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61 生きる道
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フェンテスは窓枠から体を入れ、空き部屋に降り立つ。
辺りを見渡すがさっき窓を割った後も、誰もこの部屋に来た様子は無かった。
どのくらいの時間が立っただろう。アローヨとの戦闘で予想外の時間を使い、フェンテスに焦りが生まれていた。
とにかく急がなければ・・・すでにアラタが拷問を受けているかもしれない。
部屋の外が騒がしい?
激しく争っている音に気付き、急ぎ足でドアに手をかけ引き開けると、ヴァンとアンカハスがナイフをぶつけ合っていた。
その周りを、隊員達が取り囲んでいる。
「ヴァン!この裏切り者が!」
「目を覚ませアンカハス!本当にこのままでいいのか!」
アラタとの闘いでダメージを受け、体力を消耗していても、今のヴァンには比べるまでもなかった。
力負けしヴァンが膝を着くと、アンカハスは頭上からナイフを振り下ろした。
かろうじて受け止めたが、アンカハスは一層力を込め、防いでいるナイフごとヴァンを斬ろうとする。
「このまま死ね!」
ヴァンが崩れそうになった時、フェンテスがアンカハスのナイフを持つ手を狙い、斬りかかった。
「なに!?」
間一髪、アンカハスはナイフを上げ、フェンテスのナイフを受け止める。
予想外の乱入に、アンカハスはすぐに後ろに飛び退き、ナイフを構え直した。
殺気を込めた視線を、ヴァン、フェンテスと交互に向ける。
「フェンテスさん!?なぜアンカハス副長にナイフを?」
「まさかフェンテスさんも裏切ったのか!?」
「どうする?俺達も手を貸せば・・・」
「駄目だ、アンカハス副長の命令だ。手は出せない」
突然のフェンテスの乱入、そして味方であるはずのアンカハスにナイフを向けた事で、隊員達に動揺が出るが、アンカハスの命令で手を出せない状態だった。
「はぁ・・・はぁ・・・助かったぜ・・・ありがとよ、フェンテス・・・」
「いえ、大丈夫ですか?」
「なんとかな・・・部屋に入ったら・・・アンカハスがいてな、俺を見て・・・だいたいの事を・・・理解したんだろう。すぐに・・・かかってきやがったよ。だが、サシで決着を付けたかったんだろう・・・周りに手を出させないのは・・・助かったぜ・・・」
ヴァンはすでに疲労が隠しきれていない状態だった。息は乱れ、足に来ている。
だが、その鋭く相手を見据える眼光はかつての、憧れだった治安部隊副隊長・ヴァン・エストラーダのままだった。
「ヴァン副長、アラタはどうなってますか?」
「無事だ。・・・あの野郎、マルコスのナイフを真正面から防いでいやがった。素手でマルコスのナイフを受けきってんだぜ?俺の想像以上だ・・・」
「・・・そうでしたか。一先ず無事だったのは良かったです」
フェンテスは驚きを隠せなかった。アラタには何か特別な力があると思っていたが、マルコスのナイフを素手で防いでいると言う。
「マルコス隊長のパワーに、正面からぶつかれるなんて、アイツそこまで強かったんですね」
「あぁ、だが、まだなにかある。アラタには特別な力を感じるんだ」
フェンテスはヴァンの前に出てアンカハスを牽制する。フェンテスのナイフ術を知っているアンカハスは、うかつに攻める事ができず。ヴァンはその間に呼吸を整えていた。
「フェンテス!お前まで裏切るのか!?」
「・・・はい。どのような言葉で取り繕っても裏切りは裏切りです。アンカハスさん・・・俺は今、アローヨさんとも戦ってきました」
「なんだと!?なら、お前がここにいるって事は・・・まさかアローヨを殺ったのか!?」
アンカハスの言葉に、フェンテスは小さく首を振った。
「いいえ・・・俺は負けました。でも、アローヨさんは分かってくれたんです。だからここに来れた・・・アンカハスさん。あなたも分かっているはずです。俺達は間違ったんです。でも、間違いに気づき、やり直す道があるのならば、その道を歩かねばならないんです」
