異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
上 下
62 / 1,351

62 叫び

しおりを挟む
カリウスの強さは圧倒的だった。
マルゴンに敗れたとはいえ、一度は治安部隊の頂点に立った男である。
自分より10cmは背の高い、身長190cmのヤファイを全く寄せ付けず、一方的に斬り付けていた。

防御に徹したヤファイは、かろうじて急所は避けていたが、すでに血まみれだった。
決定打を受けないにしても、このままでは出血によって倒れる事は時間の問題だった。

「・・・一階が騒がしいですね・・・ヴァンさんに何かあったのでは?」

二人の裏切りは間違いない。そして、ヴァンを先に行かせた事で、なにか急いでいる事も察せられた。
ヤファイの言葉はカリウスの焦燥感を煽るものだった。

カリウスのナイフが止まる。その表情を見てヤファイは確信した。

やはり二人は時間と戦っている。

今一階に行く目的はなんだ?一階では今マルコス隊長が・・・ヴァンはサカキアラタの隣の牢だ・・・そしてカリウスはマルコス隊長に反発している・・・そうか。


「・・・急がないと、サカキアラタが死んでしまうかもしれませんね」

カリウスの目に焦りが浮かんだ。一気に決着をつけようと、それまでの慎重な姿勢から一転し、大振りにヤファイの喉元目掛けてナイフを振るった。

ヤファイに勝機が出た。ヤファイは姿勢を低くし、カリウスの懐に飛び込んだ。

それは三年前、カリウスがマルコスに敗れた時と同じ状態だった。

三年前はこの時、マルコスの拳を腹に受けたカリウスが後ろを取られ敗北している。
だが今回は違った。


懐に潜り込んだヤファイの顎が跳ね上がる。

カリウスの膝だった。
カリウスはヤファイの行動を読んでいた。自分を焦らせようとするヤファイの策にあえて乗り、懐に飛び込んで来たところを、膝で跳ね上げたのだ。

カリウスはそのままヤファイの後ろを取ると、左手を腰の後ろに捻り上げ組み伏せた。

「マルコスとの闘いを参考にしたのか?あいにく対策はしてあるよ」

「ぐぅ・・・俺の、負けです・・・さぁ、殺してください」

カリウスはヤファイの腕を離した。背中を押さえる圧力が消え、ヤファイは驚き振り返った。


「ヤファイ、お前を、お前達をこうさせてしまった事は全て俺の責任だ・・・すまなかった」

カリウスは頭を下げた。

信じられない光景だった。

ヤファイは愕然とし、何も答えられなかった。

ただ、胸に込み上げる、怒りとも悲しみともつかない感情をどうすればいいか分からず、強く握り締めた拳を力任せに壁に叩きつけた。


「うあぁぁぁぁぁぁーっつ!」


ヤファイは叫んだ。喉が裂ける程叫んだ。

やがて声が枯れるとカリウスに背を向け、距離を空け戦いを見ていた隊員達に向かって口を開いた。

「・・・全員聞け、下ではアンカハスやマルコス隊長が戦っているだろう。どのような状況であろうとも手だしは許さん。おそらく我々の今後を左右する事になるだろう・・・行きたい者は行って見て来い」

「ヤファイ・・・」

ヤファイは振り返らなかった。隊員達も誰も口を開かず、ヤファイとカリウスに視線だけ向けると、一人、また一人と階段を下りて行く。


「・・・カリウスさん、あなたも行ってください。俺はもう分からない・・・一人にしてください」

ヤファイの背中には、全てを拒絶する意思が見えた。ヤファイ自身、どうしていいのか分からない。

カリウスはかける言葉が見つからなかった。黙ってヤファイの後ろを通り、階段を下りていく。


カリウスの足音が遠ざかり、フロアに誰もいなくなると、ヤファイは背中から倒れた。

出血が多く、とても立っていられなかったが、カリウスの前で、隊員達の前で、倒れる訳にはいかなかった。
俺に止めを刺さない甘い男と、俺に付いてきてくれた隊員達、どちらもきっと俺を助けようとするだろう。

今、下で繰り広げられている戦いは、全員が立ち合わなければ駄目だ。

その目に焼き付けなければならない。
どのような結果になるとしても、隊の今後を決定付ける戦いなのだから・・・

ヴァンとカリウスは、きっとサカキアラタに懸けたんだ・・・あの男にはなにかある・・・
取り調べで痛めつけながら、内に秘めるなにかを感じていた。

おそらくマルコス隊長の相手はサカキアラタ・・・今日、ヴァンとカリウスはその場を作るために、こんな脱出を図ったんだろう。


「・・・俺は・・・」

カリウスのせいにする事は簡単だ。
だが、決めたのは自分自身だ・・・あの時、マルコスに付かなければ・・・
いや、もっと前、カリウスが負けた時、俺が、俺達がもっと支えてやれば良かったんだ・・・


カリウスは今日、全ての責任を背負い向かってきたのだろう・・・

俺はどうだ?俺は・・・何もしなかった・・・


後悔の念を抱いたままヤファイの意識は薄れていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

前世で魔神だった男、嫁と再会して旅をします。

明石 清志郎
ファンタジー
高校二年生の神山周平は中学三年の卒業後幼馴染が失踪、失意のままに日常を過ごしていた。 ある日親友との会話が終わり教室に戻るとクラスメイトごと異世界へと召喚される。 何がなんだかわからず異世界に行かされた戸惑う勇者達……そんな中全員に能力が与えられ自身の能力を確認するととある事実に驚愕する。 な、なんじゃこりゃ~ 他のクラスメイトとは異質の能力、そして夢で見る変な記憶…… 困惑しながら毎日を過ごし迷宮へと入る。 そこでクラスメイトの手で罠に落ちるがその時記憶が蘇り自身の目的を思い出す。 こんなとこで勇者してる暇はないわ~ クラスメイトと別れ旅に出た。 かつての嫁や仲間と再会、世界を変えていく。 恐れながら第11回ファンタジー大賞応募してみました。 よろしければ応援よろしくお願いします。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...