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95 牢の中のマルゴン
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レミューの後に続き、建物の中に入ると、内装は城に負けないくらい広くて立派なものだった。
天井はとにかく高い。何本もの大きな柱があり、出入口のすぐ上には、豪華なシャンデリアが輝きを放っている。
壁は幾何学模様というヤツだろう。
三角、四角、菱形、丸などの図形が、なんとも表現しづらい配列で様々な模様を作っている。
こういう芸術は、よく分からないけど高そうだ。という印象しかない。
「治安部隊の本部とは、えらい違いだな」
ヴァンが内装を見ながら呟く。
「そうですね。私がこう言うのもなんですが、騎士団は貴族や大手商会の子息など、良家の集まりです。ですので、どうしても見栄えが大事になってしまいます。外観はまぁ、ある程度大人しい造りですが、内装は様々なお家(いえ)から寄付が集まり、このような豪華絢爛になったそうです。私が入団するよりずっと昔の話ですが・・・」
レミューは歩きながら周りに目を向けた。煌びやかな内装を見つめながら、どこか曇った表情をしている。
しばらく通路を進み、いくつかドアを開け行くと、急に通路がゴツゴツした石造りの無機質な作りになった。
「こちらです。暗いので、足元に気を付けてください」
重そうな鉄の扉を前に、レミューが立つ。
「ここから階段を降りると、罪人を収容しているフロアに出ます。マルコス・ゴンサレス。ジェイミー・アンカハス。ノルベルト・ヤファイの三人はここにいます」
レミューが扉を開けると、薄暗い中に、下へ降りる階段が見えた。
ここから先は明らかに空気が冷たくなった。どこに罪人を収容しているのかと思えば、豪華な建物の中に、このような場所を作っていたのか。
「地下か・・・騎士団は街の取り締まりにあまり関わらないため、収容している人数は少ないと聞くが、全体の数はどの程度なんだ?」
階段を降りながら、先頭のレミューにヴァンが声をかけた。
「牢の数は250あります。ですが、現在使用されている牢は37です。ご存じかと思いますが、騎士団は基本的には、政治犯や、横領貴族など、元の身分の高い者しか取り締まりません。城の周辺を中心に警備に付いておりますが、そうなにかあるわけでもなく、あったとしても治安部隊の方が先に制圧されるので、あまり出番はありません。ですから、牢の数は余っているのが現状です」
レミューの口調は、どこか呆れたように感じられた。
短い時間だが、ここまで話を聞いていて、あまり騎士団の現状を快く思っていないのかもしれないと感じた。
薄暗い階段を降りると、開けた場所に出た。
両脇に牢屋が隙間無く並び、それが奥まで一本道で続いている。道幅は広く、5~6人並んで歩いても余裕がある位だった。
牢の中に目を向けると、どの牢もベッドが1台あるだけで、他には何も無かった。
「ほぅ・・・治安部隊とは全然違うな。通路の両脇に一人用の牢を並べているのか。250と言ったな?そうすると、左右に125の牢を一直線に並べているのか?」
ヴァンも物珍し気に、牢の中や周りに視線を巡らせながら、レミューへ言葉を向けた。
「その通りです。このフロア一つで全ての罪人が管理できる事で、時間の短縮になる事がメリットと聞いております」
「そうか・・・ここは地下だし、上には頑丈な鉄の扉、そして収容されるのは戦闘には程遠い人物ばかり・・・そう考えると、脱走や脱獄の心配はほとんどないな。だがよ、マルコスを閉じ込めておくには物足りなくねぇか?」
ヴァンはレミューに顔を向け、強い視線を送った。どう答えるか試しているようにも見える。
「・・・ご指摘の通りです。ここに収容される人物は、戦闘とは無縁の者ばかりです。それ以外は、治安部隊の方へまかせっきりでした。これまではそれで何も問題は起きませんでした。私自身、今回マルコス・ゴンサレスが投獄されるまで、何も疑問を抱きませんでした。ですが、ここに連れて来られたマルコス・ゴンサレスを間近で見た時・・・ハッキリと体で感じました。ここでは無理だと・・・・・・あの男は、その気になればいつでも出れます。それこそ自宅の玄関を開けるくらい簡単に・・・幸い、行動を起こす気は無いようですが・・・・・・」
「クックック・・・お前は自分の組織を客観的に見れるんだな。その通りだ。こんな牢、あの筋肉の塊には何の意味も成さない。だが、お前の言う通り、出る気はないんだろうな。騎士団からの報告で聞いているが、俺やカリウス、今回の件に関わったヤツの責任を一身で受けると言っているそうじゃねぇか?俺はその真意が知りたいんだよ」
ヴァンが、行こうぜ、といってレミューを促すと、レミューは黙って頷き前を歩き出した。
そうだ。マルコスだけでなく、アンカハス、ヤファイも同様に責任を持つと言っているらしい。
俺には、二人の気持ちがなんとなくだけど分かる気がした。
アンカハスは俺の後にヴァンと戦い、ヤファイはカリウスさんと戦った。
その戦いの中で、きっと自分達が目指していた治安部隊を思い出したんだと思う。
罪を償いやり直すため、自分達の心のけじめとして、必要な事なのだろう。
そして、マルゴン。残念だけど、こいつの気持ちはハッキリ聞かないと分からない。
何しろ底の知れないヤツだからな。
「よぅ、マルゴン。今度はお前が牢の中だな」
「サカキアラタ、しばらくですね。来ると思ってましたよ」
通路の一番の奥の牢にマルゴンはいた。
