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38 ヴァンの協力

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エルウィンがいなくなると、鉄格子から腕が伸びてくる。その手にはパンがあった。

「ほら、食えよ」

「あぁ、いつも悪いな」

ヴァンからパンを受け取り、さっそく口に運ぶ。俺に配られたパンより、柔らかく甘みがあった。

「いいんだよ。俺だけ量が多いんだ。気にすんな。それっぽっちじゃ、死んじまうぜ」

エルウィンは信用できそうだが、念のため誰かがいる時には、ヴァンとは話さないようにしていた。
もし、ヴァンから食べ物をもらっている事が知られたら、独房を離されてしまうかもしれない。

粗末な食事で俺を弱らせ、口を割らせる思惑もあるのかもしれないと思っていた。
ヴァンが隣だった事は幸運だった。

「なぁ、お前いつまでここにいる気だ?分かってると思うが、マルコスは絶対にお前を帰さないぞ」

「分かってる。いつまでもいるつもりは無い。でも、結局マルゴンが諦めない限り、何の解決にもならない。目を付けられている限り、俺もレイジェスの皆も安心して生活できない。だから、ここで決着をつけるために、自分の意志で来たんだ」

「・・・へぇ、そのハッキリした言い方だと、何か考えあるんだろ?」

「ある。でも、聞きたいんなら、ヴァンにも共犯になってもらう。どうする?」

あの時、ジーンが耳打ちしてくれた策は、俺一人でもできない事はないかもしれないが、難しいと思った。
だが、ヴァンが協力してくれれば、おそらく可能だろう。元治安部隊で、しかも上の方にいたという。
いまでも支持している隊員が多いとなれば、ヴァンの協力は絶対に欲しいところだ。

俺の返事に、いつものクックックッと、含みのある笑い声が聞こえる。

「アラタ、正直に言えよ?お前のやろうとしている事は、俺がいないと難しいんじゃないのか?」

全てお見通しと言わんばかりに、ヴァンは愉快そうに笑いながら聞いてきた。

壁越しにだが、1週間毎日話して分かった事がある。癖のありそうな男だが、人を欺く事はしない男という事だ。俺が連れて来られた日、何をしたんだ?と聞かれ正直に話した。

その日は、それは災難だったな、で終わってしまったのだが、翌日の朝食で、給仕のエルウィンがいなくなると、鉄格子からすっとパンを渡してきた。
みんなが待ってるんだろ?それっぽっちじゃ死ぬぞ、と言って。

駆け引きみたいなやり方はヴァンに失礼だな。

「悪い、本当はヴァンの力が必要なんだ。助けてくれないか?」

見えないだろうが、壁越しに頭を下げて頼むと、また含み笑いが聞こえてきた。

「お前って面白いな。あっさり認めやがって。なんかよ、お前がそこで俺に頭下げてる姿が目に浮かぶよ。いいぜ。話してみろよ」


ジーンから聞かされた策をそのままヴァンに伝えると、少しの間を置いて、またいつもの含み笑いが聞こえてきた。

「クックックッ・・・なるほど、不可能ではないが、お前一人ではかなりハードルは高かったな。俺がいて良かったな?俺なら話は通し易いだろう。だが、お前はマルコスを諦めさせなきゃならないんだろ?結局最後は自分の力でなんとかしないとな?エルウィンの話からも、お前が結構な強さなのは分かったが、フェンテスと互角程度じゃマルコスには勝てないぞ。マルコスはどうする?」

「俺の目的は普通の生活だ。マルゴンに俺を狙う事を止めさせて、普通にレイジェスで働いて普通に暮らす。そのためにはマルゴンと正面からやって勝つしかないと思うし、勝ってみせる」

「クックックッ、マルコス相手に正面から勝ってみせるか・・・よく言い切ったな。まぁ、確かにそれしかないだろう。結局のところ治安部隊は力が全てだ。お前がマルコスに勝ってみせれば、全ての隊員がお前の言葉に耳を貸すだろう。そうすれば、もう誰も手だしはできない」

「あぁ、マルゴンと戦う覚悟はできている。アイツの強さも分かってるつもりだ。腕を掴まれた事があるが、とんでもない力だった。純粋なパワーならマルゴンが上だ。だから、スピードと技で上回って勝つ」

俺の発言にヴァンは大笑いした。笑い声が部屋中に響いたが俺達二人しかいないので、周りを気にする事はない。

「はぁ~・・・本当に面白いな。治安部隊20,000人の頂点、この国最強の男マルコス・ゴンサレスに、スピードと技で勝つか・・・しかも素手で。お前みたいなヤツは初めてみたぞ。まぁ、そのくらい自信がないとそもそも戦いのステージにも立てないか」

ヴァンはひとしきり笑った後、自分を納得させるような口ぶりで会話を続けた。

「よし、いいだろう。俺もその話に乗るぜ。お前がマルコスと1対1で戦えるよう、できるだけの事はしてやるよ」
「本当か!?恩に着るよ!ありがとうヴァン」

「いいんだ。どのみち俺ももうここは飽きた。お前が来なかったら、ぼちぼち田舎に帰るつもりだった。二度と首都には来ないとでも言えば、扱いに困る俺が自主的にいなくなってマルコスも喜んで保釈したろうな。でもよ、お前は本当に面白い。うまくいけばマルコスに一泡吹かせられるしな。やってやるよ」

鉄格子から左手が伸びてきた。俺はその手をしっかり握った。

「よろしく頼むぜアラタ」

「あぁ、こっちこそ頼むよヴァン」

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