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59 後悔と決意

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マルコスがアラタを連れて行くところを、物陰から見ていたカリウスは、マルコスの姿が見えなくなるとすぐにヴァンを牢のカギを開け、堂々と二階へ降りた。

二階は人目に付きやすいが、どうしても通らなければならない。
やはり隊員に見つかってしまったが、いかに孤立していても、元隊長のカリウスが、余計な事を言わず、どけ、とだけ言えばだいたいは通せるはずだった。

ヴァンの両手にも魔道具の縄で拘束はしているので、カリウスがなんらかの事情で連れていると見えなくはない。隊員達も勝手にそう解釈し黙って道を開けていた。

だが、一階への階段を下りようとしたところで、後ろから呼び止められた。
ノルベルト・ヤファイだ。


ヤファイは丁度、一階のアラタが連れて行かれた拷問部屋に向かうところだった。
カリウスもヴァンも、ヤファイはすでに拷問部屋にいるものだと見越していたが、タイミングが悪かった。

ヤファイは混乱した。なぜカリウスがヴァンを連れている?マルコス隊長の命令か?

いや、それはない。仮にマルコス隊長が命令したとしても、カリウスが聞くはずがない。
ではなぜ?
様々な疑問が瞬時に頭を駆け巡るが、カリウスとヴァンの表情を見て、分かった事が一つだけあった。

今、こいつらは敵だ。


ヤファイが腰からナイフを抜くと同時に、カリウスが走った。

一歩、カリウスが早かった。

ナイフを抜く動作を取ったヤファイは、カリウスのタックルに対する対応が遅れてしまう。

カリウスは滑るようにヤファイの腰に体ごとぶつかると、ヤファイは体勢を保っていられず、床に背中を強く打ち付けた。

カリウスはそのままヤファイの腹の上に跨(またが)ると、ヤファイの顔面に両の拳を怒涛の勢いで撃ち放った。


マルコス以外は可能であれば殺したくない。カリウスの脳裏に隊長だった頃の記憶がよみがえる。



ヤファイもアンカハスもアローヨも、皆良いヤツだった・・・

俺が3年もの間、至らないなりに隊長を務めてこれたのは、ヤファイがいて、アンカハスがいて、アローヨがいて・・・ヴァン、フェンテスがいたからだ・・・

ヤファイを殴りつけるカリウスの目から涙が零れる。

なぜ俺は・・・ガキのように意地を張り、隊に背を向けていたんだ?
自分のちっぽけなプライドに拘り、大切なものを無くして・・・

隊を一番に考えれば、隊長で無くなったとしても隊を支えて行動できたんだ・・・
なぜ俺は・・・・!?


カリウスの拳が止まった。
上から拳を叩きつけられているヤファイは、両腕を盾に守る事しかできなかった。

だが、その腕の隙間から見えたヤファイの顔には・・・ヤファイの目にも涙が浮かんでいた。


「・・・ヤファイ・・・」

カリウスの拳が止まった隙に、ヤファイはカリウスの背に膝をぶつけ跳ねのけると、大きく後ろに飛び、今度こそ両手にナイフを持ち、左半身を前に構えた。

カリウスは立ち上がり、ヤファイの顔に目を向ける。
ヤファイは泣いていた・・・目を閉じ静かに涙を流している。


「・・・カリウスさん・・・あなたの作った治安部隊の未来が見たかった・・・」


ヤファイの言葉はカリウスの心に深く刺さった。後悔してもしきれない。

俺が・・・俺がこいつらを変えたんだ・・・俺の敵を作ったのは・・・俺だった・・・

カリウスは一歩階段を下りていたヴァンを一瞥すると、持っていたナイフを1本投げ渡し叫んだ。

「ヴァン、行け!ヤファイは俺がやる!」

一瞬視線が交じり合う。
ヴァンはナイフを受け取ると、すぐに階下に目を向け、階段を駆け下りた。


そうだ・・・行けヴァン、俺はこいつを倒す。そして、ここからは一人も一階には通さねぇ・・・

カリウスは張り裂けんばかりの声を上げた。

その圧倒的な気迫は、傍で様子を伺っていた隊員達を怯ませるには十分過ぎる程だった。

「ヤファイ!お前の全てを俺にぶつけてみろ!」

全ての責を背負いカリウスは地を蹴った。
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