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69 母の願い
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「カチュアさん!こっちだよ!早く!」
カチュアは協会内に入ると、息を切らしながらエルウィンの案内について行った。
アラタが死にかけている・・・
その言葉を聞いた時、全身の血が冷たくなっていくのを感じた。
だが、取り乱す事はしなかった。ここで泣き叫んでもなにが変わるわけではない。
今自分にできる事は、少しでも早くアラタの元へ駆けつけ回復させる事だ。
「アラタ君・・・お願い・・・生きてて・・・」
カチュアはアラタの無事だけを願い走った。
エルウィンが一階の一番奥、今はマルコスによって破壊された拷問部屋までたどり着く。
すると、隊員達が左右に分かれ道を開け、騒々しく口を動かしていた。
「早く治療を!」
「隊長とあれだけやれたのに、惜しいヤツだ」
「なんとか助けてやれねぇのか」
「この状態ではもう・・・」
出てきたのはフェンテスだった。
血の気の失せた青い顔をして、息も浅く早い、右手からは血が止めどなく流れている。
立っている事が不思議な状態だった。
エルウィンから少し遅れてカチュアが部屋までたどり着く。
前方を、両腕にアラタを抱き抱えたフェンテスが、おぼつかない足取りで歩いてくる。
残酷な再会だった・・・
カチュアの目に映ったのは、今まさに命の灯を消そうとしている血まみれのアラタだった。
「アラタ君!」
カチュアは走った。フェンテスはカチュアに気付くと、静かにゆっくりと腰を下ろし膝をつき、慎重にアラタの体を床に寝かせた。
「・・・確かカチュア、という名だな?アラタはまだ・・・生きている・・・お前は白魔法か?」
フェンテスは壁に背中を預けた。もう一度立つ事は出来ない程消耗しており、目を閉じ楽になりたい衝動にかられていたが、アラタを託すまでは意識を持たせなければとこらえていた。
「はい、私は白魔法です。アラタ君は私が治します」
両手をアラタの胸に当てると、カチュアは全魔力を込めてヒールを使った。
アラタ君・・・お願い・・・生きて・・・
私、まだアラタ君に気持ち伝えてない・・・
私、もっとアラタ君と一緒にいたい・・・
私は・・・アラタ君と生きたい!
フェンテスは目を見張った。カチュアのヒールは、治安部隊の医務室にいる、王宮から遣わされた白魔法使いをも上回っていた。
おそらくこの国で指折りのレベルであろう。
「たいした・・・ものだ・・・」
フェンテスの意識はそこで途切れた・・・
「・・・カチュアさん、どう・・ですか?」
フェンテスの右手にカチュアの傷薬を塗り、清潔なタオルで縛り止血を終えると、エルウィンがカチュアに声をかけた。
カチュアの顔を必死そのものだった。
全魔力をこめ、額には汗を浮かべながら懸命にアラタにヒールをかけ続けている。
だが・・・
「・・・なんで?・・・なんでなの・・・アラタ君!お願い!戻ってきて!私をおいていかないで!」
粉砕された胸骨はほぼ治っている。損傷した筋肉、血管も元に戻した。だが、アラタは目を開けなかった。
生気の失われた体は、力なく横たわっている。
「アラタ君!」
カチュアはクインズベリー国で指折りの白魔法使いだ。骨折も10分もあれば治癒が可能なレベルである。
だが、外傷は治せても、死の淵にある命を戻せる程の魔力は無かった。
カチュアがヒールをかけた時点で、アラタの命は消えかかっていた。
遅かったのだ・・・
ヒールで怪我を治し始めても、それが命に届くまでに、アラタの生命力は持たなかった・・・
今、アラタの命の灯は消えた・・・
「ア、アラタ・・・さん・・・」
エルウィンも感じ取った。今、アラタの命が消えた事を・・・目を見開き、信じられない状況に言葉を失っている。
