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88 スーツを作ろう
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街の服屋、モロニースタイル、に来ていた。
なんと、キッチン・モロニーの店主、ディック・モロニーさんの弟が経営している店だった。
名前は、ジャック・モロニー。40代半ばくらいに見える。ガタイの良いディックさんと違い、年相応の標準的な体系だった。
髪は白髪も目立ったが、オールバックに整えていて、黒と白が綺麗なグレーにまとまっているように見える。
白のパリっとしたワイシャツと、紺無地のスラックスを合わせていて、日本でもよく見るサラリーマンのような印象を受けた。
レイチェルが一着持っていると言っていたスーツも、ここで作った物だったそうだ。
レイチェルもカチュアも、ここで服を買う事も多いようで、ジャックさんとは顔見知りだった。
俺の事を簡単に紹介して、スーツを作りたいと伝えると、フロアー奥のテーブル席に通された。
なかなか大きい店で、家族連れでも10組くらいは余裕を持って入れると思う。
メンズ、レディース、キッズ、全ての衣類が揃うので、ここで家族分を全て揃える家もあるだろう。
店内には植物も置いてあるし、明るく柔らかい雰囲気の店作りだった。
ハンガーラックには長袖Tシャツやナイロンジャンパーなど、秋物がかけられており、陳列台にはデニムパンツや、チノパンがたたんで置いてある。
カジュアルな店だったので、ここでスーツが作れるのか?と疑問に思っていると、ジャックさんはそんな俺の考えを読んだのか、人懐っこそうな柔和な笑みを浮かべて、丁寧に説明をしてくれた。
「スーツはめったに売れませんし、そもそも外であまり見ませんからね。どのようにして注文するか、ご存じ無い方は意外と多いんです。ですので私がこうしてご説明しながら、一緒に決めていくようにしております」
「なるほど、確かにそうですよね。何も分からないので、一緒に決めていただけると安心です」
長方形の少し大きいテーブルに、俺とカチュアとレイチェルが並んで座り、テーブルを挟んでジャックさんが座っている。
ジャックさんは、テーブルの中央にA4サイズくらいの白い台紙を何十枚も重ねて置くと、上から数枚取り俺達の前に並べていった。
「この台紙に貼ってあるのが生地です。見本ですので、あまり大きくはありませんが、この生地でスーツの出来上がり、着られた時のお姿を想像していただければと思います。
私物のスーツですが、見本にお持ちしますので、生地をご覧になってお待ちください」
並べられた台紙には、黒地に白のストライプや、グレーの無地など、様々な柄の生地が貼ってあった。
ジャックさんが席を立ち、フロアーを出て行くと、カチュアとレイチェルが次々に台紙を取っていった。
「レイチェル!レイチェル!何色がいいかな?あ、この色似合うと思わない?」
「いやいや、カチュア、アラタは意外に明るい色が似合うんじゃないかい?」
二人で生地を見ながら楽しそうにおじゃべりを始めた。
これいい!、いやいやこっちは?、と二人の世界に入ってしまっている。
俺を置いてけぼりにする盛り上がりを見て、着る本人の意見は聞いてもらえるのか?と心配になった。
普段のレイチェルからはあまりイメージできないが、レイチェルだってまだ19歳の女の子だ。
やはり買い物は楽しいのだろうなと思った。
俺も残っている生地を手に取り、色柄や手触りを確認しながら見ていった。
だが、生地は縦横10cm程度の大きさしかなく、自分が着たところと言われても、完成図のイメージが難しかった。これは、柄だけで決めるしかないのではないか?と思う。
「お!・・・これ、ちょっと良いかも・・・」
その生地は暗めの紺色に、明るい青のストライプが入った生地だった。
暗めの紺色は日本のサラリーマンがよく着ている印象があったが、俺はこの明るい青のストライプが気に入った。
「ねぇねぇアラタ君!私とレイチェルなんだけど、意見が一致したの!」
「アラタ、私とカチュアの二人はこれを推す!」
俺が決まると同時に、カチュアとレイチェルも決まったようだ。
どんなもんだと言わんばかりの勢いで、生地を俺の前に出してきた。声のトーンも一つ高い。
なんでこんなにテンション高いんだ?と俺は若干戸惑っている。
女同士の買い物はテンションが上がるものなのか?
