異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
上 下
54 / 1,348

54 協会へ

しおりを挟む
アラタが連れて行かれて3週間が経った。

時間はどんどん過ぎていく。この日は少し肌寒かったので、私はこの秋初めてロングシャツに袖を通した。
ボタンダウンで赤地に緑のチェック柄、お気に入りの1枚だ。髪の色が赤だから自然と赤を好んで着るようになった。自分でも単純だと思う。
ダークグリーンの七分丈のパンツを合わせ、着替えを終えると時刻は8時になったところだった。

出勤するにはまだ早く、時間は十分に余裕があった。いつもならあと15分か20分はくつろいでから出るのだが、この日はなんとなく早く家を出る事にした。



「やっぱりちょっと寒いかな」

髪を撫でる朝風に少し冷たさを感じる。9月も下旬になると、もうすっかり秋を感じるようになった。季節の移り変わりは早い。

街を歩くと、看板を出したり、店先を箒で掃いたり、開店の準備をしているお店を見かける。

レイジェスは今は9時開店だけど、早いところは8時30分には開けている。夜が早くなると、それに合わせて閉店も早くなるのだ。だから開店時間を早くするお店も沢山ある。


「うちも10月からは30分、開店早くしようかな」
そう呟き、大通りを抜ける。



店に着き事務所に入ると、すでにカチュアとユーリが出勤していた。
時計を見ると、まだ8時20分を回ったところだ。最近はこの二人が一番早く着ていると聞いていたが、こんなに早いとは思わなかった。

「おはよう。二人とも早いね?」

「おはよう。うん・・・お店で仕事していると落ち着くから・・・レイチェルも飲むでしょ?」

カチュアはイスから腰を上げると、私のマグカップ取って、ポットからコーヒーを注いでくれた。

「おはよう」

私がイスに座ると、ユーリがチョコレートを二つ置いてくれる。私はブラックコーヒーを飲むので、ユーリはよく甘い物をくれるのだ。ユーリは甘党なので、砂糖を入れたコーヒーを飲みながら、チョコを食べる。虫歯にならないか心配だ。

「いつもありがとう。ユーリも最近本当に早いね」

いつもユーリは10時過ぎに出勤していた。シフトで出勤日と休みの日は決めるが、出勤時間は結構大雑把なのだ。
もちろん開店時間に誰もいないのは困るので、副店長の私は開店時にはいるようにしているが、後は各部門で相談して、どちらかが開店に合わせて来るように調整している。

ジャレットはアラタが入る前はだいたいは開店に合わせて来てくれた。ジーンもそうだ。基本的には開店からいる。

ミゼルは私生活がだらしないので、本当は遅く出勤したいらしいが、シルヴィアはそこは甘やかさないので、交代で決めているようだ。

リカルドは自由にさせている。
私がいるからいつも遅くてかまわないのだが、意外と開店に合わせて来る事が多い。

そしてユーリはいつも10時過ぎの出勤だった。
それがここ最近はいつもカチュアと一緒に、朝一番に来ているのだ。
理由は分かっている。カチュアが心配なんだ。
口下手だが、ユーリは思いやりのある子だ。最近は普通になったと思うが、ユーリはまだカチュアから目が離せないんだ。


「うん・・・」

小さく頷いて、ユーリはチラリとカチュアに目をやる。私はユーリの優しさが嬉しくなって、ユーリの頭を撫でた。
ユーリは、え?なんで?と、ちょっと驚いていた。


カチュアの入れてくれたコーヒーを一口飲むと、店のシャッターを激しく叩く音が響いた。
朝の静けさを吹き飛ばす金属音に驚き、何事かと慌てて外に出ると、そこには金色の髪の少年、先週知り合った治安部隊のエルウィンが息を切らしてシャッターを叩いていた。

