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82 セインソルボ山 ③

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「ケイト、そっちはどうだ?」

「反応ないですね。じゃあ、次行きますか?」

山に入り、店長が事前に調べ絞ったポイントからサーチをかけていく。

店長は真実の花を見た事があるというので、ピンポイントでサーチを使っているが、アタシは見た事がない。そのため、花という種類でサーチを使っている。

だが、実際のところ、こんな雪山で育つ花なんてほとんどない。

真実の花くらいだろう。実質、花=真実の花。と考えていい。一つでも感知できれば、それが真実の花で間違いないだろう。


初日は入山口から平坦な道を歩き、いつでも戻れる範囲だけを探した。

真実の花は山のどこにでも咲くらしい。過去に発見されたというポイントをまずサーチして、そこで感知できなければ、見落としがないよう、二人合わせて1キロを順に平行にサーチして歩いた。



周囲の気温と気圧を調整する魔法テンパラのおかげで、汗もかかず寒くも無く、心地良い気温を保てている。

結界魔法のおかげで雨風も防げている。店長が歩いた後には雪も無いので歩きやすい。

ここまでは順調だった。





一か月が過ぎた。真実の花は一向に見つからず、アタシはジーンに会えないストレスが溜まり、機嫌が悪い日が続いていた。

最初は探索ペースも良かった。道も歩き安かったし、店長が事前にポイントを絞ってくれていた事もあったので、運が良ければ早く帰れるかもと期待もしていた。


でも、どのポイントも全て駄目だった。期待してポイントへ行き、駄目なら平行サーチでくまなく探索する事になる。これが続くとけっこうなストレスになった。


そして、今は標高2000メートル地点に来ている。
ここからはつるつるの急斜面が多く、足場もほとんどなく、岩壁には指を引っ掛けられる割れ目もほとんど無い。

青魔法使い以外は、ここから先に行く事は自殺行為だと思った。




「よし、ケイト足場はできた。行こうか」

ストーンワークという青魔法で、店長は何もない空間に石造りの足場を作った。
足場は岩壁にぴったりくっつけてある。


これは、簡単に言えば石を集めて空中で固定する魔法だ。
ちなみに鉱物なら何でもいい。

目視して魔力を浴びせれば石が浮くので、それをイメージした形に配置し固定する。
案外難しく、ハッキリしたイメージができないと、半端な形で固定されてしまう。

アタシが昔、足場を作った時は、あちこちに穴が開いてとても歩く事ができず失敗した事がある。

店長の作った足場は人が二人並んで歩けるくらいの幅は十分にあり、足元もつまずきそうな凹凸がなく、実によくできていた。

そしてストーンワークを応用して、つるつるの岩壁に、姿勢を崩さないための握れる石の棒を、いくつも作り固定していたのだ。

これで青魔法が苦手と言うのだから、青魔法専門のアタシは苦笑いをするしかない。



「・・・店長~、花探し、いつまでかかりますかね?アタシそろそろジーンに会いたいです」

「すまないケイト。ハッキリ言って、いつ終わるかは俺も分からない。次のサーチで見つかるかもしれないし、もう一か月かかるかもしれない。キミとジーンを離れ離れにしてしまった事は、謝る事しかできない」

そう言って店長はアタシに頭を下げた。


「ちょっと、店長!頭下げないで!レイチェルが知ったらアタシが怒られるから!あの子、店長の事めっちゃ尊敬してんだから!もう言わないから、頭上げてください!」

アタシは店長の頭を無理やり上げさせて溜息をついた。



「ふー・・・こうなったら、とことんやるしかないね。店長、さっさとやりましょう」

「では、俺は左側に使う、ケイトは右半分で頼むぞ」


二人で岩肌に向け片手を出しサーチをかける。
薄く青い光が手の平に集まり出し、岩肌から放射状に広がっていった。



「・・・右側は反応無しです」
「左も駄目だな、しかたない。次に行こう」

もう何百回このやり取りを繰り返しただろう。店長はストーンワークを使い石を集めると、足場を追加していった。

「ケイト、魔力はまだ持つか?」

新しくできた足場を黙って歩いていると、ふいに店長が声をかけてきた。

「もう日も暮れてきましたね・・・朝からずっとサーチでけっこう減ってます。サーチをあと4~5回やれば、魔力切れになると思います」

「そうか・・・では、今日のところは次で最後にしよう」


移動を終え本日最後のサーチを行うが、やはり反応は無かった。



帰りは店長が風魔法を使い、飛び降りるから楽だ。
足元に風を集め、ゆっくりと降りるのだ。


「いつもすみませんね、店長」

「当然の事じゃないか、むしろジーンでなくて、俺で申し訳ないくらいだよ」


アタシは店長に手を取ってもらい降りている。
風魔法だが、店長がアタシの足に、自分と同じように風を集める事はできる。


だが、それで店長と同じように動けるかと言うと、答えは動けない。


アタシは青魔法だから、黒魔法に干渉できないからだ。普通に歩く事はできるが、飛んだり、風を操る事はできないので、風魔法の恩恵を受ける事はできない。店長に風を集めてもらっても、結局動かす事はできない。


店長が風を操作して、アタシを動かすという方法は取れる。だが、これは対象者、今回はアタシに高いボディバランスが求められる。残念ながらアタシには無理だった。
足元の風がどう動くかアタシにはその感覚が分からない。

どこかで重心がかみ合わず、振り落とされても困る。


そういうわけで、アタシの足にも風を集めるが、店長に手を取ってもらい誘導されるままに降りている。


「空中戦は黒魔法使いの独壇場って言われるのが、よく分かりますよ」


「そうでもないよ。昔、凄腕の弓使いがいてね。彼はたった一人でブロートンの黒魔法使い数百人を相手に、互角に戦ったんだ。頭上から降り注ぐ魔法を躱し、一人一人撃ち落としていった・・・特別な人だったかもしれないが、空中戦でも黒魔法使いを凌ぐ事は可能という話だ」


「へ~・・・あ、それってもしかして、200年前のカエストゥスとブロートンの戦争の話しじゃないですか?書物がほとんど残ってないから、戦争の中心だった人物も名前があんまり知られてないけど、凄腕の弓使いがいたってのは、アタシもリカルドから聞いて知ってますよ。たしか、ジョルジオ・・・だったかな?リカルドが目標にしている人なんですってね」


「ジョルジュ・ワーリントン。ハンターの世界では今でも史上最強と言われている。天才と語り継がれているが、それだけではない。ジョルジュは努力した。ただひたすら努力をして、弓を極めたんだ・・・」



「・・・店長って、まるで見て来たみたいに話す時ありますよね?」



「・・・・・・ケイト、すまない」



「あぁっと、すみません。大丈夫ですよ、これ以上追求しませんから。アタシこそごめんなさい・・・でも、答えにくいなら適当にごまかせばいいのに。店長って損な性格してますよ・・・でも、そこが店長の良いとこでもありますかね」



店長は少しだけ笑みを浮かべると、一言だけ返事を返した。


「・・・妻にも同じ事を言われたよ・・・・・・」


それから地上に降りるまで、アタシ達は言葉を交わさなかった。

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