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79 ケイトの説明
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夕方5時、閉店後、全員で事務所に集まり、朝の続きを話し合う事になった。
「じゃあ、明日から10月なので、開店時間は朝8時30分、閉店は夕方4時30分という事でお願いします」
レイチェルが簡単に申し送りを済ませると、ケイトが席を立ち、朝見せた真実の花をもう一度ポーチから出した。大きさは手の平に収まるくらいで、向日葵に似た花だ。保存魔法がかけられているためか、少しだけ青く光っている。
「じゃあ、私と店長が出張で何してたか、この花はどうするのかを話すけど、絶対他言しないように。アタシはミゼルが心配だな。酒入ったら、宿屋のクリスちゃんにベラベラ話しそうだし」
「おいおい!そんな事ないって!あ、なんだよ皆してその目は?分かったって!私生活がだらしないってんだろ!?前向きに善処するから、もうそんな一斉に見んなって!」
ミゼルさんが両手を前に出し、必死に弁明していると、一人、また一人と笑い出して、事務所が笑いで包まれた。
「おいおい~、お前ら勘弁してくれよ~・・・」
「まぁ、本当に少しは生活あらためて、クリスさんの事もちゃんとしなよ?あの人、ちょっとうっかり屋なとこあるけど、気立てが良くて働き者なんだからさ、大事にしなよ」
レイチェルがミゼルさんの肩に手を乗せると、ミゼルさんはきまりが悪そうに頭をかいた。
「まぁまぁ、みんなそのくらいにしましょう。ミゼルが可哀想になってきたわ。ケイト、そろそろお願いできるかしら」
シルヴィアさんが声をかけると、ケイトは軽く頷いて説明を始めた。
「じゃあ、今度こそ始めるよ。王妃様のご依頼で、アタシと店長はセインソルボ山を目指した。みんな名前くらいしか知らないと思うけど、セインソルボ山は、カエストゥスとブロートンの国境を丁度跨ぐようにあるんだ。国の位置関係で、カエストゥスが滅びる前は、カエストゥスからの入山は、東側から。ブロートンからの入山は西側から。
こういう取り決めがあったみたいなんだけど、今は実質ブロートンがカエストゥス領土を治めているから、東側からだろうと、全てブロートンを介した入山という事になる。でも、カエストゥス領土は朝も話した通り、呪われた土地だから、誰も東側からの入山はしない。西側から入るしかないんだ」
呪われた土地。かつて美しい自然溢れる国だったカエストゥスは、今ではそんな不吉な名称で呼ばれている。
「アタシが同行した理由は、クインズベリーの国境を越えた時に、店長が話してくれた。王妃様からのご依頼という重大な仕事だし、かなり危険な内容だったから、万一を考えて国境を出るまでは話さないようにしてたみたいだった。ジーンはどちらかと言うと、戦闘補助の魔法が得意でしょ?私は探し物とか、保存とか、気温調整とか、生活補助が得意だから、今回の目的の花を見つけるのに私の魔法が必要だった。それがアタシが選ばれた理由」
「でもよ、店長は青魔法も使えんだろ?一人じゃ厳しかったのか?」
リカルドが口を挟む。店長は青魔法も?という言葉に俺は違和感を感じた。
魔法は一人一系統ではなかったのか?
