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30 二人組
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あの時と同じ症状だった。
街中でも何度か騒動があった事は聞いていたが、こうして再びこの症状の相手を見る事になると、
やはり動揺はあった。
男の腕を掴んでいた力が一瞬弱くなり、外されてしまう。
力任せに振るわれた拳を躱し、そのまま店の外まで出て数メートル程男から距離をとると、
男は標的を俺に移し、大きく叫び声を上げながら俺に掴みかかってきた。
早い!?
前回の相手は足を引きずり、体のバランスが取れていないような、ぎこちない動きだった。
だがこの男は違う!猛烈な勢いで突進して来る!
両手を上げてなりふり構わず組み付きにきたので、
俺は頭を低くし相手の左側に1歩分、身を躱しその流れまま、がら空きの脇腹に左のボディブローを叩きこんだ。
まともに入ったボディブローに、男が呻き声を上げて崩れ落ちる。
苦しそうに唾を吐き散らし、必死に呼吸をしようと悶えている。
ボディでのダウンだ。しばらくは呼吸困難で動けないだろう。
予想外の男の勢いに圧倒され、あまり手加減でき無かった。
ジワリと出た額の汗を拭い、一つ息を吐く。
前回の男と今回の男、この動きの違いは何だ?疑問が頭に浮かぶが、今はこの場に集中した方がいい。
俺はすぐに周囲に目を走らせ術者を探した。
前回と同じなら、ミゼルさんの推測では、精神を操る者と、攻撃魔法を使う者の二人組という事だ。
騒ぎが大きくなり、店内のお客さんも一斉に外に出てきた。
関わりたくないと急ぎ足で去っていく人や、少し距離を開けて様子を見ている人など様々だ。
「新人!上だ!」
後ろからの声に振り向くと、ミゼルさんが出入口から遠くを指差していた。視線が高い。
その視線を追うと、数軒先の屋根の上に二人組がいて、こちらを向いて立っていた。
フードを被っていて、顔までは分からないが、どちらも赤いマントのような物を身に着けているように見える。並んでいると分かるが、身長差があり頭一つ分程の差があるようだ。
「新人、よくやった。この倒れているヤツは縛っておけ。うちの店に喧嘩売ってくるとはな、
やってやろうじゃねぇか!」
ミゼルの右手から赤い炎が立ち上がり、それは大きく燃え上がった。
「食らいやがれ!火炎槍!」
その手から放たれた炎は、捻じれながら、まるで槍のように先が鋭くなり、屋根の上の二人組に向かって高速で突き進んだ。
ぶつかる直前、二人組は左右に分かれて飛び、火炎槍を回避した。
背の高い方はミゼルに向き直ると、右手を前に出し、左手で右手首を固定するように掴むと、全身が光輝きだした。
そしてその右手はまるで熱を持ったように蒸気を発し始めた。
「なに!?あれは、まさか!」
蒸気を放つ右手には全身の光が集約され、手の何倍もの大きさを持つ、巨大で高密度の光の塊となった。
「光源爆裂弾(こうげんばくれつだん)だと!?この店ごと吹き飛ばす気か!!」
ミゼルが叫ぶと同時に、まるで大砲のような轟音と共に、光の塊が撃ち放たれた。
「させねぇ!俺の全魔力をぶつけてでも相殺してやる!」
ミゼルは両手を前に出す。その両手が強い光を放ち始めた。
「ミゼル、下がって!」
駆けつけたジーンがミゼルを制し前に出た。
「間に合え!!」
ジーンが手をかざすと、目の前に青い輝きを放つ半透明の障壁が現れ、それは店全体を囲うように広がった。これは結界か?と思ったその直後、立っていられない程の凄まじい衝撃が結界を揺らし、爆風が土煙を舞い上げ結界内から外の様子が見れなくなった。
ジーンはまだ手をかざしていた。魔力を流し続け、結界を維持しているのだろう。
だが、今の衝撃で片膝をつき、息もかなり上がっていて、相当消耗しているように見える。
「ジーン!大丈夫か!?」
立ち上がりジーンに駆け寄ろうとすると、後ろから肩を掴まれ引き留められる。
鋭い視線で結界の外を見据えたレイチェルが、静かに口を開いた。
「アラタ、二発目が来たら、おそらく持たない。正面は私が警戒するから、
キミはお客さんを店内に避難させて。ジーンを一発であそこまで疲弊させるなんて、相当な使い手だよ。」
レイチェルは腰に下げた黒い革製の鞘からナイフを抜くと、周囲に目を走らせ、ゆっくりと前に出た。
刃渡りは15-20cm程はあり、諸刃であるところを見ると、ダガーナイフというヤツだろう。
戦闘態勢に入ったレイチェルは、隙が全く無く静かな殺気を放っていた。
「アラやん、ジーは俺にまかせろ。レイチーの言うように、もうこの結界は保たない。タイミングを見て、俺がジーを担いで店に避難させる。カッちゃんとシーちゃんには店の中で待機してもらってっから、負傷者がいたら、カッちゃんにヒールしてもらってくれ。もし、店ん中に敵が入っても、シーちゃんがいれば大丈夫だから安心しろ」
いつの間にか、ジャレットさんが隣に立っていた。
レイチェルと同じく、視線は結界の外に目を向けており、油断なく周囲を警戒している。
今、俺のやるべき事は、レイチェルの指示に従いお客を避難させる事だ。
気持ちを切り替え、周囲に目を向けた。
街中でも何度か騒動があった事は聞いていたが、こうして再びこの症状の相手を見る事になると、
やはり動揺はあった。
男の腕を掴んでいた力が一瞬弱くなり、外されてしまう。
力任せに振るわれた拳を躱し、そのまま店の外まで出て数メートル程男から距離をとると、
男は標的を俺に移し、大きく叫び声を上げながら俺に掴みかかってきた。
早い!?
