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42 拷問官アンカハス

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首都には3000人の治安部隊隊員が配備されているが、一か所には固まってはおらず、街中にいくつもの分所があり、50~100人づつ配備され、エリア分けで街の警備にあたっている。

アラタの投獄されている場所は、協会の本部であり、最も王宮に近いこともあり300人が常駐している。
王宮内、王宮周辺には騎士団が数千人規模で警備にあたっているため、このエリアには治安部隊は必要ないという声がよく騎士団から上がっているが、実力が全く伴っておらず、騎士団だけではもし他国に攻めこまれた場合、どれほど保つかというレベルであった。

300人と数は多くはないが、一人一人が鍛え抜かれた猛者の治安部隊であり、なによりクインズベリー国最強とまで言われるマルコスが王宮付近にいる事は、他国への牽制になっていた。


決行日は外を自由に動けるカリウスが、マルゴンの行動パターン、予定を確認し、自分達が最も動きやすい日を出してからという事になった。
それまではアラタもヴァンも、牢の中で大人しくしているしかなかった。

アラタの取り調べは続き、2週間目になった。
この日もやはり、最初の取り調べと同じ部屋に連れて行かれ、前回と同じ事を聞かれるだけだったが、今回はマルゴンとフェンテスの他に、初めて見る顔があった。

童顔で背の低い隊員だった。30歳になるかならないかくらいに見える。マルゴンよりは少し背が高いくらいで、167~168cmくらいだろう。オールバックに整えた黒に近いダークブラウンの髪、細い目をさらに細め、口の両端を上げて満面の笑みを浮かべ俺をに顔を向けている。


ジェイミー・アンカハス。
男の名だ。ヴァンから聞いていた、ヴァンと同じ副隊長。その階級は今も変わっていない。

ヴァンはマルゴン以外で一番気を付けなければならないのは、アンカハスと言っていた。
アンカハスは強く頼りになる男だった。だが、今のアンカハスは敵に対して、味方から見ても残酷で容赦がないらしい。

他国のスパイを捕らえた事があった。結局そのスパイは口を割らず奥歯に仕込んでいた毒で自害をしたが、自害するまでの間、アンカハスは指を一本一本、流れるような動きで次々にへし折っていった。

耳にナイフの刃を当てた時、スパイは絶命していたと言う。

傍で見ていた隊員は、あのスパイは秘密を守るために自害したのではなく、アンカハスのためらいの無さに恐怖して、これ以上の苦痛を味わう前に自害を選んだのではないかと話していた。

いつしか拷問官と呼ばれるようになった男。
そのアンカハスが目の前にいる。

マルゴンがアンカハスを促すと、アンカハスは深々と俺に頭を下げ、治安部隊副隊長のアンカハスです、と自己紹介するなり、俺の顔を殴りつけて来た。突然の事に反応できず、まともに食らってイスから倒れてしまう。

立ち上がろうとすると、アンカハスが俺の肩を踏みつけて抑え込み、そのまま何度も何度も蹴られ続けた。
5分、10分、どのくらい時間が立っただろう。

俺は両腕で体を守る事しかできなかった。ふいに蹴りが止み顔を上げると、マルゴンがアンカハスの前に手を出し、蹴りを止めていた。


「サカキアラタ・・・今日は軽めに、このくらいにしておきましょう。あなたが正直に話してくれる事を私は願っております。では、また明日・・・」

僅かな時間、マルゴンと目が合う。その目には昨日までとは質の違う冷たさがあった。
これからは容赦しない。その目はそう告げていた。

フェンテスは俺を牢へ戻す時、時間はあまり無いぞ、とだけ呟き立ち去った。それは以前、フェンテスが俺に提案したように全て正直に話し、フェンテスにとりなしてもらう事だろうか。

あるいはフェンテスは俺達の計画に気付いていて、逃げるなら早くしないと間に合わなくなると言っているのだろうか。いずれにしろ、時間はあまり残されていなそうだ。

ヴァンはいつも通り、朝食の後に俺にパンを一つ分けてくれる。この状況でこれほど有難いことは無い。

だが、やはり本来必要とする食事の量には圧倒的に足りず、確実に痩せて体力が落ちてきているのが実感としてあった。

ヴァン自身、俺より多いとはいえ一日一回の食事は変わりなく、半年もここにいる事でかなり痩せたと話している。ここでは体も満足に動かせず鈍っていると話していたので、今脱出したとして、どのくらい動けるかは分からないそうだ。

「俺達の勝ちの条件は、マルコスに勝つ事なんだよ。俺とカリウスが最悪負けたとしても、お前がマルコスに勝てばそれで俺達の勝ちなんだよ。だから、お前は体が鈍らないようにできるだけ動かしておけよ?今の状況じゃキツイだろうがな」

ヴァンもカリウスも、俺がマルゴンに勝つことに命をかける覚悟でいてくれる。

食事が少なくて辛いなんて思ってはいけない。痩せたとしても、減量なんてなれたものじゃないか。俺は試合前の減量を思い出し、いつでもベストコンディションで戦えるよう、調整を始めた。
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