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91 迎え
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閉店後、俺のスーツのお披露目もなんとか無事に終わった。
概ね好評だったが、リカルドとユーリは初めてスーツを見たようで、あっちこっちジロジロと眺められた。
日本と違って、こっちではめったに着ないと言うし、こういう反応にもなるのかなと思う。
しかし、ジャレットさんが、シャツよりタンクトップじゃね?
と言い出した時はさすがに固まった。
秋になって、ジャレットさんの服装も変わった。
今日はダークブラウンのレザージャケットに、腿から膝にかけて色落ちしたインディゴのデニムを穿いている。そしてインナーは黒のタンクトップだ。
「アラやんよ、スーツの中だけど、シャツよりタンクトップのがいんじゃね?」
一式着替え終わると、ジャレットさんが顎をさすりながら観察するように俺を見て、そう言ったのだ。
「い・・やぁ~・・・そのぉ、それは・・・」
「ほら、俺もジャケットは長袖だけど、中はタンクトップじゃん?スーツも同じじゃね?」
よく分からない。なにが同じなんだ?
そして本気だ。さらに好意で言ってくれているから余計困る。非常に断りづらい。
ジャレットさんは、カバンから予備のタンクトップを出そうとしてるし、どうする!?
どうやって切り抜ける!?
スーツにタンクトップ?探せばいるのかもしれないが、俺は無理だ。
しかも国王に会うんだぞ?その後の結婚式でも?いやいやいや!
「ジャ、ジャレットさん!俺はまだジャレットさんのファッションセンスに到底及びません!ジャレットさんのシンボルであるタントップは、ひよっこの俺にはまだまだ似合いません!だから、いつかジャレットさんの背中が見えた時に着る事ができればと思います!」
俺の叫びに、ジャレットさんは目を開いて動きを止めた。
どうだ?
マルゴンと戦った時の緊張感に勝るとも劣らない、この沈黙・・・
俺の言葉は正解だったのか?それとも不正解だったのか?
俺の出した答えは通ったか?
「・・・お、おおおぉぉぉッツ!そうか!アラやん!お前タンクトップと俺の事をそこまで考えていたのか!分かった!俺がきっと一人前のタンクトッパーにしてやるからな!それまで辛いだろうが、タンクトップはお預けだ!」
ジャレットさんは俺の両肩を掴み、痛いくらい前後にゆさぶりながら大声で感動を叫んだ。
タンクトッパーってなんだよ!?と、ツッコミたかったが、
俺は精神の消耗と安堵ですぐにでも横になりたいくらいだったので、黙っていた。
皆笑いをこらえてぷるぷるしていたのは知っている。
「さて、アラタ、準備はできたかい?」
「おう。バッチリだよ」
10月2日 午前9時30分
この日、俺とレイチェルは、協会での一件で、国王への謁見する事になった。
10時にエルウィンが馬車で迎えに来る事になっているので、少し早めに事務所で着替えて準備をしている。
謁見は午後1時からだ。城まで馬車なら20分程度なので、早過ぎる気もしたのだが、レイチェルが言うには、万が一にも遅れる事は許されない事と、謁見前にマナーの確認も行う事を考えれば、このくらい早く行動する事は普通なのだそうだ。
「アラタ君、スーツ似合ってるよ」
「ありがとう。なんか照れるね」
「キミ達さ、最近人目も気にせずイチャついてないかい?」
カチュアにスーツを褒められて照れていると、レイチェルが軽く息を付いてつっこみを入れてきた。
「あ、ごめんレイチェル!つい・・・」
「あはは、怒ってないよ。ちょっといじっただけ。仲良くて何よりさ」
今日はレイチェルもスーツを着ている。下はパンツではなくスカートだ。
ワインレッドのストライプスーツだった。レイチェルの髪色は鮮やかな明るい赤だが、スーツは暗めのワインレッドで、レイチェルの赤い髪を引き立てて、より魅力的に見える役を買っている。
ストライプ模様は、光の加減でストライプが見えるようになっており、少し距離を開けると無地にも見える。
ネクタイはしておらず、襟の開きの大きい白のワイドカラーシャツは一番上のボタンだけ外している。
「あ、レイチェルのスカートって、初めてじゃないか?」