二人が渡してきた生地は、俺が選んだ生地とは逆の色調だった。
明るい紺色の生地に、やや暗めの青いストライプが入っている。
日本のサラリーマンや公務員だと、ちょっと明るすぎない?と言われそうな明るさだ。
「ん~、良いと思うけど・・・ちょっと明るすぎない?こっちはどう?」
俺が控えめに断りながら、自分で選んだ生地を見せると、二人とも胸の前で手を斜めに交差させ、バツ印を作り揃って首を横に振った。息ピッタリだ。
「アラタ君は、こっちの方が似合うと思うの!明るい色の方がいいよ!」
「アラタ・・・国王陛下への謁見もだが、結婚式でも着るんだぞ?こう暗くてはちょっとな・・・」
「え?結婚式でも着るの?」
「当たり前だ。ニホンではどうか知らんが、体力型の男はスーツだ。ちなみに魔法使いは国のローブを結婚式用にアレンジするのが多いな」
そうだったのか。結婚式でも着ると考えると、暗い色よりは明るい方がいいかもしれない。
そう思い、自分で選んだ生地と見比べていると、ジャックさんがスーツを着たマネキンを持って戻って来た。
「お待たせしました。これが見本のスーツです。お選びいただいた生地で、この形のスーツをお作りします」
俺の知っているスーツとは、少し形が違っていた。
全体的には概ね同じなのだが、袖は一捲りされていて、外側に向け袖口が少しシャープに尖っているのだ。
そして上着だが、テープ上の布で、衿の端から裾の端まで包んでいる。パイピングというヤツだ。
スラックスも、ポケットの下から裾までの生地を合わせる縫製部分に、同色のパイピングがされていた。
明るめのグレーのスーツだったが、暗めのパイピングをあしらった事で、引き締まった感が出ている。
全体的な印象としては、日本でビジネスを目的として着るスーツではない。
結婚式の二次会や、なにかのパーティーだったら良いかもという感想だった。
「あ、カッコいいですね!」
「うん、アラタに似合いそうだよ」
ジャックさんのスーツを見ると、カチュアもレイチェルも、うんうん頷きながら、自分達の選んだ生地を合わせて、口々に褒めている。
「アラタ様、どちらの生地も良い物ですが、国王陛下への謁見と結婚式でしたら、明るいスーツにされてみてはいかがでしょうか?お二人の御見立ては確かだと思いますよ」
「・・・はい、そうですね。せっかく俺のために選んでくれたんだし、色も綺麗ですしね。今回はこちらにしようと思います」
俺の返事を聞くと、ジャックさんはまた柔和な笑みを浮かべ、かしこまりました、と言って頷いた。
物腰がとても柔らかく丁寧で、まるで映画に出て来るベテラン執事のように思えた。
その後は、ジャックさんが俺の身長、胸囲、胴回りなど細かく採寸していった。
裏地やボタンはお任せにした。選んだ生地に一番合うと思う物を選んでください、そうお願いした。
打ち合わせが終えると、ジャックさんは時計を見て、一時間程でできるから、店で待つか、外出するかと尋ねてきた。
レイチェルから、一時間でできると聞いてはいた。だが、正直なところ半信半疑だった。
やはり日本人の感覚なのだろう。どうやって?という疑問が解消されない。
「あの、一体どうやって一時間で作るんですか?」
俺がそう疑問を口にすると、ジャックさんは慣れた様子で答えてくれた。
「はい。まず今測りましたアラタ様の寸法通りに生地を裁断します。裁断は当店の、裁断職人の黒魔法使いが、風魔法で行いますのでご安心くださいませ。そして切った生地を固定魔法で合わせます。ボタンやパイピングも同じでございます。固定魔法は解除しなければ解けません。ただ、ボタンは外から見た際に固定されているだけだと、少々違和感もありますので、きちんと縫った上でほつれないように固定魔法をかける手順になります。以上の工程で所要時間が一時間以内でございます」
淀みなくスラスラと手順を説明し終えると、それでは早速作業に入ります、と俺達に告げフロアーを後にした。