俺の違和感を察してか、レイチェルが声を出した。
「アラタ、店長は三系統全ての魔法が使えるんだ。間違いなく世界に一人だけの存在だ。レイジェスの皆は知ってるけど、この店の人間以外で知っているのは、王妃様のみだ。国王陛下もご存じではない。だから、店の外では絶対に話さないでくれ。店の中でも必要が無ければこの話はしないでほしい」
「三系統全て?・・・店長って、そんなにすごい人なのか・・・分かった。外では絶対に話さない」
レイチェルの言葉を聞いて、リカルドは、しまった、というようにレイチェルに手を合わせ謝っている。リカルドが焦るくらい、むやみに口にしてはいけない話だったようだ。
三系統全ての魔法が使える、世界でただ一人の存在。
俺もこの世界で魔法を見てきたから、そのすごさが分かる。本来一人一系統のはずが、三つ全て使えるんだ。
レイチェルの言葉でなければ、とても信じられなかった。
俺が頷き、話を飲み込むのを待って、ケイトは言葉を続けた。
「話を戻すよ。店長なら一人でも見つける事はできると思う。でもね、青魔法のサーチだって範囲は限られている。アタシのサーチは店長と同じくらい、半径500メートルだから、二人で1,000メートル。セインソルボ山はブロートンの青魔法が測った記録では、標高は6636メートルもある。そんな巨大な山なんだ。二人でサーチを使いながら歩いて、普通なら一体どれだけかかると思う?アタシと店長だったから五ヶ月で帰ってこれたけど、夏でも雪が残ってるし、切り立った崖みたいな急斜面もあれば、ゴツゴツしたでっかい岩だらけの足場が悪いところもあって本当に大変だったよ。あれは、体力型も、黒魔法も白魔法も無理だね。周囲の気温や気圧の調整ができて、雨風を防ぐ結界を張って、何もない空間に石を集めて足場を作る事もできる青魔法使いじゃないと、まず登れないね」
日本でも雪山登山の話は聞いた事があるし、どれだけ厳しいものかはなんとなくなら想像できる。
しかし、ケイトの話を聞くと、周囲の気温と気圧調整、雨風を防いで、足場も作れるなら、登山素人でもかなり楽になるだろうと思った。
こういう話しを聞くと、魔法は本当に便利だなと思う。
「アタシと店長は、国を出て1週間程でセインソルボの西側の山裾(やますそ)に着いた。山裾にはブロートンの警備兵がいるから、許可証がなければ入れない。なんせ、真実の花はこの山にしか咲かないからね。許可無しに摘んで帰るのは重罪なんだ。見つかったら処刑もあるかもしれない。今回は王妃様が尽力されて、山の虫の生体調査という名目で、ブロートンから許可証を発行してもらった。入山まではスムーズだったよ。でも、入山してからは本当にキツかった」
ケイトは軽く首を振ると、一つ息をつき、山での五ヶ月間を語り始めた。
「じゃあ、明日から10月なので、開店時間は朝8時30分、閉店は夕方4時30分という事でお願いします」
レイチェルが簡単に申し送りを済ませると、ケイトが席を立ち、朝見せた真実の花をもう一度ポーチから出した。大きさは手の平に収まるくらいで、向日葵に似た花だ。保存魔法がかけられているためか、少しだけ青く光っている。
「じゃあ、私と店長が出張で何してたか、この花はどうするのかを話すけど、絶対他言しないように。アタシはミゼルが心配だな。酒入ったら、宿屋のクリスちゃんにベラベラ話しそうだし」
「おいおい!そんな事ないって!あ、なんだよ皆してその目は?分かったって!私生活がだらしないってんだろ!?前向きに善処するから、もうそんな一斉に見んなって!」
ミゼルさんが両手を前に出し、必死に弁明していると、一人、また一人と笑い出して、事務所が笑いで包まれた。
「おいおい~、お前ら勘弁してくれよ~・・・」
「まぁ、本当に少しは生活あらためて、クリスさんの事もちゃんとしなよ?あの人、ちょっとうっかり屋なとこあるけど、気立てが良くて働き者なんだからさ、大事にしなよ」
レイチェルがミゼルさんの肩に手を乗せると、ミゼルさんはきまりが悪そうに頭をかいた。
「まぁまぁ、みんなそのくらいにしましょう。ミゼルが可哀想になってきたわ。ケイト、そろそろお願いできるかしら」
シルヴィアさんが声をかけると、ケイトは軽く頷いて説明を始めた。
「じゃあ、今度こそ始めるよ。王妃様のご依頼で、アタシと店長はセインソルボ山を目指した。みんな名前くらいしか知らないと思うけど、セインソルボ山は、カエストゥスとブロートンの国境を丁度跨ぐようにあるんだ。国の位置関係で、カエストゥスが滅びる前は、カエストゥスからの入山は、東側から。ブロートンからの入山は西側から。
こういう取り決めがあったみたいなんだけど、今は実質ブロートンがカエストゥス領土を治めているから、東側からだろうと、全てブロートンを介した入山という事になる。でも、カエストゥス領土は朝も話した通り、呪われた土地だから、誰も東側からの入山はしない。西側から入るしかないんだ」
呪われた土地。かつて美しい自然溢れる国だったカエストゥスは、今ではそんな不吉な名称で呼ばれている。
「アタシが同行した理由は、クインズベリーの国境を越えた時に、店長が話してくれた。王妃様からのご依頼という重大な仕事だし、かなり危険な内容だったから、万一を考えて国境を出るまでは話さないようにしてたみたいだった。ジーンはどちらかと言うと、戦闘補助の魔法が得意でしょ?私は探し物とか、保存とか、気温調整とか、生活補助が得意だから、今回の目的の花を見つけるのに私の魔法が必要だった。それがアタシが選ばれた理由」
「でもよ、店長は青魔法も使えんだろ?一人じゃ厳しかったのか?」
リカルドが口を挟む。店長は青魔法も?という言葉に俺は違和感を感じた。
魔法は一人一系統ではなかったのか?