「あぁ、そう言えばスカートなんて何年ぶりだろうな?こういう時でもないと私は穿かないからな」
「もったいないよね。レイチェル、足長いしスカート似合うんだから、普段から穿けばいいのに」
そんな話をしていると、従業員用の出入口が軽くノックされた。
「お、来たかな?」
ドアを開けると、エルウィンが立っていた。その後ろには、二頭馬の四輪馬車が見える。
前輪と後輪の間には、人が乗るための箱、ワゴンがある。の大きさから見て、大人4人くらいなら乗れそうだ。
「おはようございます。お迎えに上がりました」
「おはようエルウィン、今日はよろしくな」
「まかせてください!送り迎えは俺がしっかり務めます!あ、ヴァン隊長が会いたがってましたよ。国王陛下への謁見前に、少し時間が取れましたので、着いたら最初に会ってください」
「本当か!俺もヴァンと会いたかったんだ。ぜひ頼むよ」
マルゴンとの戦いが終わった後、ヴァンは満身創痍で寝込んでいたと聞いている。
今は回復して、職務に復帰したと聞いていたが、あの戦いの後一度も会えていないので楽しみだ。
「おはようエルウィン、今日は世話になるよ」
「レイチェルさん!おはようございます!これ、レイチェルさんのために取ってきました!」
俺の後ろからレイチェルが出て来ると、エルウィンは一つ声を高く挨拶し、手にしていた赤四つ葉をレイチェルに差し出した。
「ありがとうエルウィン、今日はこの通り赤いスーツなんだ。胸に飾らせてもらうよ」
レイチェルはエルウィンから赤四つ葉を受け取ると、上着の胸ポケットに赤四つ葉を差し込んだ。
そして、エルウィンの頭を撫でると、エルウィンは身をよじらせてレイチェルの手から逃れる。
「こ、子供扱いしないでください!すぐに大きくなりますから!」
「ふふ、楽しみにしてるよ」
エルウィンには子供扱いされていると感じているようだが、少し顔が赤いし、本気で嫌がってはいないように見える。レイチェルもそれを分かっているようで、優しく微笑んでいる。
「エルウィン、アラタ君とレイチェルをよろしくね」
「はい、まかせてください。じゃあ、お二人とも馬車に乗ってください」
カチュアに見送られながら、俺とレイチェルは馬車に乗り込んだ。
中は二人掛けのソファが向かい会う形で前後に備え付けられている。
それぞれ向かい会う形で座ると、エルウィンが、出します、と声をかけて馬車は走り出した。
概ね好評だったが、リカルドとユーリは初めてスーツを見たようで、あっちこっちジロジロと眺められた。
日本と違って、こっちではめったに着ないと言うし、こういう反応にもなるのかなと思う。
しかし、ジャレットさんが、シャツよりタンクトップじゃね?
と言い出した時はさすがに固まった。
秋になって、ジャレットさんの服装も変わった。
今日はダークブラウンのレザージャケットに、腿から膝にかけて色落ちしたインディゴのデニムを穿いている。そしてインナーは黒のタンクトップだ。
「アラやんよ、スーツの中だけど、シャツよりタンクトップのがいんじゃね?」
一式着替え終わると、ジャレットさんが顎をさすりながら観察するように俺を見て、そう言ったのだ。
「い・・やぁ~・・・そのぉ、それは・・・」
「ほら、俺もジャケットは長袖だけど、中はタンクトップじゃん?スーツも同じじゃね?」
よく分からない。なにが同じなんだ?
そして本気だ。さらに好意で言ってくれているから余計困る。非常に断りづらい。
ジャレットさんは、カバンから予備のタンクトップを出そうとしてるし、どうする!?
どうやって切り抜ける!?
スーツにタンクトップ?探せばいるのかもしれないが、俺は無理だ。
しかも国王に会うんだぞ?その後の結婚式でも?いやいやいや!
「ジャ、ジャレットさん!俺はまだジャレットさんのファッションセンスに到底及びません!ジャレットさんのシンボルであるタントップは、ひよっこの俺にはまだまだ似合いません!だから、いつかジャレットさんの背中が見えた時に着る事ができればと思います!」
俺の叫びに、ジャレットさんは目を開いて動きを止めた。
どうだ?
マルゴンと戦った時の緊張感に勝るとも劣らない、この沈黙・・・
俺の言葉は正解だったのか?それとも不正解だったのか?
俺の出した答えは通ったか?