「本当に一時間で作るんだ・・・」
説明を受けても尚、一時間でできるの?日本では一か月だよ?という疑念は完全には拭えなかったが、あれだけ堂々と説明をされると、信じるしかないという気持ちになってきた。
「アラタ、あとは受け取るだけだから、アタシは先に店に戻るよ。代金は支払ってあるから心配しないでいい。時間までカチュアとここで服を見るなり、外でお茶でもしてたらいいよ」
レイチェルは席を立つと、ショルダーバックを肩に掛け、一人で帰り支度を始めた。
「え!?いや、でもそれじゃあ悪いよ」
「うん、レイチェル、私達だけ休んでるなんて・・・」
俺とカチュアが席を立つと、レイチェルは手を前に出して言葉をふさいだ。
「まぁまぁ、もう少し楽に考えなよ。特にアラタはさ。誰もサボリなんて思わないよ。毎日真面目に働いてるの皆知ってるからね。今日は特別な日って訳ではないけどさ、アラタが結婚式でも着るスーツを注文したんだよ?
二人で時間を気にせず出来上がりを楽しみに待っててほしいんだ。だからカチュアも連れて来たんだ。それに、三人揃って帰って、出来上がりにまた取りに来るのも面倒じゃないか?待つのも仕事のうちだよ」
「レイチェル・・・ありがとう。なにからなにまで本当に」
ここまで俺達の事を考えてくれているなんて。
レイチェルの優しさに、申し訳ないくらいの気持ちになった。
「レイチェルー!」
カチュアは感動したようで、レイチェルに抱き着いている。
「よしよし、カチュアは可愛いね、まったく~」
レイチェルはそんなカチュアの頭と背中を、あやすように優しく撫でている。
せっかくの好意なので、俺とカチュアはそれに甘えさせてもらう事にした。
出来上がりが楽しみだ。
なんと、キッチン・モロニーの店主、ディック・モロニーさんの弟が経営している店だった。
名前は、ジャック・モロニー。40代半ばくらいに見える。ガタイの良いディックさんと違い、年相応の標準的な体系だった。
髪は白髪も目立ったが、オールバックに整えていて、黒と白が綺麗なグレーにまとまっているように見える。
白のパリっとしたワイシャツと、紺無地のスラックスを合わせていて、日本でもよく見るサラリーマンのような印象を受けた。
レイチェルが一着持っていると言っていたスーツも、ここで作った物だったそうだ。
レイチェルもカチュアも、ここで服を買う事も多いようで、ジャックさんとは顔見知りだった。
俺の事を簡単に紹介して、スーツを作りたいと伝えると、フロアー奥のテーブル席に通された。
なかなか大きい店で、家族連れでも10組くらいは余裕を持って入れると思う。
メンズ、レディース、キッズ、全ての衣類が揃うので、ここで家族分を全て揃える家もあるだろう。
店内には植物も置いてあるし、明るく柔らかい雰囲気の店作りだった。
ハンガーラックには長袖Tシャツやナイロンジャンパーなど、秋物がかけられており、陳列台にはデニムパンツや、チノパンがたたんで置いてある。
カジュアルな店だったので、ここでスーツが作れるのか?と疑問に思っていると、ジャックさんはそんな俺の考えを読んだのか、人懐っこそうな柔和な笑みを浮かべて、丁寧に説明をしてくれた。
「スーツはめったに売れませんし、そもそも外であまり見ませんからね。どのようにして注文するか、ご存じ無い方は意外と多いんです。ですので私がこうしてご説明しながら、一緒に決めていくようにしております」
「なるほど、確かにそうですよね。何も分からないので、一緒に決めていただけると安心です」
長方形の少し大きいテーブルに、俺とカチュアとレイチェルが並んで座り、テーブルを挟んでジャックさんが座っている。
ジャックさんは、テーブルの中央にA4サイズくらいの白い台紙を何十枚も重ねて置くと、上から数枚取り俺達の前に並べていった。