「・・・そんな・・・うそ・・・嘘だよね?アラタ、くん・・・アラタ君!嫌だよ!やっと会えたのに!こんなの・・・ひどすぎる!アラタ君!アラタ君!」
カチュアの瞳から涙が溢れだした。もう泣かないと決めていた。
強くなって、アラタと笑顔で再会するんだと決めていた。
だが・・・
「嫌だぁぁぁー!アラタくんー!」
カチュアがアラタの胸に顔を埋め叫んだ時、アラタの胸元が突如光輝いた。
「え・・・これ・・・」
それはカチュアがアラタの首にかけたネックレスだった。
淡い光を放っていたネックレスの石は、一瞬目もくらむ程の強い光を放つと、音を立てて粉々に砕け散った。
「これ・・・」
カチュアは目の前で起こった事が理解できず、粉々に砕けた自分のネックレスを手に取る・・・懐かしい声を聞いた。
・・・泣かないで・・・カチュア・・・
全ての悲しみを癒してくれるような、優しく温かい声だった
・・・あなたの大切な人はもう大丈夫よ・・・
それは夢か幻だったのかもしれない・・・カチュアが顔を上げると、淡い光に包まれた、カチュアによく似た、カチュアより少し年上の女性が目の前に立っていた
おぼろげながら記憶にあるその姿は
「お・・・おかあ・・・さん・・・お母さん!」
・・・カチュア・・・大きくなったわね・・・
「お母さん!お母さん!・・・わ、私・・・会いたかった・・・もっと一緒にいたかったよ・・・」
カチュアは優しく抱きしめられた・・・確かな母の温もりを感じ、カチュアの瞳から大粒の涙が零れ落ちた・・・
「お母さん・・・う・・・うぅ・・・」
・・・忘れないで・・・私はいつも見守っているわ・・・
最後に一度優しく微笑むと、まるでカチュアの中に溶け込むように母の姿は消えていった・・・
どうか・・・幸せに・・・
つらい思いをする事も・・・
涙する事も・・・
これから先・・・沢山あるかもしれない・・・
でも忘れないで・・・
それ以上に沢山の幸せがきっとあるから・・・
カチュアは協会内に入ると、息を切らしながらエルウィンの案内について行った。
アラタが死にかけている・・・
その言葉を聞いた時、全身の血が冷たくなっていくのを感じた。
だが、取り乱す事はしなかった。ここで泣き叫んでもなにが変わるわけではない。
今自分にできる事は、少しでも早くアラタの元へ駆けつけ回復させる事だ。
「アラタ君・・・お願い・・・生きてて・・・」
カチュアはアラタの無事だけを願い走った。
エルウィンが一階の一番奥、今はマルコスによって破壊された拷問部屋までたどり着く。
すると、隊員達が左右に分かれ道を開け、騒々しく口を動かしていた。
「早く治療を!」
「隊長とあれだけやれたのに、惜しいヤツだ」
「なんとか助けてやれねぇのか」
「この状態ではもう・・・」
出てきたのはフェンテスだった。
血の気の失せた青い顔をして、息も浅く早い、右手からは血が止めどなく流れている。
立っている事が不思議な状態だった。
エルウィンから少し遅れてカチュアが部屋までたどり着く。
前方を、両腕にアラタを抱き抱えたフェンテスが、おぼつかない足取りで歩いてくる。
残酷な再会だった・・・
カチュアの目に映ったのは、今まさに命の灯を消そうとしている血まみれのアラタだった。
「アラタ君!」
カチュアは走った。フェンテスはカチュアに気付くと、静かにゆっくりと腰を下ろし膝をつき、慎重にアラタの体を床に寝かせた。
「・・・確かカチュア、という名だな?アラタはまだ・・・生きている・・・お前は白魔法か?」
フェンテスは壁に背中を預けた。もう一度立つ事は出来ない程消耗しており、目を閉じ楽になりたい衝動にかられていたが、アラタを託すまでは意識を持たせなければとこらえていた。
「はい、私は白魔法です。アラタ君は私が治します」
両手をアラタの胸に当てると、カチュアは全魔力を込めてヒールを使った。
アラタ君・・・お願い・・・生きて・・・
私、まだアラタ君に気持ち伝えてない・・・
私、もっとアラタ君と一緒にいたい・・・
私は・・・アラタ君と生きたい!