「・・・お、おおおぉぉぉッツ!そうか!アラやん!お前タンクトップと俺の事をそこまで考えていたのか!分かった!俺がきっと一人前のタンクトッパーにしてやるからな!それまで辛いだろうが、タンクトップはお預けだ!」
ジャレットさんは俺の両肩を掴み、痛いくらい前後にゆさぶりながら大声で感動を叫んだ。
タンクトッパーってなんだよ!?と、ツッコミたかったが、
俺は精神の消耗と安堵ですぐにでも横になりたいくらいだったので、黙っていた。
皆笑いをこらえてぷるぷるしていたのは知っている。
「さて、アラタ、準備はできたかい?」
「おう。バッチリだよ」
10月2日 午前9時30分
この日、俺とレイチェルは、協会での一件で、国王への謁見する事になった。
10時にエルウィンが馬車で迎えに来る事になっているので、少し早めに事務所で着替えて準備をしている。
謁見は午後1時からだ。城まで馬車なら20分程度なので、早過ぎる気もしたのだが、レイチェルが言うには、万が一にも遅れる事は許されない事と、謁見前にマナーの確認も行う事を考えれば、このくらい早く行動する事は普通なのだそうだ。
「アラタ君、スーツ似合ってるよ」
「ありがとう。なんか照れるね」
「キミ達さ、最近人目も気にせずイチャついてないかい?」
カチュアにスーツを褒められて照れていると、レイチェルが軽く息を付いてつっこみを入れてきた。
「あ、ごめんレイチェル!つい・・・」
「あはは、怒ってないよ。ちょっといじっただけ。仲良くて何よりさ」
今日はレイチェルもスーツを着ている。下はパンツではなくスカートだ。
ワインレッドのストライプスーツだった。レイチェルの髪色は鮮やかな明るい赤だが、スーツは暗めのワインレッドで、レイチェルの赤い髪を引き立てて、より魅力的に見える役を買っている。
ストライプ模様は、光の加減でストライプが見えるようになっており、少し距離を開けると無地にも見える。
ネクタイはしておらず、襟の開きの大きい白のワイドカラーシャツは一番上のボタンだけ外している。
「あ、レイチェルのスカートって、初めてじゃないか?」
「あぁ、そう言えばスカートなんて何年ぶりだろうな?こういう時でもないと私は穿かないからな」
「もったいないよね。レイチェル、足長いしスカート似合うんだから、普段から穿けばいいのに」
そんな話をしていると、従業員用の出入口が軽くノックされた。
「お、来たかな?」
ドアを開けると、エルウィンが立っていた。その後ろには、二頭馬の四輪馬車が見える。
前輪と後輪の間には、人が乗るための箱、ワゴンがある。の大きさから見て、大人4人くらいなら乗れそうだ。
「おはようございます。お迎えに上がりました」
「おはようエルウィン、今日はよろしくな」
「まかせてください!送り迎えは俺がしっかり務めます!あ、ヴァン隊長が会いたがってましたよ。国王陛下への謁見前に、少し時間が取れましたので、着いたら最初に会ってください」
「本当か!俺もヴァンと会いたかったんだ。ぜひ頼むよ」
マルゴンとの戦いが終わった後、ヴァンは満身創痍で寝込んでいたと聞いている。
今は回復して、職務に復帰したと聞いていたが、あの戦いの後一度も会えていないので楽しみだ。
「おはようエルウィン、今日は世話になるよ」
「レイチェルさん!おはようございます!これ、レイチェルさんのために取ってきました!」
俺の後ろからレイチェルが出て来ると、エルウィンは一つ声を高く挨拶し、手にしていた赤四つ葉をレイチェルに差し出した。
「ありがとうエルウィン、今日はこの通り赤いスーツなんだ。胸に飾らせてもらうよ」
レイチェルはエルウィンから赤四つ葉を受け取ると、上着の胸ポケットに赤四つ葉を差し込んだ。
そして、エルウィンの頭を撫でると、エルウィンは身をよじらせてレイチェルの手から逃れる。
「こ、子供扱いしないでください!すぐに大きくなりますから!」
「ふふ、楽しみにしてるよ」
エルウィンには子供扱いされていると感じているようだが、少し顔が赤いし、本気で嫌がってはいないように見える。レイチェルもそれを分かっているようで、優しく微笑んでいる。
「エルウィン、アラタ君とレイチェルをよろしくね」
「はい、まかせてください。じゃあ、お二人とも馬車に乗ってください」
カチュアに見送られながら、俺とレイチェルは馬車に乗り込んだ。
中は二人掛けのソファが向かい会う形で前後に備え付けられている。
それぞれ向かい会う形で座ると、エルウィンが、出します、と声をかけて馬車は走り出した。
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