俺の違和感を察してか、レイチェルが声を出した。
「アラタ、店長は三系統全ての魔法が使えるんだ。間違いなく世界に一人だけの存在だ。レイジェスの皆は知ってるけど、この店の人間以外で知っているのは、王妃様のみだ。国王陛下もご存じではない。だから、店の外では絶対に話さないでくれ。店の中でも必要が無ければこの話はしないでほしい」
「三系統全て?・・・店長って、そんなにすごい人なのか・・・分かった。外では絶対に話さない」
レイチェルの言葉を聞いて、リカルドは、しまった、というようにレイチェルに手を合わせ謝っている。リカルドが焦るくらい、むやみに口にしてはいけない話だったようだ。
三系統全ての魔法が使える、世界でただ一人の存在。
俺もこの世界で魔法を見てきたから、そのすごさが分かる。本来一人一系統のはずが、三つ全て使えるんだ。
レイチェルの言葉でなければ、とても信じられなかった。
俺が頷き、話を飲み込むのを待って、ケイトは言葉を続けた。
「話を戻すよ。店長なら一人でも見つける事はできると思う。でもね、青魔法のサーチだって範囲は限られている。アタシのサーチは店長と同じくらい、半径500メートルだから、二人で1,000メートル。セインソルボ山はブロートンの青魔法が測った記録では、標高は6636メートルもある。そんな巨大な山なんだ。二人でサーチを使いながら歩いて、普通なら一体どれだけかかると思う?アタシと店長だったから五ヶ月で帰ってこれたけど、夏でも雪が残ってるし、切り立った崖みたいな急斜面もあれば、ゴツゴツしたでっかい岩だらけの足場が悪いところもあって本当に大変だったよ。あれは、体力型も、黒魔法も白魔法も無理だね。周囲の気温や気圧の調整ができて、雨風を防ぐ結界を張って、何もない空間に石を集めて足場を作る事もできる青魔法使いじゃないと、まず登れないね」
日本でも雪山登山の話は聞いた事があるし、どれだけ厳しいものかはなんとなくなら想像できる。
しかし、ケイトの話を聞くと、周囲の気温と気圧調整、雨風を防いで、足場も作れるなら、登山素人でもかなり楽になるだろうと思った。
こういう話しを聞くと、魔法は本当に便利だなと思う。
「アタシと店長は、国を出て1週間程でセインソルボの西側の山裾(やますそ)に着いた。山裾にはブロートンの警備兵がいるから、許可証がなければ入れない。なんせ、真実の花はこの山にしか咲かないからね。許可無しに摘んで帰るのは重罪なんだ。見つかったら処刑もあるかもしれない。今回は王妃様が尽力されて、山の虫の生体調査という名目で、ブロートンから許可証を発行してもらった。入山まではスムーズだったよ。でも、入山してからは本当にキツかった」
ケイトは軽く首を振ると、一つ息をつき、山での五ヶ月間を語り始めた。
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