上 下
93 / 1,253

93 再会

しおりを挟む
クインズベリー国 首都エバーラスト

城下街ブロンクスから、馬車で約20分。アラタ達はスパーグリン城へ着いた。

協会からは歩いて数分なので、遠目には見た事があった。だけど、間近で見る城というものは迫力が違った。

お城の一階部分は四角形になっていて、城の角にはそれぞれ塔がある。
外観は白をベースにした落ち着いた配色が美しく、門の中に入ると綺麗に整えられた庭園があり、中央には噴水もあった。
そして言うまでも無い事だが、とにかく広かった。

エルウィンも入城許可を与えられており、城内に入ると、俺とレイチェルとエルウィンの三人は、侍女の案内で控え室へ通された。

城の内装はとても豪華で、壁の装飾や模様は、芸術が分からない俺でも魅力を感じ、感嘆の声が出る程素晴らしいものだった。

俺達がここに着いたら、ヴァンが来る事になっていたらしく、エルウィンがその旨を伝えると、侍女が取り次ぎをしてくれる事になった。

「すぐに来ると思いますよ」

エルウィンは室内を見回しながら口を開いた。
室内は惜しみなく金を使った豪華な装飾ばかりで、シャンデリアは圧倒される程大きく、目が痛くなりそうな程だった。



「ふ~・・・こういう部屋は落ち着かないもんだな。俺は店の事務所の方がくつろげるや」

エルウィンと同じように、室内をぐるりと見まわし、その広さと豪華さに溜息をもらしながら呟くと、レイチェルも相槌を打ちながら、一人掛けのイスに腰を下ろした。

「ふふ、そうだな。私もこういう部屋はあまり好きじゃない。住む世界が違うんだな」

「俺も、普段は寝そべったらいっぱいの広さの部屋なんで、この部屋は無理です」

エルウィンもレイチェルの向かいのイスに腰を下ろし、部屋の内装や広さについて話している。
確かに住む世界が違い過ぎると、何を言っていいのか分からない。



軽いノック音が聞こえ、出入り口に顔を向けると、静かにドアが開き、侍女が頭を下げて一歩入って来た。

「ヴァン・エストラーダ様がお見えでございます」

侍女の横を通り、坊主頭の男が部屋へ足を踏み入れて来た。

身長は俺と同じくらい。牢にいた頃よく見た、暗めの茶色のボディアーマーを身に着けている。

「よぉ、なんだかずいぶん久しぶりな感じだぜ」

「ヴァン、元気そうでなによりだ・・・って、髪とか髭とか、さっぱりしたな」

ヴァンと握手を交わし、お互いに顔を見やる。
いつも取り調べに連れて行かれる時にしか、お互いの顔を見る事はなかった。
壁越しでしか会話をした事もない。不思議な縁で繋がった仲だった。

ヴァンはいつもの含み笑いをしながら、坊主頭をさすった。

「クックック、寝てる間によ、こうなってたんだわ。まぁ、ずいぶんぼさぼさだったからな。
さっぱりしたのは悪くないんだが、2~3日は頭も顎もスースーして落ち着かなかったな」

「けっこう似合ってるじゃないか。もうずっと坊主でいいんじゃないか?」

「クックック、適当言ってんじゃねぇよ。ま、謁見まで、まだしばらくあるだろ?座って話しようぜ」

そう言ってヴァンは、レイチェルとエルウィンにも顔を向けると、奥にある10人以上座れる長テーブルを指した。


俺とレイチェルが並んで座り、ヴァンとエルウィンが対面するように向かいに腰を下ろした。
テーブル一つとっても、豪華な細工が施されており、腕を乗せる事を一瞬躊躇うと、ヴァンに笑い飛ばされた。

「おいおい、アラタよぉ、イスに座って、テーブルに肘ついたくらいで壊れねぇし、傷もつかねぇよ。自分家みたくくつろげって」

レイチェルも、侍女が用意した紅茶に口をつけながら笑っている。

「あっははは!アラタ、さすがにビビリ過ぎだ。ほら、紅茶でも飲んで一息つくといい。美味いぞ」

「そんなに笑う事・・・お?これ美味いな」

勧められるまま一口飲んでみると、ちょっと驚く美味さだった。
いつも事務所で飲んでいるコーヒーや紅茶とは、明らかにものが違っている。
香り高く、味も深みがあった。さすが城でだされるものは、紅茶一つとっても格が違うようだ。