「この台紙に貼ってあるのが生地です。見本ですので、あまり大きくはありませんが、この生地でスーツの出来上がり、着られた時のお姿を想像していただければと思います。
私物のスーツですが、見本にお持ちしますので、生地をご覧になってお待ちください」
並べられた台紙には、黒地に白のストライプや、グレーの無地など、様々な柄の生地が貼ってあった。
ジャックさんが席を立ち、フロアーを出て行くと、カチュアとレイチェルが次々に台紙を取っていった。
「レイチェル!レイチェル!何色がいいかな?あ、この色似合うと思わない?」
「いやいや、カチュア、アラタは意外に明るい色が似合うんじゃないかい?」
二人で生地を見ながら楽しそうにおじゃべりを始めた。
これいい!、いやいやこっちは?、と二人の世界に入ってしまっている。
俺を置いてけぼりにする盛り上がりを見て、着る本人の意見は聞いてもらえるのか?と心配になった。
普段のレイチェルからはあまりイメージできないが、レイチェルだってまだ19歳の女の子だ。
やはり買い物は楽しいのだろうなと思った。
俺も残っている生地を手に取り、色柄や手触りを確認しながら見ていった。
だが、生地は縦横10cm程度の大きさしかなく、自分が着たところと言われても、完成図のイメージが難しかった。これは、柄だけで決めるしかないのではないか?と思う。
「お!・・・これ、ちょっと良いかも・・・」
その生地は暗めの紺色に、明るい青のストライプが入った生地だった。
暗めの紺色は日本のサラリーマンがよく着ている印象があったが、俺はこの明るい青のストライプが気に入った。
「ねぇねぇアラタ君!私とレイチェルなんだけど、意見が一致したの!」
「アラタ、私とカチュアの二人はこれを推す!」
俺が決まると同時に、カチュアとレイチェルも決まったようだ。
どんなもんだと言わんばかりの勢いで、生地を俺の前に出してきた。声のトーンも一つ高い。
なんでこんなにテンション高いんだ?と俺は若干戸惑っている。
女同士の買い物はテンションが上がるものなのか?
二人が渡してきた生地は、俺が選んだ生地とは逆の色調だった。
明るい紺色の生地に、やや暗めの青いストライプが入っている。
日本のサラリーマンや公務員だと、ちょっと明るすぎない?と言われそうな明るさだ。
「ん~、良いと思うけど・・・ちょっと明るすぎない?こっちはどう?」
俺が控えめに断りながら、自分で選んだ生地を見せると、二人とも胸の前で手を斜めに交差させ、バツ印を作り揃って首を横に振った。息ピッタリだ。
「アラタ君は、こっちの方が似合うと思うの!明るい色の方がいいよ!」
「アラタ・・・国王陛下への謁見もだが、結婚式でも着るんだぞ?こう暗くてはちょっとな・・・」
「え?結婚式でも着るの?」
「当たり前だ。ニホンではどうか知らんが、体力型の男はスーツだ。ちなみに魔法使いは国のローブを結婚式用にアレンジするのが多いな」
そうだったのか。結婚式でも着ると考えると、暗い色よりは明るい方がいいかもしれない。
そう思い、自分で選んだ生地と見比べていると、ジャックさんがスーツを着たマネキンを持って戻って来た。
「お待たせしました。これが見本のスーツです。お選びいただいた生地で、この形のスーツをお作りします」
俺の知っているスーツとは、少し形が違っていた。
全体的には概ね同じなのだが、袖は一捲りされていて、外側に向け袖口が少しシャープに尖っているのだ。
そして上着だが、テープ上の布で、衿の端から裾の端まで包んでいる。パイピングというヤツだ。
スラックスも、ポケットの下から裾までの生地を合わせる縫製部分に、同色のパイピングがされていた。
明るめのグレーのスーツだったが、暗めのパイピングをあしらった事で、引き締まった感が出ている。
全体的な印象としては、日本でビジネスを目的として着るスーツではない。
結婚式の二次会や、なにかのパーティーだったら良いかもという感想だった。
