42 / 1,253
42 拷問官アンカハス
しおりを挟む
首都には3000人の治安部隊隊員が配備されているが、一か所には固まってはおらず、街中にいくつもの分所があり、50~100人づつ配備され、エリア分けで街の警備にあたっている。
アラタの投獄されている場所は、協会の本部であり、最も王宮に近いこともあり300人が常駐している。
王宮内、王宮周辺には騎士団が数千人規模で警備にあたっているため、このエリアには治安部隊は必要ないという声がよく騎士団から上がっているが、実力が全く伴っておらず、騎士団だけではもし他国に攻めこまれた場合、どれほど保つかというレベルであった。
300人と数は多くはないが、一人一人が鍛え抜かれた猛者の治安部隊であり、なによりクインズベリー国最強とまで言われるマルコスが王宮付近にいる事は、他国への牽制になっていた。
決行日は外を自由に動けるカリウスが、マルゴンの行動パターン、予定を確認し、自分達が最も動きやすい日を出してからという事になった。
それまではアラタもヴァンも、牢の中で大人しくしているしかなかった。
アラタの取り調べは続き、2週間目になった。
この日もやはり、最初の取り調べと同じ部屋に連れて行かれ、前回と同じ事を聞かれるだけだったが、今回はマルゴンとフェンテスの他に、初めて見る顔があった。
童顔で背の低い隊員だった。30歳になるかならないかくらいに見える。マルゴンよりは少し背が高いくらいで、167~168cmくらいだろう。オールバックに整えた黒に近いダークブラウンの髪、細い目をさらに細め、口の両端を上げて満面の笑みを浮かべ俺をに顔を向けている。
ジェイミー・アンカハス。
男の名だ。ヴァンから聞いていた、ヴァンと同じ副隊長。その階級は今も変わっていない。
ヴァンはマルゴン以外で一番気を付けなければならないのは、アンカハスと言っていた。
アンカハスは強く頼りになる男だった。だが、今のアンカハスは敵に対して、味方から見ても残酷で容赦がないらしい。
他国のスパイを捕らえた事があった。結局そのスパイは口を割らず奥歯に仕込んでいた毒で自害をしたが、自害するまでの間、アンカハスは指を一本一本、流れるような動きで次々にへし折っていった。
耳にナイフの刃を当てた時、スパイは絶命していたと言う。
傍で見ていた隊員は、あのスパイは秘密を守るために自害したのではなく、アンカハスのためらいの無さに恐怖して、これ以上の苦痛を味わう前に自害を選んだのではないかと話していた。
いつしか拷問官と呼ばれるようになった男。
そのアンカハスが目の前にいる。
マルゴンがアンカハスを促すと、アンカハスは深々と俺に頭を下げ、治安部隊副隊長のアンカハスです、と自己紹介するなり、俺の顔を殴りつけて来た。突然の事に反応できず、まともに食らってイスから倒れてしまう。
立ち上がろうとすると、アンカハスが俺の肩を踏みつけて抑え込み、そのまま何度も何度も蹴られ続けた。
5分、10分、どのくらい時間が立っただろう。
俺は両腕で体を守る事しかできなかった。ふいに蹴りが止み顔を上げると、マルゴンがアンカハスの前に手を出し、蹴りを止めていた。
「サカキアラタ・・・今日は軽めに、このくらいにしておきましょう。あなたが正直に話してくれる事を私は願っております。では、また明日・・・」
僅かな時間、マルゴンと目が合う。その目には昨日までとは質の違う冷たさがあった。
これからは容赦しない。その目はそう告げていた。
フェンテスは俺を牢へ戻す時、時間はあまり無いぞ、とだけ呟き立ち去った。それは以前、フェンテスが俺に提案したように全て正直に話し、フェンテスにとりなしてもらう事だろうか。
あるいはフェンテスは俺達の計画に気付いていて、逃げるなら早くしないと間に合わなくなると言っているのだろうか。いずれにしろ、時間はあまり残されていなそうだ。
ヴァンはいつも通り、朝食の後に俺にパンを一つ分けてくれる。この状況でこれほど有難いことは無い。
だが、やはり本来必要とする食事の量には圧倒的に足りず、確実に痩せて体力が落ちてきているのが実感としてあった。
ヴァン自身、俺より多いとはいえ一日一回の食事は変わりなく、半年もここにいる事でかなり痩せたと話している。ここでは体も満足に動かせず鈍っていると話していたので、今脱出したとして、どのくらい動けるかは分からないそうだ。
「俺達の勝ちの条件は、マルコスに勝つ事なんだよ。俺とカリウスが最悪負けたとしても、お前がマルコスに勝てばそれで俺達の勝ちなんだよ。だから、お前は体が鈍らないようにできるだけ動かしておけよ?今の状況じゃキツイだろうがな」
ヴァンもカリウスも、俺がマルゴンに勝つことに命をかける覚悟でいてくれる。
食事が少なくて辛いなんて思ってはいけない。痩せたとしても、減量なんてなれたものじゃないか。俺は試合前の減量を思い出し、いつでもベストコンディションで戦えるよう、調整を始めた。