「クックック、紅茶一つで感心した顔しやがって、相変わらず面白いなヤツだな。それで、今どうだ?何も問題なく働けているか?」

「あぁ、一週間くらい休んだけど、数日前から仕事に復帰したよ。もうすっかり大丈夫だ。心配かけたな。ヴァンも寝込んでたんだろ?もういいのか?」

「俺は二日寝てたらしい。怪我はいいんだけど、問題は鈍りだな。投獄される前の状態に戻すには、かなりかかりそうだ。すっかり衰えてる。時間かけてやるしかないな。
それとよ、起きたらエルウィンから隊長なんて呼ばれて驚いたぜ。そりゃ自分でもやる気でいたけど、寝てる間にほぼ決まってたようでな。まだ国から正式な承認が下りてないけど、今日の謁見で承認されるんじゃないかと思う」


ヴァンが隊長になるのか。良かった。
信頼を取り戻すには時間がかかるだろうけど、ヴァンなら街の人との関係もきっと回復できると信じられる。

「ヴァン、無事に隊長になれそうで良かったよ。お前なら大丈夫だ。期待してるよ」

「クックック、まぁ、まだ正式に承認されてないがな」

「大丈夫ですよ!ヴァン隊長ってもう決まってますから!」

エルウィンが拳を握って、力強く断言してきた。
レイジェスと治安部隊の連絡係にエルウィンを推薦したのは、ヴァンと聞いている。

今日も、馬車での送迎だけでなく、この場に同席させている事から、ヴァンがエルウィンに目をかけている様子が窺える。


「ところで、マルコスには会えるかい?」


話の一区切りがついたタイミングで、レイチェルがヴァンに声をかけた。
ヴァンはレイチェルに目を向けると、すぐには返事をせず、紅茶を一息で飲み干してから言葉を返した。

「・・・あぁ、会えるぞ。話しは通しておいた。エルウィンから聞いていたが、どうしても会わないといけないんだって?」

ヴァンにも、俺が異世界から来た話はしていない。マルゴンと村戸さんの話をするならば、おそらく触れる事になるだろう。俺がレイチェルに顔を向けると、レイチェルも俺に目を向け、察したように頷いた。

そうだな、もう治安部隊との戦いは終わったんだ。

「ヴァン、ずっと黙ってたけど・・・俺、この世界の人間じゃないんだ。日本というところから来た・・・」




俺はこの世界に来る事になった経緯を説明した。
ヴァンもエルウィンも、最初は疑いの目を向けてきたが、黙って最後まで話を聞くと、納得のいくところもあったのか、腕を組んで頷いている。

「・・・そうか、まぁなんとなく腑に落ちたな。そう言えばお前、出身とかの話したがらなかったし、誰でも知ってる事を知らなかったり、色々おかしかったもんな。この世界の人間じゃないってんなら、なるほどってなるぜ」

「そっか、アラタさんは何か他の人と違うなって思ってましたけど、そういう事情なら納得です。でも、アラタさんはアラタさんだから、俺の中では何も変わりませんよ!」


ヴァンもエルウィンも、好意的に受け止めてくれたようで安心した。
あんまり言いふらして歩く事ではないが、治安部隊との対立も終わった事だし、近しい人には打ち明けていって問題ないだろう。


「それで、マルゴンに会いたい理由なんだけど、実は俺の元いた世界から、もう一人こっちに来ているみたいなんだ。マルゴンは知ってるようで、その人の話を聞きたい」

「はぁ!?なんだって!?」

「え!?本当ですか!?」

ヴァンもエルウィンも、テーブルに身を乗り出してきた。
俺がマルゴンと戦った時に、聞いた話をすると、二人とも眉間にシワを寄せ、難しい顔で首を傾げている。

「・・・マルコスがそんな嘘を付く理由も思いつかないし、現にアラタが異世界から来たって話だからな・・・まぁ、いるんじゃねぇのかな?10年前ってのが計算おかしいが、まぁマルコスと話せば分かんだろ。じゃあ、さっそく行くか?」

ヴァンは時計に目をやると、腰を上げた。まだ11時だ。時間には余裕がある。


「マルコスは騎士団の収容所にいるんだって?」

レイチェルが席を立ちながら確認をする。


「そうだ。騎士団の本部は城を出てすぐだ。謁見の事を考えると、ここには12時30分には戻ってきていた方がいいな。午前中の内に行けると思うと伝えてあるから、行くならもう出よう」

俺もエルウィンもそれぞれ席を立ち、ヴァンを先頭に部屋を出た。
部屋の外で待機していた侍女に、騎士団の本部に行く事と、12時30分には戻る事を伝え外へ出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...