつもの含み笑いで返してきた。

「クックック、団長のトレバーか・・・残念ながらアイツは、実力の伴わない三人のゴールドの一人だ。シルバー相当の力はあるだろうが、俺が見た限りじゃ、さっき会ったレミューの方が上だな。トレバーは公爵だからな、エリザベート王女とのご婚約もあると噂されている。ならば、それ相応の高い地位と名誉が必要だ。公爵で騎士団団長、これならば資格はある」

「う~ん、そう聞くとあんまり良い印象は持てないな。しかし、王女様とのご婚約か、じゃあそのトレバーって人が、次期国王の可能性もあったりするの?」

「いや、それはないな。王位継承権一位は、第一王子のマルス様だ。二位は第二王子のオスカー様。第三位のエリザベート様が、女王として即位される可能性は低いだろう。ただ、トレバーがエリザベート様とご結婚されると、発言力は相当なものになる。今は一時的に治安部隊が騎士団の指揮下に入っているが、治安部隊を解体して、騎士団を主軸とした新しい隊を作る事だって可能だろうな」

「え!?さっき、レミューと良い関係築いてたのに?」

「レミューみたいな騎士は珍しいぞ。だいたいは最初の門番みたいな、治安部隊を見下しているヤツばかりだ。レミューを基準に考えるな。トレバーは治安部隊を邪魔にしていたからな。今の状況はチャンスだろう。うまく騎士団と治安部隊をまとめる事ができれば、誰もご婚約に異を唱える事はできないだろうな」

ヴァンは溜息を付くと、天井に顔を向けて黙ってしまった。
やはり、騎士団の指揮下に入っている現状は、もどかしいのだろう。


丁度、会話が止まったタイミングで、ドアがノックされ静かに開いた。
侍女は頭を下げ入室して来ると、謁見のお時間となりました、と告げた。
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