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40 本心

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二人だけになると、ヴァンから話しかけてきた。

「よぉ、これでまず第一関門突破だな。お前、俺がいなかったらどうやってカリウスに会うつもりだったんだよ?」

「あぁ、本当に助かったよ。俺一人だったら、偶然に任せて機会を待つしかなかったかもな。あぁ、今なら、エルウィンに頼む手はあったか」

「エルウィンか、まぁ、確かに来てくれたかもな。カリウスは今でこそ孤立してるが、嫌われてる訳じゃねぇんだ。話しかけづらいんだよ。一人にしてくれってオーラが出ててよ。だが、元々は情に厚い男だ。エルウィンが頼めば来てくれたかもな」

「そっか、でも、ヴァンが協力してくれて本当に助かるよ。ありがとう」

お礼を言うと、いつもの含み笑いが聞こえてくる。

「クックック、本当に面白いヤツだよお前は。まぁ、後は俺とお前がカリウスを引き込めるかだな。ここからはお前の言葉も必要だ。俺の知ってるカリウスは、ちょっと気難しいとこがあるけど、情に厚い男だった。お前の言葉が届くとしたら、この情の部分に響くかどうかって事だ。下手に取り繕わず本音で語れよ」

道筋が見えて来た。ここからは一か八かだが、マルゴンに反発して孤立しているのならば、味方に引き込める可能性はあるだろう。
ここから出て、マルゴンと戦うためにはどうしてもカリウスの協力が必要だ。ヴァンも一緒に説得してくれると言うが、俺自身もカリウスに信用されなければならない。

「分かった。俺自身が信用してもらえなきゃ、しかたないからな。頑張ってみるよ」

「クックック、真面目だなお前は・・・まぁ、オレはそこが気に入っている」

どうも俺のこういう返事がヴァンには笑いのツボらしい。少しだけからかうような言い草がヴァンらしい。

「なぁ、ちょっと気になったんだが、ヴァンは治安部隊の副隊長だったんだな?上の方とは聞いてたけど、まさか副隊長とは思わなかったよ」

俺は藁の上に寝そべり、頭の後ろで手を組み枕替わりにした。ガサガサと隣からも壁越しに聞こえてくる。
ヴァンも同じように藁の上に寝そべっているようだ。
すぐには返事は来なかった。何もない石造りの天井をぼんやり見ていると、ふいに壁越しに声が聞こえて来た。

「・・・あの頃は、楽しかった。カリウスが隊長で、副隊長に俺とアンカハス、隊長補佐にアローヨ、副隊長補佐にフェンテスとヤファイ・・・カリウスを中心に、俺達6人はよくまとまっていたと思う」

ヴァンは当時に思いをはせるように、自分自身の気持ちを整理するかのように、言葉を紡いだ。

「カリウスが負けて、マルコスが隊長になると、治安部隊は一気に変わった。それまでは俺達に笑顔で接してくれていた街の人たちも、表面だけの笑顔になった。怖がられているのがよく分かる。当たり前だ、犯罪率を9割も下げたんだ。どれだけ強引なやり方をしたか・・・しかも、幽閉されるとまず帰る事は不可能だ。
マルコスが幽閉するほど疑った人は、結局罪を告白しても、そのまま処刑されてしまうんだ。拷問されてから死ぬか、拷問される前に死ぬかの違いだ。あまりに目にあまったんで、話し合いをしたが・・・まぁこの通りってわけだ・・・」

俺は言葉を挟まず、だまって続きを口にしてくれるのを待った。ヴァンにとって大切な話をしてくれているのが分かったから。

「副隊長なんて言っても、無力なもんなんだよ。俺は何も変えられなかった。だから、もう辞めたんだ。なんだか疲れたんだよ・・・」



「ヴァン・・・それは違う。違うと思う」

そう、それは違う。ヴァンの本心もきっと違う。ガサリと音が聞こえ、ヴァンが体を起こした事が分かる。

「何だって?何が違うんだよ?」

やや怒気の籠った低い声だった。

「ヴァン、お前は自分から辞めたんだろ?副隊長のお前についてきた人は多かったはずだ。フェンテスだって、まだお前を副長と呼んでいたじゃないか?お前がその気になれば、お前が隊を一つにまとめれば、マルゴンの暴走を抑えることができたかもしれないじゃないか?変えられなかったんじゃない。お前は自分から戦いを放棄して逃げたんだ」

「知った風な事言ってんじゃねえぞ!お前に何が分かる!?」

拳を壁に叩きつける鈍く響く音が聞こえる。

「俺だから分かるんだ!俺だって逃げ続けて来たから・・・仲間からも、親からも、自分自身からも逃げてきたんだ・・・みっともねぇと思うよ、でもここでは、レイジェスでは変わらなきゃって頑張ったんだ!ヴァン、一人じゃ駄目なんだよ・・・お前はきっと副隊長って責任に縛られて、自分一人で解決しようとしたんじゃないのか?だから誰にも頼らなかった。違うか?」

「それは・・・」

ヴァンは言葉を返せなかった。身に受ける言葉の一つ一つが深く心に刺さり、またアラタが心から偽らざる言葉を話していることが伝わったからだ。

「ヴァン、俺は店に帰りたい。約束したんだ、絶対に帰るって・・・お前はどうなんだ?まだ治安部隊に気持ちが残ってるんじゃないのか?だから、いつでも出れるのに、ずっとここにいたんだろ?ヴァン、一緒に戦おう・・・お前が心から前を向いてないと、勝てないと思う。力を貸してくれ」

ヴァンは答えなかった。物音一つせず、この場にはあるのは静けさだけだった。
言い過ぎたかと思った、俺はヴァンの心の中に土足で踏み込み過ぎたのかもしれない。

ヴァンと話していて、いつもなにか隠しているような、どこか本心を偽っているような、そんな微妙な感じは受けていた。

ヴァンは本心では、今でも治安部隊を変えたいと思っているはずだ。だから、俺に協力してくれる気にもなったのだろう。でも、それだけでは駄目だと思う。ヴァンには自分自身と向き合ってほしい。

ヴァン、お前も変わるんだ・・・



どのくらいの時間が立っただろう。時計も無い、窓も無いから外をみれない。時間を知るすべはないので、感覚的には10分程度のような気もするが、もう少し立っているのかもしれない。
ふいに隣の壁越しに、ヴァンが声をかけて来た。

「お前の言う通りだよ・・・だからよ、もし、まだ俺に居場所があるなら・・・お前が本当にマルゴンに勝てたら・・・俺がこの治安部隊を変えてみせる」

「・・・ヴァン・・・あぁ、一緒に戦おう!ヴァンなら、きっとこの治安部隊を変えれるさ!俺にできる事なら、なんでも協力するからよ!」

言い過ぎたかと思い、謝ろうと思った矢先のヴァンからの言葉に、嬉しくなって返事に力がこもってしまう。するとやはり含み笑いが聞こえて来た。だが、いつもと違い少し明るさがこもっていた。

「クックック、やっぱりお前は面白いな。あんま気を使うなよ、俺はよ、なんか・・・すっきりしたからよ。まぁ、いつになるか分からねぇが、後はカリウスを待とうぜ」

「あぁ、分かった・・・ありがとうな」

「クックック、言ったそばから礼を言ってんじゃねぇよ・・・俺は寝るぜ」

それきりヴァンは静かになってしまった。俺も横になり目を閉じる。

店の皆の顔が目に浮かぶが、最後は決まってカチュアの事を考えてしまう。
元気にしているだろうか。胸元のネックレスを握り締め、いつしか眠りに落ちた。

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