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43 疑惑と確信

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俺の取り調べは続いた。アンカハスは質問に否定するだけの俺を毎回殴り、蹴り、暴力は続いた。
マルゴンはその様子を黙って見ているだけだった。

俺の中に一つの疑問が生じていた。もっと前から引っかかってはいたが、この頃にはハッキリとした形になっていた。

素性が不明というだけでここまでするのか?
よく考えれば、素性が不明な者などいくらでもいるだろう。日本にだって、ホームレスやネットカフェで寝泊まりして生活している人も大勢いる。
この世界だって、そういうふうに家を持たず、各地を転々としている人はいくらでもいるだろう。

襲撃があった日に初めて会ったからとか、それらしく理由を付けていたが、本当はもっと別な理由があって俺に固執しているのではないか?
でなければ、治安部隊の隊長という立場の男が、素性不明というだけの男に、毎日毎日ここまで時間を割くはずがない。怪しいというのならさっさと殺してお終いにすればいい。
本当の目的はなんだ?俺から何を聞き出したい?

マルゴンは俺に何かを求めている・・・疑惑は確信へと変わっていた。




「アラタさん、これ使ってください」

ある日、エルウィンが貝殻に入った軟膏のような物と、土の寝間着を渡してきた。生傷が増えた俺を心配して、薬を持ってきてくれたのだ。

「エルウィン、いいのか?俺に薬なんか渡して。それに土の寝間着も」

投獄されている俺は囚人だ。隊員が勝手に薬や土の寝間着なんか渡して、問題にならないのだろうか?
心配する俺をよそに、エルウィンは軽い感じで答える。

「いいんですよ。前にも言ったじゃないですか。俺は俺です。怒られたらその時です。それより、アラタさんの方が心配ですよ。体中痣だらけじゃないですか?あ、土の寝間着は起きたら藁の下にでも隠しておいてくださいね?」

「エルウィン・・・ありがとな」

薬と寝間着を受け取り礼を言うと、エルウィンは思い出したように口を開いた。

「あ、そうそう、昨日また赤い髪の女の人、レイチェルさん来ましたよ。あともう一人、オレンジ色の髪の女の人、カチュアさんも」

レイチェルとカチュア、前回はレイチェル一人と聞いたが、今回はカチュアも一緒だったのか。

「本当か!?それで、どうした?」

少し早口になっていたようで、エルウィンは、落ち着いて、と言って少しだけ笑った。

「なんか、正門から少し離れたとこで二人で頭抱えてたんです。俺、たまたまゴミ出しで外に出て、誰だろう?って思ったんですけど、アラタさんから特徴聞いてたんでピンときたんです。それで、どうしたんですか?って声かけたんです。なんか、よく分からないですけど、正門の番兵さんに困ってるみたいでした。俺も治安部隊なんで、ちょっと警戒されましたけど、アラタさんの友達だって言って、俺がどんなにアラタさんを尊敬してるか話したら、信用してもらえました」

エルウィンは自信満々に、どんなもんですとでも言いたげな、実に誇らしげな顔をした。
なんでここまで懐かれたのだろうと、我ながら不思議でしょうがない。

それにしても、頭を抱えていた?正門の番兵に困っていた?どういう状況だったんだ?

「そうか、その、お前の気持ちは嬉しいが、あんまり俺の事尊敬してるとか、大きい声で言わない方がいいぞ。治安部隊なんだからな」

「だから、俺は俺ですって。あ、それでですね。二人ともアラタさんの事すごい心配してましたよ。だから、俺、その・・・最近暴力を受けている事は話しませんでした。取り調べは受けてるけど、元気にしてますよってだけ、伝えておきました」


カチュア・・・最後に見た泣き顔が思い出され、胸が苦しくなる。


「あぁ・・・それでいい、その方がいい。わざわざ話す事ではないからな。ありがとう。エルウィン」

少し間があった。エルウィンは俺が落ち着くのを待っていたようだ。

「・・・お二人から伝言を預かってます」

エルウィンの言葉に顔を向けると、エルウィンは少し姿勢を正して話した。

「レイチェルさんは、アラタのおかげで店は無事だ、諦めるな必ず帰ってこい、また来る、と言ってました。カチュアさんは、体に気を付けて、とだけでした。でも、思い詰めた顔してたので、やっと一言口に出した感じです」

エルウィンも、大分気を使って話してくれているようだ。
声のトーンからも、俺を心配し、労わってくれているのが伝わってくる。

「エルウィン・・・俺は大丈夫だ。もし、また二人に会ったら、必ず帰るから心配するなって伝えてくれ。お前が味方で良かったよ。ありがとう」

「・・・味方って言うか、友達ですよ?あれ、もしかして俺だけですか?アラタさんと友達って思ってたの?」

俺が笑って見せると、エルウィンも安心したのか、軽口を叩いてきた。

レイチェル、カチュア、来てくれてありがとう。俺を待っていてくれる人がいる。それだけで元気が出た。
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