アンカハスはフェンテスの目を真っすぐ見る事ができず、視線を外した。
それはフェンテスの言葉を肯定すると同意義の行為だった。
「アンカハスさん・・・俺達も罪を償わなければならない。険しい道になるでしょう。でも何事もなかったように、のうのうと生きていくわけにはいきません。これからの生き方次第なんです・・・犯した罪を償う機会があるんです・・・俺はあなたにも後悔したまま生きてほしくない!」
アンカハスは目を伏せた。ナイフを下ろし、俯き、言葉を発する事もしない。
「フェンテス・・・お前、強くなったな・・・」
ヴァンがフェンテスの肩に手を置く。
フェンテスはヴァンに顔を向けると、いえ、とだけ短く答えた。
「アンカハス、お前もこっちへ来い・・・俺達と、また・・・」
問われた言葉に対する答えは首を振る事だけだった。
だが、ヴァンとフェンテスに向ける眼差しは。先ほどまでとは打って変わり、憎しみは消え、全てを受けとめた静かな目をしていた。
「俺は、もう戻る事はできない・・・」
何人拷問し、何人処刑台に送っただろう・・・自分の罪は決して許されるものではない。
「フェンテスの言う通り、俺達は間違えたんだ・・・」
だが、ヴァン、フェンテス・・・お前達はまだやり直せる。だから、ここで俺を・・・
アンカハスがナイフを構える。それを受け、ヴァンが一歩前に出て、ナイフを構えた。
「フェンテス・・・アンカハスとは俺が決着をつける」
ヴァンの表情には覚悟が宿っていた。
揺るがない決心の言葉に、フェンテスは黙って後ろに下がった。
水を打ったような静けさだった。ヴァンにはもう体力は残っていない。だが、アンカハスもこれ以上長引かせるつもりはないだろう。
互いに次が最後になる。誰しもそれを感じ取っていた。
先手はアンカハス。ヴァンの目に汗が入り僅かに目を閉じた隙に、間合いを詰めた。
的の大きい腹を目掛けて、右手のナイフを横に寝かせ、真っ直ぐにを突き刺す。
ヴァンは胴を捻って回避した。急所は外したが、右脇腹をかすったナイフは、そのまま横なぎに振るわれ、ヴァンの腹を抉り取る。
深い・・・腹部に走る激痛に、ヴァンは倒れそうになる。だが、足を踏みしめ自身の持つ右手のナイフに力を込める。左下から右斜め上にナイフを振るうが、アンカハスは軌道を読み切り、軽々とかわす。
今のヴァンのナイフでは、アンカハスに遠く及ばない。
それはヴァンも承知の上だった。
アラタには、アンカハスもヤファイも何とかなる。と話していたが、今の自分の状態では、誰一人止められない事はヴァン自身、よく分かっていた。
自分が勝つには、自分の命と引き換えにする覚悟が無ければならない。
ヴァンは全身でアンカハスにぶつかった。自分の命を守る気はない。体はがら空きで、右手のナイフにだけ力を込めアンカハスの腹部に狙いを付ける。
「ヴァン、貴様!」
刺し違える気だ!
アンカハスは避ける事は可能だった。一歩大きく後ろに飛んでいなせばいい。いかにヴァンの決死の特攻でも、今のアンカハスとの力の差はそれ程大きかった。
だが、アンカハスは前に踏み込んだ。ヴァンだけは、この男だけは正面から決着をつけなければならない!
同じ副隊長として生きたこの男だけは!
ヴァンは治安部隊のアーマーも身に着けてなく、古びた囚人服を着ているだけだ。刺されれば胸でも腹でもどこでも致命傷になる。
対して自分は治安部隊のボディアーマーを身に着けている。ヴァンのナイフを腰に構えた体制は、腹を狙っていると一目で分かった。
左腕のアームガードでヴァンのナイフを弾き、右手のナイフをヴァンの胸に突き立てる。
そうアンカハスは狙いを付けた。
「アンカハスーッ!」
「ヴァンッ!」
ヴァンとアンカハス、二人の叫びが交じり合い決着は訪れた。
アンカハスの読み通り、ヴァンのナイフはアンカハスの腹に真っ直ぐ向かって来た。
アンカハスは左腕のアームガードで、ナイフの腹に狙いを付け弾くと、右手のナイフを逆手に持ち直し、ヴァンの左胸、心臓を目掛けて振り下ろした。
勝った!