「あ、カッコいいですね!」
「うん、アラタに似合いそうだよ」
ジャックさんのスーツを見ると、カチュアもレイチェルも、うんうん頷きながら、自分達の選んだ生地を合わせて、口々に褒めている。
「アラタ様、どちらの生地も良い物ですが、国王陛下への謁見と結婚式でしたら、明るいスーツにされてみてはいかがでしょうか?お二人の御見立ては確かだと思いますよ」
「・・・はい、そうですね。せっかく俺のために選んでくれたんだし、色も綺麗ですしね。今回はこちらにしようと思います」
俺の返事を聞くと、ジャックさんはまた柔和な笑みを浮かべ、かしこまりました、と言って頷いた。
物腰がとても柔らかく丁寧で、まるで映画に出て来るベテラン執事のように思えた。
その後は、ジャックさんが俺の身長、胸囲、胴回りなど細かく採寸していった。
裏地やボタンはお任せにした。選んだ生地に一番合うと思う物を選んでください、そうお願いした。
打ち合わせが終えると、ジャックさんは時計を見て、一時間程でできるから、店で待つか、外出するかと尋ねてきた。
レイチェルから、一時間でできると聞いてはいた。だが、正直なところ半信半疑だった。
やはり日本人の感覚なのだろう。どうやって?という疑問が解消されない。
「あの、一体どうやって一時間で作るんですか?」
俺がそう疑問を口にすると、ジャックさんは慣れた様子で答えてくれた。
「はい。まず今測りましたアラタ様の寸法通りに生地を裁断します。裁断は当店の、裁断職人の黒魔法使いが、風魔法で行いますのでご安心くださいませ。そして切った生地を固定魔法で合わせます。ボタンやパイピングも同じでございます。固定魔法は解除しなければ解けません。ただ、ボタンは外から見た際に固定されているだけだと、少々違和感もありますので、きちんと縫った上でほつれないように固定魔法をかける手順になります。以上の工程で所要時間が一時間以内でございます」
淀みなくスラスラと手順を説明し終えると、それでは早速作業に入ります、と俺達に告げフロアーを後にした。
「本当に一時間で作るんだ・・・」
説明を受けても尚、一時間でできるの?日本では一か月だよ?という疑念は完全には拭えなかったが、あれだけ堂々と説明をされると、信じるしかないという気持ちになってきた。
「アラタ、あとは受け取るだけだから、アタシは先に店に戻るよ。代金は支払ってあるから心配しないでいい。時間までカチュアとここで服を見るなり、外でお茶でもしてたらいいよ」
レイチェルは席を立つと、ショルダーバックを肩に掛け、一人で帰り支度を始めた。
「え!?いや、でもそれじゃあ悪いよ」
「うん、レイチェル、私達だけ休んでるなんて・・・」
俺とカチュアが席を立つと、レイチェルは手を前に出して言葉をふさいだ。
「まぁまぁ、もう少し楽に考えなよ。特にアラタはさ。誰もサボリなんて思わないよ。毎日真面目に働いてるの皆知ってるからね。今日は特別な日って訳ではないけどさ、アラタが結婚式でも着るスーツを注文したんだよ?
二人で時間を気にせず出来上がりを楽しみに待っててほしいんだ。だからカチュアも連れて来たんだ。それに、三人揃って帰って、出来上がりにまた取りに来るのも面倒じゃないか?待つのも仕事のうちだよ」
「レイチェル・・・ありがとう。なにからなにまで本当に」
ここまで俺達の事を考えてくれているなんて。
レイチェルの優しさに、申し訳ないくらいの気持ちになった。
「レイチェルー!」
カチュアは感動したようで、レイチェルに抱き着いている。
「よしよし、カチュアは可愛いね、まったく~」
レイチェルはそんなカチュアの頭と背中を、あやすように優しく撫でている。
せっかくの好意なので、俺とカチュアはそれに甘えさせてもらう事にした。
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