冷たい床の上に腰を下ろし、ただ目を瞑っていたが、俺が声をかけると、驚いた様子も無く、自然に言葉を返してきた。
天井はとにかく高い。何本もの大きな柱があり、出入口のすぐ上には、豪華なシャンデリアが輝きを放っている。
壁は幾何学模様というヤツだろう。
三角、四角、菱形、丸などの図形が、なんとも表現しづらい配列で様々な模様を作っている。
こういう芸術は、よく分からないけど高そうだ。という印象しかない。
「治安部隊の本部とは、えらい違いだな」
ヴァンが内装を見ながら呟く。
「そうですね。私がこう言うのもなんですが、騎士団は貴族や大手商会の子息など、良家の集まりです。ですので、どうしても見栄えが大事になってしまいます。外観はまぁ、ある程度大人しい造りですが、内装は様々なお家(いえ)から寄付が集まり、このような豪華絢爛になったそうです。私が入団するよりずっと昔の話ですが・・・」
レミューは歩きながら周りに目を向けた。煌びやかな内装を見つめながら、どこか曇った表情をしている。
しばらく通路を進み、いくつかドアを開け行くと、急に通路がゴツゴツした石造りの無機質な作りになった。
「こちらです。暗いので、足元に気を付けてください」
重そうな鉄の扉を前に、レミューが立つ。
「ここから階段を降りると、罪人を収容しているフロアに出ます。マルコス・ゴンサレス。ジェイミー・アンカハス。ノルベルト・ヤファイの三人はここにいます」
レミューが扉を開けると、薄暗い中に、下へ降りる階段が見えた。
ここから先は明らかに空気が冷たくなった。どこに罪人を収容しているのかと思えば、豪華な建物の中に、このような場所を作っていたのか。
「地下か・・・騎士団は街の取り締まりにあまり関わらないため、収容している人数は少ないと聞くが、全体の数はどの程度なんだ?」
階段を降りながら、先頭のレミューにヴァンが声をかけた。
「牢の数は250あります。ですが、現在使用されている牢は37です。ご存じかと思いますが、騎士団は基本的には、政治犯や、横領貴族など、元の身分の高い者しか取り締まりません。城の周辺を中心に警備に付いておりますが、そうなにかあるわけでもなく、あったとしても治安部隊の方が先に制圧されるので、あまり出番はありません。ですから、牢の数は余っているのが現状です」
レミューの口調は、どこか呆れたように感じられた。
短い時間だが、ここまで話を聞いていて、あまり騎士団の現状を快く思っていないのかもしれないと感じた。
薄暗い階段を降りると、開けた場所に出た。
両脇に牢屋が隙間無く並び、それが奥まで一本道で続いている。道幅は広く、5~6人並んで歩いても余裕がある位だった。
牢の中に目を向けると、どの牢もベッドが1台あるだけで、他には何も無かった。
「ほぅ・・・治安部隊とは全然違うな。通路の両脇に一人用の牢を並べているのか。250と言ったな?そうすると、左右に125の牢を一直線に並べているのか?」
ヴァンも物珍し気に、牢の中や周りに視線を巡らせながら、レミューへ言葉を向けた。
「その通りです。このフロア一つで全ての罪人が管理できる事で、時間の短縮になる事がメリットと聞いております」
「そうか・・・ここは地下だし、上には頑丈な鉄の扉、そして収容されるのは戦闘には程遠い人物ばかり・・・そう考えると、脱走や脱獄の心配はほとんどないな。だがよ、マルコスを閉じ込めておくには物足りなくねぇか?」
ヴァンはレミューに顔を向け、強い視線を送った。どう答えるか試しているようにも見える。
「・・・ご指摘の通りです。ここに収容される人物は、戦闘とは無縁の者ばかりです。それ以外は、治安部隊の方へまかせっきりでした。これまではそれで何も問題は起きませんでした。私自身、今回マルコス・ゴンサレスが投獄されるまで、何も疑問を抱きませんでした。ですが、ここに連れて来られたマルコス・ゴンサレスを間近で見た時・・・ハッキリと体で感じました。ここでは無理だと・・・・・・あの男は、その気になればいつでも出れます。それこそ自宅の玄関を開けるくらい簡単に・・・幸い、行動を起こす気は無いようですが・・・・・・」
「クックック・・・お前は自分の組織を客観的に見れるんだな。その通りだ。こんな牢、あの筋肉の塊には何の意味も成さない。だが、お前の言う通り、出る気はないんだろうな。騎士団からの報告で聞いているが、俺やカリウス、今回の件に関わったヤツの責任を一身で受けると言っているそうじゃねぇか?俺はその真意が知りたいんだよ」
ヴァンが、行こうぜ、といってレミューを促すと、レミューは黙って頷き前を歩き出した。
そうだ。マルコスだけでなく、アンカハス、ヤファイも同様に責任を持つと言っているらしい。
俺には、二人の気持ちがなんとなくだけど分かる気がした。
アンカハスは俺の後にヴァンと戦い、ヤファイはカリウスさんと戦った。
その戦いの中で、きっと自分達が目指していた治安部隊を思い出したんだと思う。
罪を償いやり直すため、自分達の心のけじめとして、必要な事なのだろう。
そして、マルゴン。残念だけど、こいつの気持ちはハッキリ聞かないと分からない。
何しろ底の知れないヤツだからな。
「よぅ、マルゴン。今度はお前が牢の中だな」
「サカキアラタ、しばらくですね。来ると思ってましたよ」
通路の一番の奥の牢にマルゴンはいた。
冷たい床の上に腰を下ろし、ただ目を瞑っていたが、俺が声をかけると、驚いた様子も無く、自然に言葉を返してきた。
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