アンカハスは勝利を確信した。
だが、ヴァンの行動はアンカハスの予想を上回った。
ヴァンは避ける事も、防ぐ事もせず、更に踏み込み、自らアンカハスのナイフに飛び込んだ。
踏み込んだ分ナイフの狙いは外される。ナイフはヴァンの肩口に突き刺さった。
「なんだと!?」
「オォォォォォッ!」
ヴァンの右拳がアンカハスの顔を正面から打ち抜いた。
背中から倒れたアンカハスは即座に立ち上がろうとしたが、上半身を起こすと同時に、腹部に激痛が走る。
ヴァンは肩に刺さったアンカハスのナイフを抜くと、そのままアンカハスの脇腹に突き刺していた。
「はぁ・・・はぁ・・・アンカハス・・・もう、楽になれ・・・」
「ヴァン・・・」
ヴァンはナイフを抜くと前のめりに倒れた。
腹を切り裂かれ、肩を深く抉られ、激痛と出血で限界はとうに超えていた。
アンカハスは脇腹を刺された痛みで、動くことはできなかったが、意識はあった。
生かされた・・・・・・
ヴァンは自分を殺す事ができた。だが、わざと動けない程度に刺した。
アンカハスの目に涙が浮かぶ。
ヴァンが何を考え、この戦いの中で自分を生かす決断をしたのか・・・
【アンカハス、お前もこっちへ来い・・・俺達と、また・・・】
戦いが終わり、隊員達が自分とヴァンの周りに集まってくる。
「早く医務室から白魔法使いを連れて来い!」
「タオルだ!ありったけのタオルを持ってこい!止血だ!」
「副長!アンカハス副長!大丈夫ですか!」
混乱の中、フェンテスがアンカハスの正面に立った。
「アンカハス副長・・・生きて下さいね・・・」
フェンテスはそれだけ言葉にすると、アンカハスに背を向けた。
目を伏せる。
アンカハスの閉じた目から、涙が一筋流れ落ちた。
なぁ、ヴァン・・・俺でも、まだ罪を償って生きる道があるのかな・・・
分からねぇよ・・・教えてくれよ・・・・・・
辺りを見渡すがさっき窓を割った後も、誰もこの部屋に来た様子は無かった。
どのくらいの時間が立っただろう。アローヨとの戦闘で予想外の時間を使い、フェンテスに焦りが生まれていた。
とにかく急がなければ・・・すでにアラタが拷問を受けているかもしれない。
部屋の外が騒がしい?
激しく争っている音に気付き、急ぎ足でドアに手をかけ引き開けると、ヴァンとアンカハスがナイフをぶつけ合っていた。
その周りを、隊員達が取り囲んでいる。
「ヴァン!この裏切り者が!」
「目を覚ませアンカハス!本当にこのままでいいのか!」
アラタとの闘いでダメージを受け、体力を消耗していても、今のヴァンには比べるまでもなかった。
力負けしヴァンが膝を着くと、アンカハスは頭上からナイフを振り下ろした。
かろうじて受け止めたが、アンカハスは一層力を込め、防いでいるナイフごとヴァンを斬ろうとする。
「このまま死ね!」
ヴァンが崩れそうになった時、フェンテスがアンカハスのナイフを持つ手を狙い、斬りかかった。
「なに!?」
間一髪、アンカハスはナイフを上げ、フェンテスのナイフを受け止める。
予想外の乱入に、アンカハスはすぐに後ろに飛び退き、ナイフを構え直した。
殺気を込めた視線を、ヴァン、フェンテスと交互に向ける。
「フェンテスさん!?なぜアンカハス副長にナイフを?」
「まさかフェンテスさんも裏切ったのか!?」
「どうする?俺達も手を貸せば・・・」
「駄目だ、アンカハス副長の命令だ。手は出せない」
突然のフェンテスの乱入、そして味方であるはずのアンカハスにナイフを向けた事で、隊員達に動揺が出るが、アンカハスの命令で手を出せない状態だった。
「はぁ・・・はぁ・・・助かったぜ・・・ありがとよ、フェンテス・・・」
「いえ、大丈夫ですか?」
「なんとかな・・・部屋に入ったら・・・アンカハスがいてな、俺を見て・・・だいたいの事を・・・理解したんだろう。すぐに・・・かかってきやがったよ。だが、サシで決着を付けたかったんだろう・・・周りに手を出させないのは・・・助かったぜ・・・」
ヴァンはすでに疲労が隠しきれていない状態だった。息は乱れ、足に来ている。
だが、その鋭く相手を見据える眼光はかつての、憧れだった治安部隊副隊長・ヴァン・エストラーダのままだった。
「ヴァン副長、アラタはどうなってますか?」
「無事だ。・・・あの野郎、マルコスのナイフを真正面から防いでいやがった。素手でマルコスのナイフを受けきってんだぜ?俺の想像以上だ・・・」
「・・・そうでしたか。一先ず無事だったのは良かったです」
フェンテスは驚きを隠せなかった。アラタには何か特別な力があると思っていたが、マルコスのナイフを素手で防いでいると言う。
「マルコス隊長のパワーに、正面からぶつかれるなんて、アイツそこまで強かったんですね」
「あぁ、だが、まだなにかある。アラタには特別な力を感じるんだ」
フェンテスはヴァンの前に出てアンカハスを牽制する。フェンテスのナイフ術を知っているアンカハスは、うかつに攻める事ができず。ヴァンはその間に呼吸を整えていた。
「フェンテス!お前まで裏切るのか!?」
「・・・はい。どのような言葉で取り繕っても裏切りは裏切りです。アンカハスさん・・・俺は今、アローヨさんとも戦ってきました」
「なんだと!?なら、お前がここにいるって事は・・・まさかアローヨを殺ったのか!?」
アンカハスの言葉に、フェンテスは小さく首を振った。
「いいえ・・・俺は負けました。でも、アローヨさんは分かってくれたんです。だからここに来れた・・・アンカハスさん。あなたも分かっているはずです。俺達は間違ったんです。でも、間違いに気づき、やり直す道があるのならば、その道を歩かねばならないんです」
アンカハスはフェンテスの目を真っすぐ見る事ができず、視線を外した。
それはフェンテスの言葉を肯定すると同意義の行為だった。
「アンカハスさん・・・俺達も罪を償わなければならない。険しい道になるでしょう。でも何事もなかったように、のうのうと生きていくわけにはいきません。これからの生き方次第なんです・・・犯した罪を償う機会があるんです・・・俺はあなたにも後悔したまま生きてほしくない!」
アンカハスは目を伏せた。ナイフを下ろし、俯き、言葉を発する事もしない。
「フェンテス・・・お前、強くなったな・・・」
ヴァンがフェンテスの肩に手を置く。
フェンテスはヴァンに顔を向けると、いえ、とだけ短く答えた。
「アンカハス、お前もこっちへ来い・・・俺達と、また・・・」
問われた言葉に対する答えは首を振る事だけだった。
だが、ヴァンとフェンテスに向ける眼差しは。先ほどまでとは打って変わり、憎しみは消え、全てを受けとめた静かな目をしていた。
「俺は、もう戻る事はできない・・・」
何人拷問し、何人処刑台に送っただろう・・・自分の罪は決して許されるものではない。
「フェンテスの言う通り、俺達は間違えたんだ・・・」
だが、ヴァン、フェンテス・・・お前達はまだやり直せる。だから、ここで俺を・・・
アンカハスがナイフを構える。それを受け、ヴァンが一歩前に出て、ナイフを構えた。
「フェンテス・・・アンカハスとは俺が決着をつける」
ヴァンの表情には覚悟が宿っていた。
揺るがない決心の言葉に、フェンテスは黙って後ろに下がった。
水を打ったような静けさだった。ヴァンにはもう体力は残っていない。だが、アンカハスもこれ以上長引かせるつもりはないだろう。
互いに次が最後になる。誰しもそれを感じ取っていた。
先手はアンカハス。ヴァンの目に汗が入り僅かに目を閉じた隙に、間合いを詰めた。
的の大きい腹を目掛けて、右手のナイフを横に寝かせ、真っ直ぐにを突き刺す。
ヴァンは胴を捻って回避した。急所は外したが、右脇腹をかすったナイフは、そのまま横なぎに振るわれ、ヴァンの腹を抉り取る。
深い・・・腹部に走る激痛に、ヴァンは倒れそうになる。だが、足を踏みしめ自身の持つ右手のナイフに力を込める。左下から右斜め上にナイフを振るうが、アンカハスは軌道を読み切り、軽々とかわす。
今のヴァンのナイフでは、アンカハスに遠く及ばない。
それはヴァンも承知の上だった。
アラタには、アンカハスもヤファイも何とかなる。と話していたが、今の自分の状態では、誰一人止められない事はヴァン自身、よく分かっていた。
自分が勝つには、自分の命と引き換えにする覚悟が無ければならない。
ヴァンは全身でアンカハスにぶつかった。自分の命を守る気はない。体はがら空きで、右手のナイフにだけ力を込めアンカハスの腹部に狙いを付ける。
「ヴァン、貴様!」
刺し違える気だ!
アンカハスは避ける事は可能だった。一歩大きく後ろに飛んでいなせばいい。いかにヴァンの決死の特攻でも、今のアンカハスとの力の差はそれ程大きかった。
だが、アンカハスは前に踏み込んだ。ヴァンだけは、この男だけは正面から決着をつけなければならない!
同じ副隊長として生きたこの男だけは!
ヴァンは治安部隊のアーマーも身に着けてなく、古びた囚人服を着ているだけだ。刺されれば胸でも腹でもどこでも致命傷になる。
対して自分は治安部隊のボディアーマーを身に着けている。ヴァンのナイフを腰に構えた体制は、腹を狙っていると一目で分かった。
左腕のアームガードでヴァンのナイフを弾き、右手のナイフをヴァンの胸に突き立てる。
そうアンカハスは狙いを付けた。
「アンカハスーッ!」
「ヴァンッ!」
ヴァンとアンカハス、二人の叫びが交じり合い決着は訪れた。
アンカハスの読み通り、ヴァンのナイフはアンカハスの腹に真っ直ぐ向かって来た。
アンカハスは左腕のアームガードで、ナイフの腹に狙いを付け弾くと、右手のナイフを逆手に持ち直し、ヴァンの左胸、心臓を目掛けて振り下ろした。
勝った!
アンカハスは勝利を確信した。
だが、ヴァンの行動はアンカハスの予想を上回った。
ヴァンは避ける事も、防ぐ事もせず、更に踏み込み、自らアンカハスのナイフに飛び込んだ。
踏み込んだ分ナイフの狙いは外される。ナイフはヴァンの肩口に突き刺さった。
「なんだと!?」
「オォォォォォッ!」
ヴァンの右拳がアンカハスの顔を正面から打ち抜いた。
背中から倒れたアンカハスは即座に立ち上がろうとしたが、上半身を起こすと同時に、腹部に激痛が走る。
ヴァンは肩に刺さったアンカハスのナイフを抜くと、そのままアンカハスの脇腹に突き刺していた。
「はぁ・・・はぁ・・・アンカハス・・・もう、楽になれ・・・」
「ヴァン・・・」
ヴァンはナイフを抜くと前のめりに倒れた。
腹を切り裂かれ、肩を深く抉られ、激痛と出血で限界はとうに超えていた。
アンカハスは脇腹を刺された痛みで、動くことはできなかったが、意識はあった。
生かされた・・・・・・
ヴァンは自分を殺す事ができた。だが、わざと動けない程度に刺した。
アンカハスの目に涙が浮かぶ。
ヴァンが何を考え、この戦いの中で自分を生かす決断をしたのか・・・
【アンカハス、お前もこっちへ来い・・・俺達と、また・・・】
戦いが終わり、隊員達が自分とヴァンの周りに集まってくる。
「早く医務室から白魔法使いを連れて来い!」
「タオルだ!ありったけのタオルを持ってこい!止血だ!」
「副長!アンカハス副長!大丈夫ですか!」
混乱の中、フェンテスがアンカハスの正面に立った。
「アンカハス副長・・・生きて下さいね・・・」
フェンテスはそれだけ言葉にすると、アンカハスに背を向けた。
目を伏せる。
アンカハスの閉じた目から、涙が一筋流れ落ちた。
なぁ、ヴァン・・・俺でも、まだ罪を償って生きる道があるのかな・・・
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