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【26 勇気】

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ウィッカーが背中に暖かさを感じると、突如魔力が流れ込んできて疲労が軽減した。

驚き振り向くと、さっきまで泣き崩れていた女性魔法使いが、ウィッカーの背に手を当て、
自身の魔力を送り込んでいた。

「メアリー・・・メアリー・テシェイラです。
ウィッカー様、私の微弱な魔力ですが・・・もらってください」

ジャニスと同じ17歳くらいだろうか。
肩口で揃えた金色の髪、透き通るような青い瞳には、先程までの怯えを克服した、強い意思の力が宿っていた。

「き、気持ちは、嬉しいが、無理は、するな、いつまで持つか・・・分からない、自分の、ために・・・」

「いいんです・・私、自分が情けないです。どうせ自分は数集めの捨て石だって、最初から諦めてました。
結界があるのに、バッタを見ただけで悲鳴も上げてしまって・・・ウィッカー様が、相当無理をされて竜で焼き払って下さった事・・・分かってます。
そして、優しい言葉も・・・私はウィッカー様と戦いたいです!」

メアリーの決意にウィッカーが言葉を返せずにいると、
「ウィッカー、あんた、もらって、あげなさいよ・・女の子が、そこまで、言ってんのよ!」
隣で会話を聞いていたジャニスが、口を挟んだ。

灼炎竜結界陣が発動して3分、首都全体の綻び、破損を感知し瞬時に修復を行う。
繊細な魔力操作を要求されるジャニスの疲労は、体力、精神力共にすでに限界に達していた。

だが、ジャニスは口元にほんの少しの笑みを携え、いつものからかうような目を二人に向ける。

例え限界ギリギリだとしても、今はそれを顔に出してはいけない。自分は国民全ての命を背負っているのだから。決して弱音は吐かない。
精神の強さは魔力に影響する。その点でいえば、ジャニスは師ブレンダンを超えていた。

「・・・分かった・・キミ、ありがたく・・魔力、を・・もらう、よ」
ウィッカーの言葉に、メアリーはニコリと微笑んだ。

「もちろんです。私の魔力、全てもらってください。あと、メアリーです」
「あぁ、ありが・・・ん?」

ウィッカーが少し眉を寄せ、意味を理解できないでいると、
「キミじゃなくて、メアリーです。ウィッカー様には名前で呼んで欲しいんです」
と、メアリーが再びウィッカーに微笑みかけた。

「お、おぅ・・・メアリー、ありがとう・・・」
「ウィッカー・・・その子、浮気したら怖いわよ・・・」
ジャニスの言葉に驚き目を剥くと、メアリーはやはり微笑んでいた。



「俺は青魔法なので、ブレンダン様に魔力を送れます!」
「ジャニス様、私も白魔法です。魔力を送らせてください!」
待機していた王宮魔法兵が、次々と駆け寄ってきた。

魔力は同じ系統でなければ送る事ができない。
補助の青魔法使いはブレンダンへ、攻撃の黒魔法はウィッカーへ、回復の白魔法はジャニスへ、
魔法兵たちは同じ系統へ別れ、三人へ魔力を流していく。

ブレンダンが今回集められた王宮魔法兵達に命じた事は、生き延びる事だった。

大半が平均値に満たない弱い魔力である事を、一目で見抜いたブレンダンは、彼らが戦力として集められたわけではない事を感じ取った。

実践経験がある者もほとんどなく、この場でどうしていいか分からない不安に、皆一様にうつむき、表情を沈めていた。

「もし、ワシらの結界が破られたら、青魔法使いは結界を張って皆を護るんじゃ。その結界が切れた時、まだバッタが残っていたら、黒魔法使いが戦うしかない。難しいかもしれんが、勇気をだしてな。
白魔法使いは、バッタに噛まれた者がでたらキュアじゃ。
もしもの時は、皆で協力して生き延びてくれ。お主たち成すべきことはそれだけじゃ」

ブレンダン達三人の戦いは、何もできず、怯え、ただ俯いていた彼らの心を大きく、強く動かした。

5分持たず崩れる寸前だった三人だが、体中に溢れる程の魔力が流れ込み、押しつぶされそうな重圧も、息苦しさも消え、力がみなぎってきた。

「すごい・・・これなら、まだまだ頑張れる!」
「お主達・・・ありがとう。よく立ち上がってくれた」
「これだけ魔力もらったんだ、バッタなんかに負けてられねぇな」

三人は空を見上げた。

禍々しさすら発する黒渦は勢い衰える事無く、無数のバッタを死骸に変え呑み込み、すでにバッタはその数を、半分以下にまで減らしていた。

このペースならば間に合う。
ジャニスもウィッカーも、勝利をほぼ確信し、その表情には安堵の色も浮かんでいた。
ブレンダンもそれは同じだ。数分の内にタジームの黒渦がバッタを吸い尽くすだろう。

だが、ブレンダンには・・・師であり、親代わりといってもいいブレンダンだけは、
タジームの魔法の闇の深さを感じ取り、この戦いの勝利よりも大きな不安となって心に影を落としていた。

数百億の死骸と、その血を吸い込む黒渦は赤黒く染まり、まるで大きな闇が口を開け貪り食らっているかのようだった。
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