フェンテスは目を見張った。カチュアのヒールは、治安部隊の医務室にいる、王宮から遣わされた白魔法使いをも上回っていた。
おそらくこの国で指折りのレベルであろう。
「たいした・・・ものだ・・・」
フェンテスの意識はそこで途切れた・・・
「・・・カチュアさん、どう・・ですか?」
フェンテスの右手にカチュアの傷薬を塗り、清潔なタオルで縛り止血を終えると、エルウィンがカチュアに声をかけた。
カチュアの顔を必死そのものだった。
全魔力をこめ、額には汗を浮かべながら懸命にアラタにヒールをかけ続けている。
だが・・・
「・・・なんで?・・・なんでなの・・・アラタ君!お願い!戻ってきて!私をおいていかないで!」
粉砕された胸骨はほぼ治っている。損傷した筋肉、血管も元に戻した。だが、アラタは目を開けなかった。
生気の失われた体は、力なく横たわっている。
「アラタ君!」
カチュアはクインズベリー国で指折りの白魔法使いだ。骨折も10分もあれば治癒が可能なレベルである。
だが、外傷は治せても、死の淵にある命を戻せる程の魔力は無かった。
カチュアがヒールをかけた時点で、アラタの命は消えかかっていた。
遅かったのだ・・・
ヒールで怪我を治し始めても、それが命に届くまでに、アラタの生命力は持たなかった・・・
今、アラタの命の灯は消えた・・・
「ア、アラタ・・・さん・・・」
エルウィンも感じ取った。今、アラタの命が消えた事を・・・目を見開き、信じられない状況に言葉を失っている。
「・・・そんな・・・うそ・・・嘘だよね?アラタ、くん・・・アラタ君!嫌だよ!やっと会えたのに!こんなの・・・ひどすぎる!アラタ君!アラタ君!」
カチュアの瞳から涙が溢れだした。もう泣かないと決めていた。
強くなって、アラタと笑顔で再会するんだと決めていた。
だが・・・
「嫌だぁぁぁー!アラタくんー!」
カチュアがアラタの胸に顔を埋め叫んだ時、アラタの胸元が突如光輝いた。
「え・・・これ・・・」
それはカチュアがアラタの首にかけたネックレスだった。
淡い光を放っていたネックレスの石は、一瞬目もくらむ程の強い光を放つと、音を立てて粉々に砕け散った。
「これ・・・」
カチュアは目の前で起こった事が理解できず、粉々に砕けた自分のネックレスを手に取る・・・懐かしい声を聞いた。
・・・泣かないで・・・カチュア・・・
全ての悲しみを癒してくれるような、優しく温かい声だった
・・・あなたの大切な人はもう大丈夫よ・・・
それは夢か幻だったのかもしれない・・・カチュアが顔を上げると、淡い光に包まれた、カチュアによく似た、カチュアより少し年上の女性が目の前に立っていた
おぼろげながら記憶にあるその姿は
「お・・・おかあ・・・さん・・・お母さん!」
・・・カチュア・・・大きくなったわね・・・
「お母さん!お母さん!・・・わ、私・・・会いたかった・・・もっと一緒にいたかったよ・・・」
カチュアは優しく抱きしめられた・・・確かな母の温もりを感じ、カチュアの瞳から大粒の涙が零れ落ちた・・・
「お母さん・・・う・・・うぅ・・・」
・・・忘れないで・・・私はいつも見守っているわ・・・
最後に一度優しく微笑むと、まるでカチュアの中に溶け込むように母の姿は消えていった・・・
どうか・・・幸せに・・・
つらい思いをする事も・・・
涙する事も・・・
これから先・・・沢山あるかもしれない・・・
でも忘れないで・・・
それ以上に沢山の幸せがきっとあるから・・・
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