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45 牢屋でできた仲間達

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俺が投獄されて3週間が過ぎた。

この日、いつもの部屋でいつも通り取り調べが始まったが、マルゴンは形だけと言うか、あまり気が入っていないように感じた。本当は記憶があるのではないか?と聞かれ、俺は無いと答える。それで終わりなのだ。

いつもなら、しつこく問いただされ、アンカハスとヤファイによる暴行が始まるのだが、この日はこれ以上追求もされず、それでお終いだった。

かえって不気味に感じてしまった事が顔に出たのだろう。
マルゴンはまるで獲物を捕食する前の獣のように、ニタリと笑うと、明日またお会いしましょう、と言って部屋を出て行った。

カリウスさんがマルゴンの予定を調べあげ、俺達のところに来たのはその日の夜だった。
そして、カリウスさんの隣にはフェンテスが立っていた。


「よぉ、先に言っておくがフェンテスは敵じゃない。ヴァン、お前と話したいそうだ」

フェンテスは持っていたランプを机に置くと、鉄格子の前に立ち、ヴァンを真っ直ぐに見ている。
相変わらずの無表情だが、眼差しはなにかを見極めるような、真剣なものだった。

「俺に話し?なんだよ?」

「治安部隊に復帰して、隊長になるというのは本当ですか?」

一瞬の沈黙が下りた。フェンテスは全て知っているようだ。

「・・・カリウスから全部聞いたんだな?あぁ、本当だ。お前達が受け入れてくれるかは分からないが、俺は隊に復帰して、隊長としてこの国を護りたいと思ってる」

「あなたは一度職務を投げ出している。信頼を取り戻す事は困難ですよ?」

「分かってる。何年かかっても信頼を取り戻せるように頑張ってみるさ。アラタに説教されてな、気づいたんだよ。俺は一人で何でもやろうとして背負い過ぎてたってな・・・だからよ、これからはもっと、なんつーか、助けてほしい時はそう言うわ。そんで一緒にこの国を支えていこうってな」

フェンテスは意外そうに目を開き、ヴァンを見たまま口を閉ざした。フェンテスからすれば、これまでのヴァンからは考えられない言葉だったのだろう。

「・・・なぁ、フェンテス、お前も力を貸してくれないか?」

ヴァンの言葉にフェンテスが目をつむる。少しの静寂が訪れる。

付き合いの長さは分からない。だが、この二人には切れない絆があり、フェンテスはヴァンを待っていたのではないだろうか。俺はそう感じていた。

「・・・今のあなたなら・・・ヴァン副長、分かりました。あなたについていきます」

「フェンテス、ありがとよ」

鉄格子から差し出したヴァンの手を、フェンテスが握る。無表情だったフェンテスの顔が、少しだけ柔らかく見えた。

「よし、これで4人。数の上では対等になったな」

カリウスさんが口角を上げて笑った。まさか、一度はナイフを向けられた相手と、共闘する事になるとは思わなかった。

「なぁフェンテス、アローヨはどうなんだ?」

「・・・おそらく戦う事になるでしょう。あの人はすっかり変わってしまいました。治安部隊しか知らない人なんです。だから、今の治安部隊に絶望したんでしょうね。自分の心を殺し、マルコス隊長に言われるままの仕事をしています」

フェンテスは伏し目がちに答えた。アローヨという男への、労わりと、やりきれない気持ちが見える。

「そうか・・・もし、お前がアローヨとやるとしたら、勝算は?」

ヴァンの問いかけにフェンテスは顎に手を当て、考えるように目を閉じた。

「・・・絶対に勝ちます。と言いたいところですが、自分への贔屓を入れて6割というところでしょう」

「本当にそこは絶対に勝つって言ってほしいな。ま、お前はそういうとこで見栄張らないからな。いいんじゃねぇか?6割なら十分だ」

ヴァンが軽い口調で答えると、ふいにフェンテスが俺に顔を向けた。

「サカキアラタ、俺は仲間を裏切り副長に付く。それ自体は俺の判断であり、お前には関係の無い事だ。だが、俺も命をかけて戦う事になり、結果お前のマルコス隊長との一騎打ちを手助けする事になる。だから約束しろ、必ず勝つと。お前の勝利が治安部隊の未来につながるんだ」

フェンテスは鉄格子の間から手を差し出してきた。
俺はその手を握り答える。

「・・・今度は握手で良かったよ。あんた意外と良いヤツだから、できればやり合いたくなかった。あぁ、約束するよ。俺は絶対にマルゴンに勝つ。勝たなきゃならない」


「カチュアちゃんのためにな~」

隣の壁からからかうような間延びした声が聞こえてくる。

「おい!ヴァン、お前いい加減にしろって!」

思わず壁を叩いたが、効果があるわけでもなく、ヴァンは口を閉じる気配がない。

「なぁ、フェンテス、お前レイジェスに行ったんだろ?その時、こいつの好きなカチュアって女見なかったか?」

「名前は知りませんが、オレンジ色の髪でワンピースを着た女性を抱きしめてましたね。多分その子でしょう」

「おい!フェンテス!お前もっと寡黙な男だったろ!?なんでそんなペラペラ話してんだよ!?」

「いいじゃないかアラタ。フェンテス、俺にも詳しく聞かせろよ。顔は?顔はどうなんだ?」

カリウスさんもからかい調子で話しに混ざってきた。

「顔ですか?目はパッチリしてて、可愛かったかと、あぁ、でもサカキアラタが抱きしめてたので、ハッキリとは見えませんでした。それはもう力いっぱい抱きしめて・・・」

「フェンテス!頼むからやめてくれ!」

またもしばらくからかわれたが、一段落つく頃には、俺はフェンテスとも大分打ち解けていた。
サカキアラタとフルネームで呼ぶのは、マルゴンと一緒だから、アラタと呼んでくれと言ったら、細かい事を気にする男だなと言われた。

カリウスさんからは、治安部隊は男ばかりで、こういう話でいじられるのは当たり前だと言われた。男同士の会話というヤツだろう。まるで中・高校生だ。だが考えてみると、俺はこういう恋愛の話しを男だけでした事がなかったと思う。

学生時代、クラスの男子が何組の誰々が可愛いだの、誰が誰と付き合ってるだのという話をよくしていたが、それにまざった覚えもなかった。興味の無い人は興味が無いだろう。俺もそうだった。
だが、こういう話にまざると、こういう気持ちになるんだなと、今更ながら一つ分かった気がする。
からかわれたが、不思議と気分は悪くなかった。

それから、カリウスさんが脱出の決行日の話しに入ったが、指定した日は明日だった。
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