「エルウィンじゃないか、どうしたんだい?こんな朝から」

私が声をかけると、エルウィンはほっとしたように一つ息をついたが、急ぎ足で私に詰めて来て、早口でまくし立てた。


「大変です!アラタさんが今日、マルコス隊長と戦う気です!俺、急いで知らせなきゃって、居てくれて良かった」

「なんだって!?マルコスと・・・分かった、知らせてくれてありがとう。すぐに準備をする、少し待っててくれ」

私が振り返ると、カチュアが私の顔を真っ直ぐに見ていた。その目には固い決意が見て取れた。


「レイチェル、私も行くよ」

「・・・うん、一緒に行こう」



私はユーリに留守番を頼んだ。
店は臨時休業にして、皆が来たら事情を説明して、来れる人から来てほしいと言伝を頼んだ。

オープンフィンガーの革のグローブを付け、腰にナイフを二本と、バトンを一本差した。
私は機動力が一番の武器なので、なるべく重い装備はしないようにしている。
肘当てと膝当てには鉄を使っているが、鉄はそれだけだ。

穿いていた靴を脱いで、武器コーナーに置いておいたブーツに履き替える。
軽い上に、グリップ力があるので滑りにくい。最近物騒だったので、もしもの備えで家から持って来ておいたのだ。

カチュアは縁取りに茶色のパイピングをあしらった、フード付きの白いローブに着替えていた。
クインズベリー国の白魔法使いの正統な装束だ。身に着けている間は、使用する魔法の効果が僅かだが上がる。

斜め掛けしたバックには、傷薬と、魔力の回復を早める薬を入れているようだ。

魔力を瞬間的に回復させる薬は無い。
昔から様々な実験と研究がされてきたが、やっとできた物が魔力の自然回復を早める薬だった。
じっと体を休めていれば魔力は自然に回復していくが、それを補助する薬だ。

これはこれで貴重な物だった。
例えばカチュアの作る傷薬は質が良く、縫う必要がある怪我でも治癒できるので、1個3,000イエンで販売している。(手のひらサイズの貝殻で、平均5~6回は使用できる)
値段もお手頃で、よく売れている。

比べて、魔力の回復を早める薬は1回分で、レイジェスでは10,000イエンで販売している。
回復の手段がこれしかないという事で、とにかく原材料が高いのだ。
また、これも作り手の調合で効果にバラ付きがある。

こっちはユーリが得意なのだが、この街でトップレベルの効能だと思う。
ユーリの薬より効能が低いのに、15,000イエン位で売っている店もあるので、一度店長に値上げを相談した事がある。


だが、店長は首を横に振った。
なんでも昔、ある戦いの最中に魔力が尽きかけた事があり、その時の経験からこういう道具は利益よりも、一人でも多く必要としている人に貰って欲しいと考えているそうだ。

そういう訳で、傷薬と魔力の回復を早める薬は、利益は少ない。
でも、レイジェスの薬の効果を知っているお客さんは必ずレイジェスで買ってくれるし、いつも感謝されて働き甲斐も出る。店長の方針で正しいと思う。

ユーリは怪我を治す事より、状態異常を治す方が得意なのだ。カチュアはその逆なので、お互いの不得意をカバーできる良いコンビだと私は思っている。

私達が準備をしている間に、ユーリは、エルウィンにヒールをかけていたようだ。
息切れも収まり、足腰も軽くなっているように見える。

エルウィンは、すごいです!ありがとうございます!と何度もお礼を言ったり褒めたりしていて、ユーリはちょっと困っていた。

私とカチュアが外に出てきたのを見つけると、気を付けて、と言って見送ってくれた。
本当は一緒に来たかったんだと思う。



カチュアは自分に合わせているのを感じたのだろう。
店を出発してほどなく、自分は後で追いつくから先に行って、と言ってきた。

私もエルウィンも体力型だ。魔法使いのカチュアより、当然早いし体力もある。
魔法使いのカチュアは体力が少なく、走ればとても私達には付いて来れない。

しかし置いて行っていいのか悩み、エルウィンと顔を見合わせると、カチュアはあらためて、大丈夫だよ、と言ってニッコリ笑って見せた。

「・・・分かった。あっちの状況で動くから、合流できるか分からないけど、きっとアラタと会わせてあげるからね」

「カチュアさん、俺もアラタさんとカチュアさん見てると、お二人を絶対に会わせたいんです。だから頑張りましょうね!」


カチュアが頷いたのを見て、私とエルウィンは大通りを一気に駆け抜けた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~

黒色の猫
ファンタジー
 孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。  僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。  そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。  それから、5年近くがたった。  5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

処理中です...