前回の相手は足を引きずり、体のバランスが取れていないような、ぎこちない動きだった。
だがこの男は違う!猛烈な勢いで突進して来る!
両手を上げてなりふり構わず組み付きにきたので、
俺は頭を低くし相手の左側に1歩分、身を躱しその流れまま、がら空きの脇腹に左のボディブローを叩きこんだ。
まともに入ったボディブローに、男が呻き声を上げて崩れ落ちる。
苦しそうに唾を吐き散らし、必死に呼吸をしようと悶えている。
ボディでのダウンだ。しばらくは呼吸困難で動けないだろう。
予想外の男の勢いに圧倒され、あまり手加減でき無かった。
ジワリと出た額の汗を拭い、一つ息を吐く。
前回の男と今回の男、この動きの違いは何だ?疑問が頭に浮かぶが、今はこの場に集中した方がいい。
俺はすぐに周囲に目を走らせ術者を探した。
前回と同じなら、ミゼルさんの推測では、精神を操る者と、攻撃魔法を使う者の二人組という事だ。
騒ぎが大きくなり、店内のお客さんも一斉に外に出てきた。
関わりたくないと急ぎ足で去っていく人や、少し距離を開けて様子を見ている人など様々だ。
「新人!上だ!」
後ろからの声に振り向くと、ミゼルさんが出入口から遠くを指差していた。視線が高い。
その視線を追うと、数軒先の屋根の上に二人組がいて、こちらを向いて立っていた。
フードを被っていて、顔までは分からないが、どちらも赤いマントのような物を身に着けているように見える。並んでいると分かるが、身長差があり頭一つ分程の差があるようだ。
「新人、よくやった。この倒れているヤツは縛っておけ。うちの店に喧嘩売ってくるとはな、
やってやろうじゃねぇか!」
ミゼルの右手から赤い炎が立ち上がり、それは大きく燃え上がった。
「食らいやがれ!火炎槍!」
その手から放たれた炎は、捻じれながら、まるで槍のように先が鋭くなり、屋根の上の二人組に向かって高速で突き進んだ。
ぶつかる直前、二人組は左右に分かれて飛び、火炎槍を回避した。
背の高い方はミゼルに向き直ると、右手を前に出し、左手で右手首を固定するように掴むと、全身が光輝きだした。
そしてその右手はまるで熱を持ったように蒸気を発し始めた。
「なに!?あれは、まさか!」
蒸気を放つ右手には全身の光が集約され、手の何倍もの大きさを持つ、巨大で高密度の光の塊となった。
「光源爆裂弾(こうげんばくれつだん)だと!?この店ごと吹き飛ばす気か!!」
ミゼルが叫ぶと同時に、まるで大砲のような轟音と共に、光の塊が撃ち放たれた。
「させねぇ!俺の全魔力をぶつけてでも相殺してやる!」
ミゼルは両手を前に出す。その両手が強い光を放ち始めた。
「ミゼル、下がって!」
駆けつけたジーンがミゼルを制し前に出た。
「間に合え!!」
ジーンが手をかざすと、目の前に青い輝きを放つ半透明の障壁が現れ、それは店全体を囲うように広がった。これは結界か?と思ったその直後、立っていられない程の凄まじい衝撃が結界を揺らし、爆風が土煙を舞い上げ結界内から外の様子が見れなくなった。
ジーンはまだ手をかざしていた。魔力を流し続け、結界を維持しているのだろう。
だが、今の衝撃で片膝をつき、息もかなり上がっていて、相当消耗しているように見える。
「ジーン!大丈夫か!?」
立ち上がりジーンに駆け寄ろうとすると、後ろから肩を掴まれ引き留められる。
鋭い視線で結界の外を見据えたレイチェルが、静かに口を開いた。
「アラタ、二発目が来たら、おそらく持たない。正面は私が警戒するから、
キミはお客さんを店内に避難させて。ジーンを一発であそこまで疲弊させるなんて、相当な使い手だよ。」
レイチェルは腰に下げた黒い革製の鞘からナイフを抜くと、周囲に目を走らせ、ゆっくりと前に出た。
刃渡りは15-20cm程はあり、諸刃であるところを見ると、ダガーナイフというヤツだろう。
戦闘態勢に入ったレイチェルは、隙が全く無く静かな殺気を放っていた。
「アラやん、ジーは俺にまかせろ。レイチーの言うように、もうこの結界は保たない。タイミングを見て、俺がジーを担いで店に避難させる。カッちゃんとシーちゃんには店の中で待機してもらってっから、負傷者がいたら、カッちゃんにヒールしてもらってくれ。もし、店ん中に敵が入っても、シーちゃんがいれば大丈夫だから安心しろ」
いつの間にか、ジャレットさんが隣に立っていた。
レイチェルと同じく、視線は結界の外に目を向けており、油断なく周囲を警戒している。
今、俺のやるべき事は、レイチェルの指示に従いお客を避難させる事だ。
気持ちを切り替え、周囲に目を向けた。
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