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33 事情聴取

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倒れていたミゼルさんは、ジャレットさんが背負い、店内まで運んで来ていた。
ジーンを運んで戻った時には、レイチェルがすでに勝負を決めていたところだったので、そのままミゼルさんの元に向かったそうだ。

ジャレットさんが着いた時には、もはや立っているのがやっとのミゼルさんに、ジャームールがとどめの一撃を食らわす寸前だったらしい。

状況を瞬時に把握したジャレットさんは飛び出し、ミゼルさんを庇い背中に一撃を受ける事になった。
だが、なぜかそれ以上の追撃が無く、振り返るとジャームールは凄まじい勢いで、俺とレイチェルの場所に飛んで行ったという事だった。


ジャレットさんは、今は壊れたショーケースを片づけたり、倒れた什器を戻したりと、店内の跡片付けをしている。

ジーンは魔力切れだけだったため、カチュアのヒールと少しの休息で、動けるくらいには回復したが、ミゼルさんは魔力切れと、爆発魔法で肋骨が数本折れる程のダメージもあり、まだ意識が戻っていない。

だが、カチュアとユーリの二人がかりでヒールをかけているので、もう少しすれば意識も戻るだろうという事だった。

シルヴィアさんは、店内への襲撃に備えていたが、ジャームール達が去った後は、店内に避難していたお客を外まで送り、その後は近隣住民への被害状況の確認などで外へ出ていた。
時刻は18時を回り、だんだんと暗くなってきていた。

リカルドは自分の武器コーナーを真っ先に確認し、矢尻が散らばっていたり、立て掛けていた弓が倒れているのを目にすると、烈火の如く怒りだし、ジャームール達を絶対に許さないと宣言していた。
気になっていたので、幻視のマント、という物について聞いてみた。

なんでも、周りの景色と同化できるマントという事だった。
リカルドの父親も弓使いのようで、去年、15歳の誕生日に譲ってもらったそうだ。
特殊な生地を使っているので生産数が少なく、かなりの価値があるらしい。

完全に景色と一致するわけではないようで、近くで見るとマントとの境目も分かりやすく、
結構すぐバレるんだよな、と頭をかいていた。
だが、今回のようにある程度の距離を開けて、射撃をする場合には実に有効のようで、リカルドは、ハンターのための防具と話していた。

ユーリの助けた女の子だが、一人で来ていたようで、両親は近隣周りをしていたシルヴィアさんから、店にいる事を聞いて迎えに来た。
やはり、あれだけの騒ぎだったので非常に心配していて、無事な姿を確認すると、三人で抱き合って涙を流していた。

女の子の名前はエルと言い、
ユーリに、お姉ちゃんまた来るね、と言って、手を振って帰って行った。
同じように手を振って見送るユーリの表情はとても優しく、思わず、ユーリもそんな顔できるんだ?と言うとスネを蹴られた。

そして今、俺とレイチェルは、店の事務所でマルコス・ゴンサレス、通称マルゴンと数人の治安部隊を前に、事情聴取を受けていた。





「サカキアラタ、なるほど・・・経緯は分かりました」

口元には柔和な笑みを浮かべているが、その笑みとは裏腹に目は全く笑ってなく、射るような視線が、俺に対する強い懐疑心を向けている事が伝わってくる。

ジャームール達が去り、お客を全員帰した後、マルゴンと数名の治安部隊がやってきて、
俺とレイチェルは事情徴収を受ける事になった。

レイチェルは副店長だから分かるが、なぜ俺もなのか尋ねると、マルゴンは俺の肩をガッシリと掴み、ニカ月前の事件の時もあなたいましたよね?と言い、そのまま俺の腕を掴みなおすと、有無を言わさず事務所まで引っ張って行ったのだ。
掴まれた腕を見ると、手の跡が赤くくっきりと残っていた。とんでもない握力だった。

受け答えも、レイチェルが話すと形だけ頷いているようにしか見えず、内容のほとんどを俺に振ってきた。
まるで蛇に纏わりつかれたような、嫌な感覚が体中を駆け巡る。


「えぇと、俺が話せるのはこれくらいですので、もういいですか?」

時間も遅くなってきたし、これ以上話す事もない。何より早くここから離れたくて、話しを切り上げようとすると、マルゴンは人差し指を立て、俺の目を見据えた。

「あと一つ、先ほど、出入り口で最初に騒ぎを起こした男・・・あなたが左の拳一発で制したという男です。彼が正気に戻りました。まぁ、これまで同じような事件が何件もありましたし、お伺いしたディーロ兄弟の仕業で間違いないでしょう。ただ、操られていたと言っても、色々聞かなくてはならないので、すぐに帰すわけにはいきません。そうですよね?」

「え?あ、あぁ、そうですかね」

何が言いたいのか分からず、曖昧に返事をする。

「そこで、あなたにも協会へ来てほしいのです。ニカ月前の事件と、今回の事件、あなたは二度に渡り、現場にいて、騒ぎの主を制しています。ぜひ、協会でもっと詳しい話をお伺いしたいのです。よろしいですね?」

「え!?」

「ちょっと、マルコスさん、そんな必要ないでしょう?最初の事件では、マルコスさんだって相手に非があると認めたんですよね?今回の件だって、ディーロ兄弟が仕掛けてきたと証言してくれる人は大勢います。知ってる事は今全て話しました。協会まで行く必要はないでしょう?」

レイチェルが席を立ち、抗議の声を上げるが、マルゴンは眉一つ動かさず、テーブルに乗せた手を組んだまま、静かに口を開いた。

「レイチェル・エリオット、あなた方は今日、この店で起きた戦闘で精いっぱいだったでしょうから、街での騒動はご存じないでしょう。私たち治安部隊も、光源爆裂弾による爆発はもちろん確認しました。ここに主犯がいるとも気が付きました。ですが、とてもすぐには駆け付けれませんでした。なぜだと思います?」

マルゴンの口調には静かな怒りが込められていた。それを感じ取った俺とレイチェルは、うかつに言葉を返せず、マルゴンの次の言葉を待った。

「35名です。今回の騒動で、かろうじて死者は出ませんでしたが、重傷者が35名も出たのです。幸い、命に関わる程の怪我人は出ませんでしたが、一つ違えば危なかったでしょう。原因は、今回なぜか突然暴徒が、あぁ我々は操られて騒ぎを起こす者を、便宜上ですが暴徒と呼んでおります。その暴徒が一度に10人以上も出て、鎮圧に時間を要していたのです」

「そんな事が・・・」

レイチェルは言葉を継げず絶句した。

「分かっていただけますか?サカキアラタは二度現場に遭遇した。そして、私は彼を二ヶ月前に初めて見ました。それ以前の事は何も知りません。先ほどお伺いした話では、彼は記憶を失っているそうですね?そういう事もあるでしょう。えぇ、もちろんありえない話ではありません。平時ならそれで結構。ですが、これだけの騒ぎになりました。素性の分からない者は、なにかしら関係あると、そう思われて当然でしょう?」

マルゴンはそこで言葉を区切ると、あらためて俺に向き直り口を開いた。

「サカキアラタ、あなたは関係ないと、それを証明するためにも協会へ来ていただけませんか?」

低く重い声だった。絶対に連れて行く。拒否は許さない。その意思がハッキリと込められていた。
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