アラタの投獄されている場所は、協会の本部であり、最も王宮に近いこともあり300人が常駐している。
王宮内、王宮周辺には騎士団が数千人規模で警備にあたっているため、このエリアには治安部隊は必要ないという声がよく騎士団から上がっているが、実力が全く伴っておらず、騎士団だけではもし他国に攻めこまれた場合、どれほど保つかというレベルであった。
300人と数は多くはないが、一人一人が鍛え抜かれた猛者の治安部隊であり、なによりクインズベリー国最強とまで言われるマルコスが王宮付近にいる事は、他国への牽制になっていた。
決行日は外を自由に動けるカリウスが、マルゴンの行動パターン、予定を確認し、自分達が最も動きやすい日を出してからという事になった。
それまではアラタもヴァンも、牢の中で大人しくしているしかなかった。
アラタの取り調べは続き、2週間目になった。
この日もやはり、最初の取り調べと同じ部屋に連れて行かれ、前回と同じ事を聞かれるだけだったが、今回はマルゴンとフェンテスの他に、初めて見る顔があった。
童顔で背の低い隊員だった。30歳になるかならないかくらいに見える。マルゴンよりは少し背が高いくらいで、167~168cmくらいだろう。オールバックに整えた黒に近いダークブラウンの髪、細い目をさらに細め、口の両端を上げて満面の笑みを浮かべ俺をに顔を向けている。
ジェイミー・アンカハス。
男の名だ。ヴァンから聞いていた、ヴァンと同じ副隊長。その階級は今も変わっていない。
ヴァンはマルゴン以外で一番気を付けなければならないのは、アンカハスと言っていた。
アンカハスは強く頼りになる男だった。だが、今のアンカハスは敵に対して、味方から見ても残酷で容赦がないらしい。
他国のスパイを捕らえた事があった。結局そのスパイは口を割らず奥歯に仕込んでいた毒で自害をしたが、自害するまでの間、アンカハスは指を一本一本、流れるような動きで次々にへし折っていった。
耳にナイフの刃を当てた時、スパイは絶命していたと言う。
傍で見ていた隊員は、あのスパイは秘密を守るために自害したのではなく、アンカハスのためらいの無さに恐怖して、これ以上の苦痛を味わう前に自害を選んだのではないかと話していた。
いつしか拷問官と呼ばれるようになった男。
そのアンカハスが目の前にいる。
マルゴンがアンカハスを促すと、アンカハスは深々と俺に頭を下げ、治安部隊副隊長のアンカハスです、と自己紹介するなり、俺の顔を殴りつけて来た。突然の事に反応できず、まともに食らってイスから倒れてしまう。
立ち上がろうとすると、アンカハスが俺の肩を踏みつけて抑え込み、そのまま何度も何度も蹴られ続けた。
5分、10分、どのくらい時間が立っただろう。
俺は両腕で体を守る事しかできなかった。ふいに蹴りが止み顔を上げると、マルゴンがアンカハスの前に手を出し、蹴りを止めていた。
「サカキアラタ・・・今日は軽めに、このくらいにしておきましょう。あなたが正直に話してくれる事を私は願っております。では、また明日・・・」
僅かな時間、マルゴンと目が合う。その目には昨日までとは質の違う冷たさがあった。
これからは容赦しない。その目はそう告げていた。
フェンテスは俺を牢へ戻す時、時間はあまり無いぞ、とだけ呟き立ち去った。それは以前、フェンテスが俺に提案したように全て正直に話し、フェンテスにとりなしてもらう事だろうか。
あるいはフェンテスは俺達の計画に気付いていて、逃げるなら早くしないと間に合わなくなると言っているのだろうか。いずれにしろ、時間はあまり残されていなそうだ。
ヴァンはいつも通り、朝食の後に俺にパンを一つ分けてくれる。この状況でこれほど有難いことは無い。
だが、やはり本来必要とする食事の量には圧倒的に足りず、確実に痩せて体力が落ちてきているのが実感としてあった。
ヴァン自身、俺より多いとはいえ一日一回の食事は変わりなく、半年もここにいる事でかなり痩せたと話している。ここでは体も満足に動かせず鈍っていると話していたので、今脱出したとして、どのくらい動けるかは分からないそうだ。
「俺達の勝ちの条件は、マルコスに勝つ事なんだよ。俺とカリウスが最悪負けたとしても、お前がマルコスに勝てばそれで俺達の勝ちなんだよ。だから、お前は体が鈍らないようにできるだけ動かしておけよ?今の状況じゃキツイだろうがな」
ヴァンもカリウスも、俺がマルゴンに勝つことに命をかける覚悟でいてくれる。
食事が少なくて辛いなんて思ってはいけない。痩せたとしても、減量なんてなれたものじゃないか。俺は試合前の減量を思い出し、いつでもベストコンディションで戦えるよう、調整を始